第22話 聖歴149年4月3日、ポーターになる

 夢の場面は冒険者ギルドの前に変わる。

 俺は良い様にやられ、節々の痛む体で冒険者ギルドにやってきた。


 冒険者ギルドのウエスタンドアの前で深呼吸。

 ドアを手で押しのけて入った。


 冒険者の視線が俺に刺さるように感じる。

 俺はカウンターに歩み寄ると受付嬢に話し掛けた。


「登録したい」

「保証人はございますか」

「いや、無い」


「では、誰かに保証人になってもらって出直して下さい」


 そんなのあるわけがない。

 理由を聞けばなんとかなるかも知れない。


「何故、保証人が必要なんだ?」

「そうですね。冒険者の仕事は信用が第一です。商人の護衛が盗賊の一味だったら不味いのは分かりますよね。討伐依頼にしてもそうです。別の場所で討伐して偽の証拠をもってこられたら、依頼を出した人の生活が脅かされます。もちろん監査はしておりますが、生き届かないのも事実。結果、保証人がいない人は登録しない事となりました」


 物語では誰でも登録できる。

 だが、理由を聞いてみれば、もっともだ。

 保証人のあてはない。

 どうしようか。


 俺が悩んでいたのを可哀想に思ったのか、受付嬢が助け舟を出した。


「ポーターなら、保証人は要りません」

「そうか、それしかないのなら、俺はポーターをやる」

「力はありそうですし、あなたでしたら、試験は要りません」


 俺はポーターの登録用紙を埋めた。

 仕事はすぐに決まった。


 ボイセンがリーダーの『切り裂く暴風』パーティだ。

 待ち合わせは4番テーブルか。

 俺はテーブルに彫られた数字を確かめながら、歩いた。

 えっとここが3番だから、隣だな。


 大剣を立てかけている男と、ローブ姿の男、それに盾を立てかけている男と、短剣と工具を腰に吊るした4人がいた。

 脇には人が二人ぐらい入れそうなリュックが置いてあった。

 今はリュックに何も入ってないのでぺしゃんこに潰れている。


 俺は近寄ると挨拶を始めた。


「切り裂く暴風の方ですか? ポーターをやるスグリです」

「硬いねぇ。砕けた口調でいいよ」


「世話になる」

「俺がボイセンで、アドと、グースと、ビルだ。今日はお試しだな。ついて来い」


 リュックを背負ってついて行く。

 食材を買い込むらしい。

 八百屋の前でボイセンは立ち止まった。

 ボイセンが値段を交渉し始めた。


 俺は何の気なしに野菜を手に取って弄んだ。


「待たせた」


 リュックに食材が次々に入れられる。

 ずっしりと重くなった。

 リュックの紐が肩に食い込む。


 そしてボイセンの定宿で食器や調理器具を入れる。

 そんなに入れるのかよ。

 俺はもうやめてくれと言いかかった。

 しかし、ここでそんな事を言うとキャンセルされる恐れもある。


 俺は重くなっていくリュックに耐えた。

 そして、ビルが馬車を借りて来た。

 馬車にリュックを積んで文字通り肩の荷が下りた。


 馬車で揺られ4時間。

 野営地についた。

 野営地は水場と簡単なかまどが設置されている。

 管理人が馬の飼葉の干し草を持ってきた。

 ボイセンが空の瓶に水を入れる。


 まじかよ。

 まだ重くなるのか。

 容赦なくリュックの中に詰め込まれた。


 そして、ここからは徒歩らしい。

 道のない森へ俺達5人は入って行く。

 リュックを担いでの森歩きはつらい。

 でこぼこが憎くなる。

 疲れて足が上がらなくなると、木の根や石につまずく事になる。


 どのぐらい歩いたかは分からないが、ここで野営するらしい。

 料理の時間だ。

 やった荷物が軽くなる。

 みんなたんまり食ってくれよ。


 飯が終わると就寝だ。

 寝袋を出して俺と二人が寝る。

 後の二人は見張りだ。


 ポーターは見張り免除らしい。

 俺はすぐに眠りに就いた。


 夜中、揺さぶられて起きる。


「モンスターだ。討伐依頼の奴だといいんだが」


 戦闘はあっけなく終わった。

 腕が良いパーティのようだ。

 ほっとした所で夢から目が覚めた。

 今日からはゴブリン・ダンジョンの攻略だ。

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