第21話 聖歴148年6月27日、父が死ぬ

 嫌な夢ばかり見る。

 これは父が死んだ時の夢だ。

 この時の俺は16歳。

 独り立ちするには若い年齢だ。

 前世の記憶があるからなんとかやってはいるが、普通だったらプレッシャーに押しつぶされていただろう。


 父の棺を前にして誓う。


「父さん、一族の宿願の勇者排出はなんとか叶えて見せます」

「ふん、どうだか。お前の腕では難しいだろう」


 叔父のウスタがそう吐き捨てた。


「俺が勇者になる事を言ってるんだよ。まあ、その時はスグリはお払い箱だけどな」

「はははっ、そうだな。違いない」


 くそっ、言いたい放題言いやがって。


 そして、場面は少し経ったところに変わる。

 俺は一族の運営で叔父のウスタとぶつかった。

 俺の主張は、戦闘以外の能力も評価すべしだった。

 ウスタはこれに真っ向から反対。

 そして、方針を賭けた試合で俺は負けた。


「とんだごく潰しだな。何も出来ない若造が。悔しかったら、一族の戦士をまとめて見せろ。できはしないと思うがな」


 ウスタが俺をなじった。


「お前の魂胆は分かっている。一族を牛耳りたいのだろう」

「牛耳るも何も力のある者に従う。それが掟だ。戦士は負け犬のお前の顔など見たくないそうだ。一族揃っての食事は遠慮してくれるか」


 俺を孤立させるつもりだ。


「それが総意なら」

「総意だ」


 あんな奴の言う事など聞かずに突っぱねりゃ良かったのだ。

 夢の俺が歯がゆくて仕方ない。

 そして、また場面が変わる。


「よう、俺はついにスキルが生えたぜ」


 そう言ってきたのは従兄弟のハックル。


「そうか」


 叔父さんがニタニタ笑いながらやって来た。


「スグリ、お前を家門から追放する」

「何で?」

「使い込みの証拠が挙がった」

「嘘だ。俺はそんな事はやってない」

「温情で罪は問わない。直ちに出ていけ」

「そんな」

「心配するな。家督なら息子のハックルが立派に継ぐ。当主の父親に対してその顔は何だ」


 追放される場面の夢をみるのは何度目だろうか。

 そして、場面はローズが住んでいる屋敷に。


「通してくれないか。ローズに会いたい」

「いまお嬢様に聞いて参ります」


 門番の一人が邸宅に報せに行った。

 散々待たされて、ローズが白い二頭立ての馬車でやってきた。

 繋がられている馬も純白だ。


「あら、まだいたの」


 ローズは銀髪で何時もの縦ロールの髪型をしている。

 久しぶりに会ったが、相変わらずスタイルはいい。


「話を聞いてくれ。家から追い出された。再起してあいつらに復讐したい」


 俺は花束を馬車の窓から差し入れた。

 ローズは花を一瞥して手に取ると、地面に投げ捨てた。


「聞いてませんの。あなたとの婚約は破棄されました」


 ローズの冷たい声。

 何だって!

 好きだと言ってくれたあの言葉は嘘なのかよ。

 胸が張り裂けそうだ。

 いや、家の手前、演技してるんだ。


「そこを頼むよ。11年間の付き合いだろう」

「ええ、ですから。今話を聞いて差し上げてます。実りのない話のようですし、御免遊ばせ」


 馬車が出て行くのを俺は茫然ぼうぜんと見送った。

 俺は待つ事にした。

 馬車は数時間ほど経って帰ってきた。


 馬車の窓からローズとハックルの野郎が見える。


「ローズ、ゴミムシが門にたかっているぞ」

「あら嫌だ。駆除しないといけませんわね。ゴミムシを潰して下さる」


 ローズの護衛が馬車から降りてきた。

 俺はメイスを抜いて構えた。

 護衛はせせら笑うと怪力スキルを発動して素手で俺と対峙した。


 俺がメイスで殴りかかると護衛はいとも簡単に受け止めた。

 くそう、スキルなんて、糞ったれめ。

 メイスごと手首を捻られ地面に転がされた。


 そして、ぐりぐりと足で踏みにじみられた。

 足をどかそうと頑張るがびくともしない。


 ハックルが降りてきて俺に蹴りを入れ始めた。

 くそう、どうにもならないのか。

 散々蹴られて、最後にハックルは俺に向かって唾を吐いた。

 そして、俺は解放された。


 痛みにうめく。

 ローズも馬車から降りて来て。


「ほほほ、ゴミムシがつぶれましたね。これに懲りたら、ここには二度と近づかないことです」


 悪夢ばかりみるのは父さんが、復讐を望んでいるからなのだろうか。

 それとも俺が強くそう思っているからか。

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