第12話 桜花

アーネは、LV.1の無能魔王をジロジロと舐め回すように観察していた。

「……な、何?……」


「無能魔王……善良魔王……自宅警備員魔王?なんだか呼びづらいわね。年齢はいくつなの?」

「じゅ……16です……」


「へぇー私と同じなのねー。異世界召喚されたってことは……異世界では何て名前だったの?」


「名前は……おうか……桜花よ。」


「桜花ね!私はアーネよ。まあ、あんたも大魔王の被害者みたいだし、仲良くしましょ。」

「アーネさん……あなたも被害者なのですか?」


「アーネでいいわよ。同じ年だし、敬語はやめてね。私の母は大魔王戦で命を落としたわ……とてもとても優しいお母さんだった……」

アーネは、うつむいたまま動かなくなってしまった。


桜花は、聞いてはいけないことを聞いてしまったと思い激しく動揺する。

「辛いことを聞いてごめんなさい……」


「記憶があるはあるで辛いものだな……でも、それでもやっぱり記憶はある方がいい。」


「……ルビ……ああ!この間抜け面はルビね!半年以上前の記憶がないのよ。あと育ての親は大魔王戦の勇者だったのよね……でもそのマリアンヌ様も少し前に……」

アーネは、最後まで話すことができず、また言葉が途切れた。


「アーネ……大丈夫か?」

「う、うん……ルビはこういう時いつも優しいね。でもあまり優しくしないで……私は……私は…………ううん。何でもない。」


アーネが落ち着くのを見計らってルビが立ち上がる。

「じゃあ、俺たちも戻るか。」


「ルビよ。わしは少し疲れた。魔力切れのようだから少し休眠を取らせてくれ。」

「そうなのか?戦いも終わったし、別にいいぞ。」


「すまぬ……」

タマは、そう言うと輝きが減少し、休眠モードに入ったようだった。


「こいつって、何もしてないでしょ?」

アーネが不満げに横から言い放つ。


「まあそうだけど、こんな勇者ばかりの戦闘では俺も何もできず辛かったぞ。」

「あんたはその勇者を召喚してるのだからいいじゃないの。」


「それはそうだが……ふぅ……迷宮帰還魔法アイテムを使うぞ。」

「う、うん。」

ルビは、アーネと桜花に近寄ると迷宮帰還魔法アイテムを使用した。


(このルビって人……なんだか不思議だわ。何故かこの人に懐かしさを感じる……記憶喪失なだけで、実は私と同じ世界から召喚されていたりして……)


桜花は、迷宮帰還魔法の光の中でルビに惹かれる何かを感じていた。


そして、ルビ達が帰還した数分後。


ピシッ!パキッ!

パリンッ!


桜花のいた玉座の下から何かが割れる嫌な音が聞こえたのだった。

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