01-04 親世代がバケモンで子世代が普通とかそういうほうがおかしいじゃろ

 風の波がさわさわと麦畑を撫でている、きらきらと舞うエナの光はまるで晴れの日に落ちる恵みの雨だ。

 クラムは大きな魔法を見るのは初めてだった。母からは伝え聞いてはいたものの、実際触れてみるとまったく印象が違う。身体の中にある血が、違う熱を持つかのような感覚だった。透明になっていくような、色濃くなっていくような。

 村の入り口では、攫われた母と村の皆を助けるためにパスカルさまとクリスさまが関門砦に向かう為に魔法馬車に乗り込もうとしている。クラムはそれをじっと見ていると、そのうち考えずとも立ち上がっていた。


「クラムや」


 ふと声を掛けられる、振り返ると村長さまがそこにいた。


「村長さま」

「行くのかい?」

「……はい。おかあさんと村のみんなのこと、助けたいから」

「そうか……分かった、これを持っていきなさい。今のお主ならば扱えよう」


 村長さまから渡されたものの重さに背を押され、クラムは彼らを追う。

 その目には星が瞬いていた。



『ぎりぎりまで魔法馬車で近づいて、そこからは徒歩になりますね』

「懐かしい流れじゃのう! 前の旅も大体こうじゃったな」

「村の皆さんを解放しつつ、になるから中に入ったら別行動になるのかな。……? クラムちゃん、それに村長、どうかしましたか」

 

 いざ魔法馬車に乗り込もうといったところ、クラムちゃんの「おーい」という声が聞こえて立ち止まった。急いでこちらまで走ってきたのじゃろうクラムちゃんは、意外と息も切らせずこちらにやってくると大きな声でこういった。


「王様、そして勇者様。私も連れてつれていってください!」

「えぇっ!? え、でも、危ないぞ!? 怪我をするかもしれないし、何が起こるか……」

「覚悟の上です、お願いします!!」


 声色から判断するにしてもクラムちゃんは本気のようじゃった。さすがエピの愛娘! といいたいところじゃがオッケーじゃあ行こう! とは簡単に言えない親心。クリスくんの言うことがもっともじゃ、今回の襲撃はただの偶発的なものではあるまい。正直安全圏にいてほしさが半端ない! 危ないことはこっちで済ませておきたさあるじゃろ普通。

 が、しかし相手も相手できちんと考えた結果のようじゃな。


「わたくしからもお願いします。この子は守り手候補の中でも一番の使い手、幼くはありますが決して足手まといにならないでしょう」

「村長まで……いえ、でも……」

 

 流石に判断に迷うのかクリスくんがこちらを見る。うむ、危険度はクリスくんも重々承知の上のようじゃな。

 クラムを見る。

 守り手としての衣装を身にまとった村娘。帽子は置いてきたのだろう、大地のエナをため込む長髪を失っても今はしっかりと地に足を付けている。その背には懐かしい守り手の大鎌が黒金の輝きに記憶が霞める、麦色のおさげをひらめかせ魔の軍勢を刈り取ったかの信託の勇者一行の一人。

 問題なし、輝きの勇者は星を見つけていた。


「よかろう、一緒に行こうじゃないか」

「パスカル王!?」

「出来ることなら反対したい気持ちはわしも同じじゃ、だがの……よく見てみいあの鎌」

「クラムちゃんが持ってる大鎌……? ちょ、ちょっと見せてもらってもいいかな」

「? いいよ」


 クラムちゃんが慣れた手つきで大鎌を差し出すと、クリスくんがそれを覗き込む。そしてそれが何であるかを理解していったのじゃろうどんどん顔色が変わっていく。わかる、わかるぞその気持ち。こんなことそうそうありえんことじゃからの!


「女神の大刻印に、大地の琥珀……中に空洞がある、液体……まさか金色の液状化エナ!? これもしかしてオーツ神の収穫鎌か!?」


 こまいこと省くと魔王戦にもっていくような超終盤装備じゃ!

 

『エピ殿が決戦に使っていたものですね、彼女でさえ決戦間際まで持つことさえできなかった代物をこう軽々と扱うとは……あの人だいぶ苦労なさってますね』

「実力は十分というわけじゃな、いやぁ若いのにすごいのう!」


 オーツ神の武具は個々の素質から力量までおおくの条件を課すめんどくさとても装備が大変な装備でもあるのじゃが、こう実際に装備されてるということはそういうことじゃ。伸びしろのことも考えるといやぁ怖いのう将来考えたくないのう!! 

 

「……分かった、でも無茶はしないこと。何かあったら必ず僕たちに伝えること。指示にはしっかり従うこと。いいね?」

「──はい! 頑張りますっ!」


 クリスはそれでも心配なようじゃが、それはクリスくんが優しい子だからじゃろう。戦力だけを見るわけではないあたり、本当に彼の心はよく育っておるのう……育ての親がとても良い人だったに違いない。


「クラムのことをよろしくお願いします」

「任せるがよい! では出発じゃ、村の皆を助け出して必ず無事に戻ろうぞ!」

「「おーっ!」」


 

 コカゲの森、旧関門砦。古い時代の遺物はどこにでもあるもので、黒石を積み上げて佇むその影はまるで森の闇に溶けるかのように存在しておった。そこに出入りしているのは人間の大人よりももう一回り大きな怪物、黒羽を携え嘴を持った鴉の魔物じゃった。


「さて、かなり近くまで来ましたが。……思ったよりも数がいるね」

「大鴉の魔物のようじゃの。そうなると事を荒立てれば増援を呼ばれるのう」

「こっそり入らないといけない、ってことだね。あ、鳥さんが戻ってきたよ」


 砦からぱたぱたと飛び出してくる青い鳥がこちらに戻ってくる。


「賢者よ、中の様子はどうじゃったか?」

『村娘たちは一か所に纏めて閉じ込められているようです。あまり時間はかけられないかと』

「ということは生きておるのじゃな。しかし、うむむ……この門を突破するのは厄介じゃよ」


 先ほどから入り口を見ておるが、律儀に鎧をまとった大鴉の魔物が巡回しておる。あれを掻い潜ろうにも一度探知に引っかかれば袋叩きにあうであろうことはよく分かる、わしらは勇者とはいえ……というか勇者だからこそ探索を行いながらの継続戦闘は得意ではない。

 意外に思われるかもしれぬが、勇者はあくまでも魔王を倒すためのリーサルウェポン、小回りは効かないのじゃ。しかもまだわしはこの身体に慣れとらん、うまいこと潜入するしかない。


『その通りです。ではここで妙案を』

「なんじゃ、申してみよ」


 うーむ嫌な予感がしてきた!


『女装して生贄として忍び込みましょう』

「は?」

『女装して生贄として忍び込むんですよ』

「なんて???????」


 門前で騒ぎを起こしたくない。そこだけスルーできればいい。賢者が魔物に変装して、生贄納品のふりをして砦内に入る。うむ、言いたいことは分かるがそうじゃねえんだよなぁ……ッ!!


「やじゃよ!? どうせ賢者のことじゃからふりふりのドレス着せてくるんじゃろ!?」

『もちろんです!!』

「いやじゃ────ッッッ!! そこまで己を捨てたくない────ッッッ!!」

『大丈夫ですよ!! どんなお姿でも王様は可愛いですから!! 自分を信じて!!』


 必死の抵抗をしながらタスケテ……と二人を見るが、ことの必死さがよく分からんのじゃろうクラムちゃんは首を傾げておるしクリスくんは笑うの堪えておるの見えてるからの!! おぬし!!

 

「えっと、変装……? するの?」

『似たようなものです。三人ともまとめてお姫様にしてさしあげましょう』

「すごいっ、鳥さん絵本の魔法使いみたいだね!」

『そうでしょうそうでしょう。ね! やりましょう!』

「ね! じゃないのよ賢者ァ! 幼気な子を使うとは姑息な手を使いおって、大体女装じゃなくとも普通に変装でよかろう、なあクリスくんよ」

「え、僕は構いませんよ」

「なんとぉ!?」

「身体が弄られなければどうとでも……その方が面白いし」


 お主は自分のこともうちょっと大事にしてくれぇ~~!


「お姫様ってことはドレスかな? 楽しみだね!」

「そーだね、たのしみだね」

『さぁ王様! ご命令を!』

「うぐぐぐっ、いや、男子たるもの流石におなごの恰好は、うぐぐぐぐ……」


 ちらっ。

 あぁクラムちゃんが目をキラキラさせとる!! かわいいのう!! 


「~~~~ッ、やれ! 賢者ァ! 煮るなり焼くなり好きにしろ────ッッッ!!」

『喜んで~~~~~~~~!!!!!』

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