第34話 聖歴152年7月14日、リフレッシュ

 まきびし作戦はかなり効果が出てる。

 誰しも痛いのは我慢できない。


 まきびしが数分も経つと、ダンジョンに吸収されるのも良い。

 他の冒険者の迷惑にならないからだ。


 ラズが唐辛子爆弾の中身をまきびしに塗ったらどうかと言った。

 ラー油を塗る事にした。

 その効果はてきめんだ。


 一度ゴブリンがまきびしを踏むと、歩くのを躊躇するようになる。

 おかげで、ジューンの射線が確保できるようになって、ボウガンが大活躍だ。


 止まった的を撃ち抜くのは容易い。


「3張りだと足らん。無限収納を使いたいのやけど、どない?」

「俺は手を出さないと言ってあるだろう」


「この、いけず!」


 なぜかジューンがへそを曲げた。

 何でそこでジューンが怒る。

 戸惑っている俺にラズが近寄ってきた。


「ジューンはあなたに認めて欲しいのよ。今、絶好調だから、もう少しで認めて貰えると思ったんじゃない」

「俺の力を借りて達成するのは、違うんじゃないか」

「甘えてるのよ。あなただけにね」


 俺はジューンに甘えるなと言ったに等しいわけか。

 俺になぜ認めて貰いたいかと言えば、俺の役に立ちたいって事だろうな。

 もろもろを拒絶されたように感じたのか。


 どうするべきか。

 無限収納を使って手伝ってやるのは容易い。

 俺の今後の行動を賭けていると言えたらどんなにいいか。

 ボスで俺が固まるという事実を告げるべきだろうか。


「ジューン、聞いてくれ。俺だって手助けしてやりたい。でも二人が強くならないと、はっきり言って足手まといだ」

「そないな事、言わんといて」


「今日の探索はここまでにしよう。こんな気持ちでは怪我の元だ」


 二人とも無言で頷いた。

 ダンジョンから出ても、二人と俺の間には、微妙な空気が流れていた。


 疲れもあるのかな。

 そう言えば休みを取ってない。

 とんだ、ブラック企業だな。


「これから、今日は休みにする。リフレッシュしてこい」


 やはり無言で頷く二人。


 俺もリフレッシュするか。

 女なんか買うと、ジューンとラズは一生口を利いてくれなくなりそうだ。


 魔力通販でエロ本も買えるけど、あまりに情けない。

 そう言えば、趣味らしい趣味がないな。

 前世ではともかく、今は趣味を持ってない。


 何をやろうか。

 モンスターが出る環境で釣りはちょっとな。

 ハンティングは冒険者の仕事と変わりない。


 ボトルシップでも作ろうか。

 そうだな。

 そういう心を落ち着けるのが良い。


 俺は魔力通販で安いキットを買って、ボトルシップを作り始めた。

 ピンセットで部品を摘まみ接着していく。


 色々な事が頭をよぎる。

 復讐の事、臆病風の事、ジューンとの事。


 駄目だ。

 集中できない。

 3人の中で一番心が乱れているのは俺かもな。


 やっぱりエロ本しかないのか。

 情けないが買うか。


 魔力通販スキルを使いエロ本が現れた瞬間。

 扉が開けられた。


 突然の事に固まる俺。

 どさっとエロ本が落ちる。


 それを目撃するジューン。


「違うんだ。これは頼まれたんだ。いい値がつくんだよ」

「へぇ、誰に頼まれたんや。言うてみい」


「それは……」


 とっさに人物の名前が出て来なかった。

 ここにそんな知り合いはいない。


 ジューンはエロ本を拾うとページをめくった。

 真っ赤になるジューン。


「スグリはん何か、知らん!」


 ジューンが怒って出て行った。

 女を買って見つかったのとどっちがましかな。

 そんなしょうもない事を考えた。


「あんた、いやらしい春画を買ったんだって」


 ラズが入って来て軽蔑した表情でそう言った。


「だって、女を買うわけにもいかないだろ」

「少し気持ちは分かるけど、ジューンが真剣に悩んでる時に、何してるのよ」

「面目ない」

「謝るなら、ジューンにしなさい」

「そうするよ」


 俺は何をしているのだろう。

 体が若いからこんな事になったんだな。

 でも、ジューンが討伐の事で悩んでいるのに軽率だったな。

 誠心誠意、謝ろう。

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