第14話 聖歴152年6月28日、ビックスライム

 あれから、10日程が経った。

 攻略は順調に進み。

 今日は冒険者活動する予定の最終日。

 ラスボスに挑戦だ。


 スライムダンジョンは1階層しか無い為に1階のボスがラスボスだ。

 ボス部屋の前に立つ。

 目の前には分厚い石で出来た両開きの扉がある。


「準備はいいか」

「ばっちりや」


 俺は扉に手を置いた。

 音もなく、すうっと扉が動き始める。

 完全に開くと中に小屋ほどの巨大なスライムがいるのが見えた。

 ボスのビックスライムだ。

 半透明の体に細い管が何本も絡み合ったのが見える。

 消化器官だろうか。


 滑り台作戦は使えない。

 たぶん滑り台が飲み込まれて終わりだろう。

 頼みの綱は10日間でコツコツと溜めた消石灰。

 これ以外に頼む物がない。


 一瞬、俺が負けて死ぬ情景が浮かんだ。

 体が硬直する。

 状況があの時とは違うんだ。

 今はスキルもあるし、秘密兵器もある。

 俺は意思の力で呪縛を解き放つと、思いっきり両手だ頬を挟み込むように叩いた。

 気合が入った。

 大丈夫だ。


 消石灰の入った樽を設置して構えた。


 背後でゴーンと扉が閉まる音がした。

 さあ、戦闘開始だ。


 無数の触手が撃ち出される。

 俺はメイスで、ジューンは鍋の蓋で応戦する。


 伸びきった触手にジューンが柄杓で消石灰を掛ける。

 その間もひっきりなしに触手は飛んで来る。

 俺はジューンの前に立ち、触手をさばいた。


 ビックスライムが悶えて、中央がへこむ。


「来るぞ」


 丸太ほどの触手が撃ち出される。

 俺とジューンは懸命に避けた。


 伸びきったところで二人して消石灰を掛ける。

 のたうつビックスライム。


 触手が本体に格納された。

 そして発狂したように怒涛どとうの攻撃がくる。

 武器は間に合わない。

 俺達はゴム手袋をした手で触手を弾いた。


 ゴム手袋から白煙が上がる。

 慌てて替えのゴム手袋に付け替える。


 ふう、休んでいる暇はない。

 相手の攻撃が止まった今が消石灰を掛けるチャンスだ。

 二人して本体に消石灰を掛けまくる。

 これって何時になったら終わるんだろう。


 その時、ビックスライムの内臓が動いて手の届く範囲に来た。

 南無さん。

 ゴム手袋を信じて手を突っ込む。

 内臓の端を掴みずるずると引き出す。


「ジューン」

「分かってる」


 ジェーンが消石灰を掛けて、内臓が消石灰まみれになる。

 激しくビックスライムがのたうつ。


 止めだ。

 繋がっている内臓をメイスで両断。

 ビックスライムは動きを止めた。

 あと少しだ。


 手袋を付け替えて内臓を引き出せそうな所を探す。

 あった。


 それからは同じ事の繰り返しだった。

 そして。

 ドロップ品のハイポーションが出た。


「遂にやったぞ」

「おめでとうさん」


 ビックスライムを収納して奥の部屋に行く。

 ポータルと台座に安置されたダンジョンコアがある。


「ステータス」

――――――――――――――

名前:スグリ LV13

魔力:1292/1300


スキル:

無限収納

魔力通販

――――――――――――――


 一つレベルが上がった。

 魔力は無限収納に使う以外に、今日は使ってない。


「どない? うちは、レベル5になったわ」

「一つ上がったよ」


 このまま帰るのも業腹だな。

 ダンジョンコアに俺は手を置いた。


「まさか、討伐する気じゃあらへんやろな」

「しないよ。死刑は嫌だ。討伐すれば、ダンジョンは止まって、今日入った奴は全員が容疑者になる」


 しかし、悔しいな苦労してハイポーション一個かよ。

 ビックスライムの死骸は売れるが、内臓がズタズタじゃあ、大した値段にならないだろう。

 もちろん体の中に魔石があるが金貨数枚だ。


 あーあ、ダンジョンコアの魔力が使えればなぁ。

 手を置いたが魔力が流れ込んで来る気配はない。


 そりゃそうだ。

 生産スキル持ちをダンジョンコアに触らせれば、生産し放題なんて話は聞いた事がない。

 討伐してダンジョンコアを持ち替えればその限りではないがな。


 くそう、悔しいぜ。

 お宝が目の前にあるのによ。

 なんか手がないか。


「未練があるようやね。いい加減手を離したらどない」

「討伐したダンジョンコアと、してないダンジョンコアじゃ、どこが違うと言うんだ」

「そう言えばこんな話を聞いた事があるわ。ダンジョンを討伐した瞬間、パリンと何かが割れる音がするんやて」


 なるほどね。

 パリンと音が。

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