第5話 聖歴152年6月12日、女の子の部屋にお泊りしてしまった

 テーブルに白いシチューと丸くて硬いパン、肉野菜炒めに、キュウリの漬物みたいなものが並ぶ。


「創造神に感謝して今日の糧を頂きます」

「頂きます」


 お祈りをして夕食が始まった。

 パンを手で裂いてシチューに浸して食べる。

 乳のクリーミーな味と香辛料がマッチしてとても美味しい。


「ジューンは料理上手だ。いい奥さんになれる」

「嫌や。おだてたって何にも出ーへんで」

「いつでもお嫁さんに行ける」

「うふふ」


 ドンドンとドアが乱暴にノックされる。

 このノックの仕方は前世のしつこい新聞勧誘員を思わせる。


「俺が出ようか?」

「大丈夫、うちが出るわ」


 ジューンがドアを開けると、でっぷりと太った男と筋肉がムキムキな男が二人立っていた。


「借金の集金に来たぞ。利息ぐらいは払えるんだろうな。もし払えなければ。ぐふふ、わしが味見したあと性奴隷として売り払ってやる」


 何だって、ジューンはこんな奴らに、金を借りたのか。

 もっとまともな金貸しもいるだろう。


「今月の分、金貨8枚と銀貨34枚や。これで文句あらへんやろ」


 借金取りは受取証を書くと残念そうに床に投げた。


「おい、お前ら、帰るぞ」

「へい」

「はい」


 借金取りが荒々しくドアを閉めて帰っていった。


「借金いくらあるんだ?」

「金貨1000枚、利息が年1割の100枚や」

「ちょっと待て。いま計算する」


 日記とペンを出して計算を始めた。

 俺の宝石だと13日で1ヶ月分の利息か。

 17日を返済に充てるとして、ざっと7年半。

 とてもじゃないが、長くかかりすぎだ。

 実際はジューンの収入もあるし、返済すればするほど、払う利息は減っていくから、もっと短くはなるだろうが。

 一年やそこらじゃ何ともならんな。

 うん、ここは一つ、何とか打開策を見つけないと。


「ええんよ。うちの為にそこまでせーへんでも」

「あのな。性奴隷なんて話を聞くと放ってはおけない。なに、考えて駄目だったら、7年半付き合えばいい」


「このままだと、ほ……」


 ジューンが何か呟いた。


「よし、レベルアップしよう。俺がレベルアップすればするほど、魔力を沢山使えて返済は早まる。今月は17日モンスター退治をやってみて、駄目なら13日は利息返済に充てる」

「ほな、うちもモンスター退治に一緒に行く」

「よし、そうするか。とりあえず食事を終わらせたら。今日は早寝して明日からモンスター退治だ」

「はい」


 先の希望も見えたし、和やかに食事が終わった。

 ここで何となく微妙な空気が流れた。


「俺はテーブルを片付けて、この部屋の床に寝るよ」

「あかん。ベッドをつこてや」


「それじゃ俺の気が済まない」

「うちの気もすまへん」


 二人で押し問答になった。


「ほな、二人一緒に寝たらどない?」


 それってお誘いって事?

 俺の頭の中はピンク色になって、思わず頷いていた。


 寝支度して二人して無言でベッドに入る。

 恥ずかしくてジューンと向き合って眠れない。

 ジューンもこちらに背中を向けているようだ。

 肘が背中に当たる感触で分かった。


「なあ、今日は大人しく寝とこうぜ。明日からモンスター退治なんだし」

「うん」

「それに俺にも矜持がある。弱っている所につけこんでってのは、違うんじゃないかってな」

「うん……」

「もっと恰好良い所を見せるから、その時にでもまた誘ってくれ」

「……」


 ジューンの方から寝息が聞こえる。

 何だ、寝たのか?

 これで良かったんだよな。


 それに俺はあいつらへの恨みを忘れてはいない。

 ジューンと敵討ちを天秤に掛けるような事態がくるかも知れない。

 その時に深い仲になっていると、もの凄く悩むような気がする。

 ジューンに告白するのなら、敵討ちが終わってからにしたい。


 それにまだ付き合いが浅いので、本気で惚れているのか分からない。

 交際期間を経て、そういう仲になりたいと思う。


 そんな事を考えているうちに俺もいつしか眠りに入った。

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