第43話 聖歴152年7月26日、異常個体撃破

 二人が武器を松明に換えて異常個体がいる部屋に入った。

 後ずさる異常個体。


 やっぱり、火が弱点だ。

 ラズが、松明をフェンシングのような構えから、突きを繰り出す。


 異常個体は大げさにのけ反って、よけた。

 そして、持っていたこん棒をラズに向かって投げた。

 ラズは松明でこん棒を打ち落とす。


 ジューンが突進して来た異常個体をけん制する。

 異常個体はいったん下がった。


 ジューンが油断なく後ろで異常個体を観察して、松明をゆらゆらと揺らす。

 異常個体は二つの松明から目をそらせられないようだ。


 ラズが草の株につまずく。

 異常個体はチャンスと見たのか、ラズの持っている松明の真ん中辺りを掴むと、松明をラズの方向に押した。

 ラズが暑さに負けて顔を背ける。


 ジューンが横から来て松明を異常個体に向かって突き出した。

 異常個体は押すのを諦めて飛び退いた。

 歯をむき出して威嚇する異常個体。


 ラズは足元を確認。

 何度か足踏みしてから構えた。


 ジューンは後衛のポジションに戻っている。


「あれをやるわ」

「分かった」


 ラズが布切れを出すと火を点けて地面に投げた。

 布切れは激しく燃え上がった。

 油を染み込ませた奴だ。


 まきびしは効果がなさそうだが、火の点いた布は効果がありそうだ。

 異常個体は行動範囲を狭められ焦ったようだ。


 異常個体は松明に向かって唾を吐き掛けた。

 激しく燃える松明。


 異常個体の唾に可燃性の物が含まれているらしい。

 でも、何がしたかったのか。


「下や」


 ジューンの警告がラズに飛ぶ。

 ああ、目くらましをしたのか。

 納得した。


 ラズが松明を下げた。

 低い姿勢の異常個体は、転がって避けた。


 ラズが転がった異常個体に向かって松明で叩くような攻撃をした。

 地面に松明が打ちつけられ、火の粉が飛び散る。

 異常個体はさらに転がった。


 地面に燃えている布切れがあったので、異常個体の転がりが止まる。


 止まったところでジューンが松明を押し付ける。

 ギャーという絶叫とも悲鳴ともとれる声を上げて異常個体が身をよじる。

 火は異常個体を包み込んだ。


 体が可燃性なんだな。

 不思議生態だが、気にしたら負けだ。


 これが先祖返りだとしたら、先祖が何で今の形に進化したのかが、分かったような気がした。

 人類が火を発明したんで、今の皮膚が弱くてまばたきもしない方向に、進化せざるを得なかったのだな。


 異常個体が燃え尽きてダンジョンが静寂に包まれる。

 ラズとジェーンは身じろぎもしない。

 強敵を撃破して余韻に浸っているのだろう。


 俺は部屋に入り二人の肩をポンポンと叩いた。


「今日はお祝いだな」

「そうやね」

「ええ。アイスクリームが食べたいな。松明が暑くて」


「作ってやるよ。楽しみにしてろ」


 今日の探索はここまでだ。


 宿の庭でアイスクリームメーカーぐるぐると回す。

 最近、俺は何もしてないな。

 こんな事で良いのか。


 でも、二人に任せると言ったし、探索は順調に進んでる。

 危なげも無くなったし、安心して見てられる。


 ジューンが竹に似た植物を買って来てしきりに眺めている。

 そして、縦から見たり、横から見たり、逆さにしたり、色々な角度から観察し始めた。


「うーん」


 首を傾げるジューン。


「何をしてるんだ?」


「なにも言わんといて、うちだけで考えるさかい」

「そうか、そう言うなら、何も言わないさ」


 ラズはというと枝を盛んに突き出している。

 突きの一撃が決まらなかったのが悔しかったのだろう。


 アイスクリームが出来たので、二人に声を掛けた。


「やっぱり、考え事した後はこれやね」

「汗をかいた後も格別よ」


 俺はお替わりのアイスクリームを作り始めた。

 俺が先頭に立ち、ダンジョンを攻略する時期が近付いている。

 彼女らの成長が嬉しいと同時に、不安がどうしても頭をよぎる。


 アイスクリームを振る舞ってから、俺は自分の部屋で魔力通販を使って、アイスクリーム買って食べた。

 部屋から出ると廊下でジューンとばったり会う。

 何やらジューンが俺を意味ありげな顔でみる。

 だが、何も言わずにすれ違っただけだった。

 ジューンは考え事でもしていたんだろう。

 別に俺はエッチな事をしていたわけでもないし、気にするほどの事じゃないな。

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