第45話 聖歴152年7月27日、宝箱

「ありゃ、行き止まりか。おまけに宝箱がある。完全にこの道はハズレだな」

「宝箱あけへんの」

「そうよ、宝箱はここまで来たご褒美よね」


「いいや、罠だ。だいいち、ダンジョンコアがモンスターだというのは分かるな」

「はい」

「ええ」


「おかしいだろ。モンスターが宝箱を用意するってのが」

「そうやね」

「それで」


「ダンジョンの宝箱は悪辣な罠なんだよ」

「罠が仕掛けられてて危険ちゅうのはわかっとるよ。せやけどそれはリスクとリターンちゃうん」

「そうね。分の悪くない賭けだと思うけど」


「仮に罠の解除に成功しても、それは撒き餌にすぎない。ギャンブルはいつか失敗する。胴元が得する理論だな。戦いより分が悪い。結論としては無視した方が良い」

「言われてみればそうなのかも知れへんね」

「でも」


「ラズ!」


 俺の制止を無視してラズが宝箱を開ける。

 30センチほどの矢が3本、ラズに突き刺さった。

 言わんこっちゃない。


 低階層だからこのぐらいで済んだ。

 もっと深い所だったら、もっと悪辣な罠に掛かっていたと思う。


「抜くぞ」


 俺は声を掛けて問答無用でラズに刺さっている矢を抜いた。

 傷口にポーションを掛ける。

 幸い鎧の上から食らったので、傷口は1センチほどだ。


「分かったろう。開ける技能を持ってない奴が、ギャンブルするのは、分の悪い賭けだ」

「分かったわ」


「何であんな事をした?」

「エリクサーが欲しかったのよ。もしもと思うじゃない。噂では低階層の宝箱から出たって話も聞いたわ」


「そういう狡猾な所が宝箱の恐ろしい所だ。宝物を持ち帰ると自慢する。挑戦する奴が増える。すると犠牲者が増える」

「よく分かったわ。でも私はチャレンジを辞めない」


「何でそんなにエリクサーを欲しがる?」

「私と妹が同じ病気で、エリクサーでないと治らないと言われたのよ」

「今すぐ必要なのか」

「ええ、妹はかなり病状が重いの」


 ラズの顔はかなり暗い。

 人工宝石を全て売り払えばもしかしたら買えるかも知れない。


「俺の全財産を叩けば、買えるかもしれないと前に言ったよな。ラズの妹だけでも助けてやろうか?」

「無理ね。オークションで出されるけど、王侯貴族が大抵競り落とすのよ。噂ではある商人が競り落としたら、無実の罪を着せられて処刑されたって聞いたわ。経済力だけでなく武力も地位もないと駄目なのよ」

「ありがちな話だ。でもオークションの品物をチェックするぐらいは良いだろう。ジューン、オークションの代理人に知り合いはいないか。いたら、エリクサーが出品したら情報を回してくれるよう頼んでみてくれ」

「そういう事なら、うちも協力させてもらうわ」


「ラズ、とりあえず、短気は起こすな。宝箱の中身を見てみろ。ただの低級ポーションだ。こんな物の為に命を張るな」

「その低級ポーションがエリクサーだったかも知れないでしょ!」


「じゃあ、宝箱の罠の解除を覚えろよ。エリクサーが出ても転移の罠なんか食らったら、死んでも死にきれないだろ。この宝箱を持ち帰ってやるから、暇な時間に宿で練習してみろ」

「ええ、そうするわ」


 ダンジョンの宝箱は魔道具の一種だ。

 部品自体は少ない。

 歯車とかバネとかもない。

 魔力回路があるだけだ。


 魔力回路を壊すには魔力が通っている線を切らないといけない。

 解除は爆弾処理みたいな物で、熟練でも引っ掛かる危険性は常にある。

 宝箱を動かしただけで罠が作動する場合もあるし、切る線を間違えるとドカンだ。


 宝箱を無限収納に入れて、俺達は地上に帰った。

 罠解除専門の道具屋に行くと、訳の分からない道具が沢山棚に並んでいる。


「初心者向けの道具はあるか?」

「魔力テスターと絶魔縁ナイフ、これだけあれば、低階層はいける」


「ラズ、使い方を教えてもらえ」

「女の子に教えるのは張り合いが出ていいな。分からない事があったら気軽に聞きに来い。俺に分かる範囲なら教えてやる」

「お願いします」


 罠の解除を教われば、危険性もいやというほど教わるだろう。

 そうすれば馬鹿な考えも捨てるに違いない。

 オークションでエリクサーが手に入ればいいが、話を聞いた限りでは見込みは薄いな。

 お金が何とかなっても、その後がどうにもならない。

 やっぱりダンジョンで直接手に入れる方が早いか。

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