第30話 最終章

 美しく星が瞬くその夜、フォルトゥーナ王国、王城の大広間にて、アダルベルト王太子の誕生の祝賀会が行われた。


 集まった王侯貴族や各国の賓客は、彼の姿を見ようと、ざわめく心を落ち着かせながら、その時を待っている。


 煌びやかに飾られた王城の大広間は、この国の高い権威を示し、テーブルに盛られた様々な食材より作られた料理は、この国の豊かさを物語っている。


 柔らかな音楽を奏でるオーケストラの演奏は終わりを告げ、人々は彼の入場が近い事に気づいた。


 厳かに大扉が開き、エヴァンジェリーナ・サヴィーニ公爵令嬢を伴ったアダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレが堂々とした態度で歩を進める。


 その美しい姿に会場の女性は頬を染め、その隙のない動きに各国の賓客は歯噛みする。


 アダルベルト王太子は大広間、中央にて歩みを止め、エヴァンジェリーナに向き合う。エヴァンジェリーナは美しいカーテシーを行い、彼の言葉を待つ。


 皆が固唾を呑み、二人の動向を見守る中、アダルベルト王太子が高らかに切り出す。


「エヴァンジェリーナ・サヴィーニ公爵令嬢!私はここで貴女との婚約破棄を宣言する!」


 静まる会場から、銀色の髪を持つかわいらしい女性がアダルベルトの元へ歩む。


「今この時から、コスタンツァ・メルキオルリ伯爵が私の新しい婚約者だ。皆、承知おかれよ」


 コスタンツァはすべるように滑らかな、カーテシーを行う。


「そして、エヴァンジェリーナ・サヴィーニ公爵令嬢。貴女はヴェリタ国セヴェーロ・ヴェリタ・デルヴェッキオ国王に嫁がれよ」


「ありがとうございます。アダルベルト王太子様」

 エヴァンジェリーナの瞳から真珠の様な涙がこぼれる。


 と、同時に喝采の声が上がる。

 会場より、セヴェーロが現れ、エヴァンジェリーナを抱きしめる。


 祝福の声が上がる。

 アダルベルト王太子を称えるもの。

 新しく結ばれた2組の婚姻を喜ぶもの。

 その歓喜の声に、笑顔で応えながら、アダルベルトは心の中で、呟いた。




(なんなの?この茶番…………)





 魔王と俺達の戦いは各国に目撃された。幸い球体の中まで見られることは無かったので、誰がどうしてた、までは俺達だけが知るところとなった。


 そして球体より放出される攻撃魔法の威力が凄まじかったため、周辺各国は恐らく強力な何かと何かが戦っていると推測。


 神託があった事もあり、球体内部では魔王とアダルベルト、それに追従したコスタンツァが戦っていると皆は納得したそうだ。

 

 実際はオカンと麗が、理屈もへったくれもない魔法で、一方的に魔王を蹂躙する姿を、俺とオヤジで恐れ慄きながら、見守っていただけだ。


 たんぽぽの綿毛の様になった魔王を、『えい!』と言う掛け声で、麗が踏み潰した事により、勝者は麗になった。


 そして、勝利の神により再びシナリオが作成された。

 ① ヴェリタ国は長い間、魔王を封印していたが、その封印は解かれ、セヴェーロ国王に取り憑いた。


 ②取り憑かれたセヴェーロ国王は勇者であるアダルベルト王太子を殺しに来るが、コスタンツァによって阻まれる。その際に、アダルベルトの婚約者エヴァンジェリーナを攫った。


 ③アダルベルトとコスタンツァはエヴァンジェリーナ救うため、セヴェーロ王国へ行った。


 ④セヴェーロ国王は、自我と魔王の意識の間で、揺らいでいた。エヴァンジェリーナはそれに気付き、セヴェーロ国王を励ました。


 ⑤エヴァンジェリーナの愛の力でセヴェーロ国王より、魔王を切り離す事に成功。アダルベルトとコスタンツァにより、魔王は倒された。


 そのシナリオを聞いたオカンは、

『センスないわね。3流のシナリオライター以下ね。勝利の神』と発言し、俺達を凍り付かせた。


 

 ①~⑤のシナリオを元に、俺は自身の誕生日に、エヴァンジェリーナをわざと婚約破棄し、セヴェーロとの愛を認めると言う三文芝居をやらされた。


 恋愛小説のような、セヴェーロとエヴァンジェリーナの恋は、皆に感動を与えている様だ。


 そして、コスタンツァは、自身の恋心を隠して、愛する人の婚約者を助けに行った健気な女性と言う称号を得た


 俺は、『勇者』と言う称号。結局、あの『アイタソ』で与えられる称号を頂く事になった。結局、あのゲームってこんな終わり方だったのかな?と、麗が呟いていた。


 パーティー会場で、オカンとオヤジは皆に囲まれ、祝辞を受けている。今日は何のパーティーだったかと思うけど、それも悪くない。

 だって俺達みんなの誕生日だから。


 お陰でパーティーを一人抜け出し、テラスに移る事ができた。


 (星が綺麗だ)



「アダル様!」

「あぁ、コスタンツァ。君も抜けてきたの?」

「そうだよ。だって人がいっぱいで疲れちゃった」


 笑うコスタンツァは、紫に金の刺繍が入ったプリンセスラインのドレスを着ている。母上が俺に内緒で作ってくれていた。


「似合ってる?」

 スカートをヒラヒラさせながら、首を傾げる。


「うん、かわいい」

「ありがとう」

 ニッコリ笑い、麗は俺の横に並ぶ。テラスから二人で見る星は、綺麗だ。


「雅也さんと燈子さんは、最短での結婚式を目指すって言ってたよ。相変わらずラブラブだね」


「俺は、妹と弟、どっちが良いって聞かれたよ」


「あの二人の子供だと、すっごい美形になりそうだね。咲夜君はどっちが良い?」


「俺はオカンが落ち着いてくれれば、どっちでも良いよ」


「その理屈だと、咲夜君を産んだ燈子さんは落ち着いてるはずだよね?」

「そう・・だね?」

 

 俺と麗は笑った。落ち着くはずがないんだ。オカンだから。


「あのね!咲夜くん。前世からの夢があるの!叶えてくれる?」


 麗が勇気を振り絞った様な勢いで俺を正面から見据える。


 俺の返事は一つしかない。

「勿論、俺ができる事なら何でも」


 麗は真っ赤になりながら、俺に耳打ちする。その願いを聞き、俺もつられて赤くなる。

 そして、向き合い、笑った。


「分かった。約束する」

「うん、よろしくお願いします」


 そうして、俺達は星空の元、テラスで大人のキスをした。

 これからの平和な未来を堪能する様に。



~fin~

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オカン公爵令嬢はオヤジを探す 清水柚木 @yuzuki_shimizu

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