第10話「塩対応だった妹のいる俺のバイト事情」
『アルエット』――舞花駅の東口から二本くらい離れた通りに居を構える古着屋さんである。
店長の
もちろん、俺と璃亜を一人で養ってくれている母のため、少しでも家計の足しにするためである。
澪さんもその事情を知っているから、積極的にシフトを入れてくれる。
従業員は店長と俺の二人。
本当はバイトなんて雇わなくても、お店の運営はできるはずだ。
それでも、澪さんは俺を働かせてくれている。
彼女には本当に頭が上がらない。
と、思っているのだが、口に出したことはない。
それはひとえに彼女の性格に問題があるからだろう。
もう少しちゃんとした人なら素直になれるんだけどなあ……。
「ねえねえ、蓮きゅん。そろそろ彼女はできた? え? まだ? まだ童貞なの? や~い、蓮きゅんの童貞~」
澪さんは俺の頬をつんつんしながら、ぷくくと口元を抑えてからかってくる。
耳には合わせて八つのピアスが開いており、髪はインナーが赤く染められている。目元も赤く色づけられており、元々の顔立ちがいい為か濃い目の化粧もよく馴染んでいた。
お店の物を着ているのだろう。ダボっとした派手な色の古着のコーデもよく似合っている。
ひいき目なしに綺麗な人だと思う。
だが、念のために言っておくが彼女にそう言った感情を抱いたことは一度もない。
マジで照れ隠しとかじゃなく、一度もない。
「はあ…………そんな暇あるわけないでしょう」
「私に会いに来るのに忙しいから」
「バイトが忙しいからです。変な受け取り方しないでください」
「またまた~、照れ屋さんなんだから」
「本当に違いますからね」
「うわぁ、そこまでガチで否定されるとお姉さん傷つくなあ。思わず今月の給料一桁少なくしちゃいそうだ」
「横暴がすぎる!?」
先ほどまで数人居たお客さんも帰ってしまい、現在店内には俺と澪さんの二人。
お客さんが来る日は結構来るのだが、来ない日は全く来ない。
これで給料を貰っているのは申し訳なくなるが……申しわけないと素直に思わせてくれない性格してるからなあ……澪さん。
俺に気をつかわせないように、そうしてるのか? なんて考えすぎだろうか。
「じゃあさ、蓮はバイトがなかったら彼女ができてるのかな~?」
「うぐ……それは……多分」
「え~、次は勉強がとか、家事がとか言い訳にしてそうだけどな」
「…………」
す、鋭い……少し胸に突き刺さった。
「べ、別に欲しいとか思ってないですし、いいんですよ」
「そう? 学生のうちにしかできない恋愛ってあるし、お姉さんとしては今のうちにたくさん恋愛して、たくさん失敗しといてほしいけどな」
「いや、成功を願っててくださいよ」
「んー、若いうちに一回躓いといた方がいいこともあるのだぜ。じゃないと、大きくなってから悪いお姉さんに食べられちゃうかも」
私とかね、なんて言って澪さんは笑って見せた。
「あ、それとも、やっぱり私を狙ってるから彼女を作らないとか!?」
「だから、それだけは絶対違いますから」
「本当に今いい感じの女の子とかいないのかい?」
――カランコロン。
ベルが鳴り、お客さんの来店を知らせてくれる。
「いらっしゃいませ……って、げ」
俺は挙動不審に顔をのぞかせた見知った少女に、思わず絶句する。
どうしてこの場所を知っているのだ?
何だか最近、俺の個人情報が洩れてる気がするぞ。
「ほうほう、噂をすれば彼女候補が来たみたいだね」
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