第47話 聖歴152年7月29日、トラウマ解消

 さあ、ボス部屋だ。

 ボス部屋の重厚な扉がやけに重く感じる。

 俺が二人の顔を見ると二人は無言で頷いた。


 扉を押して中に入る。

 ボスのホブゴブリンが椅子に腰かけて待っていた。

 ボスの脇には柄に髑髏が付いた大剣がある。


「二人は手を出さないでくれ」

「ほな任す。頑張りや」

「ええ、頑張ってね」


 俺はフルフェイスのヘルメットを被った。

 俺達が入ると扉は自動的に閉まる。

 ボスを倒さない限り出られない。


 俺が部屋の中央付近に行くと、ホブゴブリンは椅子から立ち上がり、大剣を手にした。

 そして、大音量で吠える。

 俺はその殺気に固まった。

 やっぱりな。

 だが、逃げない。

 もっとも固まっているから身動きは出来ないが。


 ホブゴブリンがニヤッと笑って、大剣を振りかぶり、俺の頭目掛けて振り下ろした。

 大剣はヘルメットで弾かれた。

 ホブゴブリンは悔しがって何度もヘルメットに打ちつける。


 俺の腕よ動け。

 動けよ。

 ほら、ぜんぜん大した事のない敵だろ。

 ホブゴブリンは攻撃の効かない俺に恐怖を覚えたようだ。

 僅かに後ずさる。


 敵の方が怖がっているだろ。

 いいかげん動けよ。


 ホブゴブリンは俺に敵わないと思ったのか、俺の背後にいるジューンに向かって走り出した。

 ジューンが襲われる。

 その情景が頭に浮かぶ。


「俺のパーティに手を出すな!!」


 俺の呪縛が解けた。

 俺はメイスを握り直すとホブゴブリンに駆け寄り、一閃。

 ホブゴブリンの頭はザクロの様に割れた。


「はははっ」


 乾いた笑いが漏れた。

 何でこんなのが怖かったんだろな。


「やったやん」

「おめでとう」

「ありがと。おっ、ドロップ品が出ているな」


 ポーション瓶だ。

 薬の色は黄色だ。


「エリクサーなの?」

「いいや、ハイポーションだな。エリクサーは紫だ」


「何よ。期待しちゃった」

「しょげるなよ。ラスボス辺りなら、エリクサーも出る」


 ポーションを拾うと実感が湧いて来た。

 ジューンがホブゴブリンの魔石を取り出して俺に手渡す。

 感慨にふけっているとホブゴブリンの死骸がダンジョンに吸収された。


「さあ、帰るぞ」


 ボス部屋を奥の扉から出るとポータルと階段が目に入った。

 外へと念じてポータルに触れるとダンジョンの入口に転送された。


 ダンジョンってのは律儀だよな。

 転移に失敗した話は聞いた事がない。

 でも、上手くできた仕組みだ。


 次に俺達は2階層から挑戦する。

 すると、とうぜん難易度も上がる。

 死にやすくなる訳だ。

 ダンジョンは冒険者を死に誘っている。


 ドロップ品もだ。

 ボスと一戦しようとする冒険者は後を絶たないだろう。


 俺達はダンジョン脇のポーション屋に入った。

 入った途端、ラズが飾られているポーションに駆け寄る。


「エリクサーがある」


 棚に無造作に紫のポーションがあった。


「慌てるな。まがい物だ」

「えっそうなの」


「うちも知ってる。レッサーの赤とエクセレントの青を混ぜると作れるんや」

「そうだぞ。エクセレントも高いのに勿体ない事をする」

「本当だわ。金貨1枚の値札が付いている。がっくり」


「そいつかい、詐欺師がもって来たんだよ。鑑定書なしでね」


 店員がカウンター越しに、そう説明した。


「へぇ、でどうなった」

「とうぜん銀貨1枚で売らなければ、突き出すと脅してやったさ」

「大儲けだな」


「そういう日もある」

「ハイポーションを持って来た」


 俺はカウンターにドロップした品を置いた。


「銀貨2枚」

「それでいい。偽エリクサーも買い取ろう」

「縁起が悪いって誰も買わないけどいいのかい?」

「別にいいさ。これを持っていると本物が手に入るような気がするんだ。嘘から出たまことさ」

「そういう考えもあるか」


 俺は差額の銀貨98枚を払った。


「持っていろ」


 ラズに偽エリクサーを渡した。


「こんなの欲しくない」

「さっきも言ったろ。嘘から出たまことさ。お守りだよ」


 ラスボスまで、ぜったい辿り着いてみせると俺は固く誓った。

 そして、何となくエリクサーは手に入るような気がした。

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