記録No.13 伍長のリベンジマッチ①

「…少佐、試したいカスタムがあるのでデータ書き換えていいですか?」

「はい?良いですが、あんまり慢心していたら負けますよ?」

「…負けるなんて1ミリも思ってないでしょうに…」


俺は今、コクピットに居る。

見える映像はシュミレーションの中の機体だ。

機体の各所設定をいじっている最中だ。


「…燃料タンクは背部接続部に、と…よしよぅし、この設定がちゃんと固まりさえすれば、前の問題は解決できるな」


前の戦いで、俺は燃料切れを起こした。

まぁフル装備というバケモンみたいな荷重をかけた上、燃費なんて毛筋ほども考えてない運用法だったので当然の結果なのだが…戦場で切らすのはあれで最後にしたい。

ので、今、それの対処として燃料タンクの増設、その他の燃料使用の適正化…というか燃費を上げるためにも無駄を省いている。


「システム、あと何分だ?」

「残り5分ほど』

「はいよせんきゅ…ところでシステムさんよ」

「はい?』

「…指輪の件、なんでわかった…」


聞きそびれていたので、システムに問うた。

教官ぐらいしかわからないであろうことをなぜ知っていたのか、あとシャロが照れていたことを何故…


「簡単なこと、軽く予想がつく、当機パイロットが心を許す相手など限られている』

「心を許す、ねぇ…」


少し苦い思い出が脳裏によぎる。


『三人とも、隠し事はなしだよ?』

『あぁ、もちろんだ』

『よ、よよ、よろしく…』


…雨が降っていた、あの日。


『おい…どういうことだ…』

『…う、嘘だよね…』


見事に裏切られ、完璧に術中に陥った。

そして、彼女が最後に言ったのは。


『…こんな…つもりじゃ…』


彼女の声は震えていた。

その後無線は切れ、彼女の機体は姿をくらませた。

…オマケに、アイツがくらませた方向の国は完全な貴族国家、『シャルレラル王国』、他国を完全に人として見ていない恐ろしい国だった。

あの国の輩はだいたいパイロットとしての技能もバグってるし頭もおかしい。

後述の理由もあり、俺への精神的ダメージは甚大だった。


「謝罪。パイロットの精神衛生上良くない発言だった』

「いや気にすんな、いまだ吹っ切れてない俺が悪いんだ…裏切り者に、いまだ情がある、情けねぇ俺がな…」


先ほど解説したいざこざ以来、ろくに人を信用しなかった、シャロも例外ではない。

脳が、心が拒んだ。

人は、一番信用していた人間から裏切られると、存外影響を受けるものだ。

当たり前だと思っていることの大抵は、当たり前じゃない。

俺はあの時、身をもって実感した。


「…パイロット、機体調整を勧める」


システムすら、心配するほどだ。

俺にとってかなりのことだった、周りから浮いているのも、彼女を俺とシャロがかばったせいである。

…あんな思いはもう、勘弁だ。

幸い、事情を知っていた教官のおかげで本部には詳しく伝わっていない。

教官には感謝しかない。

━…だがまぁ最近、○○○になら、『○○感情』を抱いてもいいのかも…心を許してもいいのかもしれない、と思っている。

(ディーコン氏より、ここでは伏せておけと言われたため、空欄を残しておく。)


「…なぁ、システム」

「…何だ』

「…○○○なら、受け入れてくれると思うか?」

「…肯定、むしろ否定材料が無い』

「そんなにかよ…」


システムさんはいつも正論しか言わない、たまには冗談もはさめっての。


「…さて、準備もセッティングもあらかた済んだし、行くか」

「了解、シュミレーションに移行』


気持ちを切り替えて、操縦桿を握る。

今回、機体の方はさっき言った通り、持久戦や高速機動戦用の装備だ。

その為、いつものブラスターからビームは出ない、というかそもそもブラスターですらない。

ビーム兵器分の出力を全て駆動系に回すためである、そのためかなりえぐい加速とノビになる訳だが…まぁ大丈夫だろう。


「ディーコン・ウェイド、ログインしました」

「了解です大尉…って、ちょっと待ってください…なんですかこのスピード数値…」

「…とりあえずやって見りゃ分かりますよ」


なるようになる、と同義の言葉だが、今まで俺はそうしてきた。

不思議な事だが、大体の武器に使ったことがあるような記憶があるのだ。

そのおかげだかせいだか知らないが、武器の扱い、弱点、そして『技』もわかる。


「…あと、この翼部ブースター、ハンドアンカーと薬莢式パイルドライバ…なんかめちゃくちゃに改造してませんか?」

「全部既存の兵器で、なおかつ現在使用されてなくて、大体の基地の倉庫番してる方々なので問題ないかと」

「…どこでそんな情報を…当たってますけど…」


やはり、あった。

情報源は教官なので信用しかしていなかったが、最前線にあるかどうかはわからなかった。

だがまぁやはりあった、あとは使い方を固めるだけだ。


「おい、いい加減やろうぜ?」


そして待たせていた伍長がしびれを切らした。

逆の立場なら納得だ。


「えぇ、やりましょう、手加減はもちろん」

「無しに決まってる、ぶっ飛ばしてやる…」


…伍長気合い入りすぎじゃなかろうか。

俺は一旦無線を切った。


「システム、お前は一旦休んどけ」


ついでにシステムも切ろうとした。


「…提案、ハッキングプログラムの制作』


まぁあいつの事だからそう簡単には休んでくれない。

オマケにハッキングとかなんとか言ってきた、何に仕込んでどう使うのやら…


「ハッキング?…よぅわからんがとりあえず作りたいなら作りゃいいんじゃないか?」

「了解、パイロットの意図通り、正式に管理システムが補助出来なくなった』

「…お前感情あんじゃないの…」

「否定、人間の感情は複雑不可解、そんなものは持ち合わせていない』

「へいへい、悪かったよ」


とりあえず頭はよく回るもんだな、とボヤいた。

システムはそれ以降何も喋らなかった。


「両者、準備はいいですか?」

「完了してまっす」

「ぶっ飛ばす…」

「伍長は肩の力を抜いてくださいよ?…では、始め!」


両者の機体、元々の距離は1000m程あったのが一瞬で詰まり、


「早っ!?ッチ!」


伍長はたまらず回避行動をとった。

俺は、


「Oh Yeah!!!!????」


想定の10倍ぐらい早かったのでビビった。

1000m位がたったの8秒、時速で表すと450km。

いきなりフルスピードなんざ踏むんじゃなかった、というか普通するもんじゃない。

実戦なら確実にぶっ飛んでた、口から血が。


「っっ…じゃじゃ馬に拍車がかかりやがったなぁ…」


俺は何とかスピードの減少を少しに抑えつつ、方向転換の体制を強引に取った。

Gに耐性のある俺ですらこれなのだから、恐らく常人から見たらもう人じゃないのだろう。

『頭おかしい』、がいよいよ誉め言葉になるのかもしれない。


「っっ…ようやっと馴染んで来たな…行くかァ!」


何とかGに慣れてきたので、攻撃態勢に入る。

今回の装備は薬莢式パイルドライバ、180ミリ装甲貫通弾折り畳み式カノン、ワイヤハンドアンカー、大太刀、その他いつもの機銃だ。

フル装備からの改造で落差がジェットコースター並みだが、まぁ相手が相手なのと燃費がカス、おまけに機体が悲鳴を上げるというトリプル役満を達成したので致し方なしだ。


「舐めんなよ!」

「全力攻撃ですが!」


双方の距離が詰まり、今度は正面衝突した。

身軽で軽装の刀を構えた機体は、横回転をしつつ斬りかかり、機動性、装甲、武装何もかもオールラウンダーを目標とされた機体は、それを防ぐべく盾を構えた。

金属が擦れ合う。


「オラァ!」


盾で弾いたと分かった瞬間に伍長は脚部ブレードを差し向けてきた。


「あぶなっ⁈…前とは大違い…」


あと少し反応が遅れていたら機体が真っ二つである。


「とか言いつつノーダメなのが腹立つよなぁ!」

「簡単に当たってたら実戦で死ねますからねぇ!」

「じゃあ死んでろ武神!」


伍長の機体、『アンドラス』は射撃格闘両方こなせる機体ではあるが、どちらかといえば射撃寄りである。

その所以━━両肩部それぞれ二梃ずつ搭載された大型ビームカノンが火を噴いた。


「やっぱ高出力な機体だな…!」


計四門の最新型の超ロングレンジ兵器、『ソロモン』。

大体の連合軍の機体に搭載されている、シャロの機体のライフルはこれの改良型だ。

俺は軽く回避行動をとり、光を避けた。


「クソッ、何で当たりやがらねえ!?」

「そりゃ…いえ、何でもありません」


つい本音が出そうになったが、ぎりぎりでこらえた。

あぁシャロ、お前の射撃が懐かしいよ。

ちなみに、シャロはもう人間の域を超してる気がするレベルで当ててくるので、あいつはやはり射撃の鬼なのだろう。

その証が…


「この野郎!」

「っ?!…そこだッ」


伍長がしびれを切らして格闘戦に持ち込んできていた。

具体的にいうなれば高速ライダーキックをメインカメラに食らうところだった。

それをなんとか見切って、後頭部にサマーソルトを返した。


「ちッ…」

「もらった!」


伍長の機体は完全に体制が崩れ、即座に突っ込んだ。

スパイクの大太刀が入━


「かかったな」


━りきらず、コクピット装甲を掠め、今度はこちらの体制が不味いことになった、隙だらけだ。

俺は即座に旋回し伍長の機体を視界内に捉え、


「やっぱりそういうふうに対応するだろうと思ったぜ!」

「っ!!」

(上かッ)


伍長の機体が上から斬りかかってきていた。


(回避は間に合わない…ならば!)


完全に先手を打たれているのでこちらは何とか凌ぐ他ない。

相手がかなり近いので余裕もない。

そうなれば、


「なっ⁈」


アンドラスの剣がスパイクの脚部を抉り、スパイクのパイルドライバがアンドラスの腹部をとらえた。


「爆ぜてください!」


その言葉とともに薬莢式パイルドライバが火を噴いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る