酒池肉林
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そこで
広大な庭を整備させ、供物である獣肉を吊るして林に見立て、池に酒を満たす。
数百人規模の生贄を以って行ってきた王家の祭祀である以上、獣肉や酒に代えたとしても、このくらいの規模は必要であるという判断だ。
「本当にこれで先祖たちは納得してくれるだろうか……」
「きっと大丈夫ですよ」
どこか心配そうな子受に、妲己は笑顔で応えた。
確かにこれを造営するのには多くの費用が掛かる。だが多くの人命を損なうよりはずっとマシなはず。妲己はそう信じていた。
更には儀式が終わった後、供物として使用した獣肉や酒をそのまま腐らせてしまうのはあまりにも無駄が過ぎる。妲己はそう考え、民衆に与えてはどうでしょうと提案した。
しかし捌いてから日数が経っている獣肉は、傷んでいるがゆえにしっかりと火を通さねばならない。そこで油を塗った大きな銅柱を火にかざして、肉を自由に焼くための大掛かりな設備を作らせた。
池に溜めてある酒も場所を移すわけにはいかない為、民に器を持たせて自由に飲めるようにした。
酒と肉を自由に飲み食いしていい。そんな触れに奴隷を含めた食べる物にも困っている民が集まり大盛況となった。
着る物にも困っているような、ボロ布を纏っただけでほとんど裸のような者たちが大喜びで肉と酒にありついている。
その様子を見て妲己は笑みを零した。
殷の祭祀は人狩りを伴ってきた事で、多くの民衆に恐れられた。それがこの形になれば、多少は費用がかさむとしても、民が楽しみにするような、そんな新しい時代のお祭りになる。殷の歴史は変わっていく。
妲己は民の笑顔を見て、その考えが間違いではないと確信するに至った。
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というような事だったのでは?
ひとつの可能性として描きましたが、これが
「殷の紂王は妲己の言うがまま、先祖の祭祀を怠り、多額の国費を浪費し、酒池肉林などという物を作らせ、裸の男女で踊り耽った」
「油を塗った銅柱を火で熱して渡らせる
もしも現実が上記の再現小説の通り、善意そのもののような内情であったとしても、容易にこんな醜悪な話へと変貌してしまうのです。
人は誰かを悪人だと思った瞬間から、あらゆる断片的な情報を悪い方悪い方へと話を繋げて処理してしまう物なのですから。
情報伝達が相当に発達した現代でさえデマや陰謀論に踊らされる人たちが大量に出てしまう事を考えれば、人から人への噂話くらいしか情報が無かった古代はどうだったか、考えるまでも無いでしょう。
実際に処刑用具として語られている炮烙も、『
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