第20話 聖歴147年3月、対モンスター戦

 これは15歳の頃の夢だ。

 成人になったので、モンスター相手の修行に出る事になった。

 最初はスライム・ダンジョンだ。

 冒険者でない者はダンジョンには入れないが、いくつかの抜け穴がある。

 まずポーターは冒険者ではないが入れる。

 そこでダンジョンに入れたい者をポーター登録して中に入れるのだ。

 派手にやるとギルドに睨まれるが、貴族のレベル上げにはよく利用されている。

 レベル上げの依頼が出ていればギルドは目こぼしする事が慣例になっている。


 俺もそれを利用した。

 スライム・ダンジョンでの戦闘は大した事がなかった。

 直線的な攻撃など取るに足らない。

 それにミスしてダメージを受けてもポーションで治る。


「お貴族様、レベルは幾つになりましたか?」


 冒険者から問われた。


「レベル4になりました」

「じゃあここも卒業だな」


 何だ簡単だな。

 次はゴブリンか。


 俺はその夜、寝つけなかった。

 遠くから狼の遠吠えがする。

 俺はいい気になっていたのだろう。

 装備を身に着けると一人、宿の外に出かけていった。

 スライム・ダンジョンの周りは人家もなく、暗闇が支配していた。


 松明を片手に、片手ではメイスを持って、狼の吠える声がする方に近づいていく。

 今、思うに、馬鹿だったなと。

 狼に近づいたと思ったら、暗闇から影が襲ってきて、圧し掛かられた。

 不味い。

 松明を落としてしまった。

 影の正体は3メートルはある狼のモンスターだった。

 地面に落ちた松明が狼の灰色の毛皮を照らす。

 俺は噛みつこうとするモンスターの口に何とかメイスを差し込んだ。

 くそう手も足も出ない。

 寝転がっているので、力も出ない。


 松明が消える。

 戦況がもっと不利になる。


「糞が」


 悪態をつくが口に入れたメイスはびくともしない。

 護身用の短剣で目を突こうとするが、暗いので思う様に行かない。

 顔のどこかを傷つけたのだろう。

 モンスターがいったん離れた。

 慌てて起き上がる。


 そして、足を噛まれた。

 激痛が体を駆け巡る。


「離せよ。おら」


 短剣とメイスをしゃにむに振り回す。

 いくらかモンスターに傷を付けたようだ。

 モンスターが咥えていた足を離した。


 片足が思う様に動かない。

 これでは逃げる事も出来ない。


 次は首筋に噛みつかれて終わりか。

 ぞっとした。


「来るな! 来るな! 来るな!」


 パニックになってメイスを振り回す。

 唸り声を上げてモンスターは俺を観察している。

 死を覚悟した。

 次の瞬間。

 キャインとモンスターが鳴いた。

 俺は全ての力を持って声をした方向にメイスを振り下ろした。

 確かな手ごたえ。

 俺は全ての力を使い果たして、寝転がった。


 痛みで我に返り、腰のポーチに入れてあるポーションを飲む。

 足の痛みが嘘の様に消えた。


 手が今でも震えている。

 火種壺から松明に火を移してモンスターを観察する。

 俺が勝てた理由が分かった。


 モンスターの足に陶器の破片が深く食い込んでいたのだ。

 ここで踏んだか、前からなのかは分からないが。

 とにかく運がよかった。


 問題はこの後起こる。

 次に行ったゴブリン・ダンジョンでザコは問題なかった。

 しかし、ボスのホブゴブリンと対峙した時に、俺は恐怖で固まって動けなくなったのだ。


「おい、どうした」

「う、うわー」

「駄目だ、こいつパニックになってやがる。俺達でやるぞ」


 冒険者が慣れた様子でホブゴブリンを狩る。

 ホブゴブリンが倒れて、俺は動ける様になった。


「臆病風に取りつかれちまったな」


 護衛の冒険者に言われた。


「対処方法は?」

「強敵とやって乗り越えるしかないだろ。または時間が経って忘れるかだ。可哀想にな。しかし、駆け出しにはよくある事だ」

「そんな」


 ザコは殺せるが強敵は殺せないようになってしまった。

 特に殺気の強い奴はだめだ。

 スライムとかゴーレムなら対峙できるが、人型の奴とか肉食系のモンスターはどうにもならない。

 俺のレベルは11で止まった。

 何度も挑戦して挫折したゴブリン・ダンジョンのボスとの対戦で、夢から目を覚ました。

 ふぅ、嫌な夢だ。


 スライム・ダンジョンのボスは倒せたが、あれは殺気とかがないからだ。

 捕食する意思はあるが、殺気ではない。

 それでも、少し固まった。

 だが、逃げてばかりじゃいられない。

 立ち向かわなければ。

 スキルも生えた事だし、きっといけるはずだ。

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