若返った王様くん(10才)と二周目勇者くん(7才)と頭七歳児のエルフちゃん(400才)がなんやかんやで魔王をしばきにいく話。

Namako

第一部:勇者と王様と女王と魔王と賢者が魔王しばきに行く話。

序章:敗走と再出発のプロローグ。

00-01 未成年に婚約をけしかける魔王なんてパパは認めぬ!認めぬぞ!

 こつこつと幼い足音とゆったりとした杖の音が王家歴史館の赤いカーペットに響いていく。ぬいぐるみを抱きながら歩く少女は時折老人を振り返っては、待ち切れないように次の絵画の前へと進んでいく。普段からあまり人の影がないこの歴史館は、さながら少女の為のささやかな散歩道のようなものだった。

 少女は絵画を眺めては、時折老人に問いかけた。だがその大半は少女にとってさほど興味を惹かれるものではなかったようで、徐々に彼女は退屈そうに頬を膨らませる。そんな様子をみて老人はやれやれだと微笑みながら柔く彼女の頭を撫でた。少女の機嫌が少しだけ前を向くと、ふとその大きな瞳にある一人の少年が映り込む。

 それは大きな絵画だった。多くの見知らぬ人間たちが笑い合いながらそれぞれの手を取り踊っている、その大きな輪の真ん中に一人少女よりも二つ年上そうな王子……のような姿をした少年が微笑んでいた。少女は彼にどこか見覚えがあるような気がしたが、よく分からなかった。しばらくそうして少女が彼に見惚れていると、おやおやと老人が絵画を見上げ目を細めた。


「懐かしいのう」


 噛み締めるように呟く老人の言葉に少女は首を傾げる。


「おじいさまのお友達?」

「そうじゃ、みんなじいじの大切な仲間たちじゃよ」

「なかま……?」

 

 少女は老人を見上げる、その目は不思議と星が散っているようにキラキラしていた。


「じいじの親友を助けるために支え続けてくれたものたちじゃ。……気になるかの?」

「おじいさまの冒険のお話ね! 聞きたい!」


 少女の元気なリクエストに老人はよかろうよかろうと語りだす。

 魔王との戦いではなく、王家の動乱でもなく、天の災いに祈りを捧げたわけでもない。

 どうしようもなくおかしくて、どうしようもなくくだらなくて、どうしようもなくいとしい二度目の冒険を。

 

 親友の為に駆け抜けた、あの春の約束を。


「あれはのう……そう、わしが秘薬で若返ってぶいぶい言わせてた頃の話じゃ!」

「うん! ……うん?」


 とはいえまぁくだらないことには変わらないのだが!



 パスカル王は困っていた、そりゃあもうとにかく困っていた。どれぐらい困っていたかと言われれば毎年増えていく抜け毛と同じぐらい頭を抱えていた。パスカル=プルガリオ・ミシオン、人生三度目の正念場と言ってもいい。

 とりあえず深呼吸をしよう、もう若くないのだ。ちょっと動けば心臓がウッとなるぐらいの年なのだ、だからこういう時こそ慎重かつ的確に事態を把握しなければならないのじゃ。とパスカルはおほんおほんと咳をし、恐る恐る兵に問いかける。おぬし今なんつった?


「す……すまぬ、よく聞こえなかったのじゃ。もう一度言っておくれ? 誰が、何に攫われたと……?」

「はっ、我が国の姫君ピリカ=プルガリオ・ミシオン様が!!」

「うんうん」

「魔王に!!」

「うん」

「攫われました!!」

「ほほう、ほほう、そうかそうか魔王にピリカちゃんが……確かに我が娘は愛いからの、精霊からも民からも大人気だからとはいえなんでそんなことになっておるのじゃーーーーーーーーーーーッ!????? おかしいじゃろ!? ピリカちゃんわしの国で一番強いんじゃよ!?」

「分かりません! あとこちら魔王軍からの脅迫状とのことです」

「燃やせ!! どうせロクな内容じゃないんじゃろ!? あぁいやまてわしが開ける! 呪いの耐性はわしが一番強いんじゃ何かあったら不味いからの!!」


 あばあばと震えながらパスカル王は兵から件の魔王軍からの脅迫状を受け取る。脅迫状と呼ぶにはいささか普通……というか小綺麗な封筒であり違和感があったが、今はそれどころではない。ピリカちゃんの危機なのじゃ、とパスカル王はそれに呪いの気配がないことを確認するとすぐさま開封する。

 そして中身を黙読していくと、徐々にパスカル王の顔色が青ざめていくことに兵がざわついた。そして隣にいた王家に仕える賢者は”あぁ……”と顔をしかめ額を抑え、一応呪いの類ではないですよと皆に声をかける。が、しかし、中身を読み終えたところでその”脅迫状”をそれはもう勢いよく床に叩きつけ魔法の火で燃やしあげてやった。


「魔王とわしのピリカちゃんが結婚するじゃとーーーーッ!? 許すわけがなかろうーーーーーーーッ!!」


 戦じゃ!! これは魔王からの挑戦状じゃ!! と、プルガリオ王国にはその日のうちにお触れが渡った。魔王、姫、そして王様。ここまで揃えば言わずもがなじゃろうて、そう、こうなったら勇者の出番である。

 我が国プルガリオは基本的には平和であれど、節目の年には魔王との戦いが待っていた。とはいえその年はまだ何でもない年であり前回の魔王討伐からも中途半端な年数が立っていた、違和感は確かにあった。だが魔王は魔王、実際魔の軍勢による厄災が出始めた時期ではあったのじゃ。

 ならば必ず神が神殿を通して勇者を呼び出すであろう。と、その時はみんなが思っていた。もちろんわしは勇者にすべてを任せるつもりではなかった。出来うる限りの支援も伝手も用意するつもりだったし、そのための用意もあった。だがしかし、……そうもいかない問題が発生してしまったのじゃった。



「クリス、といったな。導きの勇者よ」

「はい」

「あぁ疑っているわけではないからの安心しておくれ、ただ、のう……」


 勇者はあっさりと見つかった。神が示した勇者には手の甲に神の紋章が宿る、歴代プルガリオ王にはその魔力を見分ける目が授けられているからの見れば一発じゃ。ここに召喚された勇者は確かに神が示した勇者に間違いはない。

 ソーダ海のように蒼い目に、我が空のきらめき星を抱く夜の闇を思わせる黒髪。導きの神官に仕立てられたのであろう勇者の装いは、彼がまるで何年もそうしてきたかのように馴染んでいる。背に下げられた大剣のように見える勇者の剣は、相も変わらず強い力を滲ませていた。確かにどこからどうみても勇者だ、いやむしろ超大当たりだ。王の目は魂の強さも認識させる、目の前の彼は歴代最強の資質を持っているといっても過言ではなかろう。

 だが……。


「おぬし、年は?」

「今年で七つになります」


 選ばれた勇者は、なんと年端も行かない少年だった。

 困った。また困った。今度はいつになっても痛い腰ぐらい困った。

 たった七歳でこれほどの資質をもつことは確かに勇者ではよくあることだろうが、普通の七歳でこれはおかしい。精神年齢がおかしなことになっているのもそうじゃが、なによりも。


「いや……だめじゃろ……それはだめじゃろ……」


 この子を勇者に選出したらわしの面子がめちゃくちゃにやばい……!

 七歳だぞ!? まだまだ遊びたい盛りの人間としては大切な期間の少年じゃぞ!? わしが七歳の頃なんかその辺で泥遊びしとったんじゃぞ!? 親は何をしとるんじゃ、何、行方不明? そ、そうか……ならもっとだめじゃろうが!!

 さすがにこんな幼気なこどもを勇者として認めてしまっては平和ボケの民プルガリオ国民も引く! ドン引きされる! 王様も娘取られてさすがに耄碌したか……とか言われてしまうぞやめろわしはまだボケてない!!


「ならん」


 ”あっ……”とクリスくんがどこか諦めたような顔をしたのが猶更心に痛い! 違うんじゃよ、疑ってるわけじゃないしむしろ本当に勇者なのわかっとるんじゃけどそうじゃないのじゃよ! あぁぁ幼気な子をいじめるじじいに思われたじゃろうか、違うんじゃ……ほんとに違うんじゃ……。どうすればいいのじゃあ……ピリカちゃんは確かに助けたい、しかしこんな可愛らしい子に頼っては大人として色々だめじゃろう……!


「ならんならんならーーーーん!! こんな幼子を最前線に放り込むなど出来るわけなかろう!!??」


 そう幼子を最前線に送ることなどできない。むしろわしが代わりに討伐に出たいぐらいなのじゃ、しかしもう剣を握るには老いすぎた。この老いさえなんとか出来てしまえばついていくことだってできたろうに……?



「賢者よ!」

「ここに」

「妙案はあるかの」

「ふむ……何でもいいのであれば、中々にイカれた方法ならありますよ」

「何でもよいぞ、話せ」

「ではでは僭越ながら」


 どうせ賢者のことだからこの勇者の肉体年齢をあげるだの他の勇者を召喚するだのぶっ飛んだ策をいうだろうなってわしは思っていたのじゃよ。先に言っておくがの。


「王様が若返って旅に同行すればよいのです」

「は?」

「王様が若返って旅に同行すればよいのです」

「は?????」

「パスカル王は勇者クリスの幼さに心配があるのでしょう?」

「ま、まぁの。これでも人の親じゃからの」

「そして本当のところはご自身の手で魔王を倒してピリカ様を連れ戻したい」

「それは本当にそう」

「ですが、お身体に問題がある。……が、王様、以前は”輝きの勇者”として名を馳せた英雄ではありませんか。つまり勇者の旅の知識も技量もエキスパート級、ならいっそ若返ってこの勇者クリスに勇者の道を教えながら魔王を討伐してしまえばいいのですよ!」

「そ、そうかの……?」

「えぇ! かつての輝きを取り戻せば魔王なんてイチコロですよ王様!」

「そうかもしれんの……!?」

「えぇ! えぇ! いけますよ! こんなこともあろうかと、果ての国の錬金術師に頼んで若返りの秘薬を用意してございます!」


 乗せられたわけではない……はずなのじゃがやっぱりこの賢者に変に乗せられた気がするのう! まあ良い、若返りなんてめったにできることではないからの!

 

「あ、あのー……えっと、王様?」

「そういうわけじゃからの、ちょっと待っておれ勇者クリスくんよ。わしちょっと若返るからの!」

「王様ーーーーーーー!?」


 あわよくばこのベコベコになった身体の痛みともオサラバじゃ~~~~~!!

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