第27話 反乱

 今の遺伝子による職業の選択が間違っている可能性を呟く実莉。

 それは反乱軍の言葉そのままだが、俺がティアラを失ったときの悲しみを思い出せば納得のいく話に思えていた。

「でも、テロはよくない! 我々は我々の土地を人民を守るために生きているのだから」

「生きている、か。悲しいことを言わないでよ。内藤」

 実莉は目を伏せて嘆息する。

「どうしても、こっち側にくる気はないんだね? 内藤祐二」

「……ああ」

 逡巡したあと、固く誓った言葉を口にする。

 そうだ。ティアラの死はなんのためにあったんだ。

 でなければ死んでいった仲間たちが報われない。世界が平和になると信じていった仲間たちが。

「そう。ならわたしは君を倒すことになる」

 そう言って指を鳴らすと、防波堤のそば、海から這い出る大きな巨体が見えてくる。

 AnDだ。

 それも指揮官機。フレームに内臓された重火器に各部バーニアの改造が施されている。

「くそ」

 俺は苦い思いを胸に走り出す。

 わかり合えると思った。思っていた。

 彼女なら、俺の味方になってくれると思ってしまった。ティアラのように。

 でも違った。

 彼女は敵だ。

 俺は走り出し、軍港へ向かう。

 その途中で松平と会う。

「おい。内藤くん、どうしたね?」

 走っている俺を見て目をしばたたく松平。

「敵だ。AnDで迎撃する」

 俺の後を追うようについてくる実莉の機体。

『ほらほら。早くしないと都市が丸焦げだよ』

 実莉はさもコンビニに行くような気軽さでミサイルを放つ。

「今、海岸警備隊と軍関係者に連絡した、すぐに応援がくる」

「分かりました」

 松平の言葉に緊張の糸が緩やかになった気持ちになり、俺は走る足を止めない。

「このまま、スワローに向かう」

「了解だ。自分が援護する」

『あははは。逃げるだけかい!?』

 高笑いし、実莉が機銃を放つ。

 俺は物陰に隠れてやり過ごすが、長くは持たないだろう。

 そこに一台のトラックがやってくる。トラックと言っても通常の車の三倍はある。そして荷台にあるを見て生唾を呑み込む。

「お前さんのご要望通りだろ?」

 松平がニカッと笑いを浮かべると、こっちの芯まで熱くなる思いを感じる。

 俺は荷台にのり、スワローのコクピットを開き、乗り込む。

「離れてください」

 AnDを起動させると、その場を離れる松平。

 俺はエンジンを吹かし、ホバー走行を行う。

「これで、貴様の優位性は失ったわけだが?」

 無線で敵機に呼びかける。

『ふふ。それでいいでしょう。1132』

 無線を合わせると、俺は実莉を睨む。

 あれは人の命をすりつぶすマシーンだ。排除しなくてはならない。

 この都心で戦えば民間人を、関係のない人々を巻き込んでしまう。

 俺は港に向けて誘導を始める。

 ハンドガンで撃ちながら後退するように移動。少しずつ都心から引き離す。

『あは。逃げてばかりじゃ、倒せないよ! わたしは、ね!』

 加速していく実莉。手にしたハンドガンから発射される銃弾は近くのビルに被弾していく。

「こんなのはやめるんだ! でなければ、民間人が傷つく」

『民間人なんてどうでもいいじゃない。どうせ、今の社会構造を受け入れているネズミなんだから』

「なに!?」

 実莉の言葉にふつふつと沸き立つものがある。この感情はなんだ?

 港区の目の前に迫ると、敵機の両脇からAnDが襲いかかる。こちらの軍のものだろう。援護に来てくれたのだ。

 だが、マズい。

『あんたらには興味がないんだよね~』

 実莉はハンドガンで一機を撃破、そして蹴りを入れたもう一機も、ミサイルを浴びむくろに代わっていく。

『あは! やっと大人しくなった!』

 二機を倒したことで流れ弾が民間人に当たっているとも知らずに。

 俺たちは民間人を守るため生きてきた。それが軍は戦場を広げるばかりで、なんの役にも立たないじゃないか。

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