第2話
改札を出ても人はいて、同じ方向や反対の方向に進んでいる。歩く速さが違うから、抜かしたり抜かされたりする。
人をかき分けようと、斜めに入る人もいる。僕はそういう人をただ真っ直ぐに進むだけで追い越せたとき、とても気分が高揚する。
エスカレーターにしても同じことが言える。横並びで二人乗れるのに、片側を開けている。子供の頃に誰かに教えられたのかもしれないが、自然とそうしている。
僕は数えることにした。エスカレーターに乗ってから一番はじめに抜かされてからスタートし、その人が降りるまでの時間をゴールとした。何回かやってみたけど結果はほとんど同じで、一分も違わなかった。
もしもデートであるならば、彼女の遅刻は数分、あるいは三十分くらいなら待てるだろう。取引先や先輩など、大事な約束のときは、きっと五分前、十分前には着いて待つはずだ。にも関わらず、エスカレーターの一分を待つことに対してはそれができない。
みんな焦っている。一体何に対して焦っているのだろうか。会社の上司か、友達か、家族か、社会全体か。はたまた自分自身か。
以前、お前も少しは焦ったらどうだと言われた。頭の中でぽかんと音が鳴った。どちらかといえば短気だから、すぐにイライラしてしまう。せっかちで、おっちょこちょいだとも思っている。
ついこの間もそれを象徴するようなことがあった。ほうきとちりとりで掃除していたときのこと。いわゆる文化ちりとりというもの。右の端から左の端、左の端から右の端と下から上に、掻き出していった。他の場所も掃除しなくてはならなかったし、次にやることに追われていた。
次の段にあがろうとしたとき、焦る気持ちが先行したのか、段差にちりとりをぶつけた。ゴミの入り口が当たったと同時に反対側が下に向き、隙間からゴミが溢れた。三段分の通路をまた掃くことになった。しかもゴミが増えた状態で。ホールではあまり見かけない景色。
僕は横着者でもあった。
ホールを掃除する5分前に遡る。ロビーにいた子供が走り回って、持っていたお菓子をこぼした。
さらにその数分前には設置されていたゴミ箱の袋を変えようとしたとき、半分くらい解放してしまった。手で拾える大きさのものは拾ったのだが、あとで何を言われるかわからなかったので、きれいに片付けた。
その場でちりとりの中身を空にすればよかったのに、ほんの数秒の心の余裕が欠けていた。
たいとる 橋本玲瓏 @Reistart00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。たいとるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます