第49話 ビキニアーマー
(何あれ……誘ってるのかしら?)
私はそのゴツい金属となめらかな柔肌とのギャップを見て、そんなことを考えた。
私の友人たち、リンちゃんとカリクローさんはいつもと違う格好をしている。普段着としては絶対に着ない服装だ。
それは分類としては金属の板が身を守る、プレートアーマーという鎧に属するものではある。
にも関わらず、プレートアーマーと言われて誰もが思い浮かべるものとはかけ離れた外見していた。
胸や腰回りにはプレートがあるものの、その他の部位は非常まばらだ。
足など膝から下しか無いから、太ももは完全に露出している。胸なんかもプレートの面積は小さく、かなり大胆に開いていた。
これはいわゆる『ビキニアーマー』というやつだ。
鎧なのだが胴体の隠れる面積的にはビキニと大して変わらない、そんな鎧だった。
もはや実用性丸無視で劣情を煽るためだけに作られた鎧(?)は、オスもメスも誘っているとしか思えない。
(二人とも……セクシー……)
と、私はヨダレでも垂らしそうな思いで見入ったが、二人は二人で私のことを見て同じようなことを口にした。
「クウさん……セクシー!!」
「ホント色っぽいわ。似合ってるわよ」
そう、私も着ているのだ。ビキニアーマーを。
↓挿絵です↓
https://kakuyomu.jp/users/bokushou/news/16817330649124848496
「アハハ……なんだか恥ずかしいですけど」
私は自分の体を見下ろして苦笑いしてしまった。
鎧を着ているはずなのにこの肌の露出具合。
ただビキニを着るよりもいやらしく感じるのは、ビキニアーマーの魔力なのだろうか。
「っていうか、色っぽいっていう表現が似合うのはカリクローさんですよ。すごい体……」
「やだ、私はもうこんな格好する齢じゃないわよ。若い二人と並ぶのは恥ずかしいわ」
カリクローさんは言葉通り恥ずかしそうに身をよじったが、それがまた色っぽい。
「いやいや、一番直球の破壊力あるのはカリクローさんですって」
重ねて褒める私をリンちゃんが凝視してくる。
「でも……クウさんも結構な破壊力ですよ?むしゃぶりつきたい」
リンちゃんのこういうセリフは割と冗談に聞こえない。
でも冗談だということにしないといけないので、私はとりあえず笑うことにした。
「アハハハ……リンちゃんなんてほんとピチピチじゃん。一番美味しそうなのはリンちゃんだよ」
「じゃあ食べてー」
リンちゃんは両腕を開いて私にハグをねだったが、その仕草がめっちゃ愛らしい。
これを男にやったら速攻で完食されてしまうな。
「三人とも着替えは終わったかの?」
と、私たちがいる更衣室の外から声がかかった。
声の主はドワーフのドヴェルグさんだ。
今日はドヴェルグさんからの仕事でここに来ている。
(まぁ仕事っていうか、損害賠償なんだけどね……)
そう、今回は報酬を得られるわけではなく、与えてしまった損害の補填として働くのだ。
つい先日、私の不注意で坑道の一部を崩落させてしまった。
そこはすでに土魔法で修復されてはいるのだが、当然それにはコストがかかっている。
その補填として働きに来ているわけだ。
『モンスター相手に戦っていたのだから、多少の過失は仕方ない』
ドヴェルグさんやその同僚さんたちはそう言ってくれたものの、それでは私の気が済まない。
それでせめて手伝える仕事はないかと聞いたところ、今日の仕事を提案された。
『ちょうどお前さんくらいの女性に頼まねばならん仕事があったんじゃよ。しかもちょっと頼みづらい内容じゃから、やってもらえると非常に助かる』
それがこのビキニアーマーを着る仕事だったのだ。
ただしビキニアーマーは三着あって、そのうち二着はサイズが少し小さいのと大きいのだった。それでリンちゃんとカリクローさんに頭を下げてお願いしたのだ。
『向こう三回分の女子会費用を私が持ちますから、お願いします!』
そのお願いを二人は快く引き受けてくれた。
そして今日に至る。
「はーい、もう着ましたから出られます」
私はドヴェルグさんに返事をしてから、二人にあらためて頭を下げた。
「二人とも本当にありがとう!今日はよろしくお願いします!」
優しい二人はそんな私に笑いかけてくれた。
「クウさん、そんなに気にしなくていいですよ。こういうコスプレみたいなのって楽しいですし」
「私も本音を言うとそうなのよね。恥ずかしい恥ずかしいって言いながら、実は結構楽しんでるから」
そう言って鏡の前でクルクル回ってみせる。
私も正直に言うと、ちょっと楽しい。もちろん恥ずかしさはあるけど、やっぱり女子は色々な格好をするのが楽しいのだ。
(コスプレが趣味の人とか結構いるけど、気持ちは分かるな)
そんなことを考えながら、ドヴェルグさんについて坑道の一室に移動した。
その部屋は先日崩落した採掘場とは違い、床も壁も天井も硬そうな石材で覆われていた。かなり頑丈そうな造りに見える。
「荒事用の実験場じゃ。ここなら相当強い衝撃があっても部屋が壊れることはない」
ドヴェルグさんはそう説明してくれた。
そしてそれはつまり、私たちがこれから荒事に晒されるということを意味している。
カリクローさんが部屋を見回しながらつぶやいた。
「ダンジョンで見つかった鎧の性能実験か……ちょっと怖いけど、興味をそそられるテーマよね」
私たちが今からやる仕事はそういうものだった。
このビキニアーマー、別に劣情を誘うために作られたセクシーグッズではない。ダンジョンで得られた魔道具なのだ。
その試験をドヴェルグさんたちが依頼されており、私たちはその手伝いということになる。
リンちゃんが自分のビキニアーマーを触りながら不思議そうにつぶやいた。
「ダンジョンって本当に変なところですよね。こんな鎧っぽくない鎧が転がってるなんて」
私もそう思う。
ダンジョンは突然現れて、条件を満たすと消えるのだ。中からはモンスターが湧くこともあるので基本的には厄介な存在だが、こういう変わったアイテムを得られたりすることもある。
ドヴェルグさんはヒゲを撫でながらリンちゃんの疑問に答えてくれた。
「そうじゃな、確かに変なところじゃ。しかし、この鎧の形状が鎧っぽくないというのは実は問題ではない」
「え?どういうことですか?」
「この手の鎧はプレート部分で攻撃を防ぐのではなく、魔素の壁を張って防ぐんじゃよ。だから鎧に覆われていない全身に効果がある」
「へぇ……でもそれだと、わざわざ鎧の形をしている必要すらないと思いますけど。私も身体強化の魔道具を持ってますけど、ペンダント型ですし」
確かにそうだ。この形状の意味が分からない。
「ふむ。実はこのビキニのような形の鎧はよく見つかっておるんじゃが、この形状については二通りの仮説がある。一つ目はこの鎧が『全体の一部』であるという仮説じゃ。実際に残りの部分が見つかり、セットで装備することで特殊能力が付与された事例もある」
「なるほど……もう一つはどんな仮説なんですか?」
「この形状が『製作者の趣味』という説じゃ」
リンちゃんはいったんキョトンとしてから、弾けるように笑い出した。
「あははははは!!なんですかそれ!?この格好が趣味って!!」
それは私も笑ってしまう。趣味でビキニアーマーの形にしちゃうって。
ドヴェルグさんも笑ってはいるが、その目は割と真剣だった。
「この説を支持する要因としては、下に服を着るとその性能が落ちることが挙げられる。わざわざ肌を露出させる仕様になっておるのは、そういう製作者の趣味だと言われておるな」
「あ、だから私たち下にあんまり着けてないんですね」
「そうじゃ。まぁこれには装着者の魔素を効率良く吸うためという反論もあるがの。しかしワシは実際のところ、後者が正しいんじゃないかと思っておる」
「製作者の趣味ってことですか?」
「うむ。ワシらのような物作りの職人はな、あれこれと効率などを検討した挙げ句に、結局は自分の好きなものを作ってしまうことがよくあるんじゃ。それこそが職人の魂であり、病なんじゃよ」
(ははぁ、魂で病か……)
私はなんとなく納得できた。
言われてみれば、自分と切り離せない魂って治らない病みたいなものかも知れない。
「余談はこのくらいにしておこう。そろそろ実験に入るぞ。三人ともこれを着けてくれ」
ドヴェルグさんは鎖のついた輪っかを持って来て、私たちに渡した。鎖の先は何やら大きな機械に繋がっている。
「これ、どこに着けるんですか」
「首じゃ。
あらかじめ聞いてはいたが、私たちの仕事はこの身体強化を受けた上で様々な攻撃を受けてみる、というものなのだ。
この首枷のような魔道具は地下を流れる龍脈の魔素を直接利用できるらしい。その力は超強力で、ほとんどの攻撃はまず通らないとのことだった。
だから被験者には危険はないらしいのだが、それでも普通の人はやりたくないだろう。
それを私たちが受けてくれたので、ドヴェルグさんたちは大助かりという話だった。
(でも何かこれ……囚われの女戦士たちみたいになったな)
ビジュアル的には完全にそんな感じだ。
(首枷をハメられて繋がれたビキニアーマーの女戦士たち。一体これからどんな辱め受けるのか……)
私はそんな妄想でドキドキムラムラハァハァを始めてしまったが、それもドヴェルグさんが引っ張って来た機械で即効冷めてしまった。
それはどこからどう見ても、大砲だった。
「ではまず、鉄球を打ち込む試験から始める」
「うぇえっ!?ちょ、ちょっとそれ、大丈夫なんですか?」
ビビりまくる私を尻目に、ドヴェルグさんはごく手慣れた様子で大砲をセッティングしていく。
「心配せんでよい。低出力から始めるでな。で、誰からいく?」
当然のことながら、リンちゃんもカリクローさんも完全にビビっている。
当たり前だ。
『これから鉄球がぶっ飛んできますけど怪我はしませんから当たってください』なんて言われて平然と当たれる人間はいないだろう。
(正直一人目は嫌だな……でも、ここはさすがに私からいかないと)
二人は私にお願いされて来ているのだ。ここは私が手を上げるしかないところだろう。
「じゃあ……私から……」
おずおずと前に出た私を、ドヴェルグさんは床に書かれた円の中心に立たせた。
そして自分は下がり、機械の後ろで盾を構える。跳弾を防ぐためだろう。
「いくぞ」
と、言った直後にドヴェルグさんは引き金を引いた。
いいか?とかの確認ではない。問答無用で鉄球を打ち込んできた。
バンッ!!
という大きな音がして、私のお腹に振動が起こる。ビキニアーマーに覆われていない箇所だ。
私は恐怖に体を固めたが、軽い衝撃を受けた程度で痛みはなかった。
「あ、あれ?……全然痛くない」
「だからそう言ったじゃろう。出力上げて二発目いくぞい」
まだ恐怖の冷めやらぬ私へ、ドヴェルグさんは淡々と二発目を打ち込んできた。
やはり痛みはない。衝撃は感じるものの、苦痛はまるでなかった。
「すごい……全然平気だ」
三発目、四発目を受けても何ともない。
その私の様子を見て、リンちゃんとカリクローさんも安心してきたようた。少し表情が柔らかくなっている。
(すごいんだな、ビキニアーマー。ダンジョンのレア魔道具なだけはある)
これだけ防御力が高いなら、恥ずかしくても着る人がいる理由は分かる。
っていうか、危ないところに行くならどれだけ際どい格好でも着て行くべきだ。
私がそう思った時、それまでよりも少し強めの衝撃が来た。
「……?」
私はただアレ?と思っただけだったが、それでドヴェルグさんは大砲の発射を止めた。
「よし。これでクウの鎧の限界値が分かったぞい。次にいこう」
「あ、今のでもう終わりなんですか?」
「そうじゃよ。身体強化の魔道具もつけているから分かりづらかったかもしれんが、最後の一撃はその鎧の防壁を抜いておった。データはしっかり取れたわい」
そうなのか。本当に被験者に危険は無いんだ。
「リンちゃん、カリクローさん。見た目は怖いけど、やってみると全然平気だったよ」
「そうなんですね、良かった」
「一番にやってくれてありがとう。おかげで安心したわ」
私が円から出ると、ドヴェルグさんが魔素の補充薬を渡してくれた。
「ほれ、飲んでおけ。この鎧は装着者の魔素を自動で吸って防壁に変えるものじゃからな」
「あ、なるほど。確かに魔素減ってます」
言われてみれば、ちょっとムラムラしてきている。確か十発くらいでこれだから、結構消費するな。
その後リンちゃん、カリクローさんも無事に鉄球の実験を終え、次に高温の試験を行った。
魔道具から発生する炎を当てられるのだ。しかし熱くはない。
「このビキニアーマー、本当にすごいですね。温度攻撃も防ぐんですか」
「魔素の防壁は低温、高温、電気など、あらゆる属性に対して耐性が示す可能性がある。しかしそれは物理攻撃以上に個体差が大きくてな。依頼者は特にそれを調べたいんじゃよ。この後は冷気に当てるぞい」
「はい」
苦痛はないと分かったので、もう普通に返事をできる。
が、ここでちょっとした異変が起こった。
再び炎を当てられると、なぜかビキニアーマーが震えた気がしたのだ。
「あんっ」
ビキニアーマーは胸や股間を覆っている。思わず変な声が出てしまった。
「ん?どうかしたか?」
「い、いえ……なんかアーマーが振動した気がして」
「なに?」
ドヴェルグさんは測定用の機械をあれこれ調べ、それからまた私に炎を当てた。
すると、やはり振動するのだ。
「んんっ……」
私はまた声を漏らしてしまった。
ドヴェルグさんは機器の一つをじっと見つめていたが、しばらくして顔を上げた。
「うーむ……どうやら鎧の魔素の波長が初めと変わっておるようじゃ」
「波長が?……っていうと、どういうことですか?」
「装着者の魔素に波長を合わせる仕様なのかもしれん。その方が魔素の使用効率は上がるからの」
「それで共振が起こって振動してるってことですか?」
「そうじゃな。今後は攻撃を受けて魔素が使用される度に振動するじゃろう」
「ぇえ?」
そ、それは困る。まだまだ実験は続きそうなのに。
それを聞いたリンちゃんとカリクローさんはクスクスと笑っていた。
「いいじゃないですか、私はクウさんの可愛い声が聞けて満足ですよ?」
「きっとその鎧もクウちゃんのこと好きになったのよ」
「二人とも……他人事だと思って」
私は二人のことを上目に睨んだが、炎を浴びる度にそれどころではなくなってしまう。
「あっ……やぁ……はぁん……」
それを見てまたクスクスと笑う二人だったが、自分たちの番が来て立場が逆転した。
なんと、二人のビキニアーマーで同じように共振が起き始めたのだ。
攻撃を受ける度、神経をくすぐる絶妙な振動が体を襲う。
二人はその快感に声を漏らしながら身悶えしていた。
「キャッ……やんっ……んん……くぅん……」
「ひゃっ……うんっ……あぁん……ふぅん……」
二人とも良い声出すなぁ。しかも表情も良い。耳福眼福。
とはいえ、これは魔道具として問題ではなかろうか。なんか攻撃を受けると感じるドエムさんみたいに見えちゃうし。
「ドヴェルグさん……この鎧ってちょっと使用に難がある気がするんですけど」
「むぅ……確かに厄介な気もするが、防御性能はむしろ優秀な部類じゃからな。まぁ、振動するくらい大したことではなかろう」
そうかなぁ。
着てる側としては戦闘中にめっちゃ気が散るんですけど。
私たちはどこかピンク味を帯びてしまった実験をこなしていき、あんあん言いながらも何とか全ての検証を終えた。
「あー、ようやく終わったぁ」
リンちゃんは背伸びしながら更衣室へと入った。
後は着替えたらもう帰れる。
「本当にありがとう、助かったよ。カリクローさんもお疲れ様でした」
「お疲れ様。でも良かったわ、無事に終わって。ドヴェルグさんもなかなか受け手がいない仕事が片付いたって喜んでたし」
「そうですね」
(あと、なんかすごく気持ち良かったし……二人のハァハァなところも見られたし……)
共振というトラブルはあったものの、仕事自体は無事に終わった。
私はそういう色々な満足を覚えながらビキニアーマーを脱ごうとした。
が、なぜか脱げない。
金具が外れなくなっていた。
「あれ……?なんでだろう?」
カチャカチャいじってみるが、どうしても外れないのだ。
そして、それは二人のビキニアーマーも同じだった。
「クウさん、なんか脱げなくなっちゃったんですけど」
「私もよ。どうしたのかしら?」
「え?二人のも?魔道具だし、何か外し方があるのかな」
もしそうなら考えても分からないので、私たちはドヴェルグさんの所へ向かった。
そして、返ってきた返答はなんだか恐ろしい単語だった。
「むう……これは呪いじゃな」
「ええ!?の、呪い!?もしかして、一生脱げないんですか!?」
なんてこったい。
このセクシービキニアーマーは嫌いじゃないけど、一生これで過ごせと言われたらさすがに困る。
が、ドヴェルグさんは軽く笑って補足した。
「いやいや、呪いと言ってもそんなに恐ろしいものじゃない。装着者と魔道具との相性が良すぎる時にまれに起こる現象で、解決方法もある」
「じゃあ脱げるんですね?」
「うむ、外し方はそう難しくはない。自分の魔素がかなり少なくなるまで魔道具に魔素を込めるんじゃ。それによって魔道具も満足するし、装着者の魔素が減れば魔道具にとっての魅力も落ちるというわけじゃな」
「なるほど……確かに難しくはないですね。やってきます」
「ほれ、魔素の補充薬を持って行け。難しくはなくても魔素切れはしんどいからの」
私たちは更衣室に戻り、言われた通りを実行した。
が、すぐに問題が起こる。
「「「あんっ」」」
三人揃って同じ声を上げてしまった。
ビキニアーマーに魔素を送ると共振で振動が起こり、いい感じに責められてしまうのだ。
リンちゃんがビキニアーマーにコツンと拳骨を落としながら苦笑した。
「まったく……イタズラっ子の鎧なんだから」
カリクローさんも困ったように笑っている。
「でも、どうしようもないわよね。脱げるようになるところまでやらないと」
「ですよね。頑張りますか」
本当にどうしようもない。
私たちには他に選択肢がないので頑張って魔素を込め続けた。
それによって絶妙なブルブルが起こり、敏感なところを襲い続ける。
更衣室には振動の低音とともに、私たちの押し殺したような声が響き続けた。
「んんっ……あぁん……ふぅ……んくっ……」
「やんっ……ひゃっ……あぁ……んんん……」
「きゃんっ……はぁっ……はぁん……やぁ……」
三人とも声が我慢できないくらい気持ちいい。
そして互いのいやらしい様子がさらに興奮を増加させ、私たちは気づけば同時に昇天していた。
「「「……くぅぅんっ」」」」
事後のハァハァという吐息、そしてカチャカチャと金具が外れる音だけが更衣室に響く。
三人とも互いが昇天してしまったことに気づいているから、妙に気恥ずかしかった。
その空気をなんとかするためか、リンちゃんがやたらと明るい声を上げた。
「よーし、じゃあ帰りましょうか!帰りに何か甘いものでも食べて……って、あれ?クウさん、脱がないんですか?」
そう、私だけはまだビキニアーマーを着ていた。
別に好きで着ているわけじゃない。脱がないんじゃなくて、脱げないのだ。
「ご、ごめん。私はもうちょっとかかりそう」
私の金具だけが外れない。その理由にも心当たりがあった。
(昇天で魔素が回復しちゃったから、私だけ魔素量が少なくなってないんだ……)
恐らくそういうことだろう。
二人はかなり魔素を減らしたようだが、私だけはまだまだ余力がある。ビキニアーマーにとって魅力的な装着者であり続けているのだ。
「ふ、二人は先にドヴェルグさんのころに行ってお茶でもしててくれないかな?少し時間かかるかもだし」
やはり見られながら今さっきのを再開するのは恥ずかしい。
二人ともそれは理解してくれたから、そそくさと出て行ってくれた。
「クウさんは私たちより魔素量が多いですもんね。じゃあそうさせてもらいます」
「多分大丈夫と思うけど、魔道具相手だし何かあったら大声を上げるのよ?」
(声は上げると思うけど、多分助けを呼ぶ声じゃないです……)
二人が出ていったのを見送ると、私はあらためてビキニアーマーに魔素を送った。
ヴーン、という音でまた快楽の旅が始まってしまう。
しかし、気持ち良くなってはいけないのだ。昇天するとまた魔素が回復してしまってエンドレスになる。
「ん……んん……んんんっ」
私は必死に自分の神経を抑えた。
(気持ち良くない……気持ち良くない……全然気持ち良くなんて……ないんだからねっ!!)
などと思いながら、見事に昇天してしまった。
「はぁはぁはぁはぁ…………どうしようこれ……そういえば、素数を数えたらいいんだっけ?」
それによって気が紛れ、昇天を遅らせることができると聞いたことがあった。
その作戦で頑張ってみる。
「よし……一、三、五、七、十一、十三、十七、十九、二十三……えーっと……はぅんっ!!」
が、やはり昇天してしまった。
「はぁ……はぁ……はぁ……もうヤダこれ……」
結局私がビキニアーマーを脱げたのは、二人がお茶の三杯目を飲み干した頃だった。
***************
☆元ネタ&雑学コーナー☆
ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。
本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。
〈ビキニアーマー〉
鎧としてはもはや荒唐無稽(笑)なビキニアーマーですが、ファンタジー作品ではむしろお馴染みの衣装になっています。
あまりによく見かけるので、
(もしや過去に実用されていたのでは?)
と思って調べてみましたが、やはりそんな訳はないようです。
まぁどう見ても鎧の用は成していませんもんね。
架空の衣装としての起源もはっきりしないようで、少なくとも1940年代にはビキニアーマーっぽい格好の女性の絵が描かれた書籍があったそうです。
第二次世界大戦後すぐくらいですから、かなり昔ですね。
要は、今も昔もこの格好が好きな人は多いということなのでしょう(笑)
〈素数〉
素数とは、1と自身以外の整数では割り切れない数のことです。
これを小さいものから順次挙げていくと分かるのですが、数字が大きくなればなるほど素数同士の間隔は長くなる傾向にあります。
自分より小さい数字が増えれば割り切れる可能性も増えますから、当たり前のことですね。
つまり大きな数字になればなるほど素数に該当しにくくなるわけです。
では、最も大きな素数はいくつなのか?(素数は無限にあるので正確な最大はなく、『素数であることを確認済みの数』という意味で)
2021年の段階で確認されている最大の素数は『2の82589933乗マイナス1』らしいです。
いまいち想像しづらい数字ですが、十進法で記載すると桁数が『2486万2048桁』になります。なんと二千万桁オーバー。
何がすごいって、こういうのを頑張って弾き出そうとする人間の好奇心、チャレンジ精神がすごいですよね。
必ずしも『役に立つこと』に囚われない精神性は、人生を楽しむためには大切なものかもしれません。
***************
お読みいただき、ありがとうございました。
気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。
それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m
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