第37話 聖歴152年7月16日、モンスターハウス

「うりゃあ」


 先頭で部屋に入ったジューンが6張のボウガンを放つ。

 ゴブリン3匹が戦闘不能になった。


 ジューンが下がりラズがまきびしを撒いてから、突っ込んでいく。

 最初に寄って来たゴブリンは、吹き矢で気を惹いてから、速攻で倒した。

 倒したゴブリンを盾にして次のゴブリンの後ろに回る。

 そして、倒す。


 ジューンは猫車で突進。

 壁との間にゴブリンを挟み、猫車の先端の刃物で串刺しにした。


 最初にボウガンを大量に放つのは理にかなっているな。

 数が減ればそれだけ楽になる。


 8匹ぐらいでは、もう苦戦する事はない。

 二人の連携も上手くいっている。


 そして、俺達はひと際大きい部屋に出くわした。

 モンスターハウスだ。

 20匹を超えるゴブリンがいる。


「どないしよ」

「私はいけると思う」


 俺は黙って見ている事にした。

 今の二人だと五分五分だろう。

 戦力の分析も大事だ。

 敵わなければ、敵うような作戦を立てる。

 無策で突っ込んでは命がいくつあっても足らない。


「最初の一撃で3匹よね。それから通路まで下がりましょう。狭い空間で迎え撃った方がいいわ」

「そやね」


 通路にまきびしを撒いて準備完了。

 ジューンが猫車を押していき部屋に入った所で、ボウガンを一斉に放つ。

 そして通路に撤退してきた。


 通路に殺到してくるゴブリン。

 二人で横並びして迎え撃つ心算らしい。

 横や後ろから攻撃を受けないのは利点だが、どこまで持ちこたえられるか見ものだ。


 ゴブリンは3匹が前面に立っている。

 一人1.5匹を相手にすれば良い計算だ。


 ジューンが猫車でゴブリンを串刺しにする。

 ラズはゴブリンの後ろに回る戦術が使えない。


 ゴブリンはジューンの猫車に串刺しされたゴブリンを踏み台にして、猫車を越えようとし始めた。

 ジューンが唐辛子爆弾を投げまくる。


 そしてこう着状態になり数分経ち。

 撒いたまきびしがダンジョンに吸収された。

 ゴブリンの圧が強くなる。

 ついに猫車に乗ってジューンに襲い掛かるゴブリンが出た。

 前線というほどの人数ではないが、前線を突破されると弱いな。


 まきびしを追加で撒いている余裕はない。

 ゴブリンは猫車の上に積んであるボウガンを手に取ると、横にいたラズに発射した。


 武器を奪われるなと注意したのに。

 ラズが負傷した。

 ここから二人は滅多打ちされた。


 ここまでだな。

 俺は猫車の前にいるゴブリンをメイスで殴ると部屋の中に放り込んだ。

 猫車の上にいるゴブリンの足を掴むと、ラズの周りにいるゴブリンに叩きつける。

 そして、猫車の取っ手を掴むとぐいぐい押して部屋の中にゴブリンを押し戻した。

 押し戻すのを二回ほど行い、通路からゴブリンを一掃。


 猫車を手放して、メイスで無双し始めた。

 ほどなくしてゴブリンは全滅。


 ジューンとラズの所に戻ると、二人は寝転がり痛みに悶えていた。

 ポーションを飲ませてやる。

 ラズに刺さった矢を抜いて、ポーションを掛ける。


 猫車を無限収納に入れて、改造してない猫車を出した。

 それに二人を載せて座らせる。

 俺は猫車を押し始めた。


 二人は痛みに呻いている。

 痛いうちは平気だと思う。

 幸い骨は折れてないみたいだ。


「手ひどくやられたな。反省会は回復してからだ。無理して、喋らなくてもいいぞ」


 二人が頷く。


 敗因はジューンだな突破されなければ、なんとかラズが少しずつ仕留めていけただろう。

 猫車の上に乗られたら盾で殴れば良かったんだ。

 とっさにそういう事ができるかが、戦闘に慣れているかどうかというところだ。

 ジューンはシールドバッシュの訓練をしとくべきだったんだ。


 とにかく、まずは治療だ。

 ダンジョンからは何とか帰る事が出来た。

 ゴブリンぐらい俺は瞬殺できるからな。


 治療師の所に二人を連れて行く。


「また、派手にやられましたね」

「どのくらいで復帰できそうか」

「そうですね。1週間といったところでしょうか」


 俺は二人が治療されるのを待った。

 宿まで猫車に二人を乗せて連れて行く。

 そして、ベッドに寝せてやった。


 宿の食堂で麦かゆを注文する。

 ジューンの部屋に持って行った。


「今、食べさせてやる。ふうふう」


 スプーンの上の麦かゆを口に運ぶ。


「いたたっ、ムードのないアーンやね」

「喋ると切った口が痛いぞ」


 無言のジューンに食事をさせて今度はラズだ。


「ほら、麦かゆを持って来てやったぞ。口を開けろ」

「うん」


 甲斐甲斐しく食事をさせてやった。


「自信があったんだけど」


 そうラズが呟いた。


「今は休め。今日は痛みできっと眠れないぞ」


 ラズの部屋を出る。

 ジューン、ラズ、今は何にも考えずに休め。

 生きているんだからリベンジもできるさ。

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