第11話 聖歴152年6月14日、トレイン

 モンスターの買取所は冒険者でごった返してした。


「こいつは銅貨1枚だな」

「そんな」


 買い取りの係の者に冒険者が文句を言っている。


「売りたくなければ、売らなくてもいいんだぞ」

「くそう、足元見やがって。持ってげよ」


 俺達の番がきた。

 俺は無限収納からスライムの死骸を出した。


「ほう、見事なもんだ。傷がない。お前さん初めてじゃないな」

「前にパワーレベリングの為に来た事がある」

「て言うと、貴族か?」

「元だがな」


「没落貴族でも何でも構わないぜ。物さえ上物ならな。一つ銅貨16枚だ」

「何で、傷があると駄目なん」


 ジューンが疑問を口に出した。


「おう、お嬢さんに説明するとだな。スライムの内臓が薬の材料になる。衝撃を与えると酸と混じって商品にならない。内臓はデリケートなんだよ。駆け出しはそこら辺が分かってない」


 係の者がジューンに説明してくれた。


「内臓が傷ついたスライムに死なへんの?」

「しぶといんだよ。内臓は何日かすると再生するしな」


「講釈はいいから、換金を早くしてくれ。後ろの奴が睨んでる」

「悪かった。銀貨2枚と銅貨8枚だ」


 金を受け取って買取所を後にする。


「今日はジューンがレベル2になるまでやってみよう」

「段取りは任せたわ」


 ダンジョンの受付でタグを出して受付を済ます。

 やっぱり、ダンジョンは陰気な所だ。

 壁の岩が灰色だからそう感じるのかも知れない。


 通路を辿って部屋に急ぐ。

 徘徊型のスライムが行く手を阻んだので、サクッと倒す。

 一匹だと鼻歌交じりで倒せるな。

 だいぶ勘を取り戻したようだ。


 部屋に踏み込むと50匹ぐらいのスライムがいた。

 多いな。


「ジューン撤退だ」

「はい」


 部屋から慌てて出るとスライム達が追いかけてくるのが見えた。


「守護型とちゃうの?」

「切り替わったんだよ。たまにあるんだ。逃げるとトレインしちまう。トレインから逃げても罰則はないが、ばれると冒険者仲間に嫌われる。ヒットアンドアウェイするぞ」

「はい」


 まず部屋の入口で出て来たスライムに灰を掛ける。

 後続が来るのが見えたので、通路を少し戻る。

 スライムが遅いのでなんとかなっているが、1匹ずつ止めを刺してから逃げないとジリ貧になる。


「灰を地面に撒いて、後続を分断しよう」

「はい」


 一匹のスライムの攻撃を全て捌いたところでジューンが前に出る。

 後続が来ない様に灰を地面に撒いて分断する。

 不味い、最初のスライムが復活する。

 ジューンに触手が飛ぶ。

 ジューンは鍋の蓋で触手を防いだ。


 冷や冷やさせやがる。

 俺は前に出てジューンを援護した。

 ジューンが安全な所まで後退したので、分断した1匹の攻撃を軽く捌いた。

 ほどなくして分断した1匹は始末できた。


 後続が地面に撒いた灰のゾーンを抜けてくる。


「よし、1匹ずつ上手く処理するぞ」

「任せてや」

「塩を試してみたい」

「やってみるわ」


 スライム1匹を群れから分断してジューンが塩を掛ける。

 灰とそんなに変わらないな。

 無駄遣いしたか。

 いいや、試さないと何事も分からない。


 分断作戦で上手く行くかと思ったが、壁や天井を這って来るスライムが続出。


「くそう、良い手だと思ったんだが」

「灰を天井や壁に投げつけたらどない」

「落下させると値段が下がる」

「命の方が大切なんと違う」


「そうだな。トレインの分はメイスで叩いて始末しよう」

「うちは鍋の蓋で援護するわ」

「気をつけろよ」


 ジューンが前衛になり、鍋の蓋を使って触手を防ぐ。

 おっ、意外に運動神経がいいな。

 俺は隙を見て壁や天井のスライムを叩き落とした。

 そして地面上で滅多打ちにする。


「はぁはぁ、片付いたようだな」

「そうやね。ステータス。やった、レベルが2ぃになってる」

「おめでと」

「ありがとさん。うち、考えたんやけど、鞭をつこうてスライムを落としたらどない」

「それならもっと良いのがある。虫取り網だ。だけどナイロンは酸に弱い。網を金網にすべきだろうな」


 ええと、虫取り網が500円ぐらいで、金網が91センチ×100センチで500円ぐらいだな。

 虫取り網を自作するとして200円の2メートル塩ビパイプに、6メートル100円の針金でどうだろう。

 二つ分は作れるから、自作した方がお得だな。

 工具は100均のでなんとかなる。

 ペンチとノコギリがあれば十分だろう。


 明日になったら、買って作ってみよう。

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