記録No.14 防衛作戦1日前、第一防衛部隊壊滅

「ふざけんな!ありゃ相打ちだろ!」

「いえ、伍長は右脚部うきゃくぶを削ったにすぎません」

「いいや、あれは相打ちだね!」


戦闘シュミレーションが終わったあと、勝敗についての言い争いが始まった。

お互いに頑なに負けを認めない。

いや、確かに俺も被弾をしたが、右脚部に食らったのみだ、特にデカい損傷じゃなかった。

それに対し伍長はコクピットを持っていかれている。

これが決定的な差…なのだが、伍長は頑なである。


「…伍長、面倒ですしリアルファイトで決めませんか?」


言い争いに飽き飽きしてきていた俺は、もう手っ取り早く決めた方がいいんではなかろうかと思っている。

構えをとった。


「おういいぜ、やってやろうじゃねぇか…」

「行きま━」

「おいコラお前ら、作戦1日前に何しとんじゃ」


とても低くそして怖い威圧感マシマシな声がした。

俺も伍長も堪らずビクッとビビり、その声の主の方に視線を向けた。


「…あ、アルゼーバ・ルマニ上等兵殿…」


大木のような腕に足、オマケにとても良いガタイ(身体)。

この隊のタンクを務める機体、『ガヴァーチャ』、インド神話の鎧の名だ。

名の通り装甲もカッチカチで、パイルドライバ如き軽々弾く。

しかも驚くことに、盾を4枚同時に持つことが出来る。

そして背部バックパックには予備の盾が4枚。

それと引き換えに攻撃用装備は、アサルトライフル二丁、ブレード二刀とあまり無いが、装甲の硬さが恐ろしい機体だ。


「な、なんだよ、アルゼーバ…」

「何だよじゃあねぇよ、なに『武神』さんに対してキレてんだよ、あと勝負見てたけどありゃお前の負けだ」

「…」


アルゼーバは武神ガチ勢のようだ…

周りに認められるのはありがたいが、武神とかいう大層な名は勘弁して欲しい。


「だろ?少佐」

「…はぁっ…そ、そうです…はぁっ…は、早いんですよアルゼーバ上等兵…」


呼ばれた少佐は、かなり息が荒かった、可哀想に…


「少佐…大丈夫ですか?」

「す、すいません…結構急いできたんですが…」

「そんなに急がなくても…」

「武神さんや、あんたの技量は一般人ができるものじゃあ無い、貴重な人材なんだ、いいな?」

「は、はい…」


アルゼーバ上等兵は俺の方をがっちり掴んで、訴えてきた。

本当に勘弁願いたい、こっちは人に認められるということが稀なことなのだ。

泣きそうになる。


「おいお〜い、アルゼーバ、武神殿がビビっちゃってるでしょうが、やめなさいや」

「んだよマゼラン」


マゼラン・ピューリ大尉、あとから聞いた話だが、少佐より年上らしい。

隊員曰く、「あの人は母性の塊だよ」との事、…いかにも見た目は『お姉さん』…いや、もはや『お母さん』という感じなので納得である。

搭乗機は『ユキムラ』、攻撃型の機体で、ビームランチャー二丁にガトリング砲二門。

積載量どうなってんだろう…


「いや、良く目を見なよ〜、怖がっちゃってるでしょ〜?…ごめんね〜うちのゴリラが…」

「お、お気になさら…わぷっ?!」

「よしよ〜し、連戦とかで休む暇なくて疲れてたでしょ〜…」


突然腕を掴まれたかと思ったら、マゼランさんの母性の塊に捕獲された。


「あ〜…またマゼランさんの悪い癖が出てますね…」

「お〜、武神殿も捕まっちまったか」

「何騒いでんだ〜?」


騒ぎ…という訳では無いが、周辺を通ったり、聞きつけたりした隊員達がどんどん集まってきた。

ここの人達は何故こうも活力に溢れているのか…

その後、隊員が揃って何故か俺がちやほやされたり、腕相撲大会がはじまったり(優勝はアルゼーバ上等兵)と、まるで学生みたいなノリで色々とあった。


「少佐、伝え忘れていたことがあります」

「はい?なんですか?」

「敵にドローン機体がいる可能性があります、ので、その機体を確認次第、俺に連絡を入れるようお願いします」

「大尉、うちの隊員でもドローンには対処できますよ?」

「そーだぞ武神殿、ドローンぐらい…」


皆がブーブー、とブーイングをかましているが、悪いがそんなところじゃない。

ドローンは俺の仇、敵、アイツだけは絶対に許さない。

その意図が伝わったのか、はたまた目がやばかったのか


「いえ、うちのシステムが機体に侵入してその制御を奪う、というハッキングのようなものが作れたと報告してきましたので」

「ほぉ?…」

「よくは分かりません。しかし、自分であればドローンの対処は万全です、避け方も分かります」

「え?避け方とかあんの?」

「はい、ドローンの予備動作でどの方向にビームが飛ぶか…」

「うおいちょっと待て、ドローンって基本的に20機とかあるよな?」


隊員のひとりが声を上げた。


「はい、ありますね」

「それ全部見るの?」

「はい」

「…武し…いや、大尉の機体は旧式のすっげぇ見ずらいあれだよな?」

「ええ…今どきの機体は周囲全貌モニターだからもっとやりますいと思いますが…」

「待て待て待て!どうやってドローン全部見るんだよ!?」

「旧式とはいえ、機体の反応性を上げれば、ギリ見えますので…」

「…恐れ入った、やっぱあんた武神だよ…」


肩を竦めて感嘆の声を上げた。

その他の隊員もみな驚くか若干引いていた。


「あ…とりあえずそういうことなので━」

《━ビビビ、ビビビ、緊急、緊急、総員司令室に集合せよ》


まとめようとしたら、突如としてアラームがなった。

心臓にとても悪いんでもうちょっと音を低くして欲しいもんだ。



「長官、何があったのですか?」


その後ダッシュで全員が司令室に走り出し、途中から競走みたいになっていた。

ちなみに結局中に入るのは隊長である少佐が1番初めに入るので、その競争に深い意味はなかった。


「あぁ、緊急事態だ」


司令室に入ると、かなり慌ただしかった。

長官の顔にも少し動揺が見える。


「先程、深夜3:20、沿岸部を抑えていた第1防衛部隊が壊滅した、挟み撃ちにされたようだ」

「「「「え!?」」」」

「よって、我々の作戦開始時間も早める、当初は午前10:00からだったが、早めて早朝7:00からとする」

「「「「「…ハッ!!」」」」」

「次の情報だ、こちらの方がマズイ」


長官の顔が悔しそうに歪む。


「…我々の後方に敵発見の報告があった、作戦の見直しを頼む…」

「「「「こうほう?…」」」」

「あぁ、後方に潜入部隊がいた、我々の補給線生命線に関わるのでな、作戦の変更を頼む」

「了解しました…」


少佐の返事と共に、皆ゾロゾロと司令室から出て、無言で作戦会議質へ向かった。

…この状況、かなりまずい。


「…少佐」

「…はい」


俺は少佐に声をかけた。

少佐はこちらを見ず返事した。


「第一防衛部隊って…フライヤーが居た…」

「…そういう事ですね…」

「…後方に敵部隊…壊滅した第一防衛部隊と同じように、挟まれているということですね…」

「えぇ…」


少佐は立ち止まった。

振り向いた顔は蒼白だった。

俺はそんな少佐にとある提案を持ち出した。


「少佐、隊を9:1ぐらいに分けませんか」

「…それは…どちらに9ですか?」

「後方です、補給がなければ我々は戦えません」

「…一応聞いておきますが、大尉はどちらに?」

「1ですが?」

「でしょうね…とりあえず向かいましょう」


少佐は呆れきって、再び歩き始めた…



その後の作戦変更で決まったのは、以下の通りだ。

1、本作戦では隊を二つに分け、シグルズ・フリート隊、カルナ・ヴィザール隊の分隊とする。

2、マゼラン大尉、アルゼーバ上等兵含む以下30名の隊員は、ローナ少佐の指揮下のシグルズ・フリート隊、後方敵部隊を制圧。

3、ブルーズ、マーズ両中尉、ナルク伍長は大尉の指揮下のカルナ・ヴィザール隊は前方敵部隊及び敵基地の制圧。

4(ディーコン大尉特務)、敵大型兵器及び、敵エースの撃破。


と言った感じで、複数名の士官達が俺の指揮下に入った。


「よろしくお願いします、ブルーズ中尉、マーズ中尉」

「おう、よろしく」

「よろしくな。あ、予め言っておくが、俺らはそんなに指揮に従わないぞ、つーか従えないぞ、そこのところ頼むぜ」


軽いノリでとんでもないことを告げてきた。

…この人ら普段どうしてたんだろう、と思ったが、俺もそんな大差ないことに気がついたので、文句は言えない。


「じゃな〜」


そう言って中尉たちは部屋に戻っていった。

俺もそれに続いて寝たいところなのだが、まだ1人…


「えっと…あの…」

「ナルク伍長ですか?」

「は、はい」

「あなたの機体は、射撃装備がありません…よね」

「は、はい…近接戦専用なんです。射撃装備は…少し事情で…」


おかしな話である、大体なんでもいいから射撃兵装は持っとくべきなのだが…

つーか、事情があるからと言って近接武器しか使えない、というのは、首を絞めるどころの話じゃない気がするのだが。


「事情って?なんですか?」

「…優秀な近接戦パイロットを代々うちの家は誇っていまして…私はそんなに好きじゃないんですけど、まぁ家の方針なら仕方ないなと…」

「強制ってことですか?」

「えぇまぁ…」


今どき近接戦機体なんざ相当腕がいる上に基本的に不利だ。

難儀な家だ。


「あと…まぁ、大尉になら言ってもいいですかね」


俺が呆れていると、


「とある人に憧れたんです、まぁその人は射撃兵装も使ってたんですけど…わたしの二、三個下に、軽装甲高機動機体で、アサルトライフル二丁と刀1本だけ…いや、後半は素手、まぁ所謂いわゆる武装無しで、とある殲滅大会でとんでもない記録を作った人がいましてね〜」


んッ!?


「へ、へぇ〜…」

「まぁその人途中でアサルトライフルすら打撃武器として使ってたので、まぁ射撃はなくてもいけるんじゃないかなって」

「理由の割合聞いていいですか?」

「…2:8ぐらいですかね?」

「後半がほとんどじゃないですか!?…まぁ、特に深入りはしませんが…流石になんか持っといた方がいいと思う…思いますよ」

「ええ、まぁ少しは持とうと思います。あと敬語はいいですよ大尉、多分そんなに年齢変わりませんし」

「…女性の方に年齢聞くのはまずいと思いますけど…まぁ、何となくわかりました、できるだけなしにしますね」

「早速なくなってない気がしますが…」

「そのうち無くなります…あ、俺の機体も自慢できるレベルなので、後で見てみてくださいな」

「えぇ、拝見させて頂きます…では、」


ナルク伍長は帰ろうとしていた。


「あ、ナルク伍長」

「はい?


俺はナルク伍長の耳元で、こう言った。


「下手にあの『計測不能』のこと言いふらさない方がいいですよ、俺そんなにいいイメージないらしいですし…」

「…え?…ええ!?」

「では!ナルク伍長、またあした!」


俺は颯爽とその場から去った。

ナルク伍長は混乱していた。

…たまにはカッコつけてみたいんでな。

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なんてことない俺と相棒が一人前のパイロットとなり、戦争を終わらせる話 @pokomaru87

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