もう絶対に触るな

散々ミルに遊具扱いされて気を失ったところまでは覚えているが、気がついたら俺は天女のような女性に膝枕をされていた。鼻腔を擽るフェロモンに包まれたとことん甘い匂いに、頭を通して伝わる太ももの温かさと柔らかさ。

あまりの心地よさにここは天国かと思ったが、周りを見たらギルの家の中だったので天国ではなかった。


どうして俺は膝枕されているのか分からなかったが、興奮しないように俺は天女の太ももと香りを楽しんでいた。


しかし、天国のような時間は長くは続かない。

天女は俺の顔を見て慈悲深い優しい笑みを浮かべると、俺の頭を優しく抱えるように手で持った。恐らく俺を太ももから床に下ろそうとしてだと思う。俺の体は自負する程には重たい。頭も平均的な人に比べたらでかい筈なので、そうとう膝枕は辛かった筈だ。




………ところで、人生には何回か大きなチャンスが訪れるらしい。

そのチャンスが今まさにこの時だと思うんだが、このチャンスを掴んでも別にいいよな。


天女が俺を床に下ろそうと俺の頭を優しく抱えた時、天女の豊かな丘が大きく揺れた。その丘はこちらを誘惑するように、形をぐにゃんぐにゃんと変形させる。その丘は無防備で且つ神秘さがあった。


天女が頭を持ったことで、丘との距離は更に縮まる。聖域は目の前だ。天女も油断しているようで防がれるとかは無さそうだ。それに、寝た振りを偽装すれば罪に取られずにいけるかもしれない。


迷うくらいならやってから後悔した方がいい。

この教訓が訓練以外ですべての出来事に当てはまった俺は、その聖域に向かって手を伸ばした。



むにゅん。




胸に触った瞬間、悲鳴をあげながら凄い勢いでギルがザルテマの頬を叩く

雷が走ったような物凄い反射神経だ。あまりの腕の振りの速さにギル以外時が止まったように思えた。

遅れてザルテマに痛みが伝わる。



いっ!?

滅茶苦茶痛い。

頬を俺は叩かれたのだろか。

悲鳴のようでありながら喘ぎ声のようなゾクゾクさせる声。

悲鳴的にこの天女がやったのだろうか。


物凄く痛かったが、天女にやられたとなると何だか痛みが引いた気がした。



「なに人の胸触ってんだよ。……ってあれ? 寝ぼけてただけか?」

「……」


天女が透き通った綺麗でありながら優しい声で呟く。見た目とは違い何やら男のような口調だった。


目の前の天女のような女性は首を傾げながら俺の顔に近付く。


弾力。ボリューム。もちもち。


俺は必死に顔がにやけないように意識しながら、胸を掴んだ時の感触を懸命に記憶に保存していた。

それと同時に必死に呼吸を落ち着かせ、寝た振りを続行する。

生憎騎士団に入ってから寝た振りを毎日のようにしていたので、寝た振りに関してはプロレベルだ。何故か俺を執拗にきつく指導してくる教官どもにはすぐバレるが。


「ど、どうしましたか!? 悲鳴というか喘ぎ声が聞こえましたけど。……ってあれギル様は? ……っ!?」


天女はどうやら床に下ろすのは止めたようでこのまま至福の時を過ごそうと思っていたら、俺を散々虐め倒したミルが扉を開けてやってきた。


ミルは久し振りに会ったら噂通りスタイルのいい女性になっていた。その豊満な尻に敷かれるのは悪くなかったが、俺の上で何度も飛び跳ねるのは流石に無いだろ。鍛えて無かったら俺は今頃重さで死んでたぞ。


……でだ。

正直のところ様子を見に来たミルには悪いが、この部屋から出てって欲しい。ミルが来るまで俺と天女の二人だけのプライベート空間だったのだ。ミルが居たら崩れてしまう。

散々虐めたんだからちょっとは俺のことを思って気を遣ってくれ。


俺は心の中でミルに圧力を掛けると、天女が慌てたようにミルに話掛けた。


「しー。ちょっとだけ静かにして貰えるかミル。今ちょっと女性に変化して兄貴を心地よく寝させているんだが、起こしちゃったら可哀想だからな。」

「………もしかしてギル様なのですか?」

「ああ。性別を変える魔法を使って女性に変化しているんだ。見た目は思っていた以上に変わってしまったが、ちゃんと俺だぞ。」

「……確かに雰囲気は似ている気がしますね。」



は?

この天女がギル?

……でも、確かに天女なんかが俺に膝枕してくれる訳なんてないか。ギルの家に天女が居るのもよく分からないし。……まてよ。天女がギルってことは、頼めば普通に触らしてくれるんじゃねぇか?


目をほんの少し開けて上を見れば、栄養を多く含んでいそうな大きな実。

俺は起きることにした。


「あ? ……やけに質感のいい枕だが……ってあれ、何だこの状況。」

「……うるさくしたせいで兄貴が起きちゃったか。おはよう兄貴。」


にこりと天女が微笑んで俺に目を合わせるようにして語り掛ける。ギルだと思ってもギルだと思えない神秘さに可憐さ。

直接目があった状態での微笑みはザルテマの心を奪うのは容易いことで、ザルテマの心を頬を緩めただけで簡単に奪ってしまった。


尊過ぎる……


「……兄貴呼び? 」

「俺だよ兄貴。ギルだよギル。ちょっと性別を変える魔法を使って女性に変化してみてな。どうだ、気持ちよかったか膝枕は?」

「ああ。気持ち良かった。………ところで、胸揉んでいいか? 金は出来るだけ出す。なんなら太ももか胸に顔を埋めるのでもいい。」

「……駄目に決まってんだろ。俺は一応女性に変化しているだけで元は男だぞ。結構見た目は変わってしまったけどな。それに……レベルがこっちの体でも反映されてるし無理だ。」


優しそうな顔から一転、ちょっと顔を紅くしながらきっぱりと否定する天女。弄り甲斐のある表情は男の欲望を更に向上させ、ザルテマは嫌らしい笑みを浮かべた。


そんな顔されると、余計に触りたくなるんだよな。


ザルテマは思い切ったように、今度は目をはっきりと開いたままギルの胸を掴んだ。

丘がザルテマの手によって、大きく形を崩す。


「………代金は後で用意しておく。」

「あっ、んっ………………殺すぞ兄貴。もう一回寝とけ。」


ギルは透き通った喘ぎ声を出すと、直ぐに冷静になりザルテマに殺気を浴びせる。

顔は紅いが威力は十分なもので、ザルテマは泡を吹いて倒れる。

泡を吹いて倒れたものの、その表情は満足そうな顔だった。


「……これだから女好きは。……って、あれ? 何で鼻血を出して倒れているんだ?」


気がついたら満足そうな表情で鼻血を出しながら倒れているミル。ミルはミルでギルの喘ぎ声に興奮しノックアウトしていた。綺麗で整った顔が血で台無しである。


ギルは性別を変える魔法を解除すると、ザルテマを放置しミルの対処をすることにした。




ーーーーーーー


後日。


「ザルテマ様? また、遊具になってみませんか?」

「……俺の上で飛び跳ねないなら別にいいが、飛び跳ねないか?」

「無理です。飛び跳ねて、飛び跳ねて、飛び跳ねまくります。」

「は?」

「別に虐めたいとかそういう訳じゃないです。ただ、ギル様に幾ら頼んでもあの女性の姿になってくれなくて。そこで、ザルテマ様をとことん苛めたら、またギル様が慈悲で女性の姿になってくれるかなと思いまして。今回はザルテマ様で遊ぶのが目的ではなく、ギル様目的です。」

「……準備してくれ。」


こんな会話があったとか無かったとか。

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