軍人編
第17話 煽動
一ヶ月間の治療の末、俺は高校に復帰した。
座学、実習、AnDの試験。
いろんなことがあったが、最後にみんなで集合写真を撮ることになった。そこにティアラの存在はいない。
卒業すると、俺たちは別々の進路を用意されていた。
俺は宇宙港第二護衛艦軍所属のAnDに。火月も一緒だ。俺と火月の連携は他のメンバーでは無理と判断されたのだろう。
親交を深めるため、俺たち以外のメンバーと一緒に食事会が開かれた。
「火月さん、祐二さん、よく来てくれた。歓迎するよ」
花菱大佐と、
みんなでビールや焼酎、ワインなどを開けていく。
苦笑を浮かべる俺。火月は端のほうでちびちびとアップルジュースを飲んでいる。
お酒は二十歳になってから。
それはこの国の法律だ。
高校を卒業したての俺たちにはまだ早かった。
「あと二年すれば、飲めるからな。そのときが楽しみだ!」
がはははと笑い飛ばす神崎。
「よろしくね。内藤くん」
如月が嬉しそうにのぞき込んでくる。
落ち着いた紅い色をした長い髪が腰まで伸びている。目は垂れ目で少しぼやっとした顔立ち。眉毛も困り眉で全体的に弱々しい印象を受ける如月。
私服はピンク色のワンピースに白い上着を羽織っている。
可愛い。
そう思ってしまった。
差しのばされた手を見て、俺は慌てて手を握る。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「け。てめーらしくねーな」
火月がボヤをいれるが、まったくその通りだ。俺らしくもない。
「君たち専用のAnDが開発されているらしいね?
神崎がクスクスと笑う。
短髪の男で、がっちりした筋肉をつけた大男と言った印象か。目はぎらぎらとしており、好戦的な印象を受ける。
「おれのスナイプ力はすげーんだぜ?」
「ほう。なら今からやってみるか?」
神崎が不敵な笑みを浮かべる。
「へ。その自信たたき折ってやるぜ」
やる気満々な火月は粗暴な口調で立ち上がる。
「お。余興か! いいね~!」
ヒューヒューと黄色い声援があがり、シミューレーション前が大賑わいになる。
俺も端にあるモニターで観察を始める。
開幕一番に、火月が狙撃を行う。が、それを回避する神崎。
「ええ。あれをよけるの?」
如月が意外そうな声を零す。
すごい。火月の初撃をかわせるなんて。
とんでもないバケモノだな。
そのあとも、狙撃をかわし続ける神崎。
「終わりだ!」
神崎が声を大にして告げる。
と、
「へ、甘いぜ!」
火月は腰をひねり、短い足を伸ばす。
その蹴りに耐えきれずに後方に吹っ飛ぶAnD。
体勢を整えた火月は、接近戦での狙撃を行う。
《試合終了!》
無慈悲な電子音が鳴り響き、火月は勝ち誇った顔で出てくる。
火月は遠距離専門と思われがちだが、接近でも活躍できる。
「ち。なら、そっちのお坊ちゃんはどうだ?」
俺のことを言っているのか?
しかしお坊ちゃんとは。苛立たせるのもうまいな。
あおられたから乗るんじゃない。火月にばかりいいところを見せるかよ。
俺はシミュレーションに乗り込むと、機体の選択、武器の選択を行う。
そしていよいよ試合開始。
俺は右から攻めて行く。
徐々に近寄り、一気にエンジンをふかす。
肉迫した状態でハンドガンを撃ち放つ。
それも近距離で、同じ場所ばかりを。
コクピットを貫いたエフェクトが走り試合が終わる。
《試合終了!》
電子音が鳴り響き、俺はシミュレートから出る。
これではつまらないな。
俺はまだ戦える。
そう実感し、オレンジジュースを飲み干す。
「内藤くん。すごいね。火月くんも」
如月が驚いたような顔で応じると、俺は苦笑する。
「まあ、あれはシミュレーションですから」
あくまで疑似空間、擬似的な操作である。
ナーブ・コネクトもない、従来の乗り方では違ってくるのも無理はない。
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