第12話 聖歴152年6月15日、試行錯誤

 次の日の朝。


 鉄の虫取り網の自作を始めた。

 塩ビパイプをノコギリで適当な長さに切る。

 針金三本をって一本にする。

 針金を輪にして塩ビハイプに針金で固定。

 金網を筒にして取り付ける。

 筒を閉じたら完成だ。


 問題はスライムの酸にどれだけ耐えるかという事だ。

 こればかりはやってみないと分からない。


 回収した灰を100均で買ったレジャーシートの上に広げる。

 風が吹かなければ、上手く乾くはずだ。


 買取所に行くとやっぱりごった返していた。

 次は俺達の番だ。


 どさどさと55匹のスライムの死骸を出す。


「おう、また来たな。見たところほとんどが、銅貨1枚だな。どうした、作戦変更か?」

「いやトレインに当たってしまった」

「それは災難だったな」


「準備が色々と足りなかっただけだ」

「そうか。今度は大丈夫って顔だな」

「おう、ばっちりだ」

「傷が無いのが3で、傷があるのが52で、ちょうど銀貨1枚だ」

「ありがとよ。また来る」


 ダンジョンの前で受付を済ませ中に入る。

 今日の俺は一味違うぜ。


 部屋に入ると、分断作戦を実行する。

 壁をよじ登る奴が出たので、さっそくあみを使う。


 あみの中に入れたスライムは触手を撃ち出そうとしたが、鉄網てつあみに阻まれて撃ち出せないでいる。

 あみがスライムの酸に反応して白煙を上げるが、そこそこは耐えるみたいだ。

 ジューンが灰を掛けるとスライムは縮んでいった。

 自作の虫取り網はなかなか良いな。


 スライムにただの鉄網てつあみを被せて灰を撒きまくる方が効率が良い場面もあるな。

 鉄網てつあみの値段がもっと安ければなぁ。

 一日の魔力だと91センチ×200センチしか買えない。

 部屋全体を網羅もうらするのにはかなり足りない。


 虫取り網はピンポイントだから効率が良い。

 100均のワイヤーネットとかバーベキュー網だとかを被せて、踏んづけるというのはどうだろうか。

 駄目だ。

 スライムの内臓が潰れちまう。


 ステンレスのザルがあるからこれならどうか。

 他に案が無ければ明日やってみよう。


 分断作戦は虫取り網もあって上手くいった。

 スライムを100匹以上始末した時。


「赤い奴がいるな」

「強敵やろか?」

「分からん。だが色が違うと言う事は、普通のと違うという事だろう」


 俺は慎重に近づきあみを被せた。

 激しく白煙が上がる。

 網を破って出て来た赤いスライムが触手を俺に向かって飛ばす。


「危ない」


 ジューンが鍋の蓋で防いでくれた。

 鍋の蓋からも白煙が上がる。


「強酸のスライムだ」

「どないする?」


「逃げても良いが。進むとこういうのが沢山現れそうだ」

「対抗策が何かあるん」

「メイスで触手を叩き落として、普通に処理するしかないな。食らったら、骨まで溶かされそうだが」


 人間は恐怖心があると今まで出来た事が出来なくなる。

 軽く1メートル幅跳びできる者も、大地の裂け目の幅が1メートルだとして、谷が深いほど足がすくんで飛べなくなる。

 恐怖心というのはかくも厄介だ。


 駄目だ。

 こういう時ほどアイデアだ。

 そうだ。

 俺はアイテムボックスから、灰の入った樽を出すと、担ぎ上げた。

 そして、力の限り投げつけた。


「ふんがぁ」


 樽が壊れ灰をまき散らす。

 赤い強酸スライムは、灰をもろに被り、縮んでいった。

 どうやら死んだようだ。


「ふう、このペースで灰を消費してたら破産だ」

「せやね」


 パイプを伸ばして灰を通したらどうだろうか。

 遠距離から攻撃出来る。

 だが重さがな。

 物が入ったパイプは重い。

 ホースなんか水が入ると物凄い重さになる。


 筒を片方持って保持するのはかなり力がいる。

 灰が入るとさらにだ。

 台車なんかに固定したいところだが、1200円という予算ではどうにもならない。

 いやならないか?

 なるかも、キャスターだと300円で買える。

 キャスターは何かというとローラースケートのローラーみたいな物だ。


 これを椅子に取りつけてパイプを取り付ける。

 駄目だ、安定が悪くてひっくり返る。

 それに灰が上手くパイプを滑るとは限らない。


 待てよ。

 樽を投げたけど、灰の入ったゴム風船を投げりゃ良かったのかも。

 ただ灰は軽いのでぶつけても風船が上手く割れない可能性がある。

 まず割れないな。


 うーん、なかなか上手くいかない。

 ガチャガチャのカプセルは100個で2000円だ。

 予算オーバーだ。


 100均のだと2個で100円だ。

 コスパが悪い。


 ああ、そうか。

 軽いと割れないなら重くすればいいんだ。

 風船に灰と石を詰めりゃいい。


 だが、思いっきりぶつけたらスライムの内臓が傷つくと思う。


 俺は思考したアイデアをジューンに打ち明けた。


「難しく考え過ぎやわ。棒の先に、灰の入った入れ物を付けて、灰を撒いたらええんとちゃう」

「おお、そうだな。伸縮自在の3メートルまで伸びるステンレスの物干しが600円だ。灰の入れ物はザルでいいな。揺すれば灰が落ちてスライムが灰で埋もれる」


 よし、方策はたった。

 明日はこれで行こう。

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