第11話 魔王は異世界JK

「……あ、あなた……意外にいい人ね。」

急に魔王の口調が変わり、まるで普通の人間のような錯覚さえしてくる。


ルビは、意外過ぎる幼い顔に戸惑いながらも問い続ける。

「大体だな~大魔王が討伐されたのに、その子分的存在の魔王の役目ってなんなんだ?」


魔王は、口を開けたまま目をパチクリさせる。

「へ?うそぉ?この半年の間、大魔王様からの魔法通話が無いと思っていたら討伐されちゃったの?」


「知らなかったんだ……それはキツイな。まあ俺は記憶喪失で半年以上前の記憶は無いから人のことは言えないけどな……」


魔王が急に目を潤ませながらルビの前で泣き崩れる。

「わあぁぁん!降参する!降参するから助けてよ!あのね!あのね!実は、私は大魔王様の異世界召喚で無理やりこの世界に連れて来られたJKでね。訳が分からないまま魔王をやらされていたのぉ~」


「異世界召喚?JK?何だそれは?」


「ルビ、知らないの?異世界召喚は、異世界の者を召喚するというとんでもなく迷惑な召喚魔法よ。もっとも異世界召喚されて喜ぶ者もたまにいるみたいだけどね。でもJKってのは分からないわね。種族の名前かしら?」

アーネは、天才少女らしく、その広い知識でルビに説明してくれた。


「その……大魔王様がいなくなったのだからもう魔王をやる必要がない?あれ!?じゃあ、どうしても元の世界へ戻れないの?まさかずっとこのまま?じょ、冗談じゃないわ!どうにかしてよぉ~」


こうなるともうそこにいる少女は、魔王どころかただの異世界召喚の被害者だった。


アーネは、しばらく驚いていたが、シーラがある魔法を唱えている事に気づいた。

(あの魔法はたしか……)


「これは予想外の結果ね。おばさんは、どう思う?」

アーネの言葉にピクピクとシーラの眉間にしわが寄っていく。


「だ・か・ら・誰がおばさんよぉ!いい加減にしないと怒るわよ!ふぅ……なるほど……そうね~神聖魔法で虚偽でないことが分かったわ。この魔王は、嘘をついていないわ。」


「さすがはシーラだ。」

フェリックスは、シーラの機転の良さに満足気だった。

恋人としては、鼻が高いのだろう。


「さすがは年の功ね~」

天才少女アーネとしては、シーラの機転の良さが悔しかったようでフェリックスを真似て褒めてみる。

が、シーラに全く相手にされず、自分の子供じみた行動がさらに自分を惨めにした。


シーラは、少し考え事をしていたが、振り返り魔王と話を始める。

「見たところ降参宣言で大魔王の加護が無くなり、魔王の能力は、ほとんど無いように見えるわね。もう魔力はみなぎらないのでしょ?」


「そ、そういえば……あれ?あれれ?というか私のレベルが……い、1になってるぅぅぅ!100だったはずよ!」


「あははっ!それは酷いな~降参宣言で魔王がLV.1って……無能魔王だぜ!無能魔王の誕生だっ!」

レイブンは、腹を抱えて笑っている。


「ルビ、アーネ、この迷宮はラーンザイル王国の管理下だからこのLV.1魔王の処遇は、そちらで決めてもらっていいかしら?」

アーネがシーラの問いかけに答える。

「そうね。フレイヤ女王と話をしてみるわ。ルビ、それでいいわね。」


「あ、ああ……あと一つだけ魔王に質問があるんだ。先月くらいに人間を殺したか?」

ルビが、無能魔王に何よりも大事な質問をした。


「…………」

アーネ達は、無言で無能魔王の回答を待った。

少し離れて、大笑いしているレイブンを除いてだが……


「に、人間を殺す!?そんなことしないわ!訳が分からないまま魔王をさせられていただけで私だって人間だもの!ここを守護するように大魔王に命令されただけで誰も殺したことなんてないの!信じてっ!」


無能魔王の必死の回答を聞いたルビは、すかさずシーラを見る。

「嘘はついていないわ。」


「そうですか……」

ルビは、母の死の真相から遠のいた気がして残念だったが、この少女が残忍な魔王でないことを知り、ホッとした表情を見せた。


「ルビ、手がかりは無しとは残念じゃったな。それにしてもこの魔王が人間だったとはの~驚きじゃわい!こんな事もあるのじゃな~」

タマが驚いているとレイブンがさらに大爆笑する。


「人間を殺したことがない魔王だぁ!?イヒィーー!あはははっ!これは傑作だ!無能魔王よりも善良魔王や自宅警備員魔王と呼んだ方がいいかもなぁ?」


「相変わらず緊張感の無い人ね~でも人を殺す前でよかったわよ。」

シーラは、胸に手を当てながら魔王に微笑んだ。


「まあ、それはそうだ!ふぅ~笑った笑った!ルビ~そろそろ帰るわ~じゃあな~」

大爆笑でスッキリしたレイブンが迷宮帰還魔法で飛んでいく。


「また何かあれば呼ぶがいい。」

「フェリックスぅ待ってよぉ~ルビ、おつかれさま~ああ、そうだ!フェリックスぅ~私の家に寄って帰らない?とても美味しい茶葉が手に入ったのよ。そして、その後は……うふふふ。」


「う、うむ。」

フェリックスとシーラも迷宮帰還魔法で同じ南の方向へ飛んで行ったのだった。

その後の大人の世界は、想像にお任せしよう。

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