第三話:灰色髪の少女
『(主張。やはり情報収集から行うべきであるとシリウスは意見を表明します。大厄災後の復興ならびに内戦を経た結果、大厄災前の時代の情報は不明瞭でありデータも多くない。可能性を探るためにはまず限りなく多く情報を集めることこそ基本とユーザーに提言します)』
四時限目の授業も終わり、昼休み。
尊は購買部へと昼飯を買いに教室から出て廊下を渡っていた。
いつもは学食で済ませる場合が多いが、今日はあまり人が居る場所で昼休みを過ごす気にはなれず、購買でパンでも買って人の少ない中庭か屋上にでも行ってで過ごそうかと考えたのだ。
理由は言うまでもなく、シリウスだ。
彼にだけしか見えないまるで幽霊のように側にいる美少女AIとの会話にはそれなりに神経を使う
「(情報収集……まあ、妥当な所か。結局のところ、その大厄災とやらの発生が防げるものなのかどうなのか。そこが一番肝心な所だ。「なぜ起こったか」「何が原因だったのか」、それらを未来の歴史において「大厄災」が起こった日までに調べ上げ、そして防ぐための手段を用意する……)」
一年もあるとみるべきか、一年しかないとみるべきか。
そこら辺は受け取り手によってどう思うかは変わるだろう。
「(……というか、ふと思ったのだけど大厄災とやらは世界中で起こった――という話だけど、その原因が「実は海外でした」とかだったらどうしようもなくないか?)」
『(回答。当然ながらこの時代の日本に来た理由は存在します。「大厄災」自体は最終的には世界中で発生することになったとはいえ、その発生には時間的なズレを確認されています)』
「(一気に起こったように見えて実は同時じゃなかったってことか)」
『(肯定。つまりはあくまで連鎖的な現象。そしてその始まりがこの日本であるところまでは研究によって解明されました)』
「(なるほど……一応、それぐらいの根拠ぐらいはあるのか。まあ、無いと困るけど。けど、他にはなんかないのか? もうちょっと手掛かりになりそうなもの……。大厄災なんてものに発展するのなら、何かしら予兆ようなものがあってもおかしくはないはずだ。当時は気付かなったことでも、改めて調べ直せば何か怪しい出来事とか事件とか目星くらい……)」
『(不明。先ほど述べた通り未来の世界において大厄災が起き、その復興もままならないまま内戦に突入という経緯があります。そのため大厄災以前の出来事については情報の散逸が激しく、また人も大勢亡くなってしまったため当時の出来事を調べることは非常に困難で限界がありました)』
「(……なるほど)」
(よくよく考えれば世界の三分の一が死ぬ大災害。その後もいざこざが続くとなれば……今を生き延びるのに精一杯か。人が減りまくっている以上は当時の人から話を聞くのも難しい。それに最近はデジタル化が進み情報というのは大体電子データ化されメッキリと紙の情報媒体も少なくなったしな……。効率的ではあるけどやはり物としてあるわけじゃないから、何かあった時に残りづらいのは欠点だな)
無論、全部が全部というわけではないだろうが、恐らくは動乱の中で消えたものの方が多いだろう。
「(あまり未来の情報を期待しすぎてもダメそうだな……)」
『(回答。一応、この年代に関するデータを圧縮し何かの役に立つだろうとシリウスの演算領域に保存はされている。ただ無秩序に放り込まれているので解凍、ならびに整理には時間が必要)』
「(関係ありそうなものを適当にぶち込んだって感じか。……はー、無いよりはマシか)」
(それにしても何というか泥縄的というか何というか……。大体の時間と場所が日本ぐらいしか情報無くて、どうやって未来を変えろというんだ)
『(補足。この時代のこの街に来たのにもある程度の根拠が存在している。その一つとして天去市というのは、第二〇八時間遡行実験において観測された力場。C(ケィオス)移相力場の数値が最も高かった空間データと合致した場所であり、何らかの関連があるのではないかと推測されている)』
「(……ふむ? それがどういった意味を持つかはわからないが。大厄災を調べる上での要素の一つぐらいにはなる……のか? まっ、情報は地道に足で稼ぐしかないってことか? 警察も足だっていうし)」
心の中で愚痴っても仕方がない
とにもかくにもシリウスの言う通りに情報を集めることからか始めるかと気分を切り替えた。
「(まず、不思議な出来事。奇妙な事件がなかったかでも調べることからか……)」
ふわっとしているが他に取っ掛かりもないのだから仕方ない。
「(こんな風になった俺みたいな存在もあるわけだし……。事実は小説よりも奇なり、嘘っぽい都市伝説も馬鹿には出来ないかもな。というか改めて考えると凄い状況だな、ほんと漫画かゲームの主人公みたいな展開だな)」
『(同意。そうなるとシリウスは美少女
「(……お前って自分をそんなカテゴリで認識してたの?)」
『(回答。ユーザーの所持している娯楽作品の設定を参考に当て嵌めた場合、そう定義されるとシリウスは分析します。苦楽を共にし、そして大いなる使命のために共に歩む……。それは正しく相棒キャラカテゴリであると主張します)』
「(まあ、確かに苦楽を共にするし歩みも共だな……離れようがないし。それにしても美少女って)」
『(疑問。シリウスのアバターは美少女のはずです)』
「(……まあ、否定はしないけどさ)」
当然の事実を告げているかのような態度に何とも言えない気分になるが、言っている内容に関しては渋々と同意するしかない。
『(質問。シリウスがこのアバターで嬉しいですか?)』
「(……その質問に答える必要性を聞こう)」
『(回答。管理サポートAIとしてユーザーの精神的なサポートも仕事の一つであると理解。そのため、このアバターが不評であるのならば改善する必要性が出てきます。改善案の一例としては同性の方が気が楽であるならばこちらとしても――)』
「(そのままでお願いします)」
『(了解。それではユーザーの好みからは多少外れていますがこのアバターのまま続行する)』
「(……ん、んん? 少し待とうか、俺の好みが……何だって? 何か誤解が……)」
『(回答。ユーザーのノートパソコン内のフォルダ画像から統計データを算出するとユーザーの好む女性像は――)』
「(はい、この話は終わりね。一心同体の最高の我が
『(了解)』
尊は白旗を上げることにした。
(どうしよう、既に上下関係が生まれ始めてないか? プライベート全部知られるのはやっぱ不利だって……)
『(提案。シリウスから行動指針について)』
「(ふむ……聞こうか)」
少々、気分的にげっそりしながら先を促し廊下の曲がり角に差し掛かった。
ちょうどその瞬間、
『(警告。ユーザー、接近する物体有り)』
「えっ? ――うおっ!」
突然のシリウスの言葉に困惑。
続いて曲がり角からフラっと現れた人影に驚くも彼は咄嗟に回避行動を行った。
どうにも妙に動きのよくなった身体は意識した通りの動きを正確に実行するも、
「はうっ!」
回避するべく避けた方向と人影が動いた方向が偶然に重なり衝突してしまった。
「っと、大丈夫か?」
大した衝撃でなかったが相手の方がよろめくようにして倒れそうになったため、咄嗟に右手を伸ばし尊は支えることに成功した。
「えっと、大丈夫か? 怪我とか……」
出来るだけ優しく声をかけた。
「……は、はい。だ、大丈夫です」
答えた女子生徒は見覚えのない人物だった。
(一年……か? 見たことないし)
別に同級生、上級生の女生徒の顔を全員知っているというわけではないが恐らくは間違いない。
というのもその女生徒はかなり特徴的な少女であったからだ。
目鼻立ちもスッキリとしたどちらかと言えば可愛らしい系の顔つきだが、間違いなく美少女に分類される容姿でうちのブレザーの女学生服ととてもマッチしている。
そして何よりもその透けるような美しい灰色の髪だ。
ややくせ毛のある質感のそのミディアムの髪は、仮に一度でも見かけていたのなら何かしら印象に残っていただろうと俺は思った。
「良かった。ごめんな、不注意だった」
「い、いえそんな……。私の方こそ」
尻もちをついた彼女に対し手を差し伸べようとしてふと気づいた。
(ん? なんだ?)
灰色の髪の女学生はどこか驚いたような表情で彼を見つめている――ような気がした。
「どうかしたか?」
「えっ、あ……いえ、そのなんでも……ないです」
こちらの様子に何やら戸惑うような表情を浮かべていた彼女にそう問いかけるも、返答は歯切れのいいものではなかった。
なんでもない、という態度ではなかったがふと廊下の時計が視界に入り、尊は購買に向かっていたことを思い出した。
「あ、あの……」
「いや、大丈夫だから。えっと、すまなかったな。ケガもなくて何より。それじゃあ、俺はこれで」
気にならないと言えば嘘にはなるが、彼にはこの後とても面倒なシリウスとの話し合いが待っている。
怪我もしてないのならいいだろうと強引に話を切り踵を返して彼女へと背を向けた。
「………あっ」
だからこそ、その時の彼女が何か言いたげな表情でその後ろ姿を見つめていたことなど気付くこともなく、尊はシリウスと会話をしながら購買部の方へと向かったのだった。
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・シーン1
https://kakuyomu.jp/users/kuzumochi-3224/news/16817330667564598328
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