第13話「妹がメイドだったりするのは日常?(2)」

 テーブルにはいつもより少し豪華なご飯が並んでいた。

 唐揚げやカツ、スープやサラダ、なんとデザートにプリンまで並んでいる。


 ほとんど璃亜が作ったのだろう。

 先日の生焼けハンバーグからは考えられないほどの見た目で、どれも美味しそうだった。

 鼻腔をくすぐる香ばしい香りに、思わず喉を鳴らす。

 と、同時に空腹を思い出したように、俺の腹も音を鳴らした。


「ふふ、気に入ってくれてるようでよかったです! さ、早く食べましょ」


 璃亜はメイドよろしく恭しい態度でイスを引いてくれる。

 俺は素直に席に着くと、箸を持つ。


「どうしたんだ?」


 ずっと俺の斜め後ろに居る璃亜に、座らないのかと声をかける。


「今日の私はメイドさんですからね! メイドはいつでもご主人様の後ろに控えてるものです」


「いや、普通に落ち着かないんだが。ていうか、なんで急にメイドなんだよ」


「男の子はみんなメイドが好きだと、そして、蓮くんはメイドが好きだと、確かな筋からの情報があったのです」


「誰だよ、俺の妹にそんな変なこと吹き込んだやつは……」


 陽人はるとみたいなこと言うやつが、この世にはたくさんいるらしい。

 別にメイドは嫌いじゃないが……普通だよな?

 メイドが嫌いな男の子なんていないもんな?


「でも、蓮くん嬉しいでしょう?」


「う、うーん……」


 すごく肯定しづらい。

 妹のメイド姿に喜ぶ兄という構図がよろしくない。


「わかります、わかります。素直にうんと言いづらいお年頃ですよね。ということで二択で聞いてあげます。蓮くんはメイドさんが好きですか? はいかイエスで答えてください」


「実質一択のやつだ!?」


「さあ、答えてください蓮くん!!」


「まあ……かわいいとは思うよ」


「ふむふむ、妹にメイド姿が似合うだなんて蓮くんは変態さんですね」


 璃亜はにやぁ、と頬を緩めて満足気に罵ってくるのだった。


「言わせたくせに!? 理不尽!!」


「でも、本心ですよね?」


「ま…………まあ」


「よし。素直な蓮くんにご褒美をあげましょう」


 璃亜は唐揚げを一つ箸で摘まみ、左手を添えて俺の口元へ持ってくる。


「はい、あ~ん」


「お、おい。別に自分で食べられるって」


「蓮くんが一人で食べられないからやってるんじゃないですもん。私がこうしたいからしてるんですぅ!」


「したいからって……おまっ」


「ほら、早く早く! 落ちちゃいますよ」


「あ~~っ、もう、わかったよ」


 ぱくり、と一口で唐揚げを食べる。

 ゆっくり咀嚼して、嚥下する。


「どう……ですか?」


「おう、文句なく美味しいと思うぞ」


「蓮くんのと比べてどっちがおいしいですか?」


「それは、さすがにまだ俺かな」


「もぅ、そういうとこは正直じゃなくていいのに」


 俺が何年、青柳家の食卓を任されてきたと思ってるんだ。

 そんな一週間やそこらで超えられてたまるか。


「まあ、別にいいです。蓮くんなんてすぐに追い抜いて見せますから! そして、俺より璃亜の作った料理のが美味しいよ~、璃亜の料理しかもう食べられないよ~って言わせてみせます」


 ふふん、と腕を組む璃亜。


 最近の彼女の成長っぷりを見てると、俺を超えるくらいすぐな気はしてしまう。

 負けるのはなんか癪だし、俺ももっと真剣に取り組もうかしら。

 最近は璃亜がご飯を作ってくれていてが、もともと料理は嫌いじゃないのだ。


「なあ、璃亜。最近無理してないか?」


「いえ、最近無理してませんよ」


「なら、いいけどさ……」


「そんなに私が蓮くんに優しいのが不思議ですか?」


「不思議だろ。ずっと、素っ気なかったのにいきなりだぞ?」


 しかも、きっかけらしいきっかけもなかった。

 大きな事件から璃亜を助けたとか、そういうイベントだってなかった。

 いきなり好かれるような理由はなかったはずだ。


「ふぅん、本当は見当ついてるんじゃないですか?」


「え?」


「まあ、その話は置いておきましょう。冷める前に他のも食べてください! 結構な自信作ですからね!」


 そう勧められるままに、璃亜の料理に舌鼓を打つ。

 彼女が自信作だと言うだけあって、どれも文句ない出来だった。

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