01-05 説明義務があってもなくても計画は喋りたいものなのだ!そうだろう小鴉くん!

 宝玉の間。

 金色の輝きが反射する大広間で一匹の大鴉が歓喜の声を上げていた。

 

「オアーオアー! いいですねぇすばらしいですねぇ!! 見てくださいこの金色の輝きィ! 大地の女神がごとしっ! サイコウゥ!!」

 

 大鴉の目にはキラキラとしたゴールドの輝きが目いっぱいに映っていた、それはまるで巨木のように大きな琥珀のような宝石だった。宝石、というのはまだ柔く何かの胎動が響いていたが大鴉は気にしていない。大鴉にとってはそれはどうでもいいことだったのだ。

 彼が見上げるそれの中には複数の人の影があった。それはこひなた村から攫われて連れてこられた村娘たちだったが、大鴉にとってはその辺で回収してきてもらったいい素材でしかない。そして、大広間に連れてこられた娘もまた彼にとってはただのいい素材だった。

 縛り上げられた村娘の涙にぬれた瞳をこじ開けるように、大鴉が髪を掴んで顔を上げさせる。娘の顔が強張った、しかし大鴉にとってはどうでもいい変化だった。


「どうです? 素晴らしいでしょう! 急な依頼でしたので突貫工事ではありましたがそれでもここまで美しい宝石を仕上げるのは天才であるボクにしかできぬこと! 貴方もどうか喜んでください! だいじょーぶみんな一緒ですよ!」

 

 くぐもった悲鳴が大広間に響く。しかしそんな鳴き声も聞きなれてしまったのだろう大鴉は、娘の身体をわし掴みにするとそのまま宝石の中にずぷりと沈めていく。樹脂のようなそれはあっさりと娘を呑みこむと、一層強い金色の輝きを放って見せた。

 そのグロテスクなまでの輝きに大鴉は羽を広げて歓喜する。もうちょっとだ、もうちょっとでとても綺麗なものが出来上がると。


「極上の輝きまでもう少しッ、ラストランでございますことよ! さぁ~~~~~ボクのかわいい子鴉ちゃんッ、なんかいいのもってきてっ!」


 踊るような身振りで指示を繰り出す大鴉、しかし珍しく返事に時間がかかった。おや? と大鴉は首を傾げる。


「小鴉ちゃん?」

『はいここに』

「おぉいたいた、ちょっち遅くてビビっちゃった。で、どう? いいのみつけた?」


 小鴉が連れてきたのは三人の少女だった。丁寧に運んでこられたのだろうフードを被った彼女たちをみて大鴉は泣いた、やった! やっとバカな小鴉が素材を丁寧に持ってくることを学んでくれた! と。


「おぉいい匂いがします、大地のエナの香り! 三人も! よくぞよくぞっ、お前はいい子ですね! まぁお前もどいつもボクは顔覚えてないんで見分けつかないんですが、まぁいいや! 上機嫌なのでぇ……かわいこちゃんたちにこれからのことを解説してあげますねぇ!」


 三人の少女のうちの一人がビクりと肩を震わせる、しかし大鴉はそんなことも気にせず少女の一人の顔を掴んで上げさせる。七才ぐらいの人間の子だった、青い目でとても暗くほの暗い闇の良い色をしている。大鴉は一瞬目だけえぐって宝石に加工するのもアリかと考えたが、依頼のことを思い出しやめておいた。惜しい、でも仕事が最優先だ。

 ずるずると青い目の子を金色の琥珀の前まで連れて行くと、よく見えるようにと顔を輝きのほうへと向かせて大鴉は羽を広げて高らかに解説をはじめる。


「ほらよく見てくださいマスコットベルトの中でも大地のエナを特に蓄えた村の住人から抽出したこのキラァッキラのエナ! すばらしすぎてボクうっとり……見ているだけでため息が出ますよねぇはぁ~~~~~~~最、高」

「ッ……」

「いい目で睨みますねぇ! あの女以来ですねここまで元気がある素材は、いいことです! 良い素材はあればあるほど良い!」


 そこまで語ったところで大鴉は一つに失敗を思い出し、すっと羽を畳む。金色の琥珀の前で一喜一憂する姿は、さながら光り物を見つけた鴉そのものだ。 


「唯一無念なのが噂のむぎのこを捕らえる前に収穫されてしまったことですが、まぁそれはそれとして仕方がないですね事故にあったものと考えましょう。見事なまでに邪魔をしてくれた女も今やこの宝石の装飾! 発想がいかれてる~~~~悪趣味~~~~だがそれがいい、おかげさまでこんなにきれいな宝石が出来上がりましたからね!」


 宝石は今日も瞬いている。

 それは人の命で出来ていた。

 

「これで魔王様も感激なさってくれるはず! いやぁ魔王様もとうとう結婚ですし、そろそろとは思っていたんですよ。この宝石ならば魔王様のお嫁の髪を飾る髪飾りに最適ッ、ここから圧縮するのは至難の業ですがボクは天才なのでぇ……出来ちゃうんですねぇ~~~~~~!! ……え、中にいる子がもったいない? いやぁでもこのままだと大きいですからね、見た目がちょっと圧縮されても解像度は変わりませんから大丈夫でーす!」


 ほらほらと踊るように大鴉は嗤う。


「きみたちもこの中で一緒になるんですよ! どうです? すばらしいでしょう! 平凡な田舎暮らしともこれでおさらばですよ、これからは輝かしい宝石の中で永久に我々の姫を飾るのです! 羨ましいですねぇ~~~~!! あぁやだやだ田舎なんて言葉、人生はもっときらびやかでなくては! 平凡? 地味? そんなものよりも価値があるものをボクは知っているんですよぉ! 天才なのでぇ!」


 じゃ、そろそろ仕上げようか! 素材の腕を掴んだところでそれは起きた。

 

「……────ッ!!」


 ビッと痛みが奔った。大鴉はとっさのことで何が何だか分からない、ぎょろぎょろと目を回せばそこには小さな白銀のナイフがあった。持ち主は、青い目の人の子。


「ほ?」


 そこでようやく大鴉は、自分の首をナイフで掻き切られたのだと悟った。あの一瞬で? どうやって? 思考が追い付かない。


「ぎゃあああああああ!? 痛いッ何するんですか!? ひい、首が二つに裂けちゃう! なんてことを……!?」


 素材の腕を手放しながら大鴉は距離を取る、そしてようやく何がこの仕事場に持ち込まれたのを認識した。あぁなんてことだ、素材だと思ってたのに全然違うじゃないか!


「ッ、流石にしぶといな……あれで死なないか」

「クリス! 零距離から致命を狙うとはお主だいぶ怖いことするのう!?」

「怪我してない? だいじょうぶ?」

「うん、大丈夫。……それよりも」


 さっきまで少女たちがいた場所には、いつの間にか見知らぬ少年が二人と少女が一人に使い魔一匹。とっくに武器を取って臨戦態勢で、今さっき首を裂いた少年のほうはじっと大鴉のほうを睨み続けている。匂いが剥がれていく、やられた! この魔力は知っている! 魔族の血が叫んでいる、あぁ憎むべきあいつがやってきた!


「な、な、この魔力まさか勇者の!? 騙しましたね!! 許しませんよ!! 小鴉!? 小鴉!!」

『残念ながら周辺の部下には眠ってもらいました、増援は期待しない方がいいですよ』

「なぁ~~~~!?」


 あぁなんてことだなんてことだなんてことだ! 全然準備も何もできてない!


「悪趣味なことはもうやめるんだな」

「おかあさんと村の皆は返してもらいます!」


 新しい勇者とそこの少女だけならまだしも、なぜアイツがここにいるのだ!


「悪の所業はここで終わりじゃ! ここで確実に潰すッ!!」


 あぁ憎らしい憎らしい、魔王さまを殺した分際で生き残った愚か者め!


「宝石屋”ジェムード”に挑むなんておばかさんな子たちだこと! いいでしょう貴方たちの魂の輝きもこの宝石に取り入れてしまいましょうかね!!」

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