第23話 聖歴152年7月10日、ゴブリン・ダンジョン

 俺にとっては苦い思い出のあるゴブリン・ダンジョン。

 だが、色々な意味でここは避けては通れない。

 まず、ジューンのレベルアップに最適なダンジョンがここだという言う事。

 ダンジョンコアから魔力を吸い出すには、制覇し易いであろうここが一番いい。


 それにゴブリンは対人戦の要領で戦える。

 俺の土俵だ。

 尻込みしてはいられない。


 ゴブリン・ダンジョンは土をくり抜いたようなダンジョンだ。

 だが、床は一面の草で覆われていた。

 天井には良く分からない照明。

 草むらの間をネズミが駆けまわる。

 くさい臭いが充満していた。


 それがゴブリンの臭いだ。

 ジューンが顔をしかめる。

 分かるよ。

 この臭いには慣れない。


 通路を進むとゴブリンが現れた。

 しわくちゃの顔にツルツルの頭、尖った耳に、目蓋の無い目。

 そして目には虹彩がない。

 地球人ならグレイに似ていると言うだろう。

 肌の色は緑色だが。


 俺は盛んに威嚇の声を上げているゴブリンにメイスをお見舞いした。

 ゴブリンが倒れる。

 ナイフで魔石を掘り出すと、ネズミが死骸に群がった。

 そして、残った骨などはダンジョンに吸収された。


「けったいな所やね。うちも死んだらネズミの餌やろか」

「そうだな、死んだら、ネズミとダンジョンの餌だな」

「想像してもうた」


 ジューンが体を震わせる。


「大丈夫だ。ゴブリン如きにはやられない」

「そうやね」


 二人して慎重に歩を進める。

 部屋に到達した。

 中を見るとゴブリン3匹が座って、ネズミを貪り食っていた。


「俺が2匹を受け持つ。残りの1匹は任せた」

「ええで」

「じゃ、突撃だ」


 俺とジューンはメイスを上段に構えてゴブリンに駆け寄った。

 メイスをゴブリンに叩き下ろす。

 ゴブリンは木の棍棒でガードしたが、俺は棍棒ごと頭蓋骨を叩き割った。


 残りのゴブリンのうち1匹はジューンと鍔迫り合いしている。

 俺の目の前をゴブリンの棍棒が通過する。

 ジューンの戦闘に気を取られている場合じゃない。


 俺はゴブリンの腕目掛けてメイスを振り下ろした。

 ボキっと乾いた音がしてゴブリンの腕の骨が折れる。

 ゴブリンは棍棒を落とした。

 俺はゴブリンに頭を叩いた。

 緑色の血が飛び散る。


 ジューンを見るとまだ鍔迫り合いをしていた。

 俺はゴブリンの後ろから近づきメイスを振り下ろした。


 ジューンが荒い息を吐く。


「大丈夫か?」

「こんなの、わけあらへん」


「そうか。肩で息をしてるぞ」

「平気や」


 やはり、ジューンにはきついようだ。

 だが、他のモンスターはもっときつい。

 ゴブリンの次にやるウルフなんかは、各段の強さだ。


 手分けして魔石を採る。

 やはりネズミが死骸に群がる。


「ネズミはモンスターちゃうんやね」

「ああ、野生動物だ。ネズミは強者を良く知っている。ゴブリン・ダンジョン以外では住み着かない。スネーク・ダンジョンなんかは1匹たりともお目に掛かれない」


「ゴブリンの匂いが染み込んだような気ぃがするわ」

「香水とかはつけるなよ。ゴブリンは鼻が良い。香水とかつけると群がってくるぞ」

「言いつけ通りにしてるんよ」

「なら良い」


 ゴブリンの骨と皮がダンジョンに吸収されるのを眺めた。

 冒険者が保証人を必要とするのが良く分かる。

 ダンジョンで殺人すれば証拠は残らない。

 ポーターをしている時に聞いたがギルド専属の殺し屋がいるんだそうだ。

 不良冒険者を始末して回っているらしい。


 ダンジョンで襲われたら返り討ちしても良い事になっている。

 しかし、証人は生きている方のみだ。

 嘘判別スキル持ちがいるから、それに聞かれたら嘘はつけないが、犯罪を犯している奴は絶対にいるだろうな。


「んっ、何だ」


 ジューンが俺を見つめて何か言いたげだ。


「うち、思ったんやけど。こないな事せんでもええのと違う」

「何だ、降参か?」

「お金は十分手に入ったんやから」

「俺は復讐したい相手がいる。悪夢を良く見るんだ。たぶん復讐が終わらないと悪夢が終わる事はない気がする」

「うちにも復讐したい相手がおる。せやけど命をかけてまでというのは違う」

「復讐をゴールにしないで夢をゴールにしたらどうだ」


「せやね。夢なら命をかけれる。うちの夢は大商会や」

「なら、俺は勇者だな」


 ジューンの息も整ったようだ。

 次の相手を探すとするか。

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