第33話「迷走、俺の妹は妹なのだろうか」
「蓮くん、卵焼き食べる? 実は今日のお弁当私が作ったんだ」
「あー、ズルいです! 私も……はっ、お弁当の中身が一緒だから意味がない……っ!?」
「はっはっ、モテモテで羨ましいな、蓮!」
マイペースな小町先輩に、勝手に自分でテンション上げて、勝手に落ち込む璃亜。それを見て
三者三様。騒がしいやつらだ。
みんな大好きお昼休み。
四時間目と五時間目もお昼休みだったらいいなとみんなに人気の昼休み。
俺たち四人は、中庭にお弁当を広げてピクニック気分でお昼の時間を楽しんでいた。
普段は陽人と二人、教室で机を合わせて食べているのだが。
「蓮くん!! 今日こそ美術部へ入部してもらうよ!!」
「蓮くん!! ゆぁすぃーとしすたーがお兄ちゃんに会いに来ましたよ!」
四限終了のチャイムが鳴り終えるのとほぼ同時刻。
教室の前後のドアが同時に開き、小町と璃亜がやってきた。
突き刺さる二人の視線。に加えて、クラス中の視線。
なんだかいたたまれなくなった俺は、そそくさと教室出てきて今に至る。
「こんな大勢でお昼ご飯食べられるの嬉しいね」
「そうだな、たまにはこういうのも悪くないよな。な、蓮」
ごきげんな様子の小町に、陽人。
「ていうか、小町先輩と陽人って面識あったのか?」
「うーんとね、いつも蓮くんの教室に行くときに隣にいるからな、それで顔だけはなんとなく覚えてたくらいだね」
「俺もそんな感じだな。すごくきれいな先輩だったから、覚えてた!」
なるほど、コミュ力高い組の二人はほぼ初対面の人とご飯も特に気にはならないらしい。
実は引っ込み思案な璃亜が少し心配だったが、璃亜はどちらとも面識あるもんな。問題はなさそうだ。
「えへへ、きれいだなんて照れるな。蓮くん、すごくいい友達を持ったね。大事にするんだよ!」
「は、はあ……そうですね」
「蓮、綺麗系の人には可愛いって褒めて、逆に可愛い系の子には綺麗だって褒めるんだ。覚えといて損はないぜ」
陽人がボソッと耳打ちしてくる。
妙に有用そうなのがなんか腹立つな。
「ていうか、なに小町先輩口説いてるんだよ」
「お? 蓮もしかして嫉妬か?」
「ちげえよ、小町先輩純粋なんだから、すぐなんでも真に受けて騙されちゃうんだから。できるだけ、悪い人から遠ざけなきゃいけないんだよ」
「親心に近いやつだった!?」
「なんかさらっと酷いこと言われてるな!? 私」
別の意味で驚く二人。
もう、俺はかわいい先輩がいつか誰かに騙されるんじゃないかって気が気でないのだ。
そうか、これは妹を心配する兄の感情に近いかもしれない。
妹力:小町>璃亜。
という頭が頭に浮かんで、咄嗟にかき消した。
「ねえ、蓮くん、蓮くん。はい、あーんです」
璃亜はマイペースに唐揚げを一つ、俺の口元へ差し出してくる。
左手でお皿を作り、上目遣いでこてんと首を傾げていた。
「それ、俺の弁当にもあるんだよな」
今日の青柳家のお弁当は璃亜が作ってくれた。
そのため、内容物はまったく同じである。
「はい、ありますね。でも、考えてみてください。はたして、あーんをすることの目的はおかずの交換でしょうか」
「そうじゃないのか」
「いいえ、違います。その名目の元、意中の人とイチャイチャしたいだけなのです。つまり、おかずが被っていようと、お弁当の中身がまったく同じであろうと全く持って問題ないのです! 私は蓮くんにあーんがしたい!!」
「………………なるほど、理屈は理解できた」
というか、ちょっと納得。
我が妹ながらなんと的を得た答えだろう。
しかし、その相手が兄と言うのはいかがなものか。
いや、兄だからこそセーフなのか。
最近、線引きがよくわからなくなってきてるんだよなあ。
「ということで、あーんです、蓮くん!」
「お、おう」
一口で差し出された唐揚げをぱくり。
咀嚼し、嚥下する。
うん、自分のお弁当箱の中に入ってたやつと同じ味だ。
だが、璃亜は満足気だし悪い気はしない。
「蓮くんと璃亜ちゃん、本当に仲がいいよね」
「だよな、なんか兄妹ってより、カップルみたいだ」
「か、カップルですか? えへへ、それほどでも、ありますかねぇ」
璃亜は両手を頬に当てて悶えている。
最近の璃亜は学校内でもよく話しかけてくるようになったし、なんというか、すごく容赦がない。
「兄妹だよ。兄妹ならこれくらい普通だろ?」
兄と妹。どこの家庭でもこんな感じ。
そのはずでございます。
「えぇ、そうかな? 私弟いるけど、そんなのすることないよ?」
「俺も一人っ子だけどすることないな」
じゃあ、けどじゃねえじゃねえか。
「小町先輩のは姉と弟なので別の例ですね。そんで、陽人は言わずもがな」
やっぱり、妹にしては……懐きすぎているのか?
璃亜の表情を覗き見ると、彼女はすぐに気づいてにへらと笑い返す。
まあ、別に何か問題があるわけでもないし。
変に難しく考えることでもないだろ、なんて思考を底に沈めてみたり。
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