15頁~~夜に咲いた花~~

 人々を平等に照らし、暖かく包み込む日光は一部の人にとっては命を刈り取る脅威となる。僕の幼馴染みである彼女もその一人だった。生まれつき肌が弱く、ほんの少し日光を浴びれば肌はただれて激痛にさいなまれる。そんな体質だ。室内でさえ日光に怯えて暮らさないとならない彼女にとって、夜だけが世界の全てなのだ。


 「心地の良い夜だね。今日はどこに行こうか」


 天から降り注ぐ、柔らかい月の光に照らされた彼女の笑顔はまるで一夜の夢のように儚く見えた。

 雪のように降り積もる月明かりだけが彼女に許された唯一の光だ。僕は毎晩、彼女の家に行き。連れ出すようにして外へと出かけていた。それが僕たちの日課だったのだ。

 一緒に連れ立って夜の世界を往く時、彼女はいつも笑顔を絶やさなかった。天使が存在するのであれば、きっとそれは彼女のような者の事なのだろうと僕は彼女に神秘を感じていた。


 「どうして君はいつも笑顔を絶やさずにいられるの? 辛くはないの?」


 とある日、ふとした瞬間に僕の口からそんな疑問が彼女に投げかけられていた。その瞬間に僕は後悔をした。どうしてこんな質問をしてしまったのだろう。あのような難病をわずらっていて辛くない筈もないのに。きっと彼女はあの笑顔の裏では苦しんでいるに違いない。僕が彼女に向けたこの疑問は彼女を傷つけてしまったことだろう。

 僕は居心地が悪そうにして彼女の許しをうようにその夜空の星を映したかのように綺麗な彼女の瞳を見つめた。すると彼女はそんな僕の心を見透かしたかのようにしていつものように笑ってみせた。


 「だって私は幸せだから。辛いなんて思う必要はないよ」


 思ってもいなかった彼女の言葉に呆気に取られた僕は、黙ったままそんな彼女の笑顔を眺めている事しかできない。そんな様子の僕を見た彼女は、この夜を包む月明かりのような柔らかい微笑みを僕に向けていた。


 「こんな綺麗な夜に、大切な友達とこうして話をする事が出来る。これが幸せじゃないなんて事があるもんですか。私は今、この夜。きっと世界で一番の幸せ者だよ」


 彼女はそう言って目を細めると、ゆっくりと顔を空へと向ける。僕もそれに釣られるようにして空を仰いだ。するとそこには大きな月が静かな夜の海に浮かんでいた。

 そんな月の明りに照らされる彼女の横顔を見る。それはまるで夜に咲く花のようだった。

 

 彼女は夜に閉じ込められているのではない。彼女は夜に凛々りりしく、気高く、美しく咲き誇る花なのだ。そんな彼女をいつまでも見守っていられる幸せを、僕は空にきらめく星々に願った。

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