第24話 聖歴152年7月10日、ラズ

 おやっ、誰か戦っている。

 戦闘音がするので俺は部屋を覗いた。


 黒髪で長髪の少女が槍を持って戦っていた。

 均整のとれた体つきをしている。

 それなりに戦闘訓練はしているようだ。

 しかし、4匹を同時に相手はきついだろう。


 言わんこっちゃない。

 棍棒で足を払われ無様に転がった。

 俺はメイスで、少女に止めを刺そうとしているゴブリンを葬った。


「手出しはしないで」

「冒険者は自己責任が基本だが、危ない時ぐらいは構わないだろう」

「いいえ、余計なお世話よ」


「とりあえず全滅させてから、話したらどない」


 ジューンがそう言ってからゴブリンに殴り掛かった。


「ジューンの言う通りだ」


 俺もゴブリンに殴り掛かった。


「ちょっと、余計なお世話って言っているじゃない。もう」


 彼女も戦い始めた。

 俺達は共闘してゴブリンを葬った。


「礼は言わないわ。助けてくれと言ったわけじゃないから」

「俺はスグリ」

「うちはジューンや」

「ラズよ」


 ぶっきらぼうに答えるラズ。


「いくらなんでもソロは危ないだろう」

「余計なお世話よ」


 ラズは憤慨したようだ。

 焦っているようにも見える。


「何か事情があるようだな」


 俺はなるべくなだめるような口調で話した。


「あなた達に話してもどうにもならないわ」


「そうなん、話したら気ぃ楽になるかも知れへん」

「そうだな話してみろよ」


「エリクサーが必要なのよ。ほらどうにもならないでしょう。話すんじゃなかった」


 諦めともとれる態度のラズ。


「何だそんな事か。ジューンと俺の夢と比べて難易度はどうだと思う」

「うちらの夢より難易度は低いんとちゃう」


「私を馬鹿にするの!」


 ラズが怒った。


「いいや、エリクサーなら俺らにとっては通過点だ。たぶん夢を実現する間に何本かは手に入るだろう」


 淡々と話す俺にラズの怒りは収まった。


「嘘よ。証拠を見せなさい」


 証拠か、証拠ねぇ。


「これでどうだ。【無限収納】」


 俺は何十もの大粒の人工宝石を取り出した。


「お金持ちだと自慢したいの」

「いいや、全財産叩けば、エリクサーの1本ぐらい今でも買える。このダンジョンを制覇すれば、財産は10倍にも膨れ上がる」

「1階層をうろついている人間の言う事など、信じられない」

「これでもスライム・ダンジョンの制覇は実績があるんだがな」

「あんな1階層しかないダンジョンは自慢にもならないわ」


「よし、そこまで言うのなら、一緒に行こう。このダンジョンを制覇して、俺達が正しいって事を証明してやる。かけ金はさっきの宝石だ」

「私に何を賭けろっていうの」

「夢を賭けろ。賭けに負けたら、俺達と一緒に夢を果たすんだ。夢ぐらいあるだろう」

「馬鹿にしないで夢ぐらいある」


「どうだやるか」

「そこまで言うならやるわよ」


 パーティメンバーが一人増える事になった。


「よし、今日は歓迎会だ。出張ギルドの酒場でやろう」

「そら、ええね」

「もう、仕方ないわね。付き合ってあげるわ」


 ダンジョンを出て、ダンジョン設備であるシャワー室を使ってから、出張ギルドに行った。

 ついでに魔石を換金しておく。


 ギルドの酒場の床は料理の染みがこびりついて清潔とは言えない。

 少しべたついている。

 テーブルと椅子は綺麗にしてあるから、問題はないが、日本の事を思い出すと少し抵抗がある。

 適当なテーブルの席に俺達は着いた。


「エール3つ、それとボアのから揚げ!」

「はいよ」


 よく見るとラズの顔色は少し悪い。

 もしかしてエリクサーが必要なのは自分の為なのか。

 聞いてもいいが、何となくそれを聞くと彼女が去りそうだ。

 ジューンもその事には気づいてるような感じだ。

 だが、聞かないのは、俺と同じ理由だろう。


 料理と酒が来たので、乾杯する。


「出会いと夢の達成を願って乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」


 少しラズの態度が軟化したような気がする。

 乾杯の時の顔は少し嬉しそうだった。


 早く打ち解けて色々話してくれるといいな。

 力になれるならなってやっても良いだろう。

 もう今はパーティメンバーなのだから。

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