第2話 ケンタウロス

(何あれ……誘ってるのかしら?)


 私はそのお尻から足にかけて走るたくましい筋肉を見て、そんなことを考えた。


 鍛えられたオスの臀部でんぶは美しい。流れるように波打つ筋繊維の隆起は、なまめかしいとすら言える。


 残念なことに薄い布がお尻から足にかけてを覆っているため生では見えないのだが、シルエットからその曲線美はよく分かった。


 というか、もしかしたら生で見えるよりもいやらしさは増しているかもしれない。


 この艶めかしい大腿二等様筋と半腱半膜様筋は、もはやメスを誘っているとしか思えない。


(……って、私はまた何を考えてるのよ!人間ならまだしも、馬のお尻じゃない!)


 そう、私が発情してしまった対象は人間の筋肉ではなく、馬のそれだった。


 ただし純粋な馬ではない。腰から上は人間、その下は馬。


 いわるゆケンタウロスという生物だ。


「さあ、クウさん。どうぞ私にまたがってください」


(そんな……男の人にまたがるなんて、いやらしい……)


 私は反射的にそんな事を思ってしまったが、相手にはいやらしい意図など微塵もない。完全に親切で言ってくれているだけだった。


 スライムのサスケもその親切を喜んでくれた。


「よかったね、クウ。たまたまケイロンさんが通りかかって」


 ケンタウロスの名前はケイロンさんという。


 私とサスケが森を歩いて街を目指しているところに偶然通りかかった。隣街まで物を配達した帰り道だということだ。


「遠慮することはありません。あらゆるものを乗せて運ぶのがケンタウロスの誇りです。さぁどうぞ」


 そう言ってくれるケイロンさんはいかにも紳士といった感じの理知的な男性で、笑顔の爽やかなナイスミドルだ。


 そして馬の部分だけでなく、上半身もなかなかいい筋肉をしている。


 私はこの世界に来てブーストされたムラムラがまた湧き起こるのを感じた。


(素敵なオジサマ……じゃない。いい加減静まりなさいよ私の体!ご親切に助けてくれようとしているんだから)


 ケイロンさんが私を乗せてくれるという話は本当にありがたいことだった。


 私は裸でこの世界に飛ばされたため、身につけているものといえばサスケのくれたマント一枚だ。靴すらない。


 しばらく歩いて分かったが、裸足で森の中を歩くのは、はっきり言って自傷行為だ。


 石や木の枝を踏んで痛いのなんの。まともに歩けたもんじゃない。


「すいません、じゃあお言葉に甘えて」


 私はケイロンさんに頭を下げて、その背中に手をかけた。


 馬になんて乗ったことがないから、四苦八苦しながらなんとかまたがる。


 そしてまたがってから思い出したのだが、私はマントの下は完全に全裸だ。


 ケイロンさんは馬部分に一枚布をかけてはいるのだが、暑さ対策のためか本当に薄い。股間の地肌がほとんど直でケイロンさんの背中に乗る形になった。


(え?これってちょっと、マズくない?)


 焦る私を尻目に、ケイロンさんはごく普通の調子で歩き始めた。


「少し揺れますが、ご勘弁ください」


 その言葉通り、予想以上に揺れたので私はバランスを崩しかけた。


「うわっとと……」


「大丈夫ですか?クウさんは騎乗の経験はありませんか?」


「えっ!?ど、どんな体位も経験ありませんけど……」


「……?あぁ、普通の馬にも乗ったことがないということですね。初心者の騎乗のコツは、太ももでしっかりと挟むことです。そうすれば安定しますよ」


 ケイロンさんは私の勘違いをさらに勘違いしてくれて、そうアドバイスしてくれた。


(そんな……男性を太ももでしっかり挟むだなんて……)


 私はそのことにドキドキしながらも、落馬は結構痛そうなので言われた通りにした。


「あ、ホントだ。確かに安定しますね」


「でしょう?あまりスピードは出しませんから、慣れるまでそうしていてください。慣れればもう少し力を抜いても大丈夫です」


 ケイロンさんは普通の人の早歩きくらいの速度で歩き始めた。


 徒歩のサスケもいるので、ある程度の時間移動するならこれくらいがいいところだろう。


 私は裸足の苦痛から開放されたことに安堵した。


 が、その安堵はすぐに生じた別の問題によってかき消されることになった。


(これ……振動が結構強いな……)


 ケイロンさんが歩くたび、私の股間をほど良い振動が襲った。


 しかも私は今、下半身には何も着けていない。ケイロンさんのたくましい肉感が薄布ごしに私の皮膚を擦り上げる。


 歩みが進めば進むほど、振動と摩擦とが私のお股をリズミカルに刺激した。


(ヤバイ……これヤバイ!)


 私は自分の吐息が熱くなっていくのを感じた。


 まさか背中の上でそんな事になっているとは露とも知らないケイロンさんは、また私を気づかって声をかけてくれた。


「しかしクウさん、記憶がないとは難儀なことですね。全く何も覚えていないのですか?」


 私がその質問に答える前に、サスケが言葉を挟んできた。


「そうそう。僕もビックリしたんだけど、さっきモンスターのスライムが危ないって事まで覚えてないみたいだったよね?つまり今まであった事だけじゃなくて、常識みたいな事まで忘れちゃってるのかな」


 私は股間の刺激に耐えながら、どう答えたものかと思考を巡らせた。


 正直に『この世界を救うために異世界から呼び出されました』と伝えてもいいけど、普通に考えたら完全に頭のおかしい人間だ。


 それにもし信じてもらえたとして、その後の扱いがどうなるのか分からない。


 サスケもケイロンさんも今のところ親切だし、私はこのまま記憶喪失の可哀そうな娘を演じることにした。


 ただし、多少の調整をしておかなければ後々で困りそうだ。


「えーっと……なんとなくフワフワした記憶だけあるんだけど、私が住んでいた所にはさっきみたいなモンスターはいなかったと思う。それに、人間は私みたいな人しかいなかったんじゃないかな……」


 ケイロンさんがそれを聞いて驚きの声を上げた。


「ええ!?ということは、どこかにヒューマンだけの集落があるということですか。しかも、モンスターのいない平和な集落が……」


(ヒューマン?私みたいな素の人間は、ヒューマンっていうんだ)


 私はこの世界の常識を一つ理解した。


 サスケはというと、なるほど、と手を打って納得していた。


「それでか。僕と初めて会った時、驚いて木の棒を構えてたもんね。スライム族を見るのが初めてだったんだ」


「ごめんなさい、悪気はなかったの」


「ううん、そりゃいきなりこんな水色のスライム人間が出てきたら怖いよね。第一印象最悪だったでしょ」


 サスケの言うことに、ケイロンさんも笑って続いた。


「私みたいな半人半馬もね。怖がらせて申しわけありません」


「い、いえ、そんな……」


 実際には怖がる前に発情していたので、第一印象としてはむしろ好感の塊ではあった。


 今もケイロンさんの背中でアフンウフンなっている。恥ずかしい限りだ。


「しかしヒューマンだけの集落となると、多彩な職業の人間がいたことでしょう。ヒューマンは器用で魔素の扱いが上手いですからね。戦士、魔法使い、僧侶、武闘家……色々な選択肢があるのは羨ましい」


「魔素?」


 私は聞き慣れない言葉を聞き返した。


「おや、魔素も覚えていらっしゃないか。魔素とはこの世のすべてのものに存在する、エネルギーと情報の塊です。戦士はそれを使って肉体や武具を強化し、魔法使いは魔法を発現させます」


「……その辺りのことは全然記憶にありません。色々教えていただけると助かります。特に魔法についてはまるで知識がないので」


 私はこの世界の事を知りたいと思い、そうお願いした。


 こう言っておけば魔素がらみのことがあった時に逐一説明してもらえるだろう。


 そして早速サスケが一つ教えてくれた。


「僕のスライムゼリーに回復の効果があるのも、魔素が含まれているからなんだよ」


「そうなんだ。魔素って便利だね」


 そこでふと、一点思い出したことがあった。


「あ……でもそう言えば、私には召喚士としての才能があるって言われた……ような気がする」


 言われた、では記憶喪失としておかしいような気がして、私は語尾だけ言い直した。


「え!?それってすごい事だよ!召喚士って素質が必要で、なろうとしてもなれるものじゃないんだから」


 サスケの驚きにケイロンさんも同意した。


「本当ならクウさんは大変珍しい人材ということになります。どれ、ちょっと調べてみますか」


 ケイロンさんは肩にかけたカバンから一本の棒を取り出した。


 オーケストラの指揮者が振るタクトくらいの長さだ。表面に不思議な紋様が刻まれている。


鑑定杖かんていじょうです。これでその人の能力がある程度分かります。使わせていただいていいですか?」


「はい。どうぞ」


 鑑定杖を見たサスケが目を輝かせた。


「あっ!それすごくいいやつだ!業務用の高いやつでしょ?」


「そうです。実際、業務で使用しています。私は副業として配送を請け負うこともありますが、依頼されたものが偽物だったり、すり替えられたりするケースがありますので」


「やらせてやらせて!」


 サスケはケイロンさんから鑑定杖を奪うように受け取ると、その先で私の体を軽く突いた。


 ちょうどピンポイントに、乳首の真ん中を。


「あんっ」


 思わず変な声を上げてしまった。


 いきなり何をするんだ。他に突く所はなかったのか。


 しかしサスケはそんなことには構わず、鑑定杖の上の空間に浮かび上がった文字を見て目を丸くした。


「ま……魔質ランクS……」


「な、なんですって!ランクS!?」


 驚いたケイロンさんが勢いよく振り返った。


 その拍子で私はバランスを崩し、落馬してしまった。


「わわわっ」


「あああ……申し訳ありません。つい驚いてしまって」


 幸い足から落ちることができたので怪我にはならなかったが、勢いで尻もちをついてしまった。


 そして、その拍子にマントが際どいところまでめくれ上がる。


 私は急いでそれを直しながら立ち上がったが、その間に鑑定杖の文字は消えてしまっていた。


「だ、大丈夫です……それより、魔質って何ですか?それにランクSって……」


 ケイロンさんは私に怪我がなかったのでまずはホッとした表情を見せたが、すぐに顔を引き締めた。


「魔質というのはその人が生まれながらに持つ魔素の質で、Sランクはその最高位に当たります。魔素には質と量があって、同じ量の魔素を込めた魔法でも質が良い方が効果は高くなります」


「なるほど……召喚士にとっても大切なんですか?」


「大切も何も、召喚士にとっては最重要項目です。召喚士は契約した者を召喚して働かせますが、その代償として自らの魔素を与えます。その質が良ければ良いほど、その者の能力が強化されるのです」


「質の良い魔素の方が美味しい、みたいな感じでしょうか?」


「半分合っていますが、半分違います。召喚士から分け与えられた魔素は召喚契約に基づいて霊魂にまで浸透するため、質の良い魔素を与えられた被召喚者の魔質は徐々に向上します」


「えっと……つまり……」


「つまり、召喚されて働けば働くほど強くなれるのです」


 私は初めて聞く類の話に多少混乱しながらも、大体のことは理解できた。


(召喚って誰かを呼んで働いてもらうだけじゃなくて、ちゃんと相手にも良い事があるんだ。それで私は相手を強くしてあげられる力が強い、と)


 私をこの世界に呼び出したお爺さんが言ってた『召喚士としての才能強化』とはこういう事だったのだろうか。


 それはそれでありがたいのだが、なぜ発情体質まで付属させたのだろう。こんなものは心底いらない。


 ケイロンさんは妙に熱の入った説明を続けた。


「召喚士の魔質が高ければ高いほど、被召喚者の魔質は向上しやすくなります。ですからSランクの魔質を持った召喚士などという人材は、契約を結びたい者からすればこれ以上ないほどに魅力的な存在です」


 すごい。モテモテだ。


 人生に三度あるというモテ期の一回目がこんな所で発現するなんて。


「クウさん!」


 ケイロンさんの声が突然大きくなって私は驚いた。思わず直立して踵を揃えた。


「は、はい!」


「私と契約していただけませんでしょうか?」


「はい?」


 私は思わず聞き返した。


 っていうか今の今まで召喚士って、モンスターとか召喚して戦うんだと思っていた。


「えっと……召喚の契約って人相手にするものなんですか?てっきりモンスター相手なのかと……」


「なるほど、確かに記憶がなければそう思っても不思議はありませんね」


 ケイロンさんは一度うなずいてから説明を続けてくれた。


「モンスター相手の場合は契約ではなく、屈服させた上で魔法をかけて隷属させるのが普通です。隷属させることが出来るのは自分よりも魔質が低いモンスターだけなので、ここでも魔質は重要になります。そしてモンスターを隷属させて使う場合は、召喚魔法の中でも特に『使役』と呼びます」


(隷属、使役……ってなんかいやらしい響きだな)


 私はそう思ってまた背筋をゾクリとさせた。いい加減どうにかならないかこの体質。


「召喚契約を結んだ場合は相手が拒否すれば呼び出されませんし、どちらか一方の意思で契約は破棄されます。ですから人相手だと普通は契約ですね。私はかねてより、被召喚者となって自らの力を磨きたいと思っていました。よろしければ私と契約を結んで、働かせてください」


「ええ、それは喜んでお願いしたいんですが……」


 ケイロンさんには、今すでに私のために働いてもらっている。そのお返しに私の魔素をあげられるのなら、ぜひそうしたい。


「でも、契約の仕方が分からないんです」


 そこが問題だった。


 そもそも普通の女子大生だった私に魔法なんて使えるのだろうか。


 ケイロンさんはうなずいて教えてくれた。


「私も知識としてしか知らないのですが、契約を望む召喚士はまず指で輪を作り、『コントラクトゥス・リートゥス』と唱えるそうです」


「輪、ですか?……こんなのでいいのかな?」


 私は人差し指と親指で輪を作った。


 ジェスチャーとしてはOKのサインか、お金のサインになる形だ。


 そしてケイロンさんの言った呪文を唱えてみる。


「えっと……コントラクトゥス・リートゥス?」


 その途端、指の輪が赤く光りだした。私はその色が血に似ていると思った。


「わっ!?ビックリした」


 驚く私の前に立つケイロンさんも同じような表情をしていた。


「魔法どころか魔素の知識もないのに……いきなり契約魔法を使えるとは。クウさんには確かに召喚士の才能があふれていますね。あとは、この穴に私の体の一部を入れればいいだけのはずです」


 ケイロンさんはそう言って、人差し指を私の指の輪に入れた。


(なんかこれ……急に卑猥なジェスチャーになった気がするけど……)


 つい先ほどまでOKサインだったものが、今は乙女が直視できないようなサインになってしまっている。


 私の心はドキドキしてその事ばかりが気になったが、煩悩は召喚契約の発動にはまるで影響ないらしい。


 赤い光が強くなり、一瞬目が開けられないほどになった。


 私たちは目をつむり、そして次に目を開けたときには何事もなかったかのように光は消えていた。


「……これで終わりですか?光はすごかったけど、全然実感ないんですが……」


「試してみましょう。クウさん、先ほどのように輪を作って、私の名前を念じてみてください」


 私はケイロンさんに言われた通りにしてみた。すると、また血のような赤い光が浮かび上がった。


 見ると、ケイロンさんの人差し指も同じようになっている。


「……いま私の頭の中に、抽象的ですが召喚に応じるかどうかの問いが浮かびました。応じると答えます」


 次の瞬間、ケイロンさんが一瞬消えた。しかしそれは本当に一瞬のことで、すぐに同じ場所にケイロンさんが現れた。


「成功です!やりましたよ!召喚されました!」


「え?これで召喚なんですか?」


「元いた場所と同じ所に召喚されたので分かりづらいと思いますが、今の私はちゃんとクウさんの魔素を受けています。力がみなぎるのを感じますよ」


 そう言ってケイロンさんは森の中を駆け回ってみた。確かにその速度は驚くほど速い。まるで羽根でも生えたかのようだ。


「すごい……Sランクの魔素を受けるとここまで力が上がるのか……クウさん、ありがとうございます。召喚される度に少しずつでもこの魔質に近づけると思うと、嬉しくてしょうがありません。今後もぜひび出してください」


「いえ、私としても助かります。これからもよろしくお願いします」


 私はケイロンさんにあらためて頭を下げた。


 この世界でこれからの生活がどうなるかは分からないが、ケイロンさんのような理知的な紳士に助けてもらえるなら本当に心強い。


 ケイロンさんは私に馬の横腹を近づけた。


「さあ乗ってください。私は今、対価をもらってあなたのために働く身です。街まで可能な限り快適な旅をご提供しましょう」


 私は言われた通り、またケイロンさんにまたがらせてもらった。


(でも快適な旅っていうより、快楽の旅になっちゃうんだよな……)


 ケイロンさんが歩みを再開させ、私の股間への振動と摩擦も再開された。


 私は悶絶しながらも、必死にそれに耐える。


 しかも、それだけでも気が変になりそうだったのに、思わぬ所からまた別の責め苦を受けることになった。


「ひゃあぁん」


 私は足の裏にヌルリとした感触を覚えて、必死に抑えていた声を上げてしまった。


 見ると、サスケが私の足を掴んでヌルヌルとスライムローションを塗りつけている。


「ごめん、くすぐったかったな?足の裏にちょっと傷があったからさ。治しておこうと思って」


 さっき落馬した時についた方の足だった。


 石か何かあって傷になったのかもしれない。確かに足が少しズキズキしていた。


「そ、そう……ありがと。でも、ちょっとなら大丈夫だよ」


「いや、足の裏の怪我はちゃんと治しておかないと。靴を買ってからも辛い思いするよ」


 ケイロンさんもサスケの言うことに同意した。


「サスケ君の言う通りです。それに小さな傷でも、化膿すると大事になりかねませんからね」


 そう言いながらも、ケイロンさんは歩みを止める気配はない。


 足にローションを塗りたくるだけなので、進みながらでも出来るという判断なのだろう。


(でも……こっちは完全に二点攻めになってるんですけど!!)


 足裏からお尻へと、ゾクゾク感が神経を伝ってさかのぼって来る。


 まさか足の裏が性感帯になるなんて思ってもみなかった私は相当な衝撃を受けていた。これはちょっとした新境地かもしれない。


 股間だけでも耐え難かったのに新しい世界まで開かれて、私の神経はもう臨界に達していた。


 そしてサスケが指の股の間にヌルリと割り入った時、私はついに耐えきれずこの世界二度目の昇天を経験した。


「…………っ!!」


↓挿絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/bokushou/news/16817139557391210435


 必死に声を押し殺し、吐息だけを熱くする私へケイロンさんが前を向いたまま声をかけてきた。


「街に着いたらまず、クウさんの服を買わないといけません。でも、少し涼しめの服を買った方がいいかもしれませんね」


「……え?そうでしょうか?」


 森を見たところ、季節は初春くらいではないかと思う。少なくともそれほど暑い季節ではない。


「クウさんはどうやら汗っかきなようですから。あ、別に背中が汗で濡れているのが嫌というわけではありませんよ?そもそも私は普段人を乗せる時には鞍を用意しますから、むしろ自分の汗で濡れているのが当たり前ですし」


(……ごめんなさい、あなたの背中を濡らしているのは汗じゃありません)


 私はその事に盛大な冷汗をかいたため、結果的には汗ということでなんとか誤魔化すことが出来たのだった。



***************



☆元ネタ&雑学コーナー☆


 ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。


 本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。



〈足の裏のくすぐったさ〉


 足の裏ってくすぐったいですよね。


 でもこの『くすぐったさ』、実は科学的にはよく解明されていないんです。


 皮膚の痛覚や触圧覚、温度覚なんかはその神経や伝達物質がありますが、『くすぐったい覚』の神経はいまだに見つかっていません。


 結果として『複数の神経が複合的に働いて』くすぐったくなるという、曖昧な科学的結論になっています。


 そしてその曖昧さのせいか面白いことを言われてまして、『くすぐったい』というのは『快』と『不快』の狭間の状態であるという説があるんですね。


 これがリラックスした状態だと『快』の方に傾きやすく、要は気持ち良くなるそうなんです。


 そういう点から首筋や脇、脇腹、内股など『くすぐったいポイント』と『性感帯』との関連性まで言及されています。 


 特に相手に気を許していると『快』になりやすいわけなので、恋人や配偶者をくすぐってみると自分に心を開いているかが分かるかもしれませんね。



〈ケンタウロス〉


 割とメジャーな幻想生物だとは思いますが、元ネタのギリシャ神話では『野蛮な種族』扱いされていることはあまり知られていないと思います。


 酒好きの暴れ者で、しかも好色だそうです。


 ただ全員が全員そうというわけではなく、名前を拝借したケイロンは医学や音楽、武術などにも精通している知的なケンタウロスです。


 かの有名な英雄、ヘラクレスやアキレスの師匠でもありました。


 ちなみに夜空に輝く射手座はこのケイロンですから、世界で一番目にされているケンタウロスでしょうね。

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