第21話「月とガーネットとアルエット(3)」
「わあ! 蓮くん中々センスあるね。璃亜ちゃんよく似合ってるよ!」
「ほんとですか!? 嬉しいです」
璃亜はプレゼントしたネックレスを早速、身につけていた。
ちなみに、代金は俺の給料から天引きされることとなった。
小町先輩は、璃亜の胸元で輝くそれを見て目を輝かせている。
璃亜も悪い気はしていないようで、謎のポージングをしていた。
「どうですか? 蓮くん」
璃亜はくるりと一回転して、両手を腰の後ろで組んで上目遣いで見る。栗色の髪が揺れ、赤のネックレスがごきげんに撥ねる。簡素な制服に、赤のワンポイントはよく映えた。
「あ、ああ。かわいいと思うぞ」
「ふっふ、そうでしょう、そうでしょう。なんたって愛するお兄ちゃんが選んでくれたネックレスを装備した、とってもかわいい妹ですからね。最強です」
「お前、外であんまそういうこと言うなよ、恥ずかしいから」
「ほお、ほお、二人っきりの時だけにしてほしいと?」
「なんか言い方嫌だな!?」
というか、いやらしいな!
なんて言えば、それは蓮くんが変なことを考えているからそう思うんじゃないんですか? え? 妹相手に何を考えていたんですか? なんてからかわれること請け合いなので、口を噤む。
「いいな、いいな! 蓮くん、よかったら私にも何か選んでよ!」
ネックレスが置かれた棚に視線を映し、せがむ小町先輩。
おもちゃ売り場で母親に抗議する子供が頭を過った。
命が惜しいので言わないけれど。
「まあ、それくらい構わないですけど。どういうのがいいんですか?」
「それはもちろん、蓮くんのセンスに任せるよ!」
「…………」
センスに任せる……なんて怖ろしい言葉なんだ。
ここで下手なものを選んでしまえば、小町先輩の中で俺は永遠にセンスのない者として扱われてしまう。俺は今後絶対にそういう要求の仕方はしないようにしよう。今日学んだ。
なんて言いつつ、小町先輩へということなら迷うことなく一択なのだが。
「では、これで」
俺は手のひらを上にして、一番端に置いてある一本のネックレスを示した。
「私の時は一瞬だ?!」
「まあ、それ以外考えられなかったというか……」
「え、あ……これって」
俺が選んだのは、三日月をモチーフとしたシルバーのペンダントだった。
小町先輩はそれを手に取り、驚いたように、信じられないものを見るようにこちらを見る。
「蓮くん、知ってたんだ」
大切にしまうように、胸元にペンダントを引き寄せて顔を綻ばせる。
過去を思い出して懐かしむように。
そして、少し気恥しそうに笑うのだ。
「偶然ですよ、偶然」
「そっか、それでも嬉しいな。私にとって蓮くんは憧れの人だからね」
「相変わらず大げさですね。でも、喜んでくれたなら嬉しいです」
璃亜同様、小町先輩にも自分が買うと申し出るのだが、ビシッと断られた。
気を遣わなくていいよ! 私先輩だからね。どうしてもって言うなら、美術部に入ってくれるのが私は一番嬉しいけどな、なんて言われてしまった。
早速、購入したペンダントを、身に着ける。
「どうかな?」
小町先輩は身を乗り出してペンダントを揺らし、首を傾げる。
先輩の小さな体の前で、更に小さな月がその存在を強く主張していた。
「ええ、よく似合ってると思いますよ」
「えへへ、そうかな。嬉しいな」
顔を綻ばせる小町先輩。
視界の端に頬を膨らませる璃亜の姿が映った。
それと、ニヤニヤしてこちらを見る澪さんの姿も映った。
何も反応しないからな、絶対に面倒なことになるんだから。
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