第36話 聖歴152年7月15日、猫車の実戦

「とりゃー」


 ジューンの勇ましい掛け声がダンジョンに木霊する。

 勢いをつけられた猫車がゴブリンに突進していく。

 先に付けられた刃物がゴブリンの腹に突き刺さる。


「短剣を辞めて猫車に転向しようかしら」

「ラズの言う事ももっともだが、ゴブリンぐらしいしかこの戦法は役に立たないぞ」

「そうなの?」

「まず第一にゴブリンは手が短い。子供ぐらいのリーチしかないからな。棍棒を持ったところで、高が知れている。オークなんかだとたぶん頭上から一撃食らって終わりだな。ウルフだと高さが合わない」

「でも全ての敵に有効な武器ってないのでは」


「ないね。あるとすれば魔法かな。魔法の対応力は凄い」

「魔法スキルってどうやったら獲得出来るの?」

「そんなの俺が知りたいよ。ジューン、お疲れ様」


「猫車は強いね。うち、気に入ったで」

「一対一では負けないな。でも横に入られたり距離がないと使えない。男ぐらいの力があれば、強引に押していけるがな」

「そうやね」


「ということで、二人で連携を考えるんだ」


 二人は相談し始めた。

 そして作戦が決まったらしい。


 部屋に入った。

 ゴブリンが5匹いる。


 ジューンが突進していく。

 ゴブリンは当然避ける。

 通路では避けるスペースが無いから突進が上手く決まったが、こうなるよな。


 ジューンが途中で突進をやめてバックする。

 ラズがまきびしを撒き始めた。

 これでゴブリンの足を奪おうというのだな。


 ジューンがゴブリンに突進していく。

 ゴブリンはまきびしを踏んで悲鳴を上げた。


 逃げ遅れたゴブリンが串刺しになる。

 足を引きずりながなら、ゴブリンが猫車の横に回る。

 ラズは猫車の中に積んであるボウガンを手に取ると猫車越しに発射。


 ゴブリンは怯んだ。

 ジューンがバックしてまた突進していく。

 横に回り込まれそうになるとラズが邪魔をした。

 ラズからゴブリンが離れている時はボウガンで近くにいる時は短剣でか。

 考えているな。


 猫車を挟んでゴブリンと対峙しても、ボウガンなら関係ない。

 3人いれば両脇を固められるな。

 数が少ないのをボウガンで補ったか。


 ボウガンがなくなると唐辛子爆弾だ。

 なるほど、考えている。


 危なげなく5匹を始末した。

 これなら8匹ぐらいまでは余裕か。


 ジューンとラズはハイタッチした。


「よし、この調子で進むぞ」


 いくつか部屋を攻略して、ついに8匹の部屋に当たってしまった。


「どないする」

「やれる所までやってみましょう」

「ほな、行くで。とりゃー」


 ジューンが突進してゴブリンを下がらせる。

 下がった所でバックしてまきびしを撒く。


 ここまでは良い。

 やはり猫車の前面の刃物を恐れて横へ回り込もうとする。

 それも左右同時にだ。

 ラズに捌ききれるかな。


 前面での串刺しは諦めて、ジューンが唐辛子爆弾を投げ始める。

 ラズは目前のゴブリンを捌くので精一杯だ。

 ただ、左右に分かれたので4匹と4匹に分断された格好にはなった。


 一人で4匹はつらいな。

 こりゃ駄目かなと思っていたら、ラズがゴブリンの後ろに回り首をかき切って盾にした。

 そして死んだゴブリンを放り出し次のゴブリンの後ろに回った。

 まきびしで機動力を奪っていたから出来る芸当だ。


 ジューンはとみると、唐辛子爆弾で2匹を戦闘不能にしたまでは良かったが、後の2匹に詰め寄られた。

 防戦一方だ。

 盾でなんとか持ちこたえているが、持たないか。

 ラズの方が片付いたみたいだ。

 ラズは猫車のボウガンを手に取ると発射。


 ゴブリンが怯んだ隙にジューンはバックして再び突進の構えをみせた。

 後は4匹なので問題なく仕留める事ができた。


「お疲れ」

「ラズはん、強いです。うちがやっぱり足をひっぱるんやね。でも少し見えましたわ」

「何が見えたんだ」

「猫車にボウガンを6張ぐらい固定できへんやろか」

「できるだろうな」


 何が言いたいのか分かった。

 猫車を自走砲みたいにするんだな。

 最初にかまして、数を減らしておけば、後は突進とラズの戦果でなんとかなる。

 今日は上がりにして猫車を改造してやろう。

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