第一章:小さな王様と小さな勇者とこむぎの子の小さな勇気。

01-01 そもそも前提が狂っとるんだから地の文なんて理性いらねえんじゃよ!!

 さてなんだか思ってたんと違う方向に話が進んでしまったが、何はともあれ若返って力を取り戻したのには違いない。このまま魔王城に突っ込んで娘を助けるのじゃ!! ……と、それで済まないのが現実と言うもので。


「一緒に行くことも旅立つことも納得はした、けどそもそも魔王城の場所って特定できているのか?」

「いい質問じゃ勇者クリスよ、悔しいがさっきの脅迫状に至極丁寧に書かれておったんじゃ」

「えっでも燃やしてたような」

「大丈夫じゃ目に入れた情報だからの、賢者に頼んでログを遡ってもらったのじゃ」

「記憶を外部出力するのをログ呼ばわりするのは流石にどうなんだ……」


 いやぁ結構大変じゃったんよ、賢者くん容赦ないから。


「でじゃ。肝心の魔王城の場所なんじゃがな」

「うん」

「ここから遥か南にあるスノーソルト山の頂の灯台からいける魔界のど真ん中じゃ」

「……スノーソルト山って、あの、ここのバルコニーから見えるあの白い山のことだよな」

「そうじゃ」

「一年中塩の雪で覆われて魔物が闊歩しているっていうあのスノーソルト山だよな」

「そうじゃ」

「……。間に合うのか?」

「…………多分……と、とにかく間に合うように頑張るのじゃよ! な! 賢者よ!!」


 勇者の力を取り戻したわしと既になんかめっちゃ強い勇者クリスがおるんじゃから多分どうにかなるんじゃよ! と鼓舞するも正直わしとて自信があるかないかといえばない、なにせこの幼い身体にまだ慣れとらん。その上娘の一大事の日程が向こうの基準で書かれていたこともあって残りの日数も予想が付かん、なんだ金色の夜って、四千回目の満月の夜とかいつから数えての四千回なのじゃ! 不安要素しかない! 困った!


「──。そうですね、頑張れば間に合うと思いますよ」


 なので頑張りましょうねと賢者がローブの裾から笑う。


「なんだかめちゃくちゃ含みのある言い方してるけど本当に大丈夫なのか?」

「分からん、賢者いつもこうじゃからの。とにかく準備を整えたら出発じゃ、まずは南のマスコットベルトを抜けてよじの国に向かうのじゃ!」

「私も城から使い魔を飛ばして王様と勇者の旅に同行します、細かなことはこちらにお任せください」

「わぁ……本当にこのメンバーでいくのか……」

「ほほ、わし以外全員魔王だった旅よりかは遥かに平和じゃの」


 何はともあれ出発じゃ!



 ──マスコットベルト。

 プルガリオ王国の南に広がる大きな麦畑地帯。豊穣の精霊との契約と地形に恵まれたプルガリオ王国は大昔から麦の生産に力を入れてきた。精霊と王家の力によって決して痩せることのない土地を持つ王国は黄金の内海とも呼ばれるこの麦畑を富と平和の象徴とし、大陸中の食を支えることによって戦火から最も遠い場所にあったともいわれる。

 収穫期以外滅多に土を見せることがない麦の海、その中に布かれた道を王家の魔法馬車が往く。

 御者がいない魔法の馬車、操るのは王家の宝物庫に仕える精霊と青い鳥となってエナを読む賢者。今年の麦の海に目を輝かせる少年パスカルと、その風景に息を呑む少年クリスは馬車の小窓から外を眺めては時折ささやかな会話で盛り上がっているようだった。


「今年も豊作じゃのう! 麦が黄金のようにきらきらしとるわい!」

『我が国の農民たちは皆やる気に満ちておりますからね、きっと今年の麦のコンテストも激戦になるでしょうね』

「こんてすと?」

「一年に一度のお祭りじゃ。各区画ごとの麦でそれぞれパンを作っての、皆で食べ比べをしてお互いや外の商人に向けて麦ごとの紹介をするんじゃ! わしも毎年審査員で参加しとるんじゃよ」

「思ったよりもだいぶしっかりした企画だった」

『王様、これでも結構真面目ですからね。何やろうとしても理性が残るんですよ』

「あぁ……コミカルに振り切れないぐらい頑健な理性か……」

「そしてそのロックを破壊してくるのが賢者じゃ、こわいのう」

『ロックですからね』


「今日泊まるこひなた村には旧友がおっての、今から会うのが楽しみじゃ」

「今お姿だいぶ変わられてますけど気が付いてもらえるのか?」

「……はっ、確かに! おぉ気が付かれなかったらそれはそれで寂しいのう……」

『大丈夫ですよ王様、そんなこともあろうと準備は万全です』

「どういうことじゃ?」

『我が国の新聞に王様と勇者様が共に旅立ったこととその一部始終と写し絵を掲載しておきました』

「は????」

『我が国の新聞に王様と勇者様が共に旅立ったこととその一部始終と写し絵を掲載しておきま』

「すまん理性が理解を拒んどる、クリスよ何か分かるかの」

「いえ僕もよく聞こえなか」

『勇者くん様もご一緒に掲載しておいたのでこの国なら顔パスですよ! 見てくださいこの写し絵! 素晴らしい出来でしょう!』

「うわ~~~~なんかものすっごい賢者の趣味を感じる構図~~~~~~!!!???」

「ひぃッ、知らないところでコンテンツ消費されそうなブツ出されてる怖いッ!  っていうかいいのかこれ!? 僕はともかく曲がりなりにも王様だぞ!?」

『大丈夫です昔は週刊で出してましたから』

「週刊!? 週刊って何!? パスカル王はこれいいのか!?」

「まあわしかわいいからのう、何やっても絵になってしまうからの。止めても止まらんからのこういうのは」

「既に諦めてらっしゃる────ッッッ!?」

『心配せずともこれからの写し絵も数がそろい次第アーカイブに纏めますよ!』

「そういう問題じゃない────ッッッ!! せめて許可取って────ッッッ!!!」


 馬車を引く霊馬は黄金の内海を往く。穏やかな風は、収穫期を目前としていた。

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