第10話 魔王戦

ピリリッ!ピカッ!

輝く雷光。

ライトニング系攻撃魔法と思われる稲妻が、ほとばしった。


魔王は、装備していた黒いマントを華麗に翻し、その稲妻を包み込む。

すると、その稲妻の輝きは嘘のように集束して消え、魔王の部屋は再び暗闇が支配した。


◇◇◇


魔王は、その暗闇の中で魔王になった日の記憶が蘇る。


「今日からそなたは魔王だ。我のために尽くせ。そなたにこの迷宮を託す、守護するのだ。この魔王マニュアルを読み、外敵に備えるのだ。」


「大魔王様……」

魔王は、少し寂し気に呟いた。


◇◇◇


「やるな~さすがは魔王さん!それにしても暗い部屋だぜ。こんな所によく住めるよな~」

そのように軽いノリで魔王を嫌味交じりに褒めたたえたのは、もちろん北の勇者レイブンだった。


「はいはい!部屋は明るくしましょうね。ムーンライト!」

レイブンの意図を汲み取り、後衛にいたシーラが、朗らかな声で魔法を唱える。


すると、シーラの手の平に生まれた小さな光が、天井へ上昇すると部屋全体の明かりが増す。


「有難いシーラ!」

フェリックスは、お礼を言いながら盾を構え、魔王へ突進する。


「頑張ってらっしゃい!私の大好きなフェリックスぅ!」


「はいはーい。戦闘が終わってからイチャイチャしてね~ブレイズアロー!」


「…………これだからおばさんは……」

アーネは、魔法攻撃後にため息交じり囁いた。


「お、おば……聞こえたわよ!私はまだ22歳よ!」


(やばぁ~おばさんに聞こえちゃった!)

その時だった。アーネとシーラは、何かを察し、素早く詠唱を始める。


「ぬおおおおっ!」

パシィィィッ!


「ぐむぅっ!?」

フェリックスは、予想外の位置で魔法障壁に衝突してしまう。


「魔法障壁だとぉ!?シーラぁ!」

名前を呼ばれた時には、シーラの詠唱は完了していた。


「はい!ディスペルっ!頑張ってフェリックスぅ!」

シーラの解除魔法ディスペルで魔法障壁が消えていく。


「私からはイージスよ!受け取ってぇ!」

アーネから強力な防御魔法がフェリックスへ追加された。


「これはどっちもありがてぇぇ!ぬおおおっ!」

フェリックスは、防御力の上昇を肌に感じ興奮する。

再び、魔王へ全力で突き進む。


「わしの出番など無いの~」

「俺もだよ……」

ルビとタマは、ただ勇者達の戦いを後方から見守るしかできなかった。


「なっ!ちょ、ちょっと!ひょっとして高レベルの勇者なのぉ!?こんなの勝てるわけないわよぉ!」

異形の鎧をまとった魔王からは、想像ができない可愛い声が魔王から聞こえてきた。


「な、なんだぁ?確かに俺達は、レベルMAXの勇者だが……」

突進していたフェリックスは、魔王の玉座手前で停止した。


「レベルMAXぅ!?俺達?それってあんた達全員がレベルMAX勇者ってことぉ?」

魔王の意外な言葉に全員が戸惑う。


たった一人を除いては……

「いや~俺は違うよ。俺はルビ。レベルMAXの勇者だけを召喚できる男だ。」


「はぁぁぁ!?レベルMAXの勇者だけを召喚?魔王マニュアルでは、いくら魔王でも勇者っていえば1人でも強敵とあるわ!それがレベルMAXっ!しかもこんなに大勢!あんたら正気?ありえないってぇぇぇ!」

意外過ぎる魔王の子供じみた悲痛な叫びに勇者達は、様子を見ている。


「う~ん……でもそこのアーネは、勇者だけど、成り立てでレベルMAXではないけどな。」


「うっさいわね!すぐにレベルMAXになってみせるわよ!というかね~どうして敵に私がレベルMAXでないって教えるのよ!あんたバカなの?」

ルビは、アーネの言葉を無視して話し続ける。


「じゃあ……レベルMAXの勇者3人でどうだ?」

ルビは、友達とゲームのルールを決めるような感覚で問いかける。


「それでも負けるよぉ~魔王マニュアルによると、普通は勇者ってパーティーに1人で、残りは他の職業のはずなのよ!なのに、なのに……ありえないよ!」

(こんなの勝てない……大魔王様ぁ……)


「まあな~おいらも勇者召喚されてパーティー組んだけど、勇者が4人もいるパーティーは初めてだぜ!」

レイブンは、魔王に同情するように賛同した。


「あ、あんた達!勇者のくせに……ひ、卑怯よ!卑怯は魔王軍の特権って知ってる?」


「だから俺は勇者でないけどな。」

ルビは、肩をすくめる。


「そ、そうだったわね!そ、それでもよ。他は勇者だらけでしょ!というか、あんたが一番質が悪いわよ!ぞろぞろとレベルMAX勇者ばかり召喚してー!な、泣くぞーーーーあ、あ、あほーー!」


魔王は、涙ぐみながら吠えた。

それはまるで兄妹喧嘩で負けて泣く妹のようにも見えた。


「あほーーって……うるさいな~じゃあどうすればいいんだよ?聞いてやる。でも、できる事とできない事があるからな?」


「ルビっ!魔王と取引をするつもりか?魔王なのじゃぞ!」

しばらく黙っていたタマがさすがに焦りながら注意してきた。


「とりあえず話を聞いてみないとな。何だか敵意は感じないんだ。」


魔王は、無言で数歩進みながら仮面を外す。

すると、そこにはまだあどけなさが残る少女の顔が現れる。



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