第41話 聖歴152年7月25日、アイスクリーム

 ジューンとラズの戦闘は危なげがなくなった。

 見ていて安心できる。


 成長しているようで嬉しい。


「お疲れ」


 戦闘が終わった二人に、冷たい果実水が入った水筒を渡す。

 二人は一気に飲んで、ぷはぁーと中年の親父が仕事が終わって、ビールを飲んだ時のような声を漏らす。


「これめっちゃ冷たいけど、どうやったん?」

「もちろん周りから氷で冷やした」


「えー、氷は高級品やん。もったいない」

「スキルで出したのよね」


「ラズの言う通りスキルで出した」

「そやったら、氷を果実水の中に浮かべたら、ええと思うけど」


 確かにジューンの言う通りだ。

 周りから冷やすより直接いれた方が早い。

 だが、魔力通販の物は魔力で出来ているという疑惑が消せない。

 食べ物は安全とは言えないのだ。


「氷を作った水が安全かどうか分からなかったんだ」


 苦しい言い訳をする。


「そやね。山の氷も質が悪いと泥が入っている。腹を壊したなんて話を聞いた事がある」

「私も聞いた」


 へぇ、そうなんだ。

 天然氷だとそういう事もあるのか。


「魔法で氷を作るのは大変だからな」

「そうやね」

「どういう事?」


「ラズは知らないのか。魔法は魔力で疑似的に物質を作るから、しばらく経つと消えてしまう。氷を作るなら水を用意して氷魔法で時間を掛けて冷やす。魔力が沢山要るってわけだ」

「なるほど。物質を生み出すんじゃないのね」


「そろそろ、休憩を終わりにしよう」

「はい」

「はい」


 魔法の事があるから魔力通販の食べ物は人にあげられない。

 俺だって美味いアイスとかキンキンに冷えたビールとかを飲み食いさせてやりたい。

 俺は覚悟を決めて魔力通販の物を、平気で飲み食いしているけど、少し罪悪感がある。


 そう言えば牛乳を入れてアイスクリームを作る機械があったな。

 食わせてやろう。


 今日のダンジョン探索が終わり、俺はアイスを作る事にした。

 手動のアイスクリームメーカーで良いだろう

 3千円ぐらいでお手頃だからな。

 口に入れる材料は現地の物を入手した。


 氷、塩を外側に入れてと材料の牛乳、卵黄、砂糖を内側に入れて、振ってからハンドルを回す。

 そして、振ってハンドルを回すを繰り返す。


 ふう、出来たぞ。


「ジューン、ラズ、美味い物を食わせてやろう」

「なんや。見た感じクリームみたいやな」

「そうね。美味しそうな感じではあるわね」


 二人は恐る恐るスプーンでアイスクリームをすくう。

 そして口の中に入れた。


「冷たくてとろけるぅ!」

「何これっ! 食べた事ない!」

「アイスクリームと言うんだ」


 やっぱりアイスクリームはこの世界になかったか。


「氷菓というと何があるの?」

「果物を凍らせたのがあるぐらいやね。せやけど、夏まで保存しとくのが大変らしい」

「この国は雪が降らないから、氷室は存在しないわ」


 思ったより氷の価値は高いらしい。

 ドライアイスの板を出して、100均の製氷器に水を入れてから載せる。


「この氷少し変わっているんやね。溶けても濡れてへん」

「ほんと、湯気が出てるし、その湯気が下に流れていく。普通湯気って上に上がるものじゃないの」

「二人とも触るなよ。触ると火傷みたいになる」


「危険なんやね」

「触らないわよ。不気味だもん」


 なかなか、凍らないな。

 ドライアイスをまた出して製氷器を載せる。

 しばらくして、氷が出来上がった。


「これを売ったら大金持ちやな」

「そうね」

「売らないよ。ドライアイスは危険なんだ。屋内で大量に溶かすと窒息したりもする。もちろん触っても危険だし」


 水筒の果実水に氷を入れる。

 これで明日の探索は冷たいのが飲める。


「アイスクリームまた食べたなってきた」

「よし、腹が痛くなるほど食わしてやろう。おねしょしたりして」

「するわけないやろ」

「そうよ。しないわ」


 わいわい言いながら、3人で何度もアイスクリームを作った。

 手動で作るぐらいなら、腹を壊さないだろう。

 それに材料の玉子がもうない。

 牛乳はともかく、玉子と砂糖は高い。

 材料費だけで銀貨10枚はいく。

 異世界ではアイスクリームは贅沢品だな。

 魔力通販の物を食わせてやる事ができればなぁ。


 俺は隠れて一個300円を超えるアイスクリームを食った。

 罪悪感が強まる。

 ジューンとラズに死ぬ気で魔力通販の物を食うかとも聞けない。

 食うと答えられて死んだ場合は悔いが残るからだ。

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