第10話 聖歴152年6月13日~14日、スライムとの一戦

「いいかよく見てろ」


 近づいたスライムから俺に向かって、鉄砲魚が攻撃する様に、半透明の腕が発射された。

 俺は冷静にメイスで触手を叩き落とした。

 触手と当たったメイスから白煙が上がる。


 連続して触手が撃ち出される。

 この攻撃は予期してたので難なく叩き落とせた。

 メイスから白煙が上がりぶつぶつという音が聞こえる。

 これだからスライムは嫌なんだ。

 武器の損耗率が高い。


 スライムは弾切れだろう。

 発射した触手をずるずると本体に戻し始めた。


「灰を掛けるんだ」


 タルに入った灰をジューンが柄杓で掬ってスライムに掛ける。

 スライムは水分を奪われて身悶えした。


「どないや」

「触手が戻り切ると次の攻撃が始まる。発射できる触手の数は本体の大きさで決まる。タイミングを間違えるなよ」

「なるほど、そこらは慣れが必要やね」


 俺が攻撃をしのぎ3回ほどジューンが灰を掛けたら、スライムは動かなくなった。


「【無限収納】」


 黒い穴がスライムの死骸の所に現れ、死骸を吸い込む。

 手で触らなくても収納が出来た。

 これはありがたい。


 スライムの酸は魔法酸だ。

 元々の体液は酸性だが、魔力で強化して、より強力な物にしている。

 死ぬと魔力が抜けて酸は弱まるが、素手で触ると皮膚が真っ赤になる。

 明日はゴム手袋を買おう。


「よし、次は部屋に突入するぞ」

「はい」


 通路を進むと10畳ほどの小部屋に出た。

 中にスライムが10匹ほどいる。

 守護型だ。


「【無限収納】」


 俺は灰の入ったタルを出した。

 ジューンが柄杓を握って構える。


 俺達が部屋に入るとスライム達は一斉に動き始めた。

 近い奴から順番に、触手をわざと発射させて、叩き落とす。

 ジューンが忙しく灰を掛けて回る。


 これぐらいなら余裕だな。

 もっとも被弾すると大怪我だから、油断は出来ない。

 ポーションを買うお金があれば、もう少し安全なんだが。


 しかし、スライム如きでポーションを使っていたら大赤字だ。

 保険の意味でならポーションは欲しい。

 欲しい物が増えていく。


 スライムの集団はほどなくして退治出来た。


「ステータスや。うそ、レベルが上がってる」

「レベルアップ、おめでとう。最初は上がり易い。そのうちスライムでは、いくら討伐しても上がらなくなる」

「そうなんやね。このダンジョンではどのぐらいが目標になるん?」

「レベル4まで上がれば十分だろ」

「俺はレベル13だな。もっともラスボスを討伐しないと俺のレベルは上がらないがな」

「そうなん。うちが足を引っ張っているんやね」


「そんな事ないさ。今日はこの辺にしておこう。移動で疲れただろうから、早めに休もう。スライム戦は集中力との勝負だ。油断すると大怪我する」

「はい」


 ダンジョンから出て宿を取る。

 もちろん一人部屋を二つだ。

 本当はまた一緒に寝て節約したいところだが。

 えっちな考えに行ってしまいそうなので仕方ない。


 俺はムラムラせずに眠りに就いた。

 翌朝、俺は塩5キロと100均のゴム手袋二組を買った。


「この手袋、ごっつええやん」

「おう、俺のスキルのおかげだな」

「生産系のスキルはあんまり聞かへんけど便利やね。この手袋、売るんだったら銀貨1枚は行きそうや」

「人工宝石の方が効率がいいな。でも新しい商品を探すのは必要だ」


 100均のほうきとチリトリも買う。


「これは普通やね」

「まあな」


 ほうきとチリトリは使用した灰をかき集めて再利用する為だ。

 湿った灰も乾かせばまた使える。


 100均の鍋の蓋も買った。

 ジューンが盾として使う。

 まあ、気休めだがな。


「なんや子供がごっこ遊びしてる気分やね」


 ジューンが鍋の蓋を構えながら言った。


「ジューンの細腕では分厚い盾は持てない。これぐらいが丁度いいはずだ」

「でもガラスの蓋なんて、アイデア商品やわ。これも銀貨1枚で売れるんちゃう。うちも欲しいぐらい」

「遠征から帰ったらプレゼントするよ」

「使い古しでええよ。スライムの触手を受け止めたって、洗えば平気やろ」


 じゃあプレゼントは別の物にしよう。

 ジューンにはプレゼント事は秘密だ。

 秘密にしてびっくりさせた方が嬉しいと思うからな。

 何にしようか考えないと。

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