00-02  魔王討伐に行くといったらショタになった王様がついてきた。なんで???

「若返り過ぎたァーーーーーーッッッ!!」


 困った。いや困ってはないんじゃがちょっと困った。賢者にあれよあれよと乗せられ飲んだ若返りの秘薬、勢い余ってその場で飲んでしまったのはまぁ若気の至りが残っていたせいじゃが今はそういう問題ではなくて。

 メイドがそそくさと持ってきた姿見に映っているのは王族の証といえる黄金の麦色の髪に星の瞳、マシュマロのように白く柔い肌にかつての冒険で培った力が巡っている。賢者が気を利かせてくれたのだろう衣服は当時の旅に着用していたものそのままだ。確かに若返っている、ぴっちぴちの十歳! うんうん一番最初の旅の頃はこんな風じゃったなわし! ってそうじゃないんだよなぁ!?


「賢者ァ!!」

「素晴らしい結果です! これならばかの魔王も討ち果たせましょうとも!」

「いやいやいや十歳の頃の装備じゃろこれ!? 今時の魔王がどれほど危険かお主が一番知っておろう!? せめて十七歳」

「いいえこれでいいのです! あぁ見目麗しい少年が二人も……私今死んでも問題ありません……」

「賢者ァ!!???」


 あぁ大変なことになってしまった、パスカルは頭を抱える。確かに今年で七つになる勇者に魔王討伐の任は重いということで薬を飲んだが、ここまで若くなってしまうとは……! しかし薬を飲んで同行するといったのはわし自身、これはちゃんと責任を果たさねば本末転倒……ッ!


「こうなってしまったが致し方なし!! 構わん!! わしが出る!!」


 やるっきゃねー!!!!!


 ◇


 実は困っていたのはパスカル王だけではなかった。


「(どうして……どうしてこうなった……!?)」


 七歳の勇者、クリスもまた困っていたのだ──!!


「(僕もまだちゃんと事態を把握してないんだぞ……!!)」


 勇者クリス。家の名はない、ただの孤児だ。そして現在から七年後現れる終の魔神討伐に選出される”螺旋の勇者”だ。自分でそう呼ぶのも不思議な感じだが、実際そうすることでしか呼び分けができないので致し方ない。僕は確かに勇者として戦っていたのだ、”七年先の未来”で。

 だが恥ずかしいことに僕は終の魔神に負けた、あと一歩のところでとどめを刺し切れず……気が付けばこの姿でこの時代に目を覚ましてしまったのだ。確かにあの時何が起こったのかは定かではない、これは死の縁に見た夢なのかもしれない。けれどもこれはチャンスだった、螺旋の勇者として戦った世界では常に滅びの危機に晒され己を鍛える時間さえもなかった。だが今からならその準備ができる、幸いこの時代には魔王の軍勢はあっても勇者が呼び起こされるほどの危機は存在しなかった。黄金の時代、その最大の繁栄と終わりの時代なのだ。

 記憶はあった、力も残っていた、なら次こそは勝てる。

 いいやむしろ魔神を出現させないことだって可能かもしれない、時間は限られているがそれでもあの時よりかは遥かに条件は良い! まだ希望はある!


 ……と思っていたのだ、さっきまでは。


 記憶にもある魔王討伐のお触れ、騎士姫ピリカ様が攫われたのだろう。記憶が正しければ別の勇者がこれを解決……というかピリカ様が半分自力で解決して一か月もなく終わった騒動だ。僕はこの件に関わる気はなかった、今動いて変に勘付かれれば終の魔神以前にこの勇者の力の為に殺される可能性だってあったのだ。だからこそ僕はお触れが出たその次の日にこの王国を離れる馬車に乗ることにした、どれだけ若くとも活動が可能な冒険者ギルドが存在する国に渡るつもりだったのだ。

 が、運悪く馬車が魔王の軍勢に襲われたのだ。商人の馬車だ、こういう事故はよくあることだろうが護衛が不意を打たれて全滅してしまった。勇者としての力を使えば魔王だけでなく神殿にも勘付かれるだろう、一人で逃げることだってできたかもしれない。

 けれども、できなかった。

 魔神との戦いで痺れていた感覚が、商人たちの悲鳴で目が覚めてしまったものだから。


 だってもう、負けて逃げてきたところなんだ。これ以上は逃げたくなかった。


 勇者の力を使ったことで僕はすぐさま信託の神殿に見つかった、そしてほぼほぼ強制的に勇者として魔王討伐に出ることになっていたのだ。見知った歴史が変わってしまうかもしれない、見当違いの方角に向いてしまうかもしれない、けれどもなってしまったならもう腹を括るしかない。

 最初は、流石に王様も渋るのではないかと思っていたのだ。七歳だ、過去に何度かあったらしいがそんな選出普通じゃない。しかもピリカ様がらみのことでだ、神殿が勇者に認定していようとも王様の認可が降りなければ正式には勇者にはなれないだろう。

 しかし、だ。

 正直に言おう、舐めてた。全盛期プルガリオ王国のぶっ飛び加減を僕は完全に見誤っていたのだ。


「そういうわけじゃからの、ちょっと待っておれ勇者クリスくんよ。わしちょっと若返るからの!」


 ちょっとで済ませていい問題じゃないと思うんだけどなぁ!!!!

 どうしたことだろう、王様が勇者の認定を渋るのは想定内だった。ただその理由は至極まっとうなものだったし、王様もとてもよく考えてくれていたのだろう。だというのにどういう解決案なんだそれは?

 王様が? 若返って? 旅に同行する????? 続行するの!? この話!?

 しかも今目の前で薬を飲んで若返ったその王様はどう見ても十歳に見えるのですがこれはどういったバグでございましょうか。

 困った起きてることが起きてることすぎて頭が痛くなってきた……そもそも王様が前線に出るってどうなんだって思っていたら兵士たちはまるで至極当然のようにパスカル王コール、アイドルじゃないんだぞ王様はもっと労われ!! 結構な年だろうパスカル王!!

 しかも大体の原因である賢者はバカ笑いしていてどうにもならない、あぁもう収集つかないぞこれ。


「あ、あの、王様……?」


 これもうピリカ様自力で帰ってくることネタバレしたほうが早いんじゃないか!?


「勇者クリスよ……」


 あっだめだとてもそんなことを言って通じる空気じゃない。

 え、肩掴まれた?


「頑張ろう……ッ!!」


 本当に旅に出るのか!?

 続行してしまっていいのかこれ!? もう何も分からないんだが!?


「えっ、あ、あ……あー……」


 目が回る、とはこういうことを言うのかもしれないな……と思いながら天を仰いだ。神なんてものを信じた覚えはないが、こんなわけのわからない戦いに放り込む黒幕なんてイカれた神でしかないだろう。こうなったらやれるところまで突き進むしかない。

 突き進むしかない……が……。


「……が、がんばりましょう」


 どうしてこうなった────ッ!!

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