第38話 デーモン
(何あれ……誘ってるのかしら?)
私はその人の悪魔のような容姿を見て、そんなことを考えた。
人はなぜ、悪そうなものに惹かれることがあるのだろう。
道をあえて踏み外すというアウトローな雰囲気に魅力を感じているのか、それともこの人にメチャクチャにされたいという潜在的な被虐的嗜好から来ているのか。
なんにせよ、私は目の前の立つ悪げな人に対して胸をドキドキさせていた。
きっとこの人は、悪魔のような人に違いない。
だって頭には悪魔みたいな角が生えているし、背中から生えた羽根もコウモリのそれによく似ている。黒くて細い尻尾はその先端が矢印型になっているし、耳もとがっている。
極めつけはその青い肌と赤い目だ。病的とすら思わせる色の肌に対し、その目は鮮血を思わせるような鮮やかな赤をしている。
(やだ……私、きっとこの人に色々悪いことをされちゃうんだ……)
そんなことを思わせてしまう悪魔のような容姿は、もはやメスを誘っているとしか思えない。
「クックック……ここに来たからには、身も心も捧げる覚悟はできているのだろうな?」
その男性は不敵な笑みを浮かべながら、私にそう確認してきた。
(そんな……身も心もだなんて……特に身にはナニをされちゃうのかしら?)
これからの展開を妄想して、ついドキドキを高めてしまう。
そんな私へ一人の女性がニコニコと笑いかけてきた。
「ボランティアの方にそこまで求めませんから、気楽にしていただいて結構ですよ〜」
女性は同じの笑顔を悪魔のような男性へも向けた。
「メフィストさんも無理はしないで下さいね。こちらは助かりますけど、ボランティアはあくまで自分自身の生活がしっかり確保されてからのものですよ?」
「クックック……心配は無用。吾輩は公務員としてしっかりとした生活基盤を持っている上、休みも取りやすい。そしてボランティアは吾輩自身の癒しであり、さらに言えばデーモンは種族として体が非常に丈夫だ」
(デーモン……まんま悪魔な種族だけど、公務員なんだ)
その時初めて知ったメフィストさんの職業に、私は小さな驚きを感じていた。
(でもまぁ本当に色んな種族のいる世界だから、悪魔が住民票の写しとか持って来ても別に違和感はないかな)
だいぶこの異世界に慣れてきた私は、人の外見で驚くということが少なくなってきたように思う。
私とメフィストさんは今、老人介護施設にボランティアとして来ていた。女性はここで働いているスタッフさんだ。
なぜ突然ボランティアなのかというと、仲良しの友達に声をかけられたからだった。
「クウさんは私の付き添いみたいなものですから、あんまりこき使わないで下さいね」
スライム娘のリンちゃんがメフィストさんにそう言ってくれた。
リンちゃんはたまにこういう施設に来て、ボランティアでマッサージを行っているらしい。それで私さえよかったら来てみないかと誘われたのだ。
私にはボランティアの経験はないものの、昔から多少の興味はあった。
今の仕事をしていても感じるが、誰かの助けになることは自分のプラスにもなるものだ。
今日は特に用事もなかったし、私はリンちゃんに同行してみることにした。
「私、こういうの初めてで上手くできるか分かりませんけど……よろしくお願いします」
私に頭を下げられたスタッフの女性は相変わらずニコニコと笑顔を返してくれた。
「そんなに難しいことじゃないから大丈夫ですよ〜。ちょっとしたお手伝いなんかをお願いするだけですから」
その横でメフィストさんもうなずいた。
「クックック……その通りだ。リンさんのようにマッサージなどをするのは本当に特殊なボランティアだからな。普通は入所者たちの話し相手になったり、見守ったり、軽い雑用をする程度だ」
なるほど、そういう感じか。それくらいなら出来そうだ。
「分かりました。メフィストさんはボランティアによく来られてるんですか?」
私の質問には、メフィストさんではなくスタッフさんが答えてくれた。
「よく来るどころか、メフィストさんはボランティアが趣味っていう変な……じゃない、奉仕精神あふれる方なんです。もうすっかり慣れてるからクウさんに具体的なことを教えるのもお願いしようと思ってるんですけど、いいですか?」
「クックック……吾輩は一向に構わん。新人ボランティアの教育もよく行っているしな」
バイトリーダーならぬ、ボランティアリーダー的な?
趣味だって言ってたし、よっぽどよくボランティアをしてるんだろう。
なんか悪そうな笑い方とビジュアルだけど、実はめっちゃいい人みたい。
(それが分かると悪魔の容姿も怖くはないなぁ)
そう思った私は、メフィストさんにあらためて笑顔を向けた。
「メフィストさん、よろしくお願いします。色々教えて下さい」
「クックック……こちらこそよろしく頼む」
***************
「ワシは若い頃スキーやスケートが上手かったんじゃよ」
「クックック……なるほど、ウィンタースポーツがお得意だったわけですな」
「そうそう、雪がよく降るところに住んでおったからなぁ」
「寒いところにお住まいでしたか」
「そうなんじゃよ。冬は毎朝の雪かきが重労働でなぁ……」
「毎日だと本当に大変ですな」
私はお茶をいれ直しながら、メフィストさんと入所者のお爺さんの話を聞いていた。
リンちゃんが順番にマッサージをしていく間、私たちは入所者さんたちとお茶を飲みながらお話をしている。
言ってみればただの茶飲み話相手になっているだけだが、これも入所者さんたちにとっては嬉しいことらしい。
スタッフさんたちは仕事もあるから中々ゆっくり話を聞く時間を作れない。
そこで私たちのようなボランティアが聞き役兼見守りをしてるわけだ。
(それにしても……メフィストさん、意外にもめっちゃ聞き上手)
私はそのことに小さくない驚きを覚えていた。
(バックトラッキング……っていうんだっけ?)
バックトラッキングとは、相手の言葉を繰り返す会話手法の一つだ。
例えば、
『いい天気ですね』
『ええ、よく晴れていて本当にいい天気です』
といった返しがこれに当たる。
これにより相手は『自分の話を聞いてもらえている』『自分の話に共感してもらえている』と感じられるので、多くの場合肯定的な印象を抱いてもらえる。
さらに上手く返せれば、相手に自分の言葉を再認識してもらえたり、会話内容が要約できたりもする。
もちろんただのオウム返しを繰り返していれば相手も不快になるだろうが、メフィストさんはこのあたりの受け答えがとても上手だった。
「雪かきは嫌いじゃったが、雪の上を滑るのは好きじゃった」
「クックック……スキーは好き、と」
「おや、ダジャレかい」
お爺さんお婆さんたちの囲んだテーブルから笑い声が上がった。
別に面白いギャグでもなんでもないが、面子とタイミングの加減だろう。
確かに場は和むし、皆さんメフィストさんと話すのが楽しそうだ。
(慣れてるなぁ)
私はあらためてそう感じた。本当にこういったボランティアによく来ているのだろう。
私は感心しながらテーブルにお茶を置いていった。
「お茶のおかわりでーす」
一人のお婆さんがそれを受け取りながら私に尋ねてきた。
「ありがとうね。そういえばメフィストさんは公務員ということだったけど、クウちゃんは普段は何をしてるの?」
「私は召喚士をやってます」
「召喚士?じゃあもしかして、スライムは持ってないかしら?ここの入所者に召喚士の人がいたんだけど、その人が出すスライムが皆に大人気だったのよ」
「いますよ、スライム。出しましょうか?」
私は格納筒を叩いてスライム三匹衆、レッド、ブルー、イエローを出した。
お婆さんはそれを見て顔を綻ばしてくれた。
「あらぁ、ぷにぷに丸くて可愛いわねぇ。でも……緑の子はいないのね。お花は咲かせられないのかしら?」
「緑?お花?」
首を傾げた私へ、メフィストさんが教えてくれた。
「クックック……以前ここにいたスライムは緑色のグリーンスライムだった。吾輩も個人的に思い入れがあるからよく覚えている」
「そうなんですね。その子はお花を咲かせられたんですか?」
「その子というか、グリーンスライムは種族として植物を操るモンスターなのだ。自らの体に植物を生やし、それを操作することができる。その能力で花を咲かせ、入所者たちの目を楽しませていたな」
「なるほど……ごめんなさい。私が使役してるのはこの三匹だけで、お花は咲かせられないんです」
お婆さんは少し残念そうだったが、レッドを撫でながら笑ってくれた。
「そうなのね。でもあなた達も可愛いわよ。お名前はなんていうのかしら?」
「レッド、ブルー、イエローです」
「あら、奇遇ね。前にここにいた子はグリーンちゃんって言うのよ。どの子も分かりやすくていいわ」
「グリーンスライムのグリーン……とってもいい名前ですね。その召喚士さんのネーミングセンスには光るものを感じます。最高に素敵な名前です」
名前をべた褒めする私に対し、言い出しっぺのお婆さんは少し首を傾げた。
「センスはどうか分からないけど……そのグリーンちゃんも少し前まではここにいたから、もう少し早ければあなた達のお友達になれたかもしれないのにねぇ」
「今はどこにいるんですか?」
私がそう尋ねた時、ちょうど通りかかったスタッフさんが答えてくれた。
「あの子はかなり遠い森の奥に逃がしました」
私はそちらを振り向いて聞き返した。
「逃がした……そうなんですか。ずっとここにはいさせられなかったんですか?」
「入所者の召喚士さんはもう一年以上前に亡くなっているんですけど、遺された使役モンスターは主人からもらった魔素を消費しきったら野生に戻っちゃうでしょう?入所者のご家族から危ないだろってクレームが入っちゃって」
(そ、そうなのか……私が死んじゃったら、うちの子たちもそのうち野生に戻るんだ)
召喚士としての教育をまともに受けていない私には初耳のことだったが、プロの召喚士の見栄として知らなかった雰囲気は出せない。
私は素知らぬ顔でうなずいてみせた。
「……ですよねぇ」
「その召喚士の入所者さん、他にも強い使役モンスターをたくさん所持していたらしいんですけど、入所前に知り合いの召喚士さんにほとんど譲ったらしいんです。でもそのスライムだけは手放せなくて、亡くなる時までずっとそばに置いてました」
私はなんとなく、その入所者さんの気持ちが分かる気がした。
私自身も使役モンスターたちに対し、『うちの子』と言ってしまうほどに愛着を持っている。そう簡単に手放せはしないだろう。
なんなら死ぬ時だってそばにいて欲しいと思う。
私がそんな事をしみじみ思っていると、急にレッド、ブルー、イエローが床から跳ねた。
ジャンプを繰り返しながら窓のそばまで行き、その下の地面を見ている。
「……?三人ともどうしたの?」
私がその窓を開けて下を見てみると、そこにはうちの子たちによく似たぷにぷに丸いやつがいた。
ただし、色は緑だ。
「……え?あなた……もしかして今話してたグリーン君?」
そこにいたのはグリーンスライムだった。
緑色の体の表面に、使役モンスターの証である蔦のような紋様が見て取れる。
ただし、その紋様は目を凝らさないと見逃してしまいそうなほど薄かった。
グリーンスライムは地面を大きく跳ねて、開けられた窓から中へと入ってきた。
そして軽く私にぶつかる。
「きゃっ」
その声にスタッフさんが振り向き、グリーンスライムを見つけて目を丸くした。
「あっ!あなた帰ってきちゃったの?あんなに遠くに逃がしたのに……」
グリーンはそんなスタッフさんの前を横切り、部屋の一角へと跳ねていった。
そして、壁にかけられた1枚の写真の前で立ち止まる。
その写真は入所者さんたちが集まって、今日のようにお茶会をしている写真だった。
みんな和やかに笑っており、よく見るとグリーンの姿も写っている。
グリーンはおばあさんの膝の上に乗り、頭を撫でられていた。
(……この人がグリーンのご主人様かな?)
私は直感的にそう思った。となると、グリーンはご主人様の写真が見たくて帰ってきたのだろうか。
実際、グリーンはじっとその写真を見つめたまま静止している。
私はその様子を見て、スタッフさんに提案してみた。
「……あの写真って、あの子にあげられませんか?きっとご主人様の姿が恋しいんじゃないでしょうか?」
「ええ、そういう事ならあげられないことはないですけど……」
「待て」
と、私たちの会話をメフィストさんが止める。
「吾輩が見たところ、どうもグリーンの本当の望みはやや違う所にあるように感じる」
「違う所?」
「うむ。もう少し見ていよう」
言われた通りしばらく眺めていると、グリーンの体がプルプルと震え始めた。
そしてその頭から突然、ポンッと植物が生えてきた。
「……サボテン?」
それはスライムの体と同じような球形をしたサボテンだった。
私はグリーンの行動の意味するところをよくよく考えてみた。
「つまり……この子はご主人様を見たいっていうよりも、ご主人様に見せたいって感じで帰ってきたんですかね?このサボテンを」
私の推察に、メフィストさんは首を傾げた。
「そのようにも思えるが……まだグリーンの望みは満たされていないように感じる。しっかり調べてみよう」
そう言って、メフィストさんはグリーンのそばにしゃがんだ。
そしてその表面に手のひらを乗せ、じっと何かを感じ取ろうとしている。
「……我々デーモンは生き物の『欲望』というものを、ある程度だが感じ取れる能力がある。特にこうやって直接触れれば、その者の抱えている望みが分かることもあるのだ」
グリーンスライムに手を触れたまま、メフィストさんはしばらく沈黙していた。
そして少しの時間が経ってから口を開く。
「やはり……どこか満たされていないな。グリーンの欲望からは『花』のようなイメージが湧いたが……」
そう言って、また首を傾げた。
そこへ、先ほどグリーンのことを話していた入所者のお婆さんがやって来た。
「あらぁグリーンちゃん。またキンシャチを咲かそうとしてるのねぇ」
私はそのお婆さんの言葉をオウム返しに聞き返した。
「キンシャチ?」
「知らないかしら?このサボテンの名前よ。キンシャチっていうの。この子のご主人様が生きていた時にはよく花を咲かせて見せてくれてたわ。その人の一番好きな花らしいんだけど、咲かすのがとっても大変なんですって」
「どう大変なんですか?」
「キンシャチは普通に育てたら花を咲かせるのに二十年以上かかっちゃうサボテンなのよ。そんな時間のかかる花だからグリーンスライムに咲かせるのも簡単じゃなくて、たくさんの魔素が必要だって言ってたわ」
「じゃあ……この子はキンシャチの花をご主人様に見せたいけど、もう魔素が少なくなってるから咲かせられないでいるってことですか?」
「そうなんじゃないかしら。きっと、私たちがお墓に花を供えるような気持ちなのかもしれないわね」
つまりこの子は亡くなったご主人様にお花を供えるために、遠い遠い森の奥から頑張って帰ってきたわけだ。
(でもそのお花を供えるだけの力がもう無い、ってことか……)
グリーンはぷるぷると震えながら、一生懸命花を咲かそうと力を込めている。
しかし、キンシャチには
(不憫だな……)
私はその姿に胸を打たれた。
もし死んだのが自分で、うちの子たちが同じようなことをしていたらどうだろう?
想像の中で自分と召喚士のおばあさんを重ね合わせ、切ない気持ちになった。
(もしこのグリーンスライムがうちの子だったら、自分が死んだ後どうして欲しいだろう?)
私は自分自身にそう問いかけて、すぐに答えを得られた。
(やっぱり前を向いて生きていて欲しい。自分のことは過去の思い出として大切にしてくれればいいから)
そうは思ったものの、それが簡単でないことも知っている。
だから私はグリーンに花を咲かさせてあげたいと思った。
たとえ他人から見て意味がない行為でも、これからも生きていくグリーンが前を向くために、きっと必要な儀式だと思ったから。
「ねぇ、あなた」
私はグリーンのそばにしゃがみこんだ。
そこにうちのレッド、ブルー、イエローが集まってくる。
「少しの時間だけでも私の使役モンスターにならない?そしたら多分、キンシャチのお花を咲かせられるだけの魔素は出せるよ?」
↓挿絵です↓
https://kakuyomu.jp/users/bokushou/news/16817330648143049520
私の言葉に合わせ、三匹のスライムたちが体をプルプルと震わせた。私の気持ちを伝えてくれているのだ。
グリーンは私のことをつぶらな瞳でじっと見つめてきた。私はそれに微笑み返す。
やがて、グリーンはプルンと体を震わせた。
了解、という返事だと感じた。
「いいんだね?……セルウス・リートゥス」
私の指が青く光り、グリーンに挿入される。
そしてその体が一度強く光り、薄かった蔦状の紋様が消え、新たな濃い紋様が現れた。
(よかった……もしかしたら使役魔法が成立しないかと思ったけど、ちゃんと出来た)
私はそのことにホッと息を吐いた。
今回は屈服させているわけではないし、前の使役魔法も完全には消えていなかった。
しかし本人の了承があるし、前の術者がすでに亡くなっているので大丈夫だったのだろう。
「じゃあ魔素を込めるから、咲かせて見せてあげて」
私が魔素を込めると、グリーンから生えたキンシャチはどんどん大きくなっていった。
キンシャチはどうやらかなり巨大に育つサボテンのようで、最終的には直径が一メートル近くになった。
そしてその球形の頭に、まるで花飾りのようにフワッと花が開いた。
薄布を張り合わせたような、儚げな花だ。
「綺麗だね……きっと君のご主人様も喜んでるよ」
グリーンはキンシャチの花を咲かせたまま、夕方までずっとその写真の前に佇んでいた。
そしてボランティアも終わりの時間になり、そろそろ帰ろうという段になって私は再びグリーンに話しかけた。
「私はもう帰るけど、あなたはどうする?人を襲わないって約束できるなら、使役魔法を解いて遠い森の奥に逃がしてあげるよ」
グリーンスライムはぷるぷると震えながら、私に念話を送ってきた。
それは『使役モンスターとして私について行きたい』ということだった。
「本当にいいの?」
そう確認する私に、メフィストさんがグリーンスライムの頭を撫でながら教えてくれた。
「クックック……このグリーンスライムの望みは、人の役に立つことだ。人の笑顔を見ることだ。吾輩と初めて会った時からそれは変わらない。吾輩はこの美しい欲望に心洗われ、ボランティアが好きになったのだ」
「え?そうだったんですか?」
「先ほども言ったように、デーモンには人の欲望を感じ取る能力がある。しかしそれは、時として醜いものばかりを感じ取ってしまうことにも繋がるのだ。そんな世界が嫌になって自暴自棄になりかけた時、吾輩はこのグリーンスライムに出会った。この美しい欲望に触れて、まんざら悪い世界でもないと思えたのだ」
「美しい欲望……」
「そうだ。欲望は必ずしも醜いとは限らない。美しい欲望もある。それが分かったから、吾輩は今もこの世界で生きていられる」
どうやら新しいうちの子は優しい子で、人を救える素晴らしい子らしい。
私はそれが誇らしかった。
「よろしくね、グリーン」
私がそう言うと、グリーンの体はそれに応えるようにぷるんと震えた。
そして体から植物のツルをヒュルヒュルと生やす。
ツルにはいくつもの花を咲き、私の体に巻き付いてきた。どうやら私を花で囲んで喜ばそうとしてくれているらしい。
「わぁ、素敵!!綺麗なお花だねぇ……って、ひゃんっ」
巻き付いたツルが私の太ももの内側を撫で、私は思わず高い声を出してしまった。
「ちょっ……ちょっと……ひゃあっ、きゃあっ、あぁんっ」
私がゾクリとした快感を覚えたのを敏感に感じ取ったのか、グリーンはツルを何本も増やして私の体のあちこちを撫でまくった。
「やぁんっ……はぁっ……」
ツルは私の全身を這い、ついには下着の中にまで侵入してきた。
「ちょ……ま、待って……はふぅんっ」
「こらこら、その辺にしときなさい」
と、リンちゃんがやって来てグリーンの頭をワシっと掴んだ。
どうやらリンちゃんも帰り支度が済んだらしい。
グリーンを上からポヨンポヨンと押さえながら、目を吊り上げる。
「クウさんにそういう事していいのは私だけなんだからね?」
「いや、リンちゃんもダメだよ……」
私はそうツッコミを入れながら、ふと私たちを見るメフィストさんの視線が気になった。
(……そういえば、デーモンって欲望を感じ取れるんだよね?ということは、人には言えない私のピンク色な欲望もメフィストさんには分かっちゃってるってこと?)
実は先ほどの私が大変歓んでしまったのも丸分かりなのだろうか?
そう思うと急に恥ずかしさで顔が熱くなってきた。
「あ……あの、メフィストさん」
「なんだ?」
「わ、私の欲望とかも……感じ取れちゃったりするんですか?」
メフィストさんは私の質問にいつも通りの笑みを返した。
「クックック……感じ取れないことはないが、欲望に不思議なベールを感じる」
「ベール?」
「そう、ベールだ。恐らくそのベールの奥の欲望を隠そうとしているのだろう。隠そうといていること自体もまた、欲望なのだと感じるな」
それはつまり、アレだろうか?
むっつりスケベのむっつり部分ということだろうか?
私はそのむっつりベールのおかげでショッキングピンクな欲望の数々を隠せているのかもしれない。
(むっつりで良かった……)
まさかそんなことに感謝する日が来ようとは夢にも思わなかった。
***************
☆元ネタ&雑学コーナー☆
ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。
本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。
〈デーモン〉
デーモンは悪魔とか悪霊に対して使われる単語なので、これが何かというとあまりに多岐に渡って解説できません。
ただ、特に宗教がらみの悪魔は人の欲望を刺激する役割を持っていることが多いことから作中のような種族設定にしてみました。
どうしても悪いイメージにしかならない悪魔ですが、悪魔がいないと成立しない話って多いんですよね。
そんな悪魔に感謝、そして合掌。
お陰さまで色んな教訓とか楽しいエンターテインメントとか得られています。
〈むっつり〉
『むっつり』を辞書で引くと、『口数が少なく無愛想な様子』というようなことが書いてあります。
そして『むっつりすけべ』を辞書で引くと、『人前では色事に興味がない振りをしながらも、実は興味津々なこと』などと書いてあります。
なんというか、言葉の妙を感じるいい単語ですよね。
語感も含めてすごく好きな日本語です。
***************
お読みいただき、ありがとうございました。
気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。
それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m
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