第13話 聖歴152年6月16日~17日、滑り台作戦

 物干し竿の先端にステンレスのザルをぶら下げて灰を入れる。

 安全な場所から攻撃できるとはいえ、狭い通路では邪魔だな。

 まだ一考の余地がある。

 普段は無限収納に仕舞っておこう。


 通路を歩き部屋に到達、物干し竿を出して、相手の攻撃範囲外から灰を振りかけた。


「あかんな。うちが何にも役に立ってへん」

「そういう事は考えてなかったな」


 簡単に遠距離へ確実に灰を掛ける仕組みかぁ。

 魔法でも使わないと無理だ。

 現代製品の敗北か。

 いや1200円という縛りがなければもっとやれると事はある。

 物干し竿だって釣り竿に変更できるし、ユンボのラジコンを使うのだっていい。


「なんかええ手ぇが浮かんだ?」

「とりあえず物干しざお持ってみるか? 主婦だって洗濯物を取り込む時に端を持って、振り回したりする」

「貸してみぃや」


 物干し竿をジューンに持たせてやる。

 重そうだが、何とかなりそうだ。


「いけるけど、しんどいな。しばらく頑張ってみるわ」


 ジューンが物干しを操る間、俺は護衛に徹した。

 ジューンが次々にスライムを討伐する。


 暇だな。

 物干しを支えてやる事にした。

 二人だと軽いな。

 でもこの隙に攻撃されたら、危ないな。

 後一人いれば問題ないはずだ。


 通販で買える金額の縛りもさることながら、人数の縛りもきつい。

 そう言えば秘密兵器を買ったんだった。

 5キロで500円の消石灰。

 灰を消石灰に切り換える。


「おっ、なんかスライムの反応が違う」

「そうやね。物凄くのたうち回ってる」


 何でだろ。

 水分を吸い上げるのに確かに石灰はありだと思う。

 乾燥剤に使うぐらいだからな。

 でもそれだけか。


 ああ、そうか。

 消石灰はたしかアルカリだ。

 前世の実家が農業をやっていたから知っている。

 酸性を中和するんだ。

 もしかしてスライムはアルカリに弱い?


 何か買えないかな。

 うわ、俺の知ってる強いアルカリの物質は買えない。

 許可が無いと買えない商品は魔力通販では買えないみたいだ。

 残念。


 とりあえず、消石灰は使える事がわかった。

 切り札として温存しよう。


 部屋をいくつか制覇してだいぶ進んだ感がある。

 ジューンの腕が震えて、物干しが酷く震える。


「限界だな。しばらく休め」

「腕がパンパンで震えがくる。さすがに疲れたわ」


 ジューンは鍋の蓋を構えたが、蓋が震えている。


「今日はこの辺で止めておこう。お疲れ」

「お疲れ様や」


 宿に帰り考える。

 うーん、消石灰という武器は手に入れたが、攻略のほどは芳しくないな。

 このままだとラスボスに辿り着くまで幾日掛かる事やら。


 とにかく攻撃だ。

 滑らすと言えば坂なら何でもいいのかも知れないな。

 波板の片方を持って片方を地面につけて灰を流す。

 滑り台みたいな物を作ればいい。


 波板は高いな2000円を超える。


 トタンだと1500円ぐらいか。


 杉板だと600円ほどで買える。

 縁をつけても1000円に収まる。

 この辺が妥協点か。


 俺は次の日、杉板で滑り台を作った。

 宿の庭で試運転してみる。


「端を持ち上げてみろ」

「はい」

「灰を流してみろよ」

「うん、これなら、ええわ。力が要らん」


 結局のところ適材適所だ。

 天井や壁は虫取り網。

 壁や地面は物干し竿。

 地面は杉板の滑り台。


 無限収納があってよかった。

 持ち運びに苦労しなくて済む。


「よし、軽くダンジョンに潜ってみよう」

「はい」


 ダンジョンに入るとさっそく徘徊型がお出迎えだ。

 スライムは壁を這っている。

 虫取り網で押さえる。

 ジューンが灰を掛けまくった。

 こんなもんだな。


 通路を進み部屋に出た。

 滑り台の初戦闘だ。


 杉板の滑り台がスライムの鼻先に来るように俺が設置。

 ジューンが灰を流す。


 スライムは灰まみれになった。

 鼻先に持ってくるのが難しいのと、スライムの全体に灰が掛からないな。

 角度をつけて勢いをつける必要がある。

 手を目一杯伸ばせば角度はある程度つく。

 とりあえずオッケーか。


 滑り台は盾の役目も果たすから、俺は防御を考える必要がない。

 灰を流すジューンが危険だが、鍋の蓋で防いでもらおう。


 滑り台作戦は上手くいった。

 これもスライムの動きが遅いからだ。

 速かったら、こんな作戦は採れない。

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