第40話 ドッペルゲンガー

(何あれ……誘ってるのかしら?)


 私ははだけたシャツから覗く白い胸元を見て、そんなことを考えた。


 その透き通るような肌だけでも劣情を襲うのに、さらに下のボタンにまで手がかかる。それはゆっくり、ゆっくりと外されていった。


(えっ!?フレイさん脱いじゃうの!?こんな所で!?)


 私は驚きに目を見張った。


 服を脱いでいるのはイケメンエルフの評議長、フレイさんだ。


 そしてフレイさんが脱いでいるのは人の多い街中も街中、中央公園の噴水前だった。散歩している人や遊んでいる子供もいる。


 フレイさんはなぜかそこでシャツを脱ぎ、上半身裸になった。


(綺麗……そしてめっちゃムラムラする)


 顔がイケメンでも体はそうでもない人は多いだろう。しかし、フレイさんに関しては体も負けず劣らず超美しかった。


 この耽美的なイケメンの肢体は、もはやメスを誘っているとしか思えない。


(……っていうか、フレイさんこんな所で何やってるんだろう?)


 私はそう思って小首を傾げた。


 せっかくの眼福なのでその姿をしっかり目に焼き付けてはいるものの、完全に異常行動だとは思う。


 ここは昼下がりの長閑のどかな公園だ。


 私は季節限定クッキーを買いに行く途中だったのだが、たまたま通りかかったらフレイさんが脱ぎ始めていた。


 周りの人たちも何事かと目を向けている。


 子供なら噴水で水遊びでもするだろうが、いい大人がそれもないだろう。


 しかもその衆人環視の中で、フレイさんは腰のベルトにまで手をかけた。


(……え?……ええ!?そ、それはマズいんじゃない!?)


 私は見てはいけないと思い、両手で顔を覆った。


 が、その指はしっかり開いており、目もギンギンに見開かれている。


 そして、その目に燃えるような真っ赤なパンツが映った所で大きな叫び声が上がった。


「いたぞ!!あそこだ!!」


「捕まえろ!!」


「捕まえたって駄目だ!!スライムローションをかけろ!!」


 そんな声に続いて、兵隊さんたちがバタバタと走ってきた。


 そして、その一番後ろにはフレイさんがいる。


「……あれ?でもフレイさんはあそこで脱いでて……」


 噴水の方を見ると、やはりフレイさんがズボン半脱ぎの状態でいる。


 フレイさんが二人だった。


「ど、どういうこと?」


 私が二人を見比べている間に、兵隊さんたちは半裸フレイさんの方へと殺到していく。


 完全にパンイチになったフレイさんはそれを一瞥すると、背を向けて噴水へと飛び込んだ。


 大きな水しぶきが上がり、兵隊さんたちがずぶ濡れになる。


 そしてそれに目を取られている間に、噴水に入ったはずのフレイさんは影も形もなくなってしまった。


 どれだけ待っても噴水からは誰も出てこない。


「くっそー……申し訳ありませんフレイ様、取り逃がしました」


 兵隊の一人がフレイさんにそう謝った。


「上手く水しぶきを利用されましたね。仕方ないでしょう。また探し直しです」


 フレイさんはそう答えてから、いくつかの指示を出していた。


 どうやら街のあちこちを回って何かを探すよう命じているらしい。


 その話が終わってから、私はフレイさんに声をかけた。


「こんにちは、フレイさん。何かあったんですか?今フレイさんにすごくよく似た人を見たんですけど……」


 そう、あれはきっと多人の空似だ。


 だってフレイさんのパンツはあんな炎のようなレッドではないだろう。フレイさんの性格同様、もっと落ち着いた色をしているはずだ。


 が、フレイさんは首を横に振って私の言葉を否定した。


「いえ、少なくともあれは外見だけは完全に私ですよ」


「えっ!?」


(じゃあ今日のフレイさんは闘魂赤パンツなの!?勝負下着なのかな……)


 ついマジマジと股間に目を向けてしまう。


 フレイさんはそんな私に構わず、一言で事情を教えてくれた。


「ドッペルゲンガーです」


 ドッペルゲンガー?


 っていうと、自分と同じ姿形で現れるというアレだろうか?


 都市伝説みたいなものとして認識していたが、この異世界ではきっともう少し違う存在なのだろう。


「ドッペルゲンガーって、そういう名前のモンスターですか?」


 フレイさんは私の推測をうなずいて肯定してくれた。


「そうです。ゴースト系のモンスターですね。視界に入った人間ならどんな相手でも完全に同じ容姿になれます。そして今のように、誰からも見られていない状態なら姿を消すことができます」


「見られてないなら消えられる……そうか、さっきは水しぶきで周りの視界から外れたから」


「その通りです。それで上手く逃げられました」


 なるほど。賢いモンスターだ。


「フレイさんたちが必死に探してるってことは、危険なモンスターなんですか?」


「うーん……積極的に人を襲うことは少ないので危険というわけではないんですが……面倒ですね」


「面倒?」


「そうなんです。ドッペルゲンガーは姿形、それこそ指紋まで全く同じにコピーするので、犯罪捜査に甚大な影響を与えるんです」


「それはつまり……証拠が証拠にならなくなるってことですか?」


「そういうことです。犯罪の目撃証言や指紋があっても『あれはドッペルゲンガーだ』と言われれば、それを否定するのにまた証拠を集めなければなりません。非常に厄介です」


 それは確かにかなり面倒だ。


 状況証拠や推認というのも限界があるだろう。目撃証言も指紋も使えない犯罪捜査というのは相当難しそうだ。


「ただ幸い、物凄く珍しいモンスターなので一度退治すればそうそう現れることはありません。だからとにかく早く退治しようと躍起になっているところです」


「でもさっきみたいに消えられちゃうんじゃ、なかなか難しいですよね」


 私が大変だなと思ってお悔やみを口にした瞬間、フレイさんの目がキラリと光った。


 そして素早く私の手を握ってくる。


「そうなんです!そこでぜひ、我が街の優秀な召喚士であるクウさんにもお手伝いをお願いしたいのです!」


(……季節限定クッキー……今日までなんだけどな)


 私は要らぬ口を聞いてしまったことを後悔したものの、赤パンツの眼福分くらいは働いてもいいかなとも思った。



***************



「この魔封じのローションをかければいいんだよね?」


 私は手に持った瓶を掲げて、サスケにそう確認した。


 サスケも同じ瓶を振りながらうなずく。


「そうらしいね。僕もドッペルゲンガーって見たことないから詳しくは知らないんだけど、それで無力化できるみたい」


 そのセリフを、サスケの隣りを歩くスキアポデスのモノコリさんが一点訂正した。


「正確には無力化ではないよ。この魔封じのローションを浴びると『姿を消すこと』と、『それ以上の変身』がしばらくできなくなるらしい。だから浴びた時の姿のままなら活動できるから、油断して取り逃がさないように気をつけよう」


 さらにその隣りを歩くサテュロスのパーンさんが口笛を吹いた。


「モノコリさんに変身されたらチャンピオンとのガチレースになっちゃうね〜、アガるぅ♪」


「君たちだって速いから声をかけられたんだろう?私はパーン君でもサスケ君でも本気鬼ごっこになるなら楽しみだね」


 サスケ、モノコリさん、パーンさんの三人はスピードを見込まれて協力依頼をされたという話だ。


 そして私はこの三人とチームを組み、ドッペルゲンガーを仕留めるよう指示されていた。


 ドッペルゲンガーを退治する方法はただ一つ、


『変身した相手に触れられる』


ということらしい。


 つまり、ドッペルゲンガーに追いついてタッチしないといけないので、必然的にスピードの速い人に依頼がいくというわけだ。


 モノコリさんは言わずと知れたレースチャンピオンで、『音速の左足』の異名を持つ。その一本足の脚力はもはや伝説だ。


 そしてサテュロスのパーンさんは下半身がヤギだから足腰は強い。特に立体的な動きには目を見張るものがある。


「うーん……三人は速すぎるから、私に変身するまで魔封じのローションは使わない方がいいのかな?」


 その私のつぶやきに、サスケも悩むような声を返した。


「んー……どうだろう?やっぱり消えられるのが一番面倒だし、かけられるタイミングがあればかけちゃった方がいいんじゃない?」


 魔封じのスライムローションは魔素の流れを乱して魔法を使えなくするものだが、ドッペルゲンガーに対しては変身と姿隠しを妨げる作用があるらしい。


 しかし速い人に変身されたままになると、今度はタッチするのが大変だ。


「理想はクウ君に化けた時にローションをかけることだが、ドッペルゲンガーも能力まで完全にはコピーし切れないと聞く。ならばサスケ君の言う通り、タイミングさえ合えばかけてしまった方がいいだろう」


 モノコリさんの言うことに、パーンさんも同意してうなずいた。


「男三人でクウちゃんを追いかけ回す絵面もヤバげだしね〜、かけられたらかけちゃおうよ」


 私たちはそういう方針を決めて街の中を練り歩いた。


 ドッペルゲンガーはいつ、どこに現れるか分からない。


 しかも見た目は普通の人と全く変わらないので、そこらをただ歩いていても見逃してしまう。


 しかし、比較的見分けやすくなる場所があるという話も事前に聞いていた。


(お店で変なことしてる人……お店で変なことしてる人……)


 私は心の中でそう繰り返しながら、特に商店へと意識を向けた。


 ドッペルゲンガーには人間の常識がないため、突飛な行動を取ってしまうことが多いらしいのだ。


 フレイさんに化けていた時も公園の噴水で水浴びをしようとしていたが、そういうのが発生しやすいのが商店だ。


 会計前の商品で何か変なことをしていたとしたらドッペルゲンガーの可能性が高いのだとフレイさんが教えてくれた。


 しかし一時間歩き、二時間歩きしてもそれらしき人物は見当たらない。


(仕方ないよね、本当にどこに出るか分からないんだから)


 プティアの街は広い。もし街中のどこかに現れると仮定しても、出会わない可能性の方が高いだろう。


 それでもあちこち目を配りながら歩いていると、甘い匂いが私の鼻腔をくすぐった。


 街をぐるぐる回った結果、気づけば元々行くつもりだったクッキー屋さんにたどり着いていたのだ。


 店舗の中を覗くと、季節限定クッキーがあと一袋だけ残っている。


「あの……ちょっとクッキーを買ってきてもいいですか?」


 私は先頭を行くモノコリさんの背中にそう声をかけた。


 仕事中なので少し気が引けるけど、せっかくここまで来たんだし。


「ん?あぁ、もう結構な時間歩いたからね。一息つこうか」


「すいません、ありがとうございます」


 おそらく足腰の強い三人はさして疲れてもないだろうが、そう答えてくれた。


(三人の分も何か買おう)


 私はそう思いながらお店に入り、残り一個だった季節限定クッキーを手に取った。


(よし、確保)


 と、安心した瞬間、その袋は私の手から取り上げられた。


 見ると、イエティの男性がクッキーをつまみ上げている。


 見たことない顔だ。知り合いのイエティ、ズーさんもクッキー好きだが、ズーさんではなかった。


「え……?あの……それ……」


 私が困惑の声を漏らした時、そのイエティさんはクッキーの袋を破った。


 そして、大口を開けて一気に口へと流し込む。


「ちょっ、ちょっと!!」


 私は抗議の声を上げた。


 何てことをしてくれるんだ。それは今日までの季節限定品な上に、最後の一個だったんだぞ。


(っていうか、私が先に取ってたのに!しかもそれまだ会計前じゃん!)


 しかしイエティさんは全く気にした様子もなく、大きな音を立ててクッキーを噛み砕いている。


 そして当たり前のような顔をして店を出て行った。


 さすがに店員さんもそれを見咎め、大きな声を出して追いかけた。


「お、お客様!!」


 そんな声を上げられてすら、そのイエティさんは落ち着いた様子で歩き続けている。逃げようとする素振りすらなかった。


(おかしい……もしかしてあの人……)


「……ドッペルゲンガー!そのイエティさん、ドッペルゲンガーです!」


 私は店の外の三人に向かって叫んだ。


 行動から察するに、そういうことで間違いないだろう。


 もし間違いだったとしても食い逃げとして捕まえて問題ないはずだ。


「えっ!?この人!?」


 一番近くにいたサスケがすぐに魔封じのローションの手に駆け出した。


 が、イエティさんはそちらに振り向くと、突然その姿を歪ませた。


 そして一瞬の後にはサスケの姿になっている。


 本物のサスケはいきなり自分が目の前に現れて面食らったようで、わずかにその足を鈍らせた。


 その隙を突くように、サスケドッペルゲンガーは急加速した。ただし逃げる方向にではなく、本物のサスケに向かってだ。


「うわっ」


 ドッペルゲンガーはサスケに体当りして尻餅をつかせた。そしてそのまま道を走り去っていく。


「追いかけなきゃ!ユニコ!」


 私はユニコーンのユニコを召喚してまたがった。


 サスケドッペルゲンガーはめちゃくちゃ速い。私なんかが普通に走ったのでは絶対に追いつけないだろう。


 その間にサスケも立ち上がって走り始めている。


「ごめん、ぶつかられた時にローションかけられれば良かったんだけど……」


 モノコリさんが並んで走りながら、謝るサスケをフォローしてくれた。


「いや、不意を突かれたのだから仕方ない。それよりせっかく姿を見せてくれたんだ。全員の視界から逃れて消えられないように気をつけよう」


 その言葉を受けて、パーンさんがひときわ高く跳ねた。


「じゃあ僕は建物の上から追いかけるよ。違う角度から視界に入れておくといいでしょ」


「ふむ、なるほど。冴えた提案だ」


「ウェ~イ♪」


 パーンさんは軽い言葉を残し、身も軽く跳んでいった。


 そして屋根の上を跳ねながら追いかけてくれる。


 そしてその選択は実際に有効だったようだ。


 ドッペルゲンガーはちょこちょこ小さな道に入って私たちの視界から外れたのだが、姿を消しはしなかった。どうやらパーンさんからは見えていたらしい。


 しかし、それにしても速い。


 変身した人間の能力全ては使えないということだったが、サスケのトップスピードにかなり近いように思えた。


「街中でこれ以上速く走るのも危ないな……」


 モノコリさんが眉をしかめてつぶやいた。


 それはその通りで、すでに何度も街行く人たちにぶつかりそうになっている。この速度でぶつかれば大怪我になってもおかしくないだろう。


 ユニコーンに騎乗して疾駆している私が言えることではないが、危険走行だ。


「……よし。この先の路地は上手い具合に曲がっているから、私が先回りして挟み撃ちにしよう」


 言うが早いか、モノコリさんは脇道へと体を滑らせていった。


 私とサスケはプティアの街に来てそう長くはないが、モノコリさんはずっと住んでいる。細い道などもよく知っているようだ。


「了解、僕たちはこのまま追いかけるよ」


 サスケは自分と瓜二つの背中を睨みながら、師匠と仰ぐモノコリさんへ声を返した。


 私たちが進んでいくと、先ほどの話通り道が少しずつ曲がっていく。幅もかなり狭くなって、通りから路地という感じになった。


 その路地のカーブを走っていると、向こうから地面を蹴る音が響いてきた。


 足音から察するに、モノコリさんだろう。


「師匠だよね!?もうすぐ行くよ!」


 サスケがカーブの向こうにそう叫んだ。


 私たちはその直後、まだモノコリさんが見えていないにも関わらず、確実にモノコリさんがいることが分かった。


 なぜならドッペルゲンガーがモノコリさんの姿に変身したからだ。


 私たちの先を行くドッペルゲンガーはモノコリさんを視界に捉えたのだろう。


「まずい……!!」


 サスケがそう苦々しくつぶやいたのは、私たちの中でモノコリさんの身体能力が圧倒的に高いからだ。一番変身して欲しくない人だった。


 バンッ


 と音がして、ドッペルゲンガーは空中に飛び上がった。モノコリさんの脚力で地面を蹴ればこのくらいは跳べるだろう。


 そしてさらに建物の壁を蹴り、どんどん登っていく。両側は三階建ての家だったが、難なく屋根まで到達した。


 本物のモノコリさんも同じようにしてそれを追う。


(挟み撃ちは失敗か……)


 私はそう思ったが、直後に実は挟み撃ちが成功していたことを知った。


 というのも、ドッペルゲンガーが登った先にはパーンさんが待ち受けていたからだ。


「ウェ~イ、タイミングばっちしじゃ〜ん♪」


 満面の笑みで魔封じのローションを振りかぶる。


 ドッペルゲンガーはそれを避けるべく、ひときわ高く跳んでパーンさんの頭上を越えようとした。


 それは一応成功したのだが、タイミング的にはもう逃れようがない。着地した瞬間を狙われて終わりだろう。


 と、誰もが思った瞬間、ドッペルゲンガーが私のことを振り返った。


 そして変身したのだ。私に。


「……え?桃?」


 そうつぶやいたのはパーンさんだ。


 頭上を越えていく私のスカートの中を見つめながらの言葉だった。


(そういえば今日はティーバック履いてたんだっけ……)


 私はそれを思い出しながら赤面していた。


 そしてパーンさんはというと、モジモジとうつむいてローションを持った手を下げてしまっている。


 しかもうつむきつつも、目だけは上目遣いにしっかりスカートの中を凝視していた。


 このパリピチェリーさんは普段ウザいくらい明るいくせに、こういう状況になると急に縮こまってしまうのだ。


「いや、今そういうの要らないから!!もう見てもいいから魔封じのローションかけて!!」


 私の叫びにハッとしたパーンさんは急いで追いかけていく。


 モノコリさんも屋根まで登ってそれに加勢した。


 ドッペルゲンガーは二人に背を向けて全力で駆けている。


 ただ実際のところ、ドッペルゲンガーは私に変身した時点で勝機を失っていただろう。


 私の身体能力では二人に勝てるわけもなく、さらに言えば屋根の上を飛び回って逃げることなどできはしない。


 二人のローションから逃れようともがいた結果、結局は屋根から足を滑らせて背中から地面に落ちてしまった。


「うわっ……」


 私はその光景に鳥肌が立った。


 死んでもおかしくない高さから自分の体が落ちたのだ。


 しかし前もって聞いていた通り、ドッペルゲンガーは変身した本人に触れられないない限り死ぬことはないらしい。


 ごく普通に立ち上がってまた駆け出そうとした。


 が、その前にサスケが立ちはだかる。


 さらにモノコリさんとパーンさんも降りてきた。


 完全に囲まれて、もはやドッペルゲンガーには為す術もない。


 三人は同時に瓶を振り、魔封じのスライムローションを私のドッペルゲンガーに浴びせかけた。


(な……何かこれ、すごい光景になってるんですけど……)


 私はそれを目にして、また赤面してしまった。


 完全に私の容姿をした生き物が、男三人に囲まれてヌルヌルの液体をぶっかけられているのだ。


 その様子に思わずドキドキムラムラハァハァしてしまう。


↓挿絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/bokushou/news/16817330648334051067


(やだ……私、汚されちゃう……)


 しかもそれだけでなく、男三人は私のドッペルゲンガーを前後左右から抱きしめた。


(そんな……マーキングの上に溺愛ですかぁ!?)


 思わぬハーレム展開に私の脳みそは溶けそうだったが、そんな私にサスケが鋭く叫んだ。


「クウ!早くタッチして!」


 そ、そうだった。


 逃げられる前にタッチしないといけないんだ。


 もうこちらの勝ちはほぼ確定だろうが、相手はモンスターだ。勝負が決まるまで気を抜いてはいけない。


 私は急いでユニコを走らせ、ドッペルゲンガーへと手を伸ばした。


 が、タッチする前にふと思いついて呪文を唱えた。


「セルウス・リートゥス」


 隷属魔法だ。


 この状態がドッペルゲンガーを屈服させているかどうかは微妙なところだが、相当レアなモンスターなのだから可能なら隷属させたい。


(それに完全に人に化けられるってことは……誰かに化けさせてあんな事やこんな事を……)


 私はそういう下心に突き動かされて、青く光る指を過剰なまでの強さで突き出した。


 そしてその指はなんの抵抗もなくドッペルゲンガーの中へと吸い込まれていく。


「……やったぁ!!ドッペルゲンガー、ゲット〜♪」


 私は喜びのあまり、かなり大きな声を出してしまった。思わずガッツポーズまでしてしまう。


「やったやったやった〜♪」


 つい歌うような声まで上げてしまう。それくらい嬉しい。


「よし、これで君も今日からうちの子だ。名前は……ゲンガー……じゃポケットのモンスターみたいだから……ドッペルに決めた!色々よろしくね、ドッペル」


 ムフフムフフ思いながら、ドッペルに『色々』よろしくお願いした。


 そんな私の喜びように調子を取り戻したパーンさんが、バチコン☆とウインクを送ってくる。


「ヒュー♪すごいねクウちゃん!超激レアモンスターを隷属させちゃうなんて、テンション爆アゲなんじゃな〜い?」


 私はそのウインクを見て、早速ドッペルに初めのお願いすることにした。


(ドッペル、パーンさんに変身して!)


 ドッペルは今、男たちからぶっかけられたヌル液まみれだ。


 そのままパーンさんに変身したら、これはなかなか良いBL妄想のタネになるだろう。


(さっきスカートの中見られたんだから、これくらいいいよね)


 私は心の中でそう言い訳しながら、汚されパーンさんに胸を膨らませた。


 が、ドッペルの姿は私から一向に変わらない。


「……ん?どうしたの、ドッペル?」


 不思議に思って念話で聞いてみる。そして答えが返ってきた。


「……ふんふん……ぇえ!?そんなぁ!!」


 私は先ほどと負けず劣らず大きな声を出してしまった。


 ただし、そのテンションの振り切れ方は真逆だ。


 そのあまりに残念げな叫びの理由をサスケが尋ねてきた。


「ど、どうしたの?」


「いや……ドッペルね、使役しちゃうと私の魔素で活動するようになるから、私にしか変身できないんだって」


 念話でそういう返答が得られていた。


 ということは、誰かに変身させてあんな事やこんな事、あんなムフフやこんなムフフはできないというわけだ。


「ショック……」


 がっくりと肩を落とす私を、モノコリさんが慰めてくれた。


「そう悲観することもないだろう。これからクウ君が鍛えて強くなればドッペル君も高性能になるわけだし、そうでなくとも囮として使うことはできる。優秀な使役モンスターだと思うよ」


「まぁ……確かに……」


(それはそうなんですけど、結局ムフフな使い方はできないじゃないですか……)


 そう思ったものの、まさかそんなことは口にできない。私は落胆を胸の内にそっとしまうことにした。


 が、それでも落ち込んでいるように見えたのだろう。モノコリさんに続いて、サスケもフォローしてくれた。


「いいじゃんドッペルゲンガー。今後クウはどんな作業も二人で出来るってことだよね?色んなことがはかどるよ」


 私はその言葉にハッとした。


(二人で作業……そうか、ドッペルを使えばいつか本チャンのムフフをする時に双子プレイみたいなことも……)


 それはなかなか楽しそうだ。


「そ、そうだね……確かに『色々』と捗りそうだね……」


 私はその時のことを妄想し、ドッペルを見直しながら一人吐息を熱くした。



***************



☆元ネタ&雑学コーナー☆


 ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。


 本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。



〈ドッペルゲンガー〉


 ドッペルゲンガーは自分で自分の姿を見る幻覚の一種です。


 医学的には『autoscopy』『自己像幻視』とも言います。


 都市伝説のイメージがありますが、一応は医学的な現象を指す単語なんですね。


 特に健康上の問題がなくても起こりうるものですが、脳の特定箇所に腫瘍ができると見やすくなる幻覚ではあるそうです。


 ただ、普通に『ドッペルゲンガー』と言った場合ほとんどは自分と瓜二つの姿をした都市伝説上の生物を指していると思います。


 都市伝説らしくその特徴も様々言われているのですが、その中でも『見たら近いうちに死ぬ』という死の予告は割と有名なところではないでしょうか。


 筆者も小さい頃にこの噂を聞いて、現れたらどうしようと人混みにビクビクしていた記憶があります。


 しかし前述の通り、ドッペルゲンガーは普通に起こりうる幻覚の一種なんだから何も怖がることはありません。


 タイムスリップして子供の自分に、


『いや、それそんなにビビるもんじゃないから』


って教えてあげたい。


 ……と、ここまで書いてて思ったんですが、今の自分が怖がってるものって、未来の自分からしたら大したことじゃないものが多いんでしょうね。


 無駄にビクビクして楽しい時間を減らさないように心がけたいものです。



***************



お読みいただき、ありがとうございました。

気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。

それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m

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