01-06 一人称でしかも多人数戦闘とかムリなのじゃ!! 視点は気にしないでおくれ!

「やれるもんならやってみろ、盗人鴉!!」

「貴様に扱われるほどわしらは安くないぞぉ!!」


 剣先が大広間の床を滑る、火花が開幕の合図となって花開いた。一気に戦闘の火がついたクリスとパスカルがほぼ同時に鴉のジェムードにそれぞれの大剣を持って降りかかる。光の線が見えるほど高速の降りかかりだったが、ジェムードの背の大きな黒翼が盾となって邪魔をする。 

 ジェムードの黒翼が剣のように舞い、クリスとパスカルの決して軽くはないはずの剣戟を受け流す。クリスの白銀の勇者の剣は素早く鋭く、パスカルの金色の王家の大剣は重く強く。それでも決定打とはならないジェムードの強さにパスカルは冷や汗を流し、一方クリスは乾いた笑みを浮かべていた。


「くっ、バカみたいな装甲しおって!」

「ええいコバエのようにうざったいっ、ボクの羽を貫通できるとは思わないでくださいねッ」


 バサリッと翼の盾が大きく開きクリスとパスカルの二人を大広間の壁まで吹き飛ばす。けれども少年二人の目は特段焦りはない、既に次の攻撃は放たれているのを知っているからだ。


「やぁあああああッ!!」


 甲高い弾きの音を聞きながらクラムが真っ直ぐにジェムードへ立ち向かう。

 ジェムードが黒翼を大きくさせ咄嗟に防御姿勢を取るも、クラムは迷わずに大鎌をひっくり返し黒翼の装甲の隙間に刃をひっかけた。


「みんなを……」

 

 そしてクラムはありったけの力を込めて大鎌を爪のように使い振り上げる形でガードを崩した!


「元通りにしろぉ──!!」

「っなんです!? お前ただの小娘ではありませんね!?」


 大鎌を構え体勢を低くとったその構えは、下段から上段にかけてのガード崩しの構え。どんなに装甲が硬かろうともめくられれば隙が出来る。下から上に向かう力によって大きく開かれたジェムードの体勢を待ち構えていたかのように、螺旋の勇者が差し迫る。


「貰ったァッ!!」

「ぎゃあああああッ!!」


 ありったけの力を込めて、一角獣のように構えを取ったクリスが真っ直ぐにジェムードの心臓へ勇者の剣を突き立てる。ズドンッと鳴り響く衝撃、羽飛沫が大広間にまき散らされた。決まった、がしかしそれでもなおジェムードのあがきは止まらない。


「ひぃ、ひぃ、いたい……いたいぃいいい~なーんちゃって、捕まえましたよ勇者の坊やぁ~!」

「な、やべっ!?」


 勇者の剣を突き立てたはずのジェムードが嘴を鳴らす。あっという間にクリスの頭を掴むと、その黒翼で彼を覆い隠してしまった。まずい、とクラムがすぐさま黒翼を剥がそうとするもジェムードに回避されてしまう。


「クリスさん!!」

「おっとだめですよぉお嬢さん~、動いたらこの坊やの頭をねじ切りますからねぇ~!!」


 戦利品を見せびらかすようにジェムードはクリスの首に手をかける。クリスは抵抗するも身体の幼さ故かすぐに振りほどけない、そのことはクリス自身にもよく分かっていた。


「ッ構うな!! どうとでもなる!!」

「で、でもっ、!」


 気にせず戦えというクリスに戸惑うクラムを見てジェムードが嗤う。


「あぁ美しいですねぇ! いい! あなたたちのことは気に入りませんがその魂の輝きはとても良い……やっぱり欲しいですねェ!! いっそこの場で宝石に────あれ一人足りなくないです?」


 おやとジェムードが周囲を見回そうとしたその時、バキリッと何かが割れる異音が響いた。あまりにも異質な音にクリスやクラムでさも驚き目を丸くする、その視線の先にはジェムードの鳥のような左足があった。そしてその足は、どんどん光彩の結晶によって飲み込まれ硬直していく。


「なァッ!? 足がァッ!? ま、まさか拘束魔法っ!?」


 慌てている最中にも結晶は更に侵蝕の速度を増し、バキリバキリとジェムードを砕いていこうとする。流石の現象に驚いたのかジェムードの拘束が緩まり、「いまだっ!」とクリスがナイフを突き立て黒翼から脱出してみせる。


「クリスくんっ、」

「けほっ、大丈夫、大丈夫だけど……っ」


 二人はジェムードを見る、クラムはともかく、クリスにもある意味驚きの光景だったのだ。さながら地面に縫い付けられる勢いで侵蝕していく結晶にジェムードが吼える。


「お、おのれ勇者パスカルゥウウウウウウッ!! 宝石屋のボクに!! 宝石魔法を使うなんてェエエエエエエッ!!」

「今更気が付いたか、たわけが」


 怨嗟の先に向き合うかのように大剣を構えたパスカルと、その肩にのった青い鳥の賢者が戦闘圏内に戻ってくる、その王家の大剣は普段よりも尚輝きを纏っていた。


『間に合うかひやひやしましたが、仕事は果たせそうですね』

「すぐ助けられずすまんかった! これで詫びということにしておくれ」


 パスカルと賢者はある魔法を紡いでいた。それでこそジェムードに吹き飛ばされて戦闘圏内からはじき出された時からずっと、敵の意識から逸れることで攻撃目標外になり純度の高いエナを束ねる成功率を上げていたのだ。

 場のエナを結晶化し敵の動きを奪う魔法。結晶化という工程を踏むそれは宝石のような輝きと共に敵という敵を屠る、パスカルが得意とする【王家の魔法】の一つである。


「【膝を折り、平伏せよ。煉獄の王の御前であるぞ**** **** ************ 】」

 


 エナが結われる、エナが結ばれる。

 これで終わりだと誰もが思ったはずだった。



「ぎいいいいぃぃいっ!! そうはなるものかッ!! こんなこと許されないぃいいいいい!! かくなるうえはぁあああああ────!!」

「げえっお主正気かぁ!?」


 結晶化が一気に完遂される寸前、ジェムードは驚きの行動に出た。なんと結晶化してしまった自身の左足を自らの手で叩き割ってしまった。

 さすがにこれにはパスカルも賢者も想定外、完遂間近だった魔法の流れが途絶えジェムードが結晶から完全に脱走してしまう。

 だが、異変はそれだけではなかった。


「ぐあっ、ぐあっ、あぁよくない、よくないよくないよくない~~~~!!」


 天井近くまで舞い上がったジェムードが慌てた様子で頭を抱える。そして大広間にはドクン、ドクンと心臓のような音が響き始め、異変に気が付いたクリスが声を上げる。


「おい、なんかまずいぞ!」

「大きな琥珀が……動いてる……!?」


 大広間に鎮座する巨大な琥珀が何かの生物かのように蠢きはじめ、中に取り込まれた村娘たちの影が揺れる。明らかいかんことが起き始めてる! とパスカルはジェムードを睨み上げた。


「貴様何をした!!」

「ボクのせいじゃないですぅ~!! こんなに暴れたらせっかく封じ込めたエナが活性化するに決まってるじゃないですか! あぁいけない、もうちょっとだったのになぁ~~~惜しいなぁ~~~でも命より惜しいものはないのでボクは帰りますねェ~~~~~!!」

「なんだと!? おいまて!!」

「それではごきげんよう!! 麦の女どものエナに潰されて死んでしまうがよろし!!」


 話も聞かずにジェムードが懐から取り出した宝石を叩き割る、すると魔法門が現れその中にジェムードは消えてしまった。

 しまった取り逃がした、と嘆く暇もなく琥珀の鼓動はどんどん大きくなっていく。異様に増していく輝きは金色に瞬き、どろり、とエナが渦巻く。そのいいよも知れぬ悍ましさに鳥肌が立ってしまうほどのエナの混濁に、クラムは一瞬意識を持っていかれかけたのかガンッと大鎌の柄の先を自身の足にぶつけることで耐えていた。

 異質な現象に息を呑む、村娘たちの大地のエナが荒れ狂い一つの形を作る。

 その中でクリスはただ一人、真っ直ぐに剣を構えて叫んだ。


「構えろ!! 出てくるぞ!!」


 まるで、そこに何がいるのかを知っていたかのように。

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