第14話 ヴァンパイア

(何あれ……誘ってるのかしら?)


 私は初めて出会ったヴァンパイア、ヴラド公の瞳を見た瞬間、そんなことを考えた。


 深い紅の色をした、吸い込まれるような瞳だ。


 その瞳は明らかに私のことを誘っている。こちら側へ来いと、そう訴えている。


 そうすれば何ものにも勝る快楽を得られるのだと、蠱惑的な瞳が語りかけてきた。


 そして私にはそれが嘘ではないということが分かるのだ。まるで霞に包まれたかのような思考の中で、そのことだけは確信を持って理解できる。


 だから私はその瞳の誘惑に身を任せ、ヴラド公へと一歩踏み出した。


 が、その瞬間、


 パァン!!


という大きな音がして、私の首は強制的に右を向かされた。少し遅れて左の頬に痛みを覚える。


「いったぁ……」


 頬を押さえながら左を見ると、そこにはスケさんが飛んでいた。その体勢から、私はスケさんに平手打ちを食らったのだということを理解した。


「スケさん、なんで……」


 私はそこまで言ってから、自分の頭にかかっていた霞が吹き飛ばされているのに気が付いた。


(私、何かされていたんだ!)


 すぐにそう理解できた。


 おそらく精神に影響を及ぼす何かの魔法だろう。平手打ちの痛みとヴラド公の瞳から視線を逸らせたことで、それから逃れられたのだと思われた。


 私はヴラド公と目を合わせないようにその足元を見ながら後ろに下がった。


 距離を置き、間に使役モンスターたちを配置する。


 全員をすぐに召喚使役に切り替えた。モンスターたちが順次、一度消えてまた現れる。燃費は悪くなるが、こうしておけばやられても死ぬことはない。


「……娘よ、名を何という?」


 ヴラド公は口以外を動かさずにそう尋ねてきた。


 あまりにも透き通った静かな声で、私は夜の静寂を耳にした思いがした。


(何が魔法のきっかけになるか分からない!)


 私はそう考えて答えなかった。


 先ほどは目が合うことで魔法をかけられたようだ。だから下手なことはできないと思った。


 しかし、答えない私の代わりにピノさんがあっさりと教えてしまった。


「クウ様とおっしゃいます」


 私の名前を聞いたヴラド公は一瞬体を固め、それから肩を落として深いため息を吐いた。


 どうやら何かに落胆しているようだ。


「そうか……クウ、か。そうだな、アルジェなわけがない。当たり前だ。アルジェの肉体はここにあるのだから……」


 つぶやくようにそう言ったヴラド公の横に、一人の女性が進み出た。


 私はその足元から視線を上げ、それが顔までたどり着くと同時に驚愕した。


(……え?私がいる?)


 その女性の顔は、私と瓜二つだったのだ。


 唯一、その女性には左の目元に泣きぼくろがあるが、それ以外には自分でも違いを見つけるのが難しいほど同じ顔だった。


 驚いた私の目は、思わずヴラド公の顔に向いてしまった。


 そして互いの目が合ったが、今度は先ほどのように思考に霞がかかることはなかった。


 ただ、なぜかその瞳がひどく悲しげだったのが私の胸を打った。



****************



「クウよ、本当にすまなかった。詫びと言ってはなんだが、今宵の食事には贅を尽くさせたぞ。存分に楽しんでくれ」


 ヴラド公はワイングラスを軽く掲げつつ、私に笑顔を向けてくれた。


「ほ、本当にすごいご馳走ですね……」


 私の目の前にはどう考えても食べ切れない量の食事が並べられている。


 しかもヴラド公の言った通り、やたらゴージャスな献立だ。


 焼いた七面鳥が一羽丸々皿に乗っているし、野菜や果物は花の形に切られて美しく飾られていた。こんな晩餐、経験したことがない。


「あの、遠慮なくいただこうとは思うんですが、ほとんどを残すことになるのが申し訳なくて……食べられる量だけ取り分けさせていただければ結構です。残りで失礼ですけど、お城の方にも食べていただければ……」


「そうか、気兼ねさせるのも申し訳ない。そうさせよう」


 ヴラド公がそう言うと、すぐに使用人の女性たちが料理の一部を取り分け始める。


 私はその人たちを眺めながら、あらためて思った。


(すっごい美人だらけ……)


 そう、ヴラド公と一緒に現れた下僕だという人たちは、そのほとんどが超が付くほどの美人女性たちだった。


 まさにハーレムだ。


(でもこの人たち、もしかしてさっきの私みたいに魔法で下僕にされたんじゃ……)


 ふとそんな事が心配になった。


 ヴラド公は長く生きているだけあって私の思考に気づいたのかもしれない。彼女たちのことを説明してくれた。


「その者たちは自ら望んで私の眷属となったのだ。世の中には始祖と呼ばれるヴァンパイアが少数存在するが、その始祖だけが眷属を作ることができる。始祖に忠誠を誓い、血を吸われて死ねば眷属としてヴァンパイアに生まれ変わるのだ。私の配下はピノを除き、そうやって永遠の若さを保とうとした者たちだ」


「忠誠と、永遠の若さ……」


「そうだ。先ほどクウにかけてしまった魅了の魔法とはわけが違う。どちらも私の命令に従わせることができるが、眷属になれば老いから逃れられ代わりに、私への忠誠も生ある限り永遠となる。しかし魅了魔法は時とともに効果が薄れるし、先ほどのように多少の刺激があれば魔法は解ける」


 私はスケさんにぶたれた左頬に手を触れた。


 スケさんにはなぜかそれが分かっていて、私の目を覚まさせてくれたのだろう。


「クウは良い使役モンスターを持っているな。すぐに状況を理解し、自律して術者を守ろうとした。私自身がやってしまったことながら称賛に値する。そしてあらためて謝らせて欲しい。出会い頭に魅了魔法をかけるなど下衆のすることだ。本当にすまなかった」


 ヴラド公はこの調子でずっと平謝りしてくれていた。


 本当に申し訳なく思っているという気持ちがよく伝わってきたので、私としても文句を言うつもりもない。


「いえ……でも、どうしてあんな事をされたんですか?もしかして寝ぼけてました?」


 私は場を和ませようと思ってそう言った。


 ヴラド公は眷属たちとともに、五年間も眠りについていたらしい。ヴァンパイアは老いない代わりに、たまに長期間眠って体をメンテナンスしないといけないのだとか。


(ピノさんが留守って言ってたから城にはいないんだと思ってたけど……実は寝てただけなんだよね。まぁ、五年も寝てるなら留守と変わらないけど)


 どちらにせよもう起きる予定の日だったそうだが、私が扉のトラップ魔法を作動させてしまったために少し早くに目が覚めたらしい。


 とはいえ、寝ぼけて魅了魔法をかけたわけではないだろう。


(なんとなく、理由の欠片は分かるような気がするけど……)


 私はヴラド公の斜め後ろに立つ女性に目を向けた。


 私と瓜二つの顔を持つ女性だ。名前はアルジェさんだと言っていた。


「つい魔法をかけてしまった理由はクウの思っている通りだ。寝ぼけていたからではないぞ。私の妻、アルジェとクウがよく似ているからだ」


 アルジェさんの名前を口にする時、ヴラド公はどことなく寂しそうに見えた。


 しかしその一方で、アルジェさんの表情からはどんな感情も読み取れない。私にはそれが不思議だった。


 他の眷属だという女性たちにはきちんと表情があるし、お客の私に対して笑顔を見せてくれる。


 眷属として命令は拒めずとも、ちゃんと自我も感情もあるようだった。


 しかし、アルジェさんからは一切の意思が感じられないのだ。


「まぁその事はまた後で話そう。今は食事を楽しめばいいではないか」


 ヴラド公はそう言ってワイングラスに口を付けた。中には赤い液体が満たされている。


(吸血鬼が、血を飲んでる……)


 私はさすがにちょっと怖かった。


 ヴラド公はピノさんと同じく優しい紳士だ。


 これまでの言動でそれは分かっているのだが、やはり目の前で人の血を飲まれるとゾッとしてしまう。


「うむ、やはり目覚めた後は渋い赤ワインに限るな。クウもどうだ?二十年もののオールド・ヴィンテージだが、当たり年だぞ」


 あ、赤ワインだったんだ。


 後から聞いた話だが、ヴァンパイアが血を吸うのは特別な時だけらしい。


 食事は普通に摂るし、ただ生きるだけなら血の摂取はごく少量でいいとのことだった。


「いただきますぅ」


 その赤ワインはちょっぴり渋めで、ほんのり大人の味だった。



****************



「今宵の月はまた一段と赤いな。だが、それがまた美しかろう」


「ええ、綺麗です」


 ヴラド公と私はお城の展望塔に立って月を見上げていた。


 食事が終わり、軽い酔いを冷ましながらここで話をしようということになったのだ。


 確かに展望塔からの景色は美しいが、正直な所これまでは赤い月など見ても気味が悪いとしか思えなかった。


 しかし、今は違う。今の私には赤い月がなんだか寂しげに見えた。


 もしかしたらヴラド公の赤い瞳に重ね合わせているからかもしれない。どこか寂しさを滲ませた、美しい瞳に。


「クウもアルジェを見て驚いただろう?本当によく似ている」


「はい。ビックリしました」


「私もだ。しかし、アルジェに関して何か感じたことがあるのではないか?」


「……あの、ちょっと言いづらいんですが」


「構わん、言え」


「他の眷属の方々と違って、アルジェさんだけは……生きているように見えなくて」


 ヴラド公は軽く笑いながらうなずいた。


 私の言うことを笑ったのではない。自嘲しているようだった。


「お前の感じた通りだ。眷属としてヴァンパイアになった者は元の種族としての生を一度終えるが、ヴァンパイアとして新たな生を受ける。しかしアルジェはそうではない。理由は簡単だ。アルジェはヴァンパイアではなく、ただの死体そのものだからだ」


「死体、そのもの?」


「そうだ。魔法の中には死体を操るネクロマンシーという禁術がある。それを使えば生前の姿を保ったまま死体を使役することができるのだ」


「ネクロマンシー……」


 私はその魔法についてなんとも言い難い感想を持った。


 死んだ後の生物の体はただの物だという見方は否定できない。しかし、それを操ることは死者への冒涜に繋がらないだろうか。


「クウよ、お前の感じていることは分かる。そしてだからこそ、このネクロマンシーは法によって規制されているのだ。だが私はそれを使った。心が耐えられなかったからだ」


 ヴラド公は後ろを振り返った。そこにはアルジェさんが無表情に佇んでいる。


 なんの感情も読み取れない人だと思っていたが、本当になんの感情も無かったわけだ。


(私……死んだらこんな顔するのかな)


 私は漠然とそんな事を考えながら尋ねた。


「眷属にはできなかったんですか?」


 ヴラド公は悔しそうに歯噛みしながら首を横に振った。


「ヴァンパイアの始祖たる私でも、すでに死んだ者を蘇らせて眷属にすることはできん。あくまで生きて忠誠を誓う者のみ眷属にできるのだ。私がアルジェに再会できたのは死んだ後だった。それに、そもそも私はアルジェが死んだ時にはまだヴァンパイアではなかった。ただのヒューマンだったのだ」


「えっ、ヒューマン?」


 私は驚いた。目の前のヴァンパイアの始祖は、元々は私と同じヒューマンだったという。


 しかし始祖にヴァンパイアにされた人が眷属なわけだから、始祖は後天的になるものではないと思っていた。違うのだろうか。


 ヴラド公はまた赤い月を見上げた。


 遠い目で、自分によく似た月を眺めながら過去を語ってくれた。


「もう何百年も前になるが、私はこの辺り一帯を治める領主だった。その頃は戦争がよく起こっていてな。領主として隣国と戦い、敗れた私は幽閉の身となった。そしてその幽閉先で、アルジェがこの展望塔から身投げしたことを聞いた」


「身投げ?ここから、ですか……」


 私は展望塔の端に立ち、下を見下ろした。


 城の展望塔は戦時には索敵にも使われる場所なので、地面まで何十メートルもある。


「アルジェは私と離縁し、敵国の男を新たな夫として迎えるよう迫られていたらしい。アルジェは領民から人気があったからな。そうやってこの地を取り込もうとしたのだろう。しかしアルジェはそれを拒否し、死を選んだ。馬鹿な女だ」


 最後の一言は罵倒といえば罵倒だが、私には全くそんなふうに感じられなかった。


 そこには一欠片の侮蔑もなかったからだ。


(ヴラド公はアルジェさんが他の男を迎え入れることも、敵国に屈することも受け入れられたんだ。アルジェさんが死ぬことに比べれば……)


 私にはそれがよく分かった。


 『馬鹿な女だ』というその一言には、限りない愛情が滲んでいた。


「愛してらしたんですね」


「愛?……そうだな、愛していたのだろう。だがクウよ、覚えておけ。愛情が強ければ強いほど、それが裏返った時の憎しみは深くなる。私は幽閉先でアルジェの死を聞き、この世の全てを壊しかねないほどの憎しみを抱いた。そしてその憎しみに思考を塗り潰され、それからしばらくの記憶がない。次に気づいた時には、私は一人で城を落としていた。敵国の主城を」


 私は戦争というものをよく知らないが、城なんて一人で落とせるものではないだろう。少なくとも、ただのヒューマンには。


「私の記憶は串刺しにされた敵国の王族と兵たち、そして口の中に広がる血の味から始まる。私は知らぬ間にヴァンパイアの始祖となっていた」


 どんな力がどのように働いてそうなったのか、ヴラド公にも分からないようだ。


 しかし、現実の結果としてこうなった。愛する人は遠い世界へ去り、自分は齢を重ねてもそこへ行けない体となった。


「私は救国の英雄と呼ばれるようになった。そしてその話を聞いた他の始祖たちが来て、ヴァンパイアに関する様々なことを教えてくれたよ。ヴァンパイアとしての生き方、力の使い方、魔法……その中にネクロマンシーがあった。当時から忌み嫌われる魔法ではあったが、私はそれを使うことをためらいもしなかった。もう一度アルジェの笑顔を見られるなら、倫理など何ほどのことはないと思った。今でもそう思っている」


 私は悲しい気持ちでアルジェさんを見た。


 その顔にはやはり、笑顔どころかなんの表情も見いだせなかった。


「アルジェは笑えと命じれば笑うのだ。だが感情の伴わない笑顔はただ筋肉が痙攣しているのと同じだな。むしろ悲しみばかりが増す。滑稽な話だろう?私は禁術を使ってまで己の望みを叶えようとしたのに、何一つ叶えられなかった。しかもそれを何百年も続けている」


 ヴラド公はまた自嘲した。


 私には滑稽だとは思えない。ただただ切ない恋のお話だ。


「眠りにつく前にいつも思うのだ。全てが夢で、起きたらアルジェに本当の表情が戻っているのではないかと。そんな望みは失望に変わるだけだというのにな……」


 月を見上げるヴラド公の瞳には、胸が苦しくなるような悲哀の色が浮かんでいる。


 その瞳が私の方を向いた。


「……だが、今回だけは違った。起きて扉を開けると、きちんと感情のある顔をしたアルジェがいた。お前だ、クウ。お前だけが私の望みを叶えてくれた」


 ヴラド公は私の肩にそっと手を置いた。


 赤い月明かりが彫像のような顔を照らしている。宵闇が色の白い肌をより美しく魅せた。


「絶対に逃したくないと思い、つい魅了魔法など使ってしまった。しかし今度はそのような卑怯な手段を用いず、正面から申し込もう。クウよ、私の妻になってくれないだろうか」


「お断りします」


 私は即答した。これ以上ないくらい、きっぱりとお断りした。


 ヴラド公はここまで速攻で明確に断られるとは思っていなかったらしい。少々動揺したようだった。


「そ、そうか……よければ理由を聞かせてくれないか?」


「ヴラド公のような人生の大先輩にアドバイスするのもなんですけど、女性を口説くのに『前の奥さんに似てるから』っていうのはやめておいた方がいいと思います。しかもその奥さんの前で」


 死体とはいえ、ちょっとどうかと思う。


 っていうか、今アルジェさんからチリチリした殺気のようなものを感じた気がしたのだけど、私の被害妄想だろうか。


「……それはすまなかった。だが、私の妻となるなら永遠の若さを得ることができるぞ。クウのように若い女は皆、年老いて醜くなるのが嫌だろう?」


「いいえ、私は可愛いお婆ちゃんになるって決めてますから」


 ヴラド公は目を満月のように丸くして私を見た。


 それからその目を細めて寂しそうに笑い、聞き取れるかどうかというくらいの小さな声でつぶやいた。


「お前は顔だけでなく、言うことまでアルジェと同じなのだな……」


「え?」


「いや、なんでもない。お前の回答は了解した。私も無理強いはすまい」


 ヴラド公は私の肩から手を下ろし、踵を返してまた月を見上げた。


「残念ではあるが、私の意に沿わずともクウはこの城のゲストだ。これからちょっとしたショーが始まるから、それを楽しんでいけ」


 ヴラド公が見上げた方へと目を向けると、月に重なっていくつかの影が見えた。


 それは遠目には鳥のようにも感じられたが、どうやらそんな可愛いサイズではないようだ。


 今日は月が明るいので目を凝らすと、そのシルエットが段々と分かってきた。


「あれは……モンスターですか?」


「ワイバーンだ。翼竜、空飛ぶドラゴンだな」


「ド、ドラゴン!?」


「ドラゴンと言っても下位種に属するものだ。一般人にとっては驚異でも、我らヴァンパイアにとってはさほどでもない」


「ででででも、あんなにいますよ!?」


 ワイバーンは数十体はいるようだった。


 私がどもるのも仕方ないだろう。いくらなんでも数が多すぎる。


「そうだな。今回は少々数が多いようだ」


「今回って……今までも同じようなことがあったんですか?」


「何度もあった。封建制が終わり、共和制に移行しても私がこの城周辺の土地を領有することが認められているのはこれが理由だ。この城のすぐ下には魔素の集まる地脈があり、多くのモンスターがここを縄張りにしようと攻めてくる。しかし地脈は魔石を生成する貴重な資源だし、この辺りにモンスターの巣を作られては物流上も困る。だから我らにこの土地の防備させる代わりに、領有を認めているのだ」


 大人の事情はよく分かったが、目の前に迫った危機はそれで解決するわけでもない。


 私はガルーダのガルを召喚した。魔素消費は大きいが、空飛ぶワイバーン相手ならガルがいいだろう。


「お手伝いします」


「ほう、ガルーダを使役しているのか。しかしショーだと言ったろう?お前は見ていればいい」


「参加型のショーだと思います」


 ヴラド公は苦笑してからうなずいた。


「……なるほどな。まぁよかろう。それに今回は確かに数が多い。助かるというのが正直なところだ」


「その代わり、魔素の補充薬があったらたくさん欲しいんですけど……」


「お持ちしました」


 そう言って展望塔に現れたのはピノさんだ。


 私のガルを一度見ているので、戦うのなら必要だと思ったのかもしれない。


 さすが熟練の執事だ。ビックリするほど気が利く。


「クウ様、重ね重ね申し訳ございません。アルジェ様のことを言わずに城へ招き、戦いのお手伝いまでさせてしまって」


「あ、いえ、まぁ……」


 ピノさんは私をひと目見てアルジェさんにそっくりだと思っただろう。だから清掃の仕事に三倍も報酬を出すと言ってきたのだ。


 半分騙されたようなものだが、文句をいうほどの筋があるかというと微妙なところだ。


 確かに美味しい仕事ではあった。


「ピノ、報酬を上乗せしてやれよ。眷属たちの準備は整っているか?」


「万端でございます」


「よし、では行くぞ」


 ヴラド公はなんの前触れもなく宙に浮いた。


 ヴァンパイアにとっては当たり前のことのようで、眷属のお姉さま方も同じように空を飛んでいる。


 私はガルのそばへ行き、首筋を撫でてやった。


「みんなでお掃除してたのに、ガルだけ参加させなくてごめんね。今から思いっきり暴れていいから」


 ガルは私の言葉に応えて高い鳴き声を上げ、それから嬉しそうに飛び上がった。



***************



「すっご……」


 私は展望塔の端から身を乗り出して戦いを見ていたが、それ以上の言葉が続かなかった。それくらい凄い戦いだ。


 ヴァンパイアは強い、ということがよく分かる。空を飛べるということもあるし、ただ単純に膂力が強い。


 眷属の超絶美人なお姉さま方が素手でワイバーンの羽根をちぎり取っている姿は、なかなかのギャップ萌えだ。


 ただし、そのちぎり取った羽根に口を付けて血を吸う様はかなり好みの分かれる所だろう。


「戦いながら血を飲んでるのは、魔素の補充になるからですか?」


 私は隣りで観戦しているピノさんに尋ねながら、自分も魔素の補充薬を飲んだ。


 やはりガルの使役はキツイ。


「おっしゃる通り魔素の補充になりますが、それだけではありません。傷ついた体も血で回復します。ただし、人間の血に比べてモンスターの血はかなり効率が落ちますが」


 その解説に、私は一人の人間として恐怖を感じた。


 つまるところ、ある意味でヴァンパイアは人間相手に戦うのに特化した種族とも言えるだろう。ヴラド公が一人で城を落とせたのはこの辺りが理由かもしれない。


 そのヴラド公はというと、やはり眷属と比べても段違いに強かった。


 腕を狼に変化させてワイバーンに噛み付いたり、たくさんのコウモリに変身して干からびるまで血を吸ったりしている。


 遠目にはよく分からないが、小さな虫にもなれるようだ。


 他の眷属のお姉さま方の変化はコウモリくらいだが、ヴラド公はかなり多芸なようだった。


 しかし私のガルも負けていない。風魔法の真空波で敵を切り刻んだり、爪で頭を握り潰したりしている。


 ワイバーンはガルとほぼ同程度のサイズだが、フィジカルではガルが圧倒的に勝っているようだ。


 私はガルを少しでもサポートしようと身を乗り出して戦いを凝視していたが、ピノさんがその体勢を心配してくれた。


「クウ様、そんなに乗り出すと落ちてしまいます。お気をつけください」


「でも鳥目っていう言葉があるくらいだから、暗いとあの子はあんまり見えないんじゃないかと思うんです」


「鳥目というのは半分以上は嘘ですよ」


「えっ?そうなんですか?」


「確かに鶏など夜目の利かない鳥もおりますが、そうでない鳥が多いのが実情です。夜行性のイメージが強いフクロウはもちろんのこと、鷹や鴨なども普通に夜目が利きます」


「知らなかった……」


「そもそもガルーダは視覚も嗅覚も優れたモンスターです。ここまで遠く離れていれば、ガルーダの判断に任せた方がよろしいでしょう」


 私は言われた通りそうした。


 ただどちらにせよ、要求される魔素が大きいのでキツイのは変わらない。魔素補充薬をグビグビ飲んだ。


 ピノさんはそれを横目に見ながらまた気づかってくれた。


「クウ様も大変ですね。ご協力、本当に感謝いたします。しかしこちらが完全に押しておりますので、もはや時間の問題かと」


「そうですね……ん?……なんだろう?……なにか来ます!!」


 私はなんだか猛烈に嫌な予感がして声を大きくした。何か良くないものが来るのを感じる。


「上……真上です!!」


 私とピノさんが空を見上げると、天を裂くような勢いで何かが降りてきた。ちょうどヴラド公の真上だ。


 それは稲妻のようにヴラド公へ落ちた。


「あれは……ワイバーンロード!!」


 ピノさんが叫ぶような声を上げた。


 私も叫びたい気持ちはよく分かった。


 ワイバーンロードというモンスターは初見だが、他のワイバーンの十倍くらいの大きさはあるだろう。もはや怪獣だ。


 しかも、その怪獣がヴラド公の胴体に思い切り噛み付いていた。


 その一噛みで普通の人間ならば命はなかっただろう。実際、私は死んだと思った。


 が、ヴラド公は体をコウモリに変え、散り散りになって逃げた。そして眷属のお姉さま方がワイバーンロードの周囲を飛び回り、撹乱する。


 ワイバーンロードは火を吹いてそれを追い払おうとした。


 その隙にヴラド公のコウモリは私たちのいる展望塔に集まって、また元の人の姿になった。


 ピノさんがそこへ駆け寄る。


「ヴラド様、ご無事でしょうか?」


「無事だ、と言いたいところだが、かなりの傷を負ってしまったな。このワイバーンの群れは今まで何度も撃退してきたが……あれほどの個体はいなかった。しかもあやつめ、完全に狙って不意をついてきたぞ。油断したな」


 ヴラド公はごく冷静な口調だったが、私は体を見て息を飲んだ。


 上等な服に大穴が空いて、血がドクドク流れている。普通の人間なら死んでいるだろう。


 ヴラド公の顔がこちらを向いた。


「クウよ、痛快なショーにするつもりがこんな事になってすまない。すまないついでに頼みがあるのだが、いいか?」


「は、はい。なんでしょうか?」


 私は嫌な予感がした。ヴラド公の犬歯がキラリと光った気がしたのだ。


「血を少し飲ませてくれ」


 やっぱりキター。


 さすがに私は怖くなって半歩下がった。


「え、えーと……」


「もちろん死ぬほどは飲まない。そうだな、コップ二杯ほどの量で結構だ。痛みもない」


 コップ二杯というと、400mLくらいだろうか。ちょうど献血で抜かれる量くらいではある。


「でも……」


「頼む。こうしている間にも私の眷属たちが危険に晒されているのだ。早く助けに行ってやらねば」


 確かに眷属のお姉さま方はワイバーンロードを足止めするために、懸命にその周りを飛び回っていた。


 ワイバーンロードはそれを仕留めようと追い回しているが、数が多いので今のところ上手く撹乱できている。しかし、その牙がかかるのは時間の問題だろう。


 こうなると断るに断れない。


「ど……どうぞ……」


 異世界なんてところに来て色々な覚悟はしていたつもりだが、まさかヴァンパイアに血を吸われる羽目になろうとは。


「すまんな、恩に着る」


 ヴラド公は言うが早いか、私の腰に手を回して引き寄せた。


 産まれてこの方、異性からこんな風にされたことのない私は胸をドキドキさせた。


 公爵様の端正な顔がとても近くにある。


 鋭い牙は私には見えなかった。おそらく怖がらせないように、視界から外れてから口を開けたのだろう。


 ヴラド公の顔が私の首筋へと流れていき、その唇が肌に触れる。


 その途端、私のつま先から毛の先に至るまで全身を強烈な快感が疾走った。


 並の快感ではない。普段のセルフケアでの昇天が十回分くらい一度に来たほどの快感だ。しかもそれが血を吸われている間、ずっと続く。


 気持ち良いのだが、あまりに気持ち良過ぎて心と体が壊れそうになった。


(ヤバい……ダメ……もうダメ……死んじゃう……)


 私が本当の意味での昇天を覚悟した時、ようやくヴラド公の唇は私の首筋を離れた。


「ハァ……ハァ……ハァ……あぅ」


↓挿絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/bokushou/news/16817139557683419956


 完全に腰砕けになってその場にへたり込んでしまった。


 そんな私にヴラド公の言葉が降ってくる。


「何という上質な血だ……これまで私が飲んできた血の中でも一、二を争うほどの血だぞ」


「お……お褒めにあずかり……光栄ですぅ……」


 私はぐったりとした返事を返すのがやっとだった。


 逆にヴラド公の声は活き活きしている。


「完全回復どころか、体の奥から魔素が溢れてくるようだ。助かったぞクウ。後は見ていろ」


「いえ……私も……もう少し働きます」


「無理をするな。ヴァンパイアは血と共に魔素を吸う。お前の魔素は枯渇しかけているはずだ」


 ところがどっこい。


 あまりに強すぎる昇天を経験した私の魔素は枯渇どころか満タンも満タン、むしろ容量オーバーで破裂しそうだ。


 私は両手で顔を叩いて気合を入れた。


 眷属のお姉さま方が危ないのだ。やれるだけのことはやらなければ。


 足腰はまだ立ちそうもないが、幸い召喚士にとっては大したことではない。


「ガル、ゴッドバード!!」


 私は破裂しそうなほどの魔素をガルに送り込んだ。それと同時にガルの全身が光り輝く。


 超高熱になった体をワイバーンロードへと突っ込ませた。


 ワイバーンロードは身をよじってそれをかわそうとしたが、完全には避けきれない。ガルの翼に触れた部分の皮膚がキレイにえぐれた。


 それを見たヴラド公が感嘆の声を漏らす。


「なんと、あの幼さでゴッドバードまで使うのか……よほど血筋の良いガルーダかもしれないな。それにまだそれだけの魔素を残しているとは、クウも相当なものだ」


 いえ、相当だったのはあなたの吸血の気持ち良さです。


 っていうか、私の体はあれを性的な快感とみなしたわけだ。実際そんな感じだったけど。


「よし、クウ。ガルーダにワイバーンたちの周囲を回らせて、出来るだけ一箇所に集まるよう誘導させてくれ」


「分かりました」


 私は言われた通りをガルに伝え、ガルはゴッドバードのまま周囲をぐるりと回り始めた。


 ゴッドバードの威力はすでにワイバーンロードで証明済みだ。


 ワイバーンたちはガルを避けて円の内側に集まってきた。


「よくやってくれた。あとは任せておけ」


 ヴラド公はワイバーンたちの方へと飛んでいった。確かに血を吸う前よりも動きがキビキビしているように見える。


 ピノさんがそれを見送りつつ、私の首に布を当ててくれた。自分でも気づかなかったが、吸われた部分から血が流れていたようだ。


「ありがとうございます」


「いえ、お礼を言わなければならないのは私どもの方です。報酬もきちんと上乗せしておきますので」


「助かります。ホントに」


「お礼のついでと言ってはなんですが、これから良いものをお見せできますよ」


 なんだろう、と思っている間にヴラド公がワイバーンたちの所へたどり着いた。


 それと同時に、眷属たちが一斉にその場を去り始める。


 その避難が完了してから、ヴラド公は地面に向かって手をかざした。


 夜なのではっきりとは見えなかったが、その動きで地面に染みのようなものが点々と現れたようだった。血のような染みが。


 そしてヴラド公が手を振り上げるのに合わせ、その染みから何十本もの槍が現れて天へと向かって伸び上がった。


 血の色をした鋭い槍だ。それがワイバーンたちを下から突き刺す。


「く、串刺しの林だ……」


 私の口にした表現の通り、一瞬にしてワイバーンたちの串刺しの林が現れた。


 血の色の槍が、ワイバーンたちから滴る血でさらに赤く上塗りされる。


 ほとんどは即死しており、生きているものはその苦しげな身悶えが恐怖を誘った。


 ピノさんは良いものが見られると言っていたが、壮観ではあってもちょっとスプラッター過ぎやしないだろうか。


「『串刺し公』、それがヴラド様の二つ名です。少々恐ろしげな呼称ではありますが、人間相手にこれをやればそのくらいにあだ名されるのも仕方のないことでしょう」


「…………」


 私はなんの言葉も返せなかった。


 ヴラド公は素敵な紳士だが、やはりヴァンパイアなのだ。


 ワイバーンロードも幾本もの槍に貫かれている。ただ、まだ息はあるようで苦しそうに身じろぎしていた。


「ガル、とどめを……」


 私がそう命じかけた瞬間、ワイバーンロードの周りに竜巻が発生した。風魔法だ。


 そしてその中でワイバーンロードが穴の空いた羽根を一生懸命羽ばたかせているのが薄っすらと見えた。


 やがてワイバーンロードは竜巻に巻き込まれるようにして、上空へと舞い上がって行った。串刺しにならずに済んだ数匹のワイバーンたちもそれを追って離れていく。どうやら逃げるようだ。


「追わなきゃ!ちゃんと仕留めないと、また来ますよね!?」


「いえ、今日あれを仕留めるのは無理でしょう。ワイバーンロードは上位種に分類されるドラゴンですが、上位種ともなれば相当な生命力を誇ります。奴らの根城は分かっていますし、その内プティアの街の方から討伐依頼を出してもらいますよ」


(……その依頼を見つけても、絶対に受けないようにしよう)


 そう心に決めた。


 相手は完全に怪獣だ。どっちかっていうと、巨大ヒーローが相手するやつだ。


 ヴラド公も深追いせず、展望塔へ戻って来た。


「クウのおかげで比較的楽に片がついたぞ。礼を言う」


「お役に立てて良かったです」


「しかし、私に血を吸われるのは良かっただろう?お前さえ望めばまたいつでも……」


「いえ、もう二度と結構です」


 私はまたきっぱりと断った。


 ヴラド公にはそれが意外だったようだ。


「……多くの女は吸血時の快楽を求めて自ら身を差し出すのだがな。お前はよほど自制心が強いらしい」


(自制心っていうか、恐怖心なんだけど……)


 この世界に来てブーストされた私の発情体質は、快感をより強く感じさせるように働いている。


 だから普通の人にとってはものすごく気持ち良い吸血でも、私にとっては気持ち良すぎて心身ともに壊れそうになるのだ。


 それに、快楽に依存してしまうことへの恐怖もある。


 クスリでも、性でも、恋でも、賭博でも、何かしらの快楽を得られるものに人は依存してしまいがちだ。


 依存が過ぎれば身も、心も、身近な人も、あらゆるものを壊してしまいかねない。


 快楽とはどこかで距離を置く冷静さがないといけないし、麻薬のように危険が分かっている快楽には初めから触れるべきではない。


「クウへの報酬は上乗せしてやるが……せっかくだからもう一つ褒美をやろう。クウよ、お前さえ良ければ召喚契約を結んでやる」


「ええ!?いいんですか!?」


 私にとってはかなりありがたい話だ。


 串刺し公の強さは恐ろしいほどよく分かった。それこそ怪獣クラスだ。これ以上頼りになる被召喚者はいないだろう。


 しかし、さすがになんの代償もなくこれだけの大きな力を手にすることはできなかった。ヴラド公は条件をつけてきたのだ。


「ただし、私は腐っても誇り高きヴァンパイアの始祖だ。私を喚ぶ度に報酬をもらおう」


「……血ですか?」


 私はそう思ったが、ヴラド公の回答はその斜め上をいっていた。


「そうだな、一度目は血だけで勘弁してやろう。しかし、二度目はお前の唇をもらおう」


「く、唇!?」


「唇程度で驚くな。三度目は操をもらうぞ」


「みみみ、操!?」


 操っていうことは、あんなことやこんなことを……っていうか、経験ないってバレてる。なぜだ。


「そして四度目は、私の眷属になってもらう。それが契約の条件だ」


 いったんは喜びに舞い上がった私だったが、すぐに頭が冷えてしまった。


 だってこの契約、四度召喚したら死ぬまで血を吸われるんだもん。


(でも……一回だけなら今回と同じようなものだし……こんなすごい人、一回喚べるだけでも価値はあるよね)


 私はそう判断した。


「……分かりました」


「そうか、この条件を飲むか。ふふふ……召喚されるのが楽しみだな」


 ヴラド公は愉快そうに笑ったが、その後ろに控えるアルジェさんから何やら不穏な空気を感じる気がする。


 そりゃ旦那が他の女に操をもらうとか言ってたら殺気の一つも出るだろう。ただ、この人死んでるはずなんだけどな。


「じゃあ契約魔法を……コントラクトゥス・リートゥス」


 私は右手の人差し指と親指とで輪を作り、その呪文を唱えた。ケイロンさんと契約を結んで以来だから、だいぶ久しぶりだ。


 しかし、指が光らない。ケイロンさんの時は赤く光ったのに。


「あれ、なんでだろう?」


 首を傾げる私に、ヴラド公が尋ねた。


「その指はもう使っているのではないのか?」


「え?使ってる?」


「召喚士のくせにそんなことも知らんのか。一度召喚契約に使った指の輪は、その契約が破棄されるまで使えないのだ」


 完全に初耳だ。


 っていうか考えたら私、召喚魔法の勉強全然してないな。ちょっと問題だ。


「すいません、知りませんでした……」


「一つの輪に一人だけだから、必然的に契約を結ぶ相手の数は限られる。使えるのは左右の指で八本と、男なら口と肛門でもう二つだ」


「肛門!?」


 私は驚きつつも、ドキドキした。もうこれはBLの妄想が一本出来上がる。


「っていうか、男ならってことは……」


「そうだ、女は一つ穴が多いから契約できる人数が一人多い」


 わぁお得。って、これは喜んでいいもんなのかな。


「しかもその穴で契約した者は特別に強い力を発揮できるという話だが……それは三回召喚されるまで待とう。ほら、さっさと他の指で輪を作れ」


(三回喚んだ暁には召喚契約を結び直させられるのか……)


 とにもかくにも、私は反対の左手の人差し指と親指とで輪を作った。


「コントラクトゥス・リートゥス」


 指の輪が赤く光りだす。そこにヴラド公が指を入れた。


 私はその光景を見つめながらつい三度目の召喚を妄想してしまい、ドキドキムラムラハァハァしてしまった。



***************



☆元ネタ&雑学コーナー☆


 ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。


 本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。



〈ヴァンパイアとドラキュラ〉


 吸血鬼ヴァンパイアとして最も有名なキャラクターは『ドラキュラ』だと思います。


 人によってはドラキュラというのが吸血鬼全てを指す言葉だと思ってる方もいらっしゃるかもしれません。


 でもこのドラキュラというのは、実在した『ヴラド三世』という人物の別名なんです。


 ヴラド三世のお父さんがドラゴン騎士団(かっけぇ)に所属していたことから『ドラクル』と呼ばれ、その息子という意味で『ドラキュラ」になったそうです。


 ヴラド三世は十五世紀のワラキア公国君主でしたが、当時のワラキアは大国に挟まれて戦争を余儀なくされる状況でした。


 その戦いの中でヴラド三世は大量の敵兵を殺し、その死骸を串刺しにして林のように並べるという残虐行為を行いました。


 と言っても別に好きでやったわけではなく、相手の戦意を削ぐための戦略だったようです。


 実際に攻めてきた敵はこれでテンション激下がりになり、しかも疫病なども重なって撤退しました。


 また、ヴラド三世は当時農民にしか適用されなかった串刺し刑を貴族にも行ったそうです。


 こんなことが重なった結果、『串刺し公ツェペシュ』という二つ名まで付き、現代では『ヴラド・ツェペシュ』という呼称が有名になっています。


 こういった血なまぐさいイメージから後世の吸血鬼小説でモデルにされ、ヴァンパイア=ドラキュラというほどに広まったようです。



〈妻の身投げ〉


 ヴラド三世はその後、様々な人間の思惑の中で幽閉の身になってしまいます。


 そしてその頃に奥さんがお城の塔から身投げして、亡くなってしまいました。


 奥さんの名前や身投げした詳細な経緯などは分かっていないのですが、アルジェシュ渓谷のポエナリ城がその現場であることからアルジェの名前をいただきました。


 今回の元ネタはちょっと悲しいお話でした。



〈吸血コウモリ〉


『ほとんどのコウモリは血を吸わない』


 という話は結構知ってる人も多いと思います。


 チスイコウモリというほんの一部の種類だけなんですね。


 では、他のコウモリは何を食べているのか?


 これが本当に多種多様で、果実や花の蜜など植物を食べるものもいれば、虫やカエルなどの小動物、果ては水中の魚を捕まえる種類までいるそうです。


 そう思うと、逆に血を食事にするチスイコウモリはかなり特殊なんだとよく分かります。


 哺乳類で血を主食に生きていけるのはこの生物くらいではないでしょうか。(コウモリは哺乳類。鳥じゃないよ)


 ちなみにこのチスイコウモリ、吸血後はお腹タプタプで重くなっちゃうから飛べないらしいです。跳ねて移動するんだとか。


 よく漫画なんかで血を吸って飛び回ってるコウモリがいますが、あれは色々無理があるんですね。



***************



お読みいただき、ありがとうございました。

気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。

それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m

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