【全話カラー挿絵あり】発情×転生!!(何あれ…誘ってるのかしら?)【むっつり女子がムラムラしながら異世界冒険する話】
墨笑
第1話 スライム
↓表紙絵です↓
https://kakuyomu.jp/users/bokushou/news/16817139557391171215
(何あれ……誘ってるのかしら?)
私はぬらぬらと光るローションにまみれた肌を見て、そんなことを考えた。
触らずとも想像できる、ヌルヌルの感触。もしこの生物に体のあちこちを撫でられでもしたら、一体どれほどの快楽を受けられるだろう。
その背徳的なまでにいやらしいテカリ具合は、もはやメスを誘っているとしか思えない。
(……って何考えてるのよ!相手はモンスターじゃない!)
私はすぐにそう思い直し、周囲を見回した。何か武器になりそうな物がないか探したのだ。
そこで初めて気付いたが、自分が今いるのは森の中らしい。周りにはただひたすらに樹々や草花の景色が続いている。
そして足元を見ると、おあつらえ向きに木の棒が落ちていた。急いでそれを掴み上げ、相手に向かって構える。
(お願い……こっちに来ないで!)
そうは思ったものの、目の前の生き物は恐怖心を煽るにはいささか優し過ぎる外見をしていた。
見た目の形は、ほぼ少年だ。それも紅顔の美少年といった風な、可愛らしい生き物だった。
オーバーオール一枚を履いて、それ以外にはカバンを提げているだけだ。その少年が、顔に驚きを浮かべてこちらを見ている。
ただ一つ、その少年が普通とは違うのは、その体がスライムで構成されていることだ。
人の形はしているものの、ぷるぷると震えるゼリー状の体は向こうが薄く透けて見えていた。肌の表面はローション状の物質で覆われている。
色は空のように明るい水色だ。綺麗な水色の、スライム少年だった。
スライム少年は私が木の棒を構えたのを見て、慌てて声を上げた。
「待って!僕、君に悪いことするつもりはないよ!」
そうは言われたものの、良いも悪いも相手は普通の人間ではないのだ。警戒心は解けようもない。
スライム少年は棒を下ろさない私を上から下まで眺めた上で、一つの疑問を口にした。
「……っていうか、お姉さん。なんで裸なの?」
言われてから、初めて私は自分の体を見下ろした。
確かにスライム少年の言う通り、私は完全な全裸だった。全裸に木の棒一丁だ。
「……キャアァア!」
思わず木の棒を投げ出してしゃがみこんだ。
腕で自分の体を抱いて、出来るだけ露出を少なくする。しかしそもそも全裸なのだから、皮膚のほとんどの部分は空気に晒されていた。
耳まで真っ赤にする私を見て、スライム少年はようやく安心したようだ。
一つ息を吐いてから、カバンから大きな布を取り出した。それを私に優しくかけてくれる。
「追い剥ぎにでも遭ったの?僕のマントだから小さいかもしれないけど、よかったらあげるよ」
「あ、ありがとう……」
スライム少年の優しさに、つい先ほどまでモンスター扱いしてことを申し訳なく思った。
私は頭を下げながら、マントの端を掴んで立ち上がる。
スライム少年は私の鼻くらいまでの身長しかないから、マントはちょうど膝上くらいまでの長さになった。
マントの前をピッタリと合わせたので恥ずかしい部分は見えないものの、中身は完全に全裸だ。
(これ……まるで露出狂みたい)
私はそう思うと、背筋にゾクリとした快感を覚えた。
それと同時に、そんなことを感じてしまった自分にひどく戸惑った。
(え?私、一体どうしちゃったの?こんなこと考えた事もなかったのに……)
今だけではない、先ほどスライム少年を初めて見た時もそうだった。
人外の生物が目の前にいる恐怖よりも、その全身を包むローションのいやらしさに体が反応してしまった。
(これじゃ、完全に発情したメスだ……)
私が自分の体の変化に愕然としていると、スライム少年が顔を覗こんできた。
「大丈夫?どっか悪い?さっき体を見ても、怪我とかはなさそうだったけど」
私は体を見られたという事実にまたゾクリとしながら、慌てて答えた。
「あ、いや、大丈夫。えっとね……実は私、記憶がないの……」
「え?記憶がない?」
「う、うん」
半分は本当で、半分は嘘だ。
この世界、目の前のスライム少年が存在するような世界に来るまでの記憶はしっかりある。私はごく平凡な女子大生だった。
しかしこの世界に来たのは今さっきであり、当然この世界のことなど何も知りはしない。だから記憶がないと言ったのだ。
こちらの世界の常識がないのだから、記憶喪失とそう変わりはないだろう。
「へぇ……記憶喪失って本当にいるんだ。お姉さんこんな森で裸だったし、なにか辛いことでもあったのかな」
スライム少年は私のことを心配してくれたが、半分嘘をついている身としては申し訳ない気持ちにもなった。
(……でも確かに辛い目には遭ってるんだよね。少なくとも、同情されてもいいぐらいには)
私はスライム少年に会う少し前、この世界に来る直前のことを思い起こした。
すると、妙にムカっ腹が立ってきた。
(あのお爺さんめ……!)
***************
私はその時、大学の学食で昼食を摂っていた。好物のチキンカツ定食だ。
私は好きなものは最後に残すタイプだ。それに、サラダファーストは体に良いらしい。
私がキャベツを食べきって待望のチキンカツにかぶりつこうとした時、それは起こった。
私は初め、チキンカツが箸から滑ったのだと思った。衣のサクリという食感を期待していた歯が、見事に空振ったからだ。
しかし、学食のお盆があった所に視線を向けても何もない。チキンカツどころか、お盆もテーブルも消え失せていた。
私の視界には、白い空間しか存在していなかった。
「……なに?この白い部屋?」
私は目を疑った。つい先ほどまで学食にいたはずなのに、気づけばたたひたすらに白いだけの空間にいる。
「いらっしゃい、選ばれしお嬢さん」
その声に振り向くと、そこには見事に頭の禿げ上がったお爺さんが立っていた。
その頭のツヤとは対照的に白いヒゲは長く、胸まで伸びている。笑いジワの可愛らしい、好々爺といったお爺さんだ。
私は状況が理解できず、戸惑いながら尋ねた。
「あの……ここは一体……?」
「色々説明してあげたいんじゃが、その時間がない。とりあえずお嬢さんは、とある世界を救うために
(……はあ?世界を、救う?……夢か)
私はお爺さんの話を聞いて、早々にそう断定した。いきなり学食から飛ばされて世界を救えなど、三流漫画の設定にしても安っぽい。
「残念ながら、夢ではない」
お爺さんは私の心を読んだのか、それとも私の気持ちが顔に出ていたのか、すぐに否定した。
「儂はお嬢さんが元いた世界から、その世界を救うために素質のある人間を呼び寄せておるんじゃよ。戦士、魔法使い、僧侶、盗賊、武闘家……多くの職業に適性のある者を呼んだ。そして、お嬢さんは召喚士じゃ」
「召喚士?」
召喚士って、バハムートとかオーディンとか召喚して攻撃させるアレだろうか?
「いや、いきなりそんなこと言われましても……」
私はさすがに戸惑っていた。
しかしお爺さんは半ば無視して話を進める。
「すまんが、これは決定事項じゃ。召喚士としての才能はかなり強化しておいたから、運が良ければ生き残れるじゃろう」
(……え?運が良ければって……悪ければ死ぬってこと?)
私がいきなり突きつけられた死をうまく飲み込めずにいると、急に視界が歪み始めた。
初めはめまいか何かかと思ったが、そうではないらしい。部屋全体の空間が蜃気楼のように揺らめいている。
お爺さんは顔をグニャリとさせながら、私の顔をじっと見た。きっと私自身も同じように歪んでいるのだろう。
「む、もう時間か……十分説明できんで申し訳ないが、頑張ってくれ」
「頑張ってくれって言われても……私はこれからどうなるんですか!?」
私は急いで尋ねたが、空間が歪んでいるせいかお爺さんの声には雑音が入り、聞き取りづらいものになっていた。
「君は今から異世界に行くことになる。モンスターや魔法の存在する世界じゃ。そこで世界を救って欲しい」
後から思い起こせば、この時私は異世界で何をすべきなのかを聞いておくべきだった。しかし自分に突然降って湧いた理不尽への不満が、他のことを尋ねさせてしまった。
「な、なんで私なんですか!?」
この回答は、実はもうなされている。お爺さんは先ほど『素質のある人間』『召喚士』と言っていた。ということは、私には召喚士としての素質があるということだろう。
ただ、私はごく平凡な、どこにでもいる女子大生だ。素質と言われても、これまでの人生でそんなものを感じたことなど一度もない。
「それはな、お嬢さんが……」
お爺さんの声はもうかなり聞き取りづらくなっていたが、最後のその言葉だけは妙にはっきりと聞こえた。
「むっつりすけべだからじゃ」
***************
その言葉を思い出すと、また怒りがこみ上げてきた。うら若き年頃の娘に対して、むっつりすけべとはなんだむっつりすけべとは。
確かに少々その手のことには興味津々だったというか思い当たるフシはないでもないが、私は淑女だ。
生まれてこの方、たおやかで、しとやかで、清純な女子を自負している。清純すぎて、悲しいことに彼氏すらできたことがない。
「今度はなんだか怖い顔になってるけど……どうしたの?」
スライム少年がまた心配そうに私の顔を覗き込んでくれた。その顔が近くて、私の心臓は高鳴った。
(……本当にどうしたんだろう、私の体)
やはり、明らかにおかしい。
ちょっとした事で性的な興奮を覚えるようになっている。
あのお爺さんと会った白い部屋からこの森の飛ばされて、すぐ目の前にこのスライム少年がいた。
そしてそのぬるぬるを見ただけで、いやらしい想像をしてしまった。いくらむっつりすけべだとしても、これはちょっとひどい。
(考えられるとしたら、お爺さんの言ってた『召喚士としての才能はかなり強化しておいた』ってとこだけど……召喚士と発情ってなんの関係があるのよ!)
私はそんな事を考えながらも、自分の百面相をごまかすために辺りを見回した。
「な、なんでもないの。えっと……」
その時ふと、水色の動く玉のようなものが目に入った。
それは目の前のスライム少年とよく似た質感をしていた。
おそらく同じ素材で出来ているのではないかと思われたが、形は全く別の生物だ。プルプルとした水色の球形に、クリクリとした目がついている。
それは人型のスライム少年ではなく、球形のスライム生物だった。
「か、可愛い……」
その愛くるしい容姿に惹きつけられて、私はスライムへと歩み寄った。
が、そこへ後ろから鋭い声がかけられる。
「あっ、危ない!」
警戒の声に振り返りかけた瞬間、球形のスライムが上から潰されたようにグニャリと縮んだ。
そして次の瞬間、その反発力を使って私の顔へと跳ねてきた。かなりのスピードだ。
「キャア!……いったぁ」
すんでのところで首を捻じらせたため直撃にはならなかったが、耳と首とに結構な衝撃が来た。
(ただの可愛い生き物かと思ったけど……あれだ、メディシンボールだ)
私は陸上部がトレーニングに使っていた、やたら重いボールを思い出していた。確かボクシング選手はあれをお腹に落として腹筋を鍛えたりするはずだ。
それが相当な速さで飛んできたのだから、当たりどころが悪ければ意識を失っていたかもしれない。スライム少年の警告に感謝だ。
スライム少年はカバンから素早く棍棒を取り出した。そして同族のような球形スライムへと振り下ろす。
が、スライムは少年は優しそうな見かけ通りあまり強くはないのか、その一撃は見事に空振った。
かわしたスライムはピョンピョン跳ねて草むらへと逃げて行った。
「お姉さん大丈夫?怪我は?」
「だ、大丈夫。大した怪我にはなってないと思う」
そうは答えたものの、耳と首筋がジンジンする。
これは多分、耳だけ青アザになるパターンだ。そして首も寝違えたみたいにしばらく曲げるだけで痛くなるやつだ。正直けっこう辛い。
私はしゃがみこんで耳と首を押さえた。
(あのお爺さん、運が良ければ生き残れるって言ってたよね。やっぱり、死んじゃうこともあるんだ……)
実際に今感じている痛みが私にそれを強く実感させていた。
背筋が冷たくなっていくのを感じる。恐怖が雲のように湧いて、私の感情を暗く包んでいった。
が、その暗い雲は、突然襲ってきた感覚によって吹き飛ばされることになった。
「ひゃあぁん」
私は痛みを感じていた耳と首筋にヌルリとした快感を覚えて、変な声を上げてしまった。
「いきなりごめんね。でもちょっと我慢してて」
気づけば横に立っていたスライム少年が、自らのローションが付いた手で私の耳と首筋を撫で回していた。
そのヌルヌルとした感触に、肩から力が抜けていく。
「え?え?なに?」
「僕のスライムローションには怪我を治す作用があるんだ。ランクEの回復だから、あんまり強い効果じゃないけど」
なんと。ローションにそんな便利な作用が。
正直ありがたい。女子としては出来ることなら首から上の青アザは避けたいものだ。
(で、でも……これはヤバいぃいぃ)
私は襲い来る快楽の嵐に悶絶した。耳から首筋にかけては私のウィークポイントだ。
↓挿絵です↓
https://kakuyomu.jp/users/bokushou/news/16817139557391188261
ただ、スライム少年は私のことを思って治療してくれている。それを受けながらアハンウフン喘ぐわけにもいかないだろう。
私はなんとか気を紛らわすために、何か話をすることにした。
「た、体液が傷薬になるなんて、便利だね」
私は自分で言いながら『体液』という単語に少しドキドキしていた。
もちろんスライム少年はそんなところに引っかかるわけもなく、普通に答えてくれる。
「どのスライムも、ローションには何かしらの効果があるんだ。僕みたいな回復の他にも、筋力強化とか魔素強化とか感覚強化とか。中にはレアな効果もあって、そういうスライムローションは高値で売れるから、それだけで生計を立てるスライムもいるよ」
「へ、へぇ〜そうなんだ……君の回復も便利だし、高く売れるんじゃない?」
「いやいやいや。回復なんて珍しくもないし、僕の場合はランクもEだから全然だよ。今だって、こうやってしばらく塗り続けないと治らないでしょ?」
スライム少年はそう言いながら、私をヌルヌルとイジり続ける。
しかし全然だと言う少年の言葉とは裏腹に、痛みは確実に治まっていた。
ただし、その分ゾクゾクした快感の波が押し寄せてくる。
(これ……効果もスゴイけど、副効果の方がスゴイんですけど!)
私は心の中だけでそう叫んだ。もう限界が近い。
「……そ、そういえば、まだ名前を聞いてなかったね」
「僕?僕の名前はサスケっていうんだ。お姉さんは?」
サスケ。
妙に和風なその名前を記憶しながら、私はついに耐えきれずこの世界で初めての昇天を経験していた。
この時上げた声が原因で、この世界での私の名前は『クウ』ということになった。
***************
☆元ネタ&雑学コーナー☆
ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。
本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。
〈スライムとサスケという名前〉
スライムの名前といえば、多くの方がまず思い浮かべるのが『スラりん』だと思います。
言わずと知れたRPGの金字塔、ドラゴンクエストⅤでスライムを仲間にすると、一匹目の名前が『スラりん』になるんですね。
その二匹目が『スラぼう』、三匹目が『アキーラ』、そして四匹目が『サスケ』なんです。まぁ一般的な名前だからいいだろうと思い、そのまま使いました。
ちなみにこの名前、他のモンスターでも固定なんですが、面白いところではSFC版アンクルホーンの四匹目が『おっさん』だったりします。
それって……名前?
〈スライムの定義〉
実はスライムの科学的な定義は存在しません。
なんとなく『ドロドロしたもの』『ヌルヌルしたもの』を指す単語なんだそうです。
子供の頃ポリビニルアルコールにホウ砂を混ぜて作った方も多いと思いますが、アレでなくてもドロドロ、ヌルヌルならスライムと呼んでも間違いではないんですね。
この辺りがモンスターとしての『スライム』の多様性に繋がっているのかもしれません。
作品によってグミみたいなやつから粘菌みたいなやつまで色々いますもんね。
ちなみに筆者はグミみたいなやつが可愛くて萌え萌えしてしまいますが、生物として現実世界にいるのは粘菌なのでちょっと萌えるのは難しいです。
〈デカい粘菌〉
粘菌って小さなイメージがありますが、デカいものだと普通に一平方メートルくらいにはなるそうです。
これがゲームのスライムみたいに動いて襲いかかってきたら……って思うと、スライムもやっぱりモンスターですね。
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