第6話 聖歴149年3月27日、嵌められる

 あー、夢だ。

 この風景は3年前みた気がする。

 俺はベッドに寝ていて天井を見上げていた。


 着替えると皮鎧を着けて、腰にメイスを付ける。

 ポーション入れのポーチを腰に巻いて、準備はオッケーだ。


 これから戦いに行くわけじゃない。

 家の家訓でこうなっている。

 常在戦場、常に準備を怠るなと口が酸っぱくなるほど言われた。


 俺は家の外に出て石組みの井戸の所に行き、桶を井戸に投げ込んだ。

 パカンと桶が水面を叩く音がして、それから沈んだようだ。


 俺が桶についたロープを試しに軽く引くと、確かな手ごたえがあった。

 ロープを手繰り寄せ水を汲む。

 汗一つかかずに桶が持ち上がった。

 桶を地面に降ろし両手で掬って顔を洗う。

 ふぅ、さっぱりした。


 朝飯前の訓練に取り掛かる。

 修練場で木の人形に向かってメイスを打ち込む。

 ガツンと鈍い音がしてメイスが木を僅かにへこませる。


「あーあ、スキルが芽生えないかな」


 この時はこんな事を考えていたっけ。

 一刻ほど訓練し井戸の所に戻る。


「無駄だと思うが。ステータス」


――――――――――――――

名前:スグリ LV11

魔力:1100/1100


スキル:

無し

――――――――――――――


 やっぱり、スキルはなしかぁ。

 俺は駄目なのかな。

 才能がないって事なのかも知れない。


 鎧を外し、服も脱ぎ、半裸で体を洗う。

 春先なのでだいぶ暖かくなっているとはいえ、空気は冷たい。

 体から湯気が立ち昇った。


 厨房に行って、料理をトレーに載せて自分の部屋に戻る。

 この時は一人で飯を食っていたっけ。

 空きっ腹に食う料理は何でも美味い。

 家族と一緒ではない味気無さなどとうの昔に忘れた。


 ゲップをして朝食を終えた。

 ノックの音がする。

 ドアを開けると叔父さんのウスタが立っている。

 珍しい事もあるものだ。


 相変わらずの嫌な目つき。

 爬虫類にも似ている。

 体はごつくて、俺と大差がない。


「スキルは生えたか?」

「駄目だった」

「ふん、ごく潰しが」


「何もそんな事を言わなくても。だいたい100人に一人しかスキルは持ってない」

「このままだと兄の息子といえども家督は継がせられないな」

「そんな、家督はスキルとは関係ないだろ」

「せいぜい訓練に明け暮れるのだな」


 俺の父さんは昨年亡くなった。

 父さんは長男で順当にいけば俺が家督を継ぐ事になる。

 だが、この家は特殊だ。

 それというのも、初代が勇者の称号を王から賜ってこの家を興した。


 以来、この家は勇者を排出する事に執念を燃やしてきた。

 スキルは100人に一人。

 とうぜん一族のだれも持ってない。

 そうなると家での発言権は武術の腕と言う事になる。


 前世でも武道をやっていたわけじゃない。

 そして、今世の体は運動が得意ではない。


 俺は若造で武術をやっている期間が叔父さんより劣る。

 赤ん坊から筋トレをして力はあるのでなんとかなっているが、センスという奴はどうにもならない。

 フィジカルでなんとかなりはしない。

 何でかというとレベルがあるからだ。


 モンスターを倒すとレベルが上がる。

 レベルが上がると体が強化される。

 このモンスターだが倒すには戦闘のセンスが要求される。

 考えてみればすぐに分かる。

 狼のモンスターだって地球の狼より大きい。

 とうぜん、地球のよりスピードも力も遥か上だ。


 倒すにはレベルが要る。

 低レベルの者が倒すのはセンスが要るってわけだ。


 センスがない者にとって、レベルが先か討伐が先かというような事になる。

 俺のレベルが17歳なのにレベル11に止まっているのはこういう理由だ。


「よう、俺はついにスキルが生えたぜ」


 そう言ってきたのは従兄弟のハックル。

 さっきの叔父さんの息子で、叔父さん譲りの爬虫類の目つきをしている。

 体つきは細身でしなやかな動きが持ち味だ。


「そうか」


 俺は分家になるのだな。

 それも良いだろう。

 叔父さんがニタニタ笑いながらやって来た。


「スグリ、お前を家門から追放する」

「何で?」

「使い込みの証拠が挙がった」

「嘘だ。俺はそんな事はやってない」

「温情で罪は問わない。直ちに出ていけ」

「そんな」

「心配するな。家督なら息子のハックルが立派に継ぐ」


 嵌められた。

 もう根回しは済んだのだろう。

 ぐだぐた言っても仕方ない所まで来ているのが分かった。

 たぶん使い込みのネタは前々から仕込んでいたに違いない。

 ハックルにスキルが芽生えたので、これ幸いと計画を実行したのだな。

 俺はウスタを睨んだ。


「当主の父親に対してその顔は何だ」


 俺はウスタとハックルにいい様にやられ、着の身着のままで放り出された。

 痛みに起きるとジューンの寝室だった。

 ベッドから落とされたようだ。

 ジューンは寝相が悪いんだな。

 寝直そうとベッドにもぐりこんだ。

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