第46話 聖歴152年7月28日、ばれる

 モンスターハウスにぶち当たったが、戦闘はすんなりと勝てた。

 成長したな。

 二人はもう立派な冒険者だ。


「閃いた。これや、これ。猫車を通路で押していて閃いたんや。筒の中を隙間がほとんどない物が通過したら、中の物はどないなる思う?」


 通路を移動中にジューンがそう言ってきた。


「そりゃあ、押し出されるだろう」

「そうや、竹に目ぇ痛なる水を入れて、押し出したらどない?」


 それに気づいたか。

 さらに戦力がアップするな。


「ええと、押し出される」

「ぴゅっと飛ぶんちゃう」

「ジューン天才」

「ラズもそう思うやろ」


「ええ。でも、スグリはあんまり嬉しそうじゃないわね」

「そうやね。なんやスグリの歯切れが悪い」


 二人が少しむっとした顔で俺を見つめる。

 どう言おう。

 1階層のボスとやるのが怖いと言うべきだろうか。

 それとも誤魔化すべきか。


「怖いんちゃう」

「まさか。レベル100を超えているんでしょう」

「怖いんや。女の勘がそう言うてる」


 ジューンに見抜かれてしまった。


「ああ、そうさ。怖い。若い時に良い気になって一人で討伐に行った。その時に強敵と戦おうとすると固まるようになったんだ」

「あれね。私達も経験したから分かる」


「もう何年もそれで悩んでる」

「それでスグリはんが、色々とおかしかったのが分かったわ。でもそれだけちゃうやろ。この際だから、すっきりしたらええよ」


 何かあったかな。

 エロ本か。

 いやそれは違うな。

 ああ、魔力通販の食い物の事か。

 俺は知らぬ間に自暴自棄になっていたのかも知れない。

 死んでもいいと。

 馬鹿な事をした。


「死ぬかも知れない事を隠れてやっていた」

「馬鹿なの。命を自分から捨てるなんて」

「色々と溜まっとったんやろうね。どないな事しとってん?」


「スキルで出した物を食ってた。スキルの物は魔力で出しているだろ。魔法だと出した物はそのうち消える。スキルの食べ物が消えたとなれば肉が消えるも同然だ」

「呆れた」

「それは、美味いんかいな」


「ああ、美味い。食うのが不味いと分かっていても、ついやってしまう」

「まるで薬物中毒者ね」

「あほやね」


「もうやらないと約束するよ。手遅れかもしれないけど」

「強敵への恐れは克服してとしか言いようがないわね」

「そやね」


「俺は自分と賭けをしたんだ。二人だけの力で1階層のボスに辿り着いたら、覚悟を決めるってな。もう十分だろ。明日1階層のボスとやる」

「ジューンに言う事があるんじゃない」


「心配かけて済まなかった。それと言いづらいんだが、水を遠くに飛ばす道具な。あれは色々と既にあるんだ」

「酷い。せやけどそんな気ぃがした」


 俺は千円ぐらいの水鉄砲を3種類出した。

 二人はそれを試して、何とも言えない顔をした。


「悪いな」


 むくれて拗ねるジューン。


「これは埋め合わせしないとね」

「せや」


「よし、ボス討伐の前祝だ。アイスクリームを好きなだけ作ってやるよ。クレープに巻いたりすると美味いぞ。酒精の強い酒を掛けたりもな」


 俺も討伐に参加して1階層のボスの扉までのマップを埋めた。

 そしてその日は討伐を終えた。


 俺は一生懸命アイスクリームを作る。

 ジューンは小麦粉を溶いて薄く焼いている。

 ラズは酒屋に果実酒を買いに行った。

 全員が集まったので。


「じゃあ、明日のボス討伐の成功を祈って。アイスクリームで乾杯」


 ガラスの器に盛られて、果実酒を掛けられたアイスクリームを一気に平らげた。


「美味しい。酒にこないな使い方があるなんて」

「美味しい。妹に食べさせてやりたいわ」


 俺はアイスクリームをクレープに包んで食った。

 討伐が終わって腹が減っているので、美味いと感じた。

 でもそれだけじゃないような気がする。

 二人に悩みを打ち明けて楽になったと思う。


 仲間っていいものだな。

 嬉しさや苦労も、分かち合える。

 俺に足りなかったものが何かという事が分かった気がする。

 スキルではないし、戦闘のセンスでもないし、経済力でもない。


 上手く言えないが、人間の繋がりの力と言うのかな。

 とにかくそういうものが足りなかった。

 一族の誰かにそういうものを作っていたら、結果は変わっただろうか。

 いや、過去の事は言うまい。

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