第37話 アラクネ
(何あれ……誘ってるのかしら?)
私は胸を締め付けられるような表情を前にして、そんなことを考えた。
人は皆、明るく楽しいものが好きだ。それを感じるために生きているとも言える。
にも関わらず、なぜか憂いというものに強く惹きつけられることも多い。
それは往々にして身勝手な同情だったり保護欲だったりするわけで、特に異性に向ける場合には注意を要することではある。お互いにとって厄介な地雷になる危険性を帯びているのだ。
ただそれが分かっていてなお、憂いを帯びたイケメンの眉根はひどく蠱惑的に感じられた。
一つの芸術であるかのようなその姿は、もはやメスを誘っているとしか思えない。
「あの……大丈夫ですか?」
私はその男性に思わず声をかけてしまった。
問われた男性は虚空に放っていた心を取り戻すのに少し時間がかかった。
私には男性がその心に引かれて、一歩踏み出しそうに見えたのだ。
彼の一歩先には下を見るのも恐ろしいような断崖絶壁しかないというのに。
「……あぁ、大丈夫だよ。こんな所に立ってたから心配させてしまったね」
男性はそう言って笑った。
その笑顔が儚げで、私の胸はキュッと締め付けられた気がした。
私は今、薬草採取の仕事で街から少し離れた高原に来ている。
最近は討伐やらなんやらでモンスターと戦う仕事が多かったが、基本的には危険の少ない仕事を受けたい。だから採取系の仕事をよく選んでいた。
採取の依頼は季節性のものが多く、今日もこの時期にしか咲いていないという高原の花を採りに来ている。
すると、断崖絶壁の前で立ち尽くす儚げな男性がいて、思わず声をかけたのだった。
男性は線の細い白い顔を崖下へと向けた。
「でも……君に声をかけられなかったら飛び降りてしまったかもしれない。そんな気分ではあったんだ」
私はその言葉にまず驚き、そして声をかけてよかったと思った。
ただ、それに続いて一つの疑問が浮かんできた。
「そうですか……でもあなたの場合、ここから落ちて死ねるんですか?」
私はそう言いながら、男性の下半身を見た。
男性も自分の下半身に目を落としてから、首を横に振った。
「いや、死ねないだろうね。蜘蛛だから」
その人の下半身は蜘蛛だった。蜘蛛から人間の上半身が生えたような種族、アラクネだ。
「僕らアラクネは半分蜘蛛だから垂直の壁も歩けるし、落ちそうになったら反射的に糸を出してぶら下がっちゃうね。飛び降りじゃあ、まず死ねないよ」
その男性は先ほどまでとは打って変わった明るい表情でそう言った。
そして軽い調子で手を差し出してくる。
「僕の名前はアラーニェ。織物の職人をしてるんだ」
私はアラーニェさんの手を握りながら、こちらも自己紹介を返した。
「召喚士のクウです。ここには薬草採りの仕事で来ました」
「薬草採りかぁ。そういえばカモミールの花がたくさん咲いてたね。あれも消炎薬や胃薬になるんだっけ?アロマテラピーにも使われるよね。それにしてもこんな所に女の子一人で大丈夫かと思ったけど、召喚士なら安心だ。きっと魔質が良くて強いんでしょ?羨ましいなぁ。あ、スライム連れてるんだ。やっぱり燃費がいいのかな?採取中に警戒させるくらいならスライムが調度いいんだろうね」
突然のマシンガントークに
(何だか初印象と違う感じの人みたい……線が細くて、儚げで、放っておけない感じがしたけど、むしろその反対だな)
線の細い系イケメンであることは間違いないが、初対面の人にこの勢いで喋りかけられるのはむしろ図太い方だろう。
(でも、とりあえず危険はなさそうで良かった)
その点に関してはホッとしつつ、夕刻が近づいてきたので早く帰ろうと思った。もう依頼された量は十分集められたはずだ。
私はマシンガントークの弾幕をかいくぐって声を出した。
「いいなぁ召喚士。僕らアラクネもそれなりには戦えるけどこの先の……」
「あ、あの……私そろそろ帰らないと。もうすぐ暗くなりますし、アラーニェさんも気をつけてくださいね」
そう言いながら体を反転させる。おしゃべりの止まらない人には体ごと離れながら別れを告げないと、なかなか逃げられない。
が、アラーニェさんの図太さは予想のさらに上をいっていた。去ろうとする私の肩をグッと掴んできたのだ。
「クウさん、よかったら話を聞いてくれないかな?僕、困ってることがあるんだけどさ……」
出会ったばかりの私にいきなりそんなことを言ってくるアラーニェさんに驚きはしたが、このくらいの人なら自死などという早まったことはしないだろうと安心はできた。
****************
「おいクウ、今日はまた厄介な野郎に絡まれてんな」
アステリオスさんはそう言いながら、私のテーブルにラタトゥイユを置いてくれた。
それから向かいの席に座ったアラーニェさんをジロリと見る。
言われたアラーニェさんは完全に冗談だと思ったらしく、明るい笑い声を上げた。
「ハッハッハ、厄介な野郎って。アステリオスさんは相変わらず面白いなぁ」
「いや、お前の神経ほどじゃねぇよ」
「え?どういうこと?僕の神経って面白い?」
「ああ。面白すぎて、もはや笑えねぇな」
アステリオスさんはうんざりした顔をしてから私の方を向いた。
「クウ。俺は人の交友関係にあれこれ言う気はないけどな、こいつは面倒くさいぞ」
「あははは……」
私にはアステリオスさんの言うことがよく分かった。というか、言われなくてもすでに街までの道中でよく分かっている。
初対面の私に対してすごく一方的に話しかけてくるところまではいい。
人見知りしない、おしゃべり好きな人だと思えば、まぁそんな人もいるだろう。
(でも普通の世間話じゃなくて、いきなりアレコレ相談してくるんだよね。しかもそれを解決するための面倒ごとを頼まれている、と)
少なくとも初対面の相手にすることではない。
「で、どんな面倒ごとを頼まれてるんだ?」
アステリオスさんは私の表情からそれをすぐに読み取ったらしく、そう尋ねてきた。
っていうか、そんなにすぐ分かるほど前科のある人なのか。
「ええと……無報酬でドラゴン退治を」
私の回答を聞いたアステリオスさんはまずあきれ返った顔になり、それからアラーニェさんの頭をワシと掴んだ。
「アラーニェ。前から言ってるが、なにか人に頼みたいことがあるならちゃんと報酬を用意して依頼書を書け。ドラゴン退治なんてモンはタダ働きで出来るような仕事じゃねぇよ」
そう言って頭を大きく揺らす。
アラーニェさんはされるがままに頭を振られながら、全く悪びれた様子もなく答えた。
「だってアステリオスさんのお店、事前にある程度の報酬を用意してないと依頼書を貼らせてくれないでしょ。お金は依頼が達成できたら入るんだから無理だよ」
「そういう場合にはいくらか融通を利かせてやることもあるがな、それは信用できる相手にだけだ。当たり前だろう?そんでお前、自分は信用があると思ってんのか」
アラーニェさんはアステリオスさんに掴まれた頭を縦に振ろうとしたが、ミノタウロスの腕力で無理やり横に振られてしまった。
「っていうかお前、そもそも報酬を支払う気はあるのか?クウは無報酬って言ってじゃねぇか」
「そりゃまぁ、報酬の約束したら払わないといけなくなっちゃうからね」
堂々とそんな事を言ってのけたアラーニェさんに、私はあきれるよりもむしろ清々しさのようなものを覚えた。
厚かましさもここまでくれば一種の才能かもしれない。
「お前な……」
「いや、でも!そのドラゴンさえ何とかなれば本当にお金は入るんだよ。そしたら『金羊毛』が手に入るからさ。金羊毛さえあれば、今度のコンテストで絶対に大賞取る自信があるんだ!」
「……あぁ、金羊毛か」
アステリオスさんはその単語を聞いて、ようやく手を離した。
そして腕を組んで考え込む。
「そりゃまぁ……金羊毛が刈れればそれなりの金にはなるけどよ」
私はその話をアラーニェさんから一度聞いてはいたが、改めてアステリオスさんに尋ねてみた。
「金羊毛って、そんなにすごいものなんですか?」
「そうだな。金羊毛はその名の通り金色に光る羊のモンスター、ゴールデンラムの毛だ。この羊毛はどんな原理か、切り落とした後でも毛自体が金色に発光し続けるっていう珍しい代物でな。服飾品や装飾品、場合によっては照明として使われることもある高級素材だ」
「魔素を込めなくても光り続けるんですか?」
「そうだ。だから重宝される。環境中の魔素を吸ってるんだとも言われるが、よくは分かっていない。特に服飾やってる人間なんかは欲しがるが、ゴールデンラムは『番竜』っていうに中位種のドラゴンに守られてる。なかなか手には入らないな」
そう、私が頼まれているのはその番竜を退けることなのだ。
ゴールデンラムはとある地域の草原に生息しているが、なぜか必ず番竜と一緒にいるという話だった。そして人間が近づくと、その番竜が襲いかかってくる。
私もその話は聞いていたが、番竜が中位種のドラゴンという話は初耳だった。
「中位種って……相当強いですよね?それに何より、ドラゴンはこの間の討伐戦でお腹いっぱいです」
先日のワイバーンロードとの戦いが大変だったので、もうドラゴンはしばらく控えたいというのが正直な気持ちだ。
アステリオスさんもうなずいて同意した。
「そうだな。この間の戦いだとオブトが中位種のハイワイバーンを倒してたが、かなりの強敵だったらしい」
私もその話は聞いている。
というか、作戦が終わった後のオブトさんに直接どんな戦いだったかを聞いたのだ。
(でもオブトさんは微妙な表情をしたまま黙っちゃって、結局答えてくれなかったんだよね……歴戦の猛者であるオブトさんにそんな顔をさせるんだから、よっぽど大変な戦いだったんだろうな)
私はオブトさんの様子から激戦を想像し、背筋を寒くした。
「アラーニェさん、私やっぱり今回のお話は……」
お断りするつもりで口を開いたのだが、アラーニェさんは素早く声をかぶせて遮ってきた。
「お願いだよ!ケチらずちゃんと報酬も出すからさ。その報酬だって、普通に金羊毛が手に入った時の金額よりもずっとたくさん出せるはずなんだ。今度のタペストリーのコンテスト、大賞は賞金だけで百万円だし、大賞の作品はさらに高値で売れるんだから」
アラーニェさんが金羊毛を欲している理由がこれだ。
織物職人であるアラーニェさんは、半月後にプティアの街で行われるタペストリーのコンテストに応募したいらしい。
ただし、それにはどうしても金羊毛が必要という話だった。そうでなければイメージしている作品が作れないらしいのだ。
しかし金羊毛を買おうにも先立つものがない。
(職人さんのこだわりって本当にすごいよね。ドラゴンをなんとかしてでも自分の理想を形にしたいってことだから)
その点に関しては感心するものの、この手の話を鵜呑みにしてはいけない。
「大賞って、取ろうと思って取れるものなんですか?」
百万円も賞金が出るようなコンテストだ。応募者も多いだろうし、簡単ではないだろう。
しかし、私の心配を払拭したのは意外にもアステリオスさんの方だった。
「アラーニェなら本当に取りかねんぞ。実際、過去に何度も入賞はしてるからな」
「えっ、そうなんですか!?」
「あれ見ろ」
アステリオスさんは店の一隅を親指で指した。そこには一枚のタペストリーが掛けられている。
冒険者たちが荒野を進んでいく、雄々しいタペストリーだ。
「あれも入賞作だ」
「……言われてみればすごい迫力のタペストリーですね。アラーニェさん、実はできる職人さんだったんだ」
ちょっと失礼な言い方になってしまったが、アラーニェさんはまるで気にした様子を見せずに胸を張った。
「まぁね〜、アステリオスさんも僕の作品を気に入って店に置いてくれてるんだよね」
「ふざけんな。お前が店でたらふく食った後に『財布忘れた』ってのが多いから、質の抵当のつもりで預かってるだけだろうが。しかもお前、その金額分はもう食っちまってるからな。今日はちゃんと金払っていけよ」
アラーニェさんは笑顔を崩さないまま自分のポケットをパンパンと叩いた。
「あ、財布忘れた」
ピキッ、とアステリオスさんの額に青筋が浮かび上がる。そしてその直後、ウエイトレスの牛キメラお姉さんがアラーニェさんの前に分厚いステーキを置いた。
この店で一番高いメニューで、確か金額は一万円を超えるはずだ。
アラーニェさんが私に向かって両手を合わせた。
「クウ、ごめん!今度賞取ったら返すから、ちょっと立て替えといてくれないかな?」
ちょっと待て。それは私が金羊毛の採取を手伝う前提の話になってないか?
そしてなぜかアステリオスさんもアラーニェさんに乗っかってきた。
「よし、そういう事なら俺も番竜の攻略法を一緒に考えてやる。まず番竜はワイバーンと違って飛べないから……」
「ちょ、ちょっと待ってください!なんで私が仕事を受けることが決まってるんですか!?」
私はテーブルを叩きながら抗議したが、アステリオスさんは平然と答えた。
「なんでって、そりゃうちの店に損失を出さないためだ」
そのセリフを受けたアラーニェさんは、いっそう明るい笑顔をこちらに向けてきた。
「だってさ。よろしくね、クウ」
「…………」
(ダメだ。私みたいなタイプはこの手の人たちには勝てない)
厚かましい二人に挟まれた小市民の私は、ものも言えずにただため息をつくことしかできなかった。
****************
「一応糸でくくりつけてるけど、しっかりと掴まっててね」
「は、はいっ」
私はアラーニェさんを後ろからギュッと抱きしめた。
事情があることとはいえ、異性をバックハグするというのは緊張する。
しかもアラーニェさんは性格がちょっとアレとはいえ、線の細い系イケメンだ。
私の心臓は鼓動を速くした。それが背中越しにアラーニェさんにも伝わっているかもしれないと思うと、余計にドキドキしてしまう。
「じゃあ、行くよ」
その言葉の直後、私の心臓はさらに激しく脈打った。
ただし今度は先ほどまでと違い、恐怖による拍動だ。
私たちは今、垂直の壁を歩いて降りている。初めてアラーニェさんと出会った場所にある断崖絶壁だ。
この崖を降りてしばらく行った先にゴールデンラムと番竜が棲む草原があるらしい。だからアラーニェさんは崖の上からその先を眺めていたのだった。
私はアラーニェさんの下半身の蜘蛛部分にまたがり、上半身にしがみついた状態で恐怖に耐えていた。
目の前には何もない空間と、かなり先の地面とが見える。
景色としてはそれだけの物だが、感じる重力と相まった時に本能的な恐怖を感じる辺り、人間の感性はすごいものだと思った。
高さは何十メートルあるだろうか。ちゃんと糸でくくられているとはいえ、落ちれば命はないだろう。
↓挿絵です↓
https://kakuyomu.jp/users/bokushou/news/16817330648067473642
(つ、吊り橋効果って本当にあるかも)
吊り橋効果とは、緊張感と恋愛感情とを誤認してしまう現象のことだ。揺れる吊り橋から受ける緊張で男女の恋愛が進むことがあるらしい。
そんな効果も相まってか、恐怖心が私のドキドキをさらにムラムラハァハァにしてしまう。
「えらく息が荒いけど大丈夫?怖いだろうけど、過呼吸になっちゃわないように気をつけてね。ゆっくり息を吐くようにしたらいいらしいよ」
少々勘違いをしたアラーニェさんが気をつかって声をかけてくれた。
「あ、ありがとうございます。大丈夫です」
「僕らアラクネにとっては普通の光景なんだけどね。そりゃヒューマンには怖いよねぇ」
そうか、やっぱりアラクネはこの断崖絶壁でも死を感じないのか。
私はふと、アラーニェさんに出会った時のことを思い出した。
「私、アラーニェさんがここから身投げしようとしてると思ったんですよ。うつ病か何かかなって。でも全然そんなことなかったんですね」
「いや、あの時は冗談抜きで本当に死んじゃおうかって気分だったよ」
「えっ!?」
私は驚いた。神経の太すぎるアラーニェさんでもそんな事を思う時があるのか。
私の思考はアラーニェさんにも丸分かりだったらしく、前を向いたまま笑い声を上げた。
「ハハハ、僕みたいな厚かましい人間でも死にたくなることがあるのかって思ったでしょ?」
「いや……その……」
「いいよ、自分でも分かってる。でもね、僕の知り合いの精神科医から言わせたら『うつ病なんて風邪みたいなもんだから、誰だってなりうるんだ』って話だったよ」
「うつ病が風邪ですか……」
「そうだね。実際、風邪とよく似ているところが多いらしいんだ。条件さえ揃えば誰でもなるし、軽く済む時もあれば、肺炎みたいに死んじゃうほど重くなる時あるでしょ?それに何より、風邪もうつ病も早めにお医者さんにかかってきちんとした治療さえ受ければ、ほとんどは軽症で済むんだよ」
「……なるほど。でも心の病気ってある程度は気の持ちようにも思えますし、治療で治るのかなって疑問もありますけど」
「治る治る。うつ病は百パーセント治るよ」
「ええ?百パーセントですか?」
「その精神科医に言わせれば、だけどね。ただね、『治る』の概念だけはうつ病と風邪で違うんだって。風邪の場合、かかる前の状態に戻ることを『治る』って言うけど、うつ病の場合は完全に元通りを目指すのは適切でないことも多いんだって。うつ状態を経て心も成長するし、繰り返すことも多いしね」
「なるほど……でも、絶対に良くはなるんですね」
「うん。うつ病になると、気持ちが塞いだり、モチベーションが上がらなかったり、色々なことを楽しいと思えなくなったりするけど、そういうのはちゃんと適切な治療さえ受ければ必ず改善していくんだ。それは少しずつだったり、ぶり返したりもするけど、それでも少しずつ気も楽になって、モチベーションも保てて、色々なことを楽しんだりできるようになるんだよ。だからね、とにかく無理せず早めに受診して適切な治療を受けることが大切なんだ」
私はここまでの話を聞いて、もしかしたらアラーニェさんはうつ病での治療経験があるのかもしれないと思った。
図太い神経をしているが、もしかしたらうつ病を経たアラーニェさんなりの成長なのかもしれない。
「……じゃあ、アラーニェさんはうつ病なんですか?受診した方がいい感じです?」
「いや、僕の場合は作りたい作品が作れなくてヘコんでただけだよ」
「それならいいですけど。でも病気との線引きなんて素人には難しいでしょうし、辛かったら無理せず受診して下さいね」
「自分が言ったことを反対に言われちゃったね。ありがとう」
アラーニェさんは壁を下りながらクスクスと笑った。
「でも僕みたいな厚かましい人間でも、本当に自死を選ぶような厚かましい事だけはできないなぁ」
「自死が?厚かましいんですか?」
「そうだよ。たくさんの人を悲しませて、面倒をかけて、この世で一番厚かましい行為じゃないか」
「確かに。それだけの厚かましさがあったらアラーニェさんみたいに厚かましく生きなさいって言いたくなりますね」
「ホントそれ」
私たちは一緒に笑い声を上げ、その時ようやく水平な地面へと降り立つことができた。
***************
「どう?こっちにはまだ気づいてない?」
「はい、多分大丈夫です」
私たちは草原の中に身を伏せて、ささやくような小声で話をした。
草丈が結構あるのでそれなりには隠れられているはずだ。
私たちのニ百メートルほど先にはゴールデンラムや番竜の群れがあるのだが、気づかれてはいない。
「でも、本当にやれますかね?」
「うーん……中位種のドラゴンが十体か。正直かなりキツイよね」
私たちの視線の先には十体の番竜がいる。
ワイバーンとは違って翼は無く、どちらかと言えば恐竜に近いような姿だ。
太くてゴツゴツした体から、フィジカル面ではワイバーンを圧倒するであろうことが容易に察せられた。
その番竜は金色の羊、ゴールデンラムの周囲をグルリと囲むように配置されている。
ゴールデンラムの正確な数は分からないが、百体くらいはいそうに思えた。毛を刈るのはその一匹分で十分なのだが、十体の中位龍を相手にしながらとなると命がけだろう。
っていうか、普通には無理だ。
「まぁアステリオスさんもイチオシの作戦だし、やるだけやってみようよ。仕込みは済んだしね」
「そうですね。それに上手くいったらゴールデンラムを隷属させたいなって思いました。あの子たち、めっちゃカワイイですね」
ゴールデンラムは金色の毛をしているだけでなく、なんと翼が生えている。
翼は丸っこくて可愛らしいサイズなので、とても飛べそうには見えないが。
私は隷属させたゴールデンラムをモフモフするところを想像した。あれ絶対気持ちいいやつだ。
(名前は何にしよう?やっぱりラムちゃんかな?)
私はそこまで考えてにんまりしてしまったが、アラーニェさんの方は首を傾げた。
「それはどうだろう?ゴールデンラムって番竜から長時間離れたら、なぜか衰弱死しちゃうらしいんだよね」
「えっ、そうなんですか?」
「なんか番竜の方もそうらしくて、何かしらの共生関係があるらしいよ。でもまぁ、隷属させてれば大丈夫かもしれないけど。試してみる?」
「……いえ、うちの子になった後に死んじゃったら辛いのでやめておきます。毛を刈ったら逃がしましょう」
私はラムちゃんを諦めて、普通に毛刈りを目指すことにした。ただし、それも簡単ではなさそうだが。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん、頑張ろう。ちゃんと報酬は払うからね」
ちなみに報酬はアステリオスさんが睨みを利かせてくれたので結構な予定額になった。
ただしあくまで予定であり、金羊毛が採れなければ当然タダ働きだ。
(ホント頑張ろう)
私たちは姿勢を低くしたままゴールデンラムたちの方へと進んで行く。
どこまで近づけるものかと思ったが、遮蔽物の少ない草原だ。まだ百メートル以上距離があるのに、番竜たちの一体が私たちに気づいたらしい。
その個体は天に向かって身の震えるような雄叫びを上げ、それから私たちに向かって突進してきた。
「来ました!!」
それに続いて他の番竜たちも駆けてくる。
十体のうち、遠い三体はなおゴールデンラムのそばから離れない。こちら側にいた七体が襲いかかってきた。
ドラゴンの巨体が地響きを立てて向かってくる。
この数の中位龍から一斉に命を狙われたのだ。私は本能的に命の危機を感じた。
「皆、出ておいで!」
私はスケさん、カクさん、レッド、ブルー、ヤタ、ベオ、バンクルを召喚した。
一度に大量に出したのでかなりの魔素を持っていかれる。
魔素の補充薬をあおりながら、全員を番竜たちへと向かわせた。
番竜たちはその見た目通り、凄まじい威力の爪、牙、尻尾を繰り出してくる。かわした尻尾の一撃が重機もびっくりな量の土をえぐっていた。
私の使役モンスターたちは四苦八苦しながらも、それらを何とか捌いていく。
使役モンスターたちは召喚状態なのでもし攻撃を喰らっても死にはしないが、生身の私は一撃でも受けたら命はないだろう。近づき過ぎないよう注意しなければならない。
うちの子たちにもある程度は反撃させたが、出力は抑えさせた。牽制程度の魔素を込め、番竜の攻撃を避けるためだけの攻撃をさせる。
そして番竜たちの前でちょこまかと動かし、とにかく攻撃をかわしながら少しずつ下がって来させた。
「クウ、だいぶ引き付けられたと思うよ!」
私はアラーニェさんの言葉を受け、あらかじめ召喚していた二体のモンスターに命令を出した。
「イエロー、ガー子ちゃん、もういいよ!!」
その言葉の直後、私たちからゴールデンラムの群れを挟んで向こう側の草原に、イエローとガー子ちゃんが姿を現した。
足の速い二人にあらかじめ遠回りで回り込ませ、草の影に隠れさせていたのだ。
ゴールデンラムの群れとはまだかなりの距離があるが、イエローとガー子ちゃんのスピードは並ではない。すぐに距離を詰めた。
が、群れのそばにはまだ三体の番竜がいる。ゴールデンラムとの間に立ちはだかり、一斉に襲いかかってきた。
一体の牙がイエローを噛み砕こうとする。イエローはそれを横に跳ねてよけ、そのバウンドを利用して番竜のお腹にぶつかった。
電撃も加わったアタックに番竜は一瞬よろけたが、すぐに体勢を整えて再び噛み付いてくる。イエローはそれを紙一重でかわした。
ガー子ちゃんの方には二体が同時に襲いかかっている。
一体が尻尾を振って草ごと薙ぎ払おうとしてきたが、ガー子ちゃんはジャンプでそれをよけた。
しかし空中に上がった瞬間に、もう一体の爪が迫ってくる。さすが中位種のドラゴンともなれば頭も良いようで、連係プレーを見せてきた。
が、ガー子ちゃんはガー子ちゃんで普通のガーゴイルとは一味違う。番竜の手を槍で横殴りにし、空中で横移動した。
そして着地と同時に地面を強く蹴り、空振った尻尾に槍を突き立てた。
番竜は苦痛の声を上げて尻尾をくねらせ、ガー子ちゃんを振り払う。
私はその戦いぶりに感心したが、喜んでばかりもいられない。予想していたことではあるが、ちょっとやそっとの攻撃では番竜にとって大きなダメージにはならないのだ。
このレベルのドラゴンに致命傷を与えるのはかなり骨が折れそうだった。
(しかも、こっちの何体かがゴールデンラムの所に戻ろうとしてる)
私たちの方は囮であるということに気づいた番竜は、守るべきもののそばに戻ろうとしていた。
こちらは相手を倒したいわけではないので守りを固められるのが一番厄介だ。
アラーニェさんもそう思ったらしく、私に向かって声を上げた。
「クウ、そろそろアレ使おう!」
「了解です!レント、上げて!!」
私は木に擬態するモンスター、トレントのレントにそう命じた。レントもイエローやガー子ちゃんと同じように、あらかじめ召喚して草むらに隠れさせていたのだ。
私の命令に従って、番竜たちの近くにレントの枝が何本も現れた。事前に草の間に枝を伸ばしておいたのだ。
普通ならこのまま枝を番竜に巻きつけて拘束するが、今回はちょっと一味違う。
レントの枝と枝の間には、アラーニェさんの蜘蛛の糸が大量に張られていた。
「ベッタベタにしてやって!!」
レントは番竜たちの周りで枝を振り、蜘蛛の糸を絡ませた。
アラクネの糸は込める魔素によって粘性や弾性、強度を変えられるらしい。
全身に接着剤付きのゴムロープをつけられたような状態になった番竜たちは、明らかに動きが悪くなった。
「やったね!成功だ!それじゃ僕は糸を追加していくよ!」
アラーニェさんは八本の足で地を蹴り、番竜の周りを飛び跳ねながら糸をかけていった。
速い。私はそのスピードに舌を巻くような思いがした。
(アラーニェさんってあんなに動けるんだ!そういえば普通の蜘蛛もすごく速く動くよね)
私は元の世界でもたまに見かけたハエトリグモやアシダカグモを思い出していた。
速すぎてどう動いているのかは視認できないが、あの八本の足はきっと速度を出すのに都合の良いものなのだろう。
「レントももうひと頑張りして!」
糸で動きが悪くなった番竜たちへさらにレントの枝を巻きつかせた。
糸と枝でがんじがらめにされた番竜たちは、すでにまともに攻撃を繰り出せる状態にはない。
(もしかして、これだけで勝てたかな?)
私は一瞬だけそう思ったが、中位種のドラゴンはそんなに甘いものではなかった。
番竜たちは大きく胸を膨らませて息を吸い、それから自分の体めがけて火炎のブレスを吐いたのだった。
(さすがに頭がいいな……優先順位がよく分かってる)
中位龍ともなればこのくらいの頭は回るようだ。
炎は番竜自身も傷つけはしただろうが、糸と枝はそれで燃えて灰になってしまった。
「……やっぱりダメかぁ」
焼け落ちる糸を目にしたアラーニェさんは、素早く下がって番竜たちから距離を取った。
動けるようになった番竜の近くにいるのは鉄道の線路上を歩いているようなものだ。
番竜が火炎のブレスを吐けるという情報はあらかじめ聞いていたし、アラクネの糸が火に弱いということも聞いていた。加えてレントも木がベースのモンスターなので、火の攻撃には弱い。
糸と枝とで拘束する作戦には元々無理があるのだ。
(でも、これで十分な時間引きつけられた)
私は空を見上げた。よく晴れた青空には太陽が
その太陽に、小さな黒い点が重なっていた。
「ガル、今だよ!かっさらっちゃって!」
私は怪盗にでもなったような気分でそう叫んだ。高空で待機していたガルが急降下してきたのだ。
番竜たちはガルに気づいたものの、もう遅い。
風魔法も得意なガルーダは超高速でゴールデンラムへと迫った。
そして両足の鉤爪でそれぞれ一体ずつのゴールデンラムを掴み、再び空へと舞い上がる。
「やりました!作戦成功ですよ!」
私たちがアステリオスさんと相談して決めた作戦は、これ以上ないほど見事に当たった。
まず私たちが囮になって番竜の多くを引き付けた後、反対側から他のモンスターに攻め込ませる。
そうやってゴールデンラムから番竜たちを引き離したところで、上空に待機していたガルーダがゴールデンラムをさらって行くわけだ。
「名付けて『ケイロンの作戦を丸パクリ作戦』だ」
そう言って笑うアステリオスさんの作戦は、先日のワイバーンロード討伐戦でケイロンさんが考えた作戦をまんま利用したものだった。
作戦名はあんまりといえばあんまりだが、実際に成功したのだから文句も言えない。
歓声を上げる私の所にアラーニェさんが素早く跳んできた。そして背中を向けてくる。
「よし、逃げよう!早く乗って」
私はアラクネの蜘蛛部分にまたがり、背中にしがみついた。
アラーニェさんは急加速して私の体に急激なGがかかる。
振り落とされないように、必死にアラーニェさんの上半身を抱きしめた。
ガルは私たちが逃げる方向とは反対へ、わざと低空・低速で飛ばしている。番竜たちにどちらを追えばいいか迷わせるためだ。
その効果もあったのか、私たちは無事逃走に成功した。
もう大丈夫だろうという距離まで来たアラーニェさんは徐々にスピードを落としていく。私の感じる振動も小さくなってきた。
が、私はそのままアラーニェさんの背中にしがみつき続けた。
(……異性を堂々と抱きしめられる機会なんて、めったに無いもんね)
魔素が枯渇しかけてムラムラがピークになった私は、合法的に行えるイケメンバックハグを存分に堪能した。
****************
「クウ!アステリオスさん!応募作品が出来たよ!」
アラーニェさんはアステリオスさんのお店に入るなり、開口一番そう叫んだ。
いつにも増してテンションが高い。
ただ、それも仕方ないことだろう。ドラゴンと戦う危険を冒してまで作りたかったタペステリーが、ようやく完成したのだ。
私は食後に飲んでいたミルクのコップを置き、ホッと小さな安堵の息を吐いた。これで立て替えていたステーキ代も回収できるだろう。
「おめでとうございます。わざわざ見せに来てくれたんですか?」
「そうだよ!二人には一番に見せたくてさ!」
輝くような笑顔でそう言われては、こちらも嫌な気はしない。
アステリオスさんも厨房から出てきた。
「出来たのはいいが、大賞が取れそうな作品なんだろうな?」
「もちろんだよ!これ見て!」
アラーニェさんは仕事の依頼が貼ってある壁に紐をかけ、タペストリーを広げた。
そしてその全容が目に入った瞬間、私は思わず顔を赤くしてしまった。
「……え?こ、これって……え?あ、あそこのアレが金色に光ってるんですけど……」
そのタペストリーには全裸のたくましい男性が描かれており、股間が金色に輝いていた。この部分に金羊毛がふんだんに使われているのだということがよく分かる。
アラーニェさんはその金羊毛にも負けないほどの明るい笑顔で大きくうなずいた。
「うん!これがどうしても作りたかったんだ!」
「そ、そうですか……」
私はどう感想を言っていいものか分からず、隣りのアステリオスさんを横目に見た。
アステリオスさんは腕を組み、鼻息を吹きながら唸っている。
「むぅ……なるほど、こりゃ大したもんだ。男の雄々しさも強調されているし、周りの女たちも艶みがかっていてイイ」
(そ、そうなの?)
私は男性の股間にばかり視線が行ってしまったが、よく見ると男性だけでなく三人の半裸の女性も描かれている。
その体を覆う儚げな布がうっすら金色を帯びており、確かにえも言われない妖艶な魅力を放っていた。
「これなら本当に大賞を取っちまうかもしれないな……」
アステリオスさんがそうつぶやいた時、私たちの後ろから声がかかった。
「ちょっと失礼。こちらはもしかして、来週のタペストリーコンテストに応募される作品ですかな?」
振り返ると、口ヒゲを生やしたブラウニーの男性がタペストリーを眺めていた。
よく手入れされたヒゲを撫でつつ、こちらに目礼してくる。
「私、今度のコンテストを主催しております文化振興財団の者です。大賞という言葉が聞こえてきましたので思わず声をかけてしまいました」
主催者ということは、大賞の決定に発言力のある人かもしれない。
アラーニェさんはその男性にとびきりの笑顔を向けた。
「そうだよ!これ持っていくからヨロシクね!」
「いえ。申し訳ありませんが、こちらの作品の応募はお受けしかねます」
「「「えっ!?」」」
私たち三人の驚きの声が重なった。
あまりの返事に唖然とする私たちとは対照的に、男性はごく落ち着いた様子で理由を教えてくれた。
「応募作品の条件に『公序良俗に反するもの』『風紀を乱すもの』『倫理上問題と思われるもの』『過度に性的なもの』はダメだと書いてあります。ですから、こちらは……」
「で……でもでも!これはこういう立派な芸術だよ!?裸があったらダメなんて表現の自由の侵害だ!」
アラーニェさんは叫ぶようにして噛み付いた。
私も一緒に頑張った身なので、その気持ちはよく分かる。
(でも……この手の話になると線引きが曖昧だからなぁ。現に私はドキドキしてしまったし)
そう思うとブラウニーの男性に文句は言えなかった。
ただ、そんな情感をそそる表現も芸術だと言えば芸術だろう。あまりに卑猥ならともかく、この程度でダメだと言われるのは確かにひどい気もする。
男性はやはり落ち着き払って言葉を重ねた。
「おっしゃる通り、この作品自体がひと目に触れてはいけないほどのものではないと思います。私も本当に素晴らしい作品だと思いますしね」
「それなら、なんで……」
「次のコンテストは小さなお子様たちもたくさん見学に来る予定なのですよ。そこに光り輝く股間があったら、お子様はどんな反応をすると思います?」
「…………」
さすがのアラーニェさんもこれには反論できなかった。
そして私もアステリオスさんも、何も言えはしない。
子供は『金ピカ』と『チン○ン』が大好きだ。子供にこんな絵を見せたら『金ピカチン○ン』『金ピカチン○ン』の連呼で収集がつかない事態になるだろう。
文句の言えなくなったアラーニェさんに、男性はさらなるダメ出しを追加してきた。
「それに、この作品のモチーフがちょっとどうかと。公序良俗、風紀、倫理、性的、全てに当てはまってしまいますので……」
(モチーフ?)
私にはこれが何をモチーフにした作品なのか分からなかったので尋ねてみた。
「あの……これってどんな様子を描いた作品なんですか?」
アラーニェさんはそれには胸を張り、堂々と答えてくれた。
「女好きの神様が三人の愛人と不倫を楽しんでいるところだよ」
(…………あぁ…………不倫かぁ)
色々な意見や状況はあるだろうが、どの世界でも不倫は叩かれるものなのだという事がよく分かった。
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☆元ネタ&雑学コーナー☆
ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。
本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。
〈アラクネ〉
アラクネはギリシア神話に登場する織物の上手な女性です。
あまりに上手なため調子に乗り過ぎて、ついには『織物の女神アテナよりも自分の方がすごい』と豪語するようになってしまいました。
アテナとしてもそれは見逃せません。
それでアラクネとアテナが織物勝負をすることになったのですが、アラクネはアテナが認めざるを得ないほどの見事なタペストリーを織り上げます。
ただ、そこに描いたのはアテナの父である最高神ゼウスの不倫の様子でした。
神様をおちょくるにも程がある。
怒ったアテナに頭をぶっ叩かれたアラクネはようやく自分が酷いことをしたのだと気づき、自責心と羞恥心から首をくくって亡くなってしまいました。
その後アテナはアラクネを蜘蛛に転生させたのですが、これは慈悲なのか呪ったのかよく分からないそうです。
ただなんにせよ、転生した先はただの蜘蛛なんですよ。
現代のファンタジー作品では半人半蜘蛛の亜人として扱われるアラクネですが、神話にはその姿では登場しません。
おそらく元ネタは十三世紀の一大叙事詩、ダンテの『神曲』で、その中に下半身だけ蜘蛛に転じたアラクネの姿が描かれています。
ちなみに人名として採用したアラーニェはアラクネの原文読みです。
〈ゴールデンラムと番竜〉
ギリシア神話に出てくる黄金の羊が元ネタです。
その毛皮は秘宝として扱われ、ドラゴンによって守られていました。
このドラゴンは眠らないから盗む隙がない……はずだったのですが、魔法使いの王女様が一目惚れした英雄のためにあっさりと魔法で眠らせてしまいます。
そして英雄は秘宝をゲットし、王女様は英雄と結婚してめでたしめでたし……
とならないのがギリシア神話。
その後の英雄は他の王女様と結婚しようとしてしまい、ドロドロの展開に。
嫉妬に狂った魔法使いの王女様は恋敵をその父親ごと殺し、さらに英雄との子供たちも殺し、英雄自身は放浪の末に不幸な死を遂げるという救いのない結末になってしまいます。
まぁ……不倫はろくなことにならないっていう教訓の話だと思うことにしましょうか。
〈労務管理から見た早期受診のススメ〉
筆者は元社会保険労務士、薬剤師なのですが、そういった見地からメンタルヘルスのアドバイスを少しだけ書き記しておきます。
『受診歴は強い!!』
『医師の診断書は最強!!』
お伝えしたいのはこれだけです。
企業には従業員の安全と健康を確保するための『安全配慮義務』というものが法的に課せられています。
しかし従業員からただ『しんどい』とだけ伝えられても対応に悩むのです。
どのくらいヤバい状態なのかいまいちハッキリしませんから。
しかしここに、
『実はうつで受診してまして……』
『ここに診断書が……』
という事実が重なると、俄然『こりゃしっかり対応せな!』となります。
もう少し難しいことを書くと、『予見可能性』が認められると企業は責任を問われやすくなるんですね。
だから受診歴や診断書のように、企業がメンタルヘルス上の問題を『予見』できる状況を早めに作っておくことが大切なんです。
実際、企業もざっくり『しんどい』って言われるより動きやすい部分が確かにあるんですよ。
だからしんどかったらまずは受診を!!
精神科とか心療内科とかを忌避しちゃう人もいますけど、実際には、
『最近ちょっと眠れなくて』
くらいでかかる人だって多くいるんですから、二の足を踏むような所ではありません。
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お読みいただき、ありがとうございました。
気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。
それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m
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